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アンダーワールド  作者: そのAaron
第一章 表と裏
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Layer-004

午後八時半。

リリコと倫也は駅前のカフェに入った。店内では、廻がキーボードを叩いている。

二人は廻の向かいの席に座り、それぞれ飲み物を注文した。


「……ずいぶん余裕そうだな、天宮廻。」


「その服装を見る限り、やっぱり何かあったみたいだね。」


「何があったって?」


廻はノートパソコンの画面を二人の方へ向けた。そこに表示されていたのは、行動開始から間もなく届いたメールだった。


送信者の名前は、依頼人「firefly」。メッセージにはこう書かれていた:


「最後の依頼になるんだし、難易度はあえて上げさせてもらうよ。心配しなくても大丈夫。今の君たちなら、きっと問題なくこなせるはずさ。依頼を達成したら、『冬の大三角』に特別な贈り物を用意してある。

もし、その贈り物の使い道に迷ったら、『北門連軍』へ来るといい。この期間の鍛錬を経たあなたたちなら、『北門連軍』の募集試験なんて楽勝だろうからね。」


「……クソ野郎め。」


「どういうこと?」


「つまり、研究所で警報を鳴らしたのは依頼人ってことだよ。」


「へぇ……って、え?マジで?」


「それで?データは送ったの?」


「もう送ったよ。『firefly』も、明日には報酬を振り込むってさ。でも、ダウンロードしたデータは全部ロックされてる。『firefly』はどうやって処理するつもりなんだろう。」


「じゃあ、今日はもう終わり?」


「そうだね。早く帰ろう。凌奈姉が怒ると怖いからね。」


そのとき、廻は「firefly」から届いたメールにファイルが添付されていることに気づいた。

ファイル名は「project_RY」。それは「firefly」からの依頼で指定されていた目標ファイルのひとつだった。

なぜか、それをまた送り返してきたのだ。まさか、ファイルに不備があったというわけではないだろう。


ただ、廻が以前送った形式とは異なり、「firefly」が送り返してきたファイルはすでにロックが解除され、開ける状態になっていた。

これはつまり、「冬の大三角」の三人に見せろということだろう。


ファイルを開くと、最初のページには迴の人生で一度も見たことのない文字が並んでいた。

地下の翻訳アプリを使っても意味は出てこない。

どうやらこれは暗号、あるいは地上にしか存在しない言語らしい。


マウスホイールを回しながらスクロールしていくと、いくつかの画像が表示され始めた。

そこから判断するに、これは医療関係の研究レポートのようだ。


だが、「firefly」がなぜこのファイルを彼らに見せたのか、廻が首を傾げ始めたそのとき——

一枚の写真が、彼の目を奪った。いや、震撼させたと言った方が正しい。


写っていたのは三人の人物。どう見ても家族写真で、父親、母親、そして娘の姿があった。

問題は、その「娘」だった。


その少女は、あまりにも特異な特徴を持っていた。

まるで漂白されたかのように白い肌。

肌と同じ色をした腰まで伸びる白髪。

そして、血のように紅い瞳——


それに加えて、彼女が放つ雰囲気は、迴にある一人の人物を強烈に思い起こさせた。

——雪山凌奈。


「……なんで、凌奈姉の写真が……?」


「廻、どうかしたの?」


「いや、何でもない。ちょっとパソコンの調子が悪くてさ。戻ってから直すよ。」


理性は彼に告げていた。

この不可解すぎる出来事は、「firefly」が自分たちに依頼を持ちかけた理由と深く関係している。

このことは、近いうちに倫也とリリコに話す必要がある。もちろん——凌奈にも。


こうして、「北門連軍」に加わることは、記憶を取り戻すために避けては通れない運命となった。


支払いを済ませた三人は、エレベーター乗り場へ向かい、地下10層へと降りた。その後、列車に乗り込み、孤児院へ帰る。


高架線を走る列車は轟音を響かせながら進む。窓の外では、層ごとに違う景色が流れていった。地下10層の商業区、11層の高級住宅街、12層の軍事住宅が混在するエリア、そして13層の一般居住区へと向かう。


列車の中で、廻はふと問いかけた。


「お前ら、『北門連軍』に入る気はあるか?」


「急にどうした?」


「忘れるなよ。『冬の大三角』は、俺が地上の学校に行くときに解散するんだ。まさか、本当にブラックマーケットの情報網だけを頼りに記憶を取り戻すつもりか?」


「ちょっと待てよ。まるで『firefly』が今までの依頼で、僕らの失われた記憶について何か教えてくれていたみたいな言い方だな。依頼が記憶に関係してるって言われてきたけど、結局、何一つ思い出せてないじゃないか。」


そもそも、『firefly』がいたからこそ、三人は記憶を取り戻すために動き始めた。だが、どれだけ足掻いたところで、最終的に『firefly』が示した手がかりは、『北門連軍』というただ一つの言葉だった。


「そういえば、先生が『北門連軍』は最近、若手の新メンバーを募集するとか言ってなかったか?」


そう、それだ。


「だろ?『firefly』の言うことはひとまず置いといて、お前らなら『北門連軍』に入れるんじゃないかと俺は思う。」


「買いかぶりすぎだろ。僕には天才的な頭脳も、化け物みたいな身体能力もない。」


「謙遜しすぎだ。もし『北門連軍』が学校に募集をかけるなら、お前らも応募してみればいい。戦闘部門だけじゃなく、専門職の枠もあるんだしな。」


倫也やリリコの実力が『北門連軍』の目に留まるかはともかく、過去のデータによれば、彼らの新人募集の合格率はわずか0.1%。応募者は地下世界の各地から集まり、その数は毎年数千万人に上る。


倫也の渋い表情を見て、廻はもう一度問いを投げかけた。


「倫也、お前、もし記憶にこだわらないなら、将来何がしたい?どこにでもいる社畜になるか?漫画家か?配信者か?それとも宇宙エンジニア?」


「……わからない。」


「だったら、キャリア探索のつもりで申し込めばいいだろ。別に損することはない。」


「そうだよ、そうだよ!倫也、一緒に応募しよう!チャレンジだよ!」


「だから、凌奈姉さんの自己啓発みたいなノリを僕に押し付けるなっての。」


リリコと廻は知っていた。倫也は普段、何事にも無関心そうに振る舞うが、それはただの表向きの態度でしかない。本気で頼み込めば、意外とあっさり折れてしまうのだ。


要するに、ツンデレだ。


「そういえば、凌奈姉さんは『北門連軍』の募集に応募するのかな……?」


「リリコ、自分の未来は自分で決めろ。他人に委ねるな。」


「さっきまであたしの未来を勝手に決めようとしてたくせに。」


「だから言っただろ、応募するのはキャリア探索の一環だ。別に『北門連軍』に入れとは言ってない。」


「はいはい、君の言うとおりですね~。」


時が経つにつれ、車窓からの景色が鮮明になっていく。薄暗くなった人工太陽の光と、次第に明るくなっていく都市の灯りが対照的に映える。そして、街の喧騒が遠くから感じられるようになってきた。


列車は徐々に減速し、地下13層のプラットフォームに静かに停車した。




燈ママは子供たちを寝かしつけ、静かに部屋のドアを閉めた。


そのままリビングへ向かうと、ソファでスマホを使う凌奈がいた。


「凌奈、あの三人、帰る時間言ってた?」


「さっきリリコからメッセージが来たよ。九時頃には戻るって。」


燈ママはソファに腰を下ろし、凌奈の隣に座った。


「最近、『北門連軍』の青年メンバー募集が話題になってるわね。」


「ああ、それね。学校でも生徒や先生たちが話してるよ。」


「そういえば、あなたたちの高校って『北門聯軍』が直轄で運営してるんでしょ?凌奈は『北門連軍』に入りたいと思わない?これはとても貴重なチャンスよ。それは入りたくても簡単に入れるものじゃないわ。」


凌奈はスマホを一旦置き、天井を見上げながら少し考えた。


「うん。応募するよ。だって、それも『挑戦』だからね。」

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