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アンダーワールド  作者: そのAaron
第七章 混乱と悪戦
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Layer-030

「先に言っておくけど、あの三節棍がブラックマーケット製だったとしても、オーバークロック・ドライブに当たったら溶ける可能性あるよ?」


「ええっ!?本当に!? じゃあどうすればいいの!?」


「逃げるしかないね。」


「でも……もし他の受験者があいつに遭遇したら、それって……」


倫也はため息をついた。彼は、確かにその可能性を見落としていた。


黒衣の人が加わったことにより、もはや全受験者が参加しているのはただの試験ではなく、まるで殺戮ゲーム。今、倫也はそのゲームを止めようとする一員となった。


だが、もし自分が失敗すれば、死ぬのは自分だけではなく、他の受験者たちも道連れになるかもしれない。


今、「黒衣の人を止める」という重大な任務が倫也の肩にかかっていた。そして先程からの一連の「エレマグネコンストラクション」の使用によって、彼の状態はもはや正常とは言えなかった。極度のプレッシャーが、もはや前向きな思考すら許さない。


「……テキサスに任せればダメかな? シールドもそろそろ壊れそうだし、たぶん――」


「テキサスがどこにいるか、分かってるの?」


「うっ……」


「この遊園地、かなり広いよ。隅も多いし、リリコがちゃんとテキサスを連れて来れる保証、あるの?」


「……ごめん、僕が甘かった。」


それ以上、凌奈は何も言わず、ただ不安そうな目で倫也を見つめていた。


「倫也……さっきの戦いで、やっぱり……」


「いや、平気だよ。少し休めば回復する。ただ……もう二回失敗してるんだ。もしまた失敗したら、今度こそ本当にマズいことになる。しかも、相手が持久戦得意だったら……僕、確実に死ぬよ。」


「……」


「だから慎重に、まずは一度退こうか――」


その瞬間、凌奈の両手が倫也の両肩にパチンと置かれた。不意打ちに倫也の心臓は一瞬止まったかのように感じた。


「無理なら、無理しないでいいじゃん。」


思いがけない一言に、倫也の脳は一時停止し、一秒後にようやく思考が戻る。


「……てっきり、また『挑戦理論』で脅してくるかと思った。」


「それ、失礼すぎだよ。お姉ちゃんだって、自分の命をかけてまで無理してとは言わないよ。」


凌奈の言葉を聞いて、倫也は少しだけ安堵した表情を見せ、目線を黒衣の人へと向ける。


その直後――倫也は凌奈を抱きかかえるようにして横に飛び込んだ。


次の瞬間、エネルギー砲が背後をかすめ、対面の建物と遊具を粉々に吹き飛ばした。


「熱っっ!!」


「倫也、大丈夫!?」


「た、多分ね。ギリギリでエレマグネフィールド展開したから……って、この上着、気に入りだったのに……あっ、ごめん!」


急いで凌奈から身を離し、焦げた裾を確かめる倫也。凌奈も起き上がり、服の埃を払いながら立ち上がる。


「えっと……さっきは『無理しなくていい』とか言ったばっかだけど、あいつ、どうやら逃がす気はなさそうだね。」


「倫也、戦えるの?」


「……」


「やっぱり無理し――」


「……実は、戦えるよ。」


まさかの返答に、今度は凌奈が固まり、倫也をじっと見つめる。


「でも、その代わりに条件が一つある。」


「『何があっても、敵から目を離さないこと』……また無理するつもりでしょ?」


「もうあんなイカれた相手には、そうするしかないだろ……」


倫也は小さく頷いた。三度、深呼吸。そして立ち上がり、一振り、二振り……合計五本の電刀が宙に生み出された。


凌奈も三節棍を構え、戦闘体勢に入る。


「倫也、これは……」


「この二本は君の近くに置く。死角からの攻撃を防ぐ用さ。」


「……そんなの、別にしなくてもよかったのに。」


「凌奈姉、君、自分のファンがどれだけ多いか分かってないみたいだね。」


「ファン……あ、なるほど。ごめんね、注意しとくよう言っとく。」


……どうやら凌奈は自覚があったようだ。ただし、アイドルからのお願いであっても、全員が従ってくれるとは限らない。


でも、そんなことは今考えるべきことじゃない。もしこの戦いで死ねば、ファンのことなんて心配する必要もなくなる。


やるべきことは、初めて「冬の大三角」に参加し、「firefly」からの依頼で、あの監視装置だらけの建設会社の社長宅に突入したときと同じ覚悟を持つこと。


――死を前提に、行動すること。


これが、倫也が過剰な緊張を抑える唯一の方法だった。


「凌奈姉、もう少しだけ離れて。」


凌奈は素直に数歩横に移動し、倫也の体に起きる変化をじっと見つめる。


先ほどの戦いと同じように、電光が倫也の身体を包み、周囲の分子を刺激して気流が巻き起こり、電流がその周囲を取り巻いた。


背後の二本の電刀は、まるで片翼の羽のように上下に浮かび、手に持った電刀は左肩の上で水平に構えられた。そして、無感情な目で敵をじっと睨み続ける。


「待って、倫也、あなた……」


止めに入ろうとした凌奈だったが、あの条件を思い出し、途中で足を止めた。


彼女はただ見つめていた。


一粒の水滴が倫也の左目の端から流れ落ち、頬を伝い、顎を通って地面へと落ちていく。それが、血のような赤い痕を残して――


弓崎倫也の身体と精神は、ついに限界に達していた。

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