第九話 予想外
「あついね~」
平川先生の言葉でさらに暑く感じる。
空港から一歩足を出したら、太陽がこちらを直視してくる。
「さぁ、どっかうまい店でも食べにいくか~」
「依頼内容、覚えてますか?そんなことしてる場合じゃないですよ」
呆れながらそう答える。
「大丈夫だよ。依頼者によると、賭場が開くのは夜中の正午だそうだ」
悠々自適に俺の前を歩いて行く。
俺は賭博の場所や内容、そして平川先生の『ゾクゾクする』という言葉。
これらの疑問が俺の頭の中を埋め尽くしている。
「おい、レン。おいていくぞ」
俺は潮風に流されるように平川先生の後をついていった。
時計の短針が一周する真夜中。
上を見上げても星が見えないほど雲がかかっている。
俺は街頭が少なく、人通りのない歩道を平川先生と歩いて行く。
「ここだ」
その言葉を聞き歩みを止める。
暗い歩道の中にひとつだけ明かりが点いている小さい雑居ビルがあった。
「なんか、異常ですね」
「そりゃそうだろ。賭場なんて開いているところが正常なわけない」
俺は入るのを躊躇する。
「どうした?レン」
「怖いに決まってるじゃないですか」
当たり前だ。賭博なんて大抵がヤクザと繋がっている。
「もしかして、ヤクザとかと関わるんじゃないかと思っているな?」
「そうですけど」
少しヤケになり言い返す。
「安心しろ。多分この賭場はヤクザなんかと繋がりは無い」
俺は疑問を顔に出す。
すると、平川先生は口を開く。
「依頼が来た理由は何だ?」
「確か……依頼者が脅されて大金を失った。だから復讐してほしい。とか」
平川先生は少し口角を上げ答える。
「そのとうり。大金を失ったということは、賭博の大元は大金が必要だったと裏付けられる。ヤクザが大金を持ってないわけないだろ」
「確かに」
俺は納得する。
「まぁ依頼者を脅したのは、賭場を開く軍資金と賭博の信憑性が欲しかったのだろう」
そう喋ると、平川先生はこの小さな雑居ビルへと足を運んでいく。
俺も後に続いた。
中に入り辺りを確認する。
まわりは意外と小綺麗だ。
人は十数人、大体が質素な身だしなみをしている。
そうしていると一人の男性がこちらに歩いてきた。
「ようこそ。今日は初めてですか?」
その言葉を発した男性は少し小太りだった。
「ああ、一人空いてるか?」
「空いてますよ。そちらは付き添いですか?」
男性は俺を見ながらそう答える。
「まぁ、そんな感じだ」
「では、案内しますね」
平川先生は案内に従い、男性の後ろをついていく。
「俺、入れたんですね」
小声で平川先生に耳打ちする。
「そうだな。できたばっかりだからその辺のルールも曖昧なんだろう」
ふと視線を感じ、周りを見渡す。
大多数がこちらを見ていた。
ここの賭場に女性が来るのが珍しいのだろう。
「こちらです」
そう言い小太りの男性は去って行った。
案内された席に平川先生と座ると、別の男性がこちらに来た。
男性はスーツを身に纏い、こちらを見て口を開く。
「今日が初めてですね?ではこの賭博のルールを説明します」
その言葉を聞き、俺は賭博の内容を聞かされてないのを思い出す。
俺は聞き耳を立てその男性を見る。
「ルールはトランプを使います。まず場にあるトランプの山からお互いに三枚引きます。そしてその三枚の中から相手に見えないよう二枚捨てさせます。残りの一枚を出し合い、数字が大きい方が勝ちです」
「賭け金は?」
そう質問をする平川先生。
「いくらでも。賭け金は勝ったら倍に、負けたら没収。賭け金を出すタイミングはトランプを三枚引いたときです」
俺は賭博の内容を聞き平川先生に小声で話しかける。
「大丈夫ですか?このギャンブル、勝てますかね?」
その不安から出た疑問に平川先生は予想外の回答をしてきた。
「今日は負けに来た」
俺は予想外の答えに声を我慢するのが精一杯だった。
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