第七話 交渉
その目つきを見たマーリングスの社員は動揺する
「なんだね。その目は」
それに呼応するように平川先生は静かに呟いた。
「こっちが下手に出たらその態度か」
俺はその光景を見ることしかできなかった。
「散々聞いてたら仕事ができないだのサインをしろだの、いつから私はお前らの手下になったんだよ」
「なにが言いたい」
「はっきり言う。お前らは腐っている。そんな奴がいる会社にわざわざは入りたいという馬鹿はいないだろう」
さすがにこの態度はまずいと思った俺は止めようとするが、平川先生と目が合う。
黙って見てろと俺は感じ取る。
「こっちは誘ってやってるんだぞ!素直に応じないか!」
「そこだよ。その見え透いたプライドが腐っているんだよ」
二人の男性は押し黙る。
「お前らは上場企業だから、自分の誘いを断るところなんてなかったんだろう。その傲り、思い込みが態度に出たんだ」
説教をするように平川先生は続ける。
「お前らは交渉の本質が分かっていない」
「こっちはプロだぞ!ド素人が何を言う!」
一人の男性が歯向かう。
「交渉ってのは言わば騙し合いだ。交渉する側はいかに相手のデメリットを隠せるか、交渉される側は自分にとって好条件を提案させるか。これが分かっていないのなら、そいつはただのカモだ」
二人の男性は何も言わない。
「お前らのやっていることは交渉以前の問題だ。ただただ一方的に話を進め、相手に強制させる。馬鹿かお前らは」
「流石にこれ以上は……」
そう止める俺になりふり構わず話を続ける。
「馬鹿の相手をすると疲れるもんだ。脳が腐る」
この言葉に痺れを切らし一人の男性が話す。
「もういい。こんなとこに話をしに来たのが間違いだった。帰るぞ」
そう言って二人の男性はアパートを後にした。
「大丈夫ですかね……あんなに言って」
「な~に、大丈夫さ。こんなことで諦められるのなら本気で交渉していない証拠だ。きっと仕事のノルマ達成のためだけに来ただけだろう」
「これによって悪評とか広められないですかね」
そう心配する俺に平川先生は答える。
「それも大丈夫。奴らの人間性を見てたろ、そんなことを信じるのは奴らの身内か信者だけだ。相手にしなきゃいい」
平川先生は手をクロスし背伸びをして言う。
「さっさと次の仕事を片付けるぞ、レン。そのためにお前を呼んだんだからな」
「え!?そうだったんですか!?」
驚く俺に平川先生は指示する。
「玄関は掃除したのはいいが、部屋の中はまだでな。手伝ってくれ」
二度目の掃除に呆れながらも俺は部屋の片づけに手をかけた。
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