第六話 態度
「あんた、仕事なにやってるの?」
疑問を解消したいという様子の母親から聞かれる。
「個人事業主に雇ってもらってる」
そう答えるしかない。
「それってバイトってこと?なら時給はいくらなの?ちゃんと自立できる?」
質問攻めに遭う。いつもこうだ。なにか不安があるとすぐ関与したがる。
母親としては正しい行動かもしれないが、俺には鬱陶しく感じる。
「給料は不安定だけど、今はこんなに稼いでるから」
膨らんだ茶封筒を見せ母親を黙らせる。
「そう……ならいいんだけど……」
かさ増ししたことをバレずにその場をやり過ごす。
母親が部屋から出て行ったその瞬間、俺の携帯が震える。
なんだと思い携帯の画面を見ると、平川先生からのメールだ。
‘‘今すぐ来い。‘‘
「まったく……俺をなんだと思っているんだが」
改めて、雑用が業務に入っていることに後悔する。
「さっさと終わらせて、ゲームでもするか~」
そう考えを変え、軽い足取りで平川先生のアパートまで向かった。
アパートにつき、平川先生の部屋の前までつく。
ただここで、嫌な予感がする。いつもなら郵便ポストはチラシで満杯なのに今日は掃除されている。さらにドアの前はいつもより綺麗だ。
俺は中に入るのを躊躇し、ドアに耳を傾ける。
「今日は忙しい中、お越しいただきありがとうございます」
そう平川先生の声が聞こえる。こんなへり下っている先生は初めてだ。
「しかしこんなところで何でも屋とはな」
鼻笑いまじりの声がする。男の声だ。
「全然儲かってはいないだろな~」
また別の声が聞こえる。どうやら中にいるのは二人の男性だ。
「しかしまぁ、噂どうりの美人さんだな~」
「うちの会社で働いてくれたら仕事が楽しくなるぐらいだよ」
会社への引き抜きか?それとも買収か?そう考えを巡らせ、一つの結論に至る。とりあえず中に入ろう。俺は勢いよくドアを開けた。
「ん?だれだね、君は?」
「うちは、今大事な話をしているのだよ。悪いが用なら後にしてくれないか」
なんでお前らが主導権を握っているのかとツッコミたくなるのを抑え、急いで答える。
「俺はここの従業員です!」
「本当かね?平川さん」
男性は平川先生に聞く。
「そうです。私が呼んだんです。レンお前もここに座れ」
俺は二人の男性と対になるように座る。
「今回はどのようなご用件で?」
平川先生は聞く。
「電話でも話したとうり、ここの買収に来たんだ」
俺の考えが当たる。
「詳しいことはこの書類に書いているので」
もう一人の男性が一枚の紙を差し出した。
それを平川先生は目をとうす。
「ここの評判は良くてね。その技術をうちで生かしてもらいたいのだ」
それを聞き、どんな会社か気になり平川先生に小声で尋ねる。
「誰ですか?この人たち」
「あのマーリングスの社員さんだ」
マーリングスは聞き覚えがある会社だ。
「なんですか?マーリングスって」
「最近有名になった会社だよ。コンサルタントの会社だ。うちの何でも屋とよく似ている。だから買収に来たんだろう」
その会話を切り裂くように一人の男性が口を開く。
「小声話はいいでしょ。さぁ、ここにサインを」
「こんなところで仕事なんてできないでしょ」
二人の男性が急かす。
俺は二人の言葉遣いに怒りが芽生え始めた。
「どうします?」
そう聞き、平川先生の顔を見る。
すると平川先生の目つきが変わっていた。
その目は、俺を諭してくれた時の目だった。
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