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第五話 抑止力


 「ここでいいですかね?」


 「ありがとうね~。助っかたよ」


 俺は今、依頼者の部屋を片付けていた。


 「こんなこと他には頼めないからね~。はいこれ、報酬の二千円」


 それを受け取った俺は、平川先生のいるアパートに向かった。

 この仕事はお前だけで行けと言われたので、一人で依頼の処理を行っていた。

 多分、平川先生は片付けが苦手なので俺に任せていたのだと思う。

 そう考えているうちにアパートに着いた。

 

 「あれ?平川先生の部屋の前に誰か立っているな」


 俺は正義感を胸にその人に声をかけた。


 「どうしたんですか?」


 「ここって平川屋ですよね?」


 渋めの声が聞こえてくる。


 「そうですけど。依頼者ですか?だったら中に入ってください」


 そう言って俺は中に案内した。

 部屋の中では平川先生が、テレビ越しに野球観戦をしてくつろいでいた。


 「あの……平川先生。依頼者が来ましたよ……」


 この言葉を聞いた平川先生はテレビの電源を切り、依頼者に腰を掛けるよう促した。

 俺はとりあえず依頼を聞くことにした。


 「今日はどのようなご用件で?」


 そう聞くと依頼者の男性は答える。


 「市役所のものですけど……」


 俺は驚いた。平川先生が何かやらかしたのではないかと疑いをかけ、目をやる。当の本人は悪びれもなく座っている。

 

 「実は……市役所でこんな議題が上がったんです」


 「その議題とは……?」


 恐る恐る聞く。平川先生も目線をその男性にやる。


 「町の治安を良くしろってことなんです」


 俺は少し安心する。ただそれを聞き、町の物騒な噂はよく耳にするなと思い出す。


 「それで?」


 「その議題に案を出したのはいいんですが、会議にいた人に納得されなくて。かといってその人達もいい案を持っている訳でもないのです」


 「つまり、治安を良くするためのアイデアを俺たちに考えてくれと言っているのですか?」


 そう聞くと、依頼者の男性はうなずく。


 「なるほどな~。ちなみに報酬は?」


 図々しい先生だなと感じ、その質問の答えに俺も耳を傾ける。


 「二万円で……」


 「よし分かった。考えとく。また折り返し電話するからここに電話番号を」


 せっせと平川先生が出した紙に、男性はペンを動かす。

 男性が帰り行く様を見届けた俺は平川先生に聞く。


 「どうすればいいんですかね?」


 「まぁそうだな~。市役所のお偉いさん達が納得するような案か~」


 悩んでる平川先生に、俺は意見を出す。


 「単純に警備を増やしたらどうですか?」


 「いや、それだと金がかさばるしそもそも警備員は人手不足なんだよ」


 じゃあどうしたものかと考えてる俺に、意外な意見が聞こえてきた。


 「よし!犯罪者の意見を取り入れよう」


 「何考えてるんですか!?そんなことしたら批判が殺到しますよ!」


 「落ち着け、レン」


 何考えてるんだと思いながらも話を聞く。


 「犯罪者にどうやってその罪を犯したか聞くんだよ」


 まだピンとこない俺に、平川先生はさらに深堀する。


 「動機は聞かなくていい。方法が大切なんだよ。例えば、『ここの道は薄暗いから襲うのに最適だった』とかな。ようは犯罪を犯さないように環境を作り変えればいい」


 「なるほど。それだと犯罪は減りますね。環境が整っていなかったら、犯罪なんてできないですもん」


 しかし、世間はこれを許すとは思えない。

 この疑問に平川先生は答える。


 「そもそも日本は性善説で動いているんだ。多少犯罪が起きやすい環境でも、罪を犯すなんてありえないとな。ぬるい考えだと思うよな?」


 俺に聞いてくるなと、嫌がる顔をする。


 「そう怒るなよ~。倫理に反することだが、相手も倫理に反しているからな。毒をもって毒を制す、みたいな」


 冗談っぽく言う平川先生に、俺も少し納得する。


 「どうします?この案を依頼者に教えますか?」


 「そうだな!そうしよう!」



 後日、依頼者から二万円が送金された。

 結果は、市役所の会議に通ったはいいものも市民の声で却下になったらしい。

 ただ、性善説で動いているので犯罪が起きやすいということが市民にも考えさせられることだったので、意識改革という名義での二万円だとのこと。

 依頼は成功となったので、今夜は平川先生のおごりでなにか食べに行くとしよう。

 

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