第四話 精神科
家の中はどよめいた空気が流れる。
「どうぞ……」
そう言って、自分の部屋へと招き入れる。
「レン。お前も来い」
「俺も!?」
驚きながらも部屋に入りドアを閉める。
中は思ったより綺麗だった。
ふと部屋の中を見渡すと、参考書が机の上にたくさん置かれている。
「君、名前は?」
平川先生はそう聞くと、高校生は答える。
「ユウマです」
「ユウマ君、まずは部屋に入れてくれてありがとう」
「自分はもうどうしたらいいのか、分からないんです」
はやく助けてくれと言わんばかりの様子だった。
「まぁそう焦るな。それはそうと君、いい学校に行ってるじゃないか」
それを聞いた俺は部屋の隅に目をやる。
そこには偏差値が高い事で有名な学校の制服と、スクールバッグが置いてある。
「親の期待に応えた結果がこれです……。自分なんて勉強しか取り柄がないんです」
「そう卑下なんてするもんじゃない。得意なことがあっていいじゃないか。
早速だが父親に復讐する方法を教えてやろう」
ユウマは期待の眼差しで、平川先生を見つめた。
「その方法だが、父親に不登校のことを知らせるんだ」
「「え!?」」
予想外の言葉に俺は驚いた。ユウマも同じだ。
「平川先生!契約は父親にバラさないことでしょ!」
「そんなことしたら親父がなんて言うか想像できないですよ……」
「最後まで人の話を聞け、お前ら」
そういった平川先生は続けた。
「父親にバラす方法は簡単だ。職場に不登校になったことを伝えるんだよ」
「それをしてなんの意味があるんですか!?結局父親にバレて、さらに悪化するのがオチでしょ!?」
「ただ伝えるんじゃない。精神病になったと伝えるんだ」
「偽造しろって言うんですか」
ユウマは、期待していた事とは全く違うといった顔をしている。
「偽造なんてしなくていい。ちゃんと医者からもらえ」
「どうやったらいいんですか……?」
俺も疑問に思う。医者を騙せと言っているもんだ。
「あのな~。精神科なんてものは適当なんだよ。ある実験がある」
それはなんだと顔に出ているユウマ。
「ローゼンハン実験というものがある。その内容は、精神疾患だと診断を受けていない人に、幻聴があるふりをして精神科に入院を試みるというものだ」
「結果は?」
思わず聞いてしまう俺。
「結果は、八人中七人が統合失調症の回復期と診断された。本当は正常なのにだ」
「そうなんですね……」
「さらにだ。これを聞いた医療機関は、実験者が送り込む疑似患者を特定すると伝えたんだ。実験者はそれに賛同する」
俺は固唾をのみこむ。
「医療機関は新しい患者約二百名の内、十九名に疑似患者であると疑いをかけた。しかし実験者は一人も疑似患者を送っていなかったのだ」
「ここから何が分かるんですか?」
ユウマはそう聞く。
すると平川先生は答える。
「この結果から、実験者は正常な人と精神疾患がある人は区別はできないと結論付けている」
それを聞いたユウマは、俯いたままの顔を徐々に上げていた。
「な?診断書を貰うのは簡単だろ。ようはうつ病の振りをすればいい。その診断書を職場に見せたらどうなるんだろうな?」
俺に疑問を投げかけた。
「そりゃ父親の居場所は無くなるでしょうね。自分のせいで息子が病気になったと広められる訳でし」
「そうだ。社会的に殺すのだ。そうすれば自分の過ちに気づくだろう」
ユウマは希望に満ち溢れた顔をした。
「じゃあ早速病院に行け、そして診断書をもらって職場に晒せ」
そうして俺らは家を出た。
後日、依頼者から十万円が入った封筒をくれた。
どうやら父親は改心して、毒親を卒業したらしい。
「契約には父親にバラさずになのに、こんなに貰っていいんですかね?」
「成功かどうかは依頼者が決めるからな。そこに文句は言えないだろ」
「この十万円はどうします?」
正直言うと全部もらいたい。
「五万はお前にやる。そんなことより今日は寿司でも食いに行くか~。私のおごりだぞ~」
「ぜひ行きましょう!」
平川様と一緒にアパートから出る。その足音はとても軽快だった。
誤字脱字があったら教えてください。評価をしていただくとモチベーションがすごく上がります!ぜひお願いします。