第三話 反抗期
「ここが初めての依頼者の家か」
そう呟く俺に、平川先生は続く。
「意外と立派な家だな」
外見からも分かる通り、金持ちが住んでいそうな大きさである。
「さて、行くか」
平川先生は、軽々とインターホンを押した。
話は数時間前に遡る。
俺は部屋に鳴り響く電話の受話器を取った。
そうすると平川先生は、スピーカーモードにしろと促す。
そそくさとモードを切り替え、俺は口を開く。
「はい。お電話ありがとうございます。こちら……」
そういえばまだこの何でも屋の名前を聞いてなかった。
察した平川先生は小声で、「平川屋」と言う。
安直な名前だなと思うが、平川先生らしい。
「こちら平川屋です」
すると依頼者は一言。
「お願いです。助けてください……」
何事かと思った俺は急いで依頼を聞く。
「どうしたんですか!?」
「息子は高校生なんですが、不登校になったんです。どうか学校に行かせるように説得してください……。自分でなんとかしようとしてもとても上手くいかなくて」
よくある家庭の問題だった。
そんなことだったら、ここに電話しなくてもいいと思う。
「学校とかには相談したんですか?」
そう聞くと、依頼者は怯えた声で答える。
「夫には、このことはバレたくないんです。学校に連絡すると、夫の耳に入るんので……」
なぜ夫にばれたくないのか?とは聞きにくい。
「夫はどちらに?」
「海外出張で現在は家にはいません。ただ三日後に帰ってくる予定で……。報酬は十万円でよろしいですか?」
「分かりました。すぐにそちらに伺います」
話終えると、平川先生は自分で取ったメモをまとめ話す。
「依頼者は主婦。内容が、自分の息子が不登校になったから元の生活に戻して欲しい。ただ、出張中の夫には発覚されずに。成功報酬は十万円」
口外しない利点が、ここで生きるのかと俺は感じ取る。
すると平川先生は言う。
「夫にバレたらまずい理由がある。このことからこの家庭は亭主関白なのだろう。まぁ、詳しいことは行けば分かることだ。レン、行くぞ」
話は現在に戻る。
インターホンを押すと、中から奥さんが出てくる。
「平川屋の大宮と平川です」
俺はそう言うと、奥さんは丁寧に家の中に案内し、お茶をだす。
そのお茶をものともせず、平川先生は尋ねる。
「息子さんはどちらに?」
奥さんは答える。
「あちらの部屋です。どうか息子を学校に行かせて下さい」
強く願う奥さんを後に、平川先生は部屋のドアに立つ。
俺は奥さんと一緒に事の結末を見守ることにした。
平川先生は開口一番、「こんにちは」の一言。
返事はない。
当たり前だ。不登校になるくらいなのだから問題は軽くない。
「話は母親から聞いてると思う」
さらに平川先生は続ける。
「なにが原因で学校に行かなくなったのかは、聞かなくても分かる。父親のおかげでこうなったんだろう」
すると部屋から声が聞こえた。
「お前に何が分かるんだよ!!」
怒鳴り声に、微かな涙声が混じる。
「父親はすごい優秀な人なんだろうな。こんな立派な家を建てて、仕事も海外に出張だ。だが性格は悪い、そう断言できる。なんせ話を聞いただけでも嫌な匂いがする」
部屋の声は黙ったままだ。
「お前は父親にこう言われて育っただろう、『俺に恥をかかせるな』とな。自分勝手で、息子は親のエゴのように扱ってきたんだ。こうなるのも必然だ」
それを聞いて、俺にも似たような経験があったなと思い出す。
「父親に一矢報いたいと思うだろ。その気持ちは十二分に分かる」
突然、なにを言い出したのか、話題を変えてきた。
「一矢報いるどころか、今後一切お前に口出ししないようになる。それをいまからお前に伝授する。だから、この扉を開けてくれないか?」
この言葉に感化されたのか部屋のドアがゆっくりと開いた。
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