第二話 事務所
桜が咲き始め、上着が要らないぐらい暖かくなったこの季節。
新調したであろうスーツを決め、堂々と歩いている人がたくさんいる。
そんな新社会人の行先とは全く別の方向へ歩いている俺。
一見するとただのフリーターにしか見えないが、俺の気分はみんなと同じだ。
なんたって今日は出社日なのだから。
そんな俺は今、平川先生が指定した場所へと向かっている。
「やっと着いたよ。でもここってアパートだよな……」
怪しむ俺に一つのドアが開く。
「やっと来たか~。待ちくたびれたぞ」
平川先生だ。久々に見たが、高校の時と変わっていない。
「お久しぶりです。平川先生」
「お前も変わってないな~。立ち話もなんだが、まあ上がってくれ」
その言葉に俺は少しドキドキする。初めて女性の部屋に上がるのだ。
期待を胸に俺はドアを開けた。
その瞬間、俺の期待度は駄々下がりになった。
「きったね!!」
思わずそう叫ぶ。
「まあ~気にすんなよ」
そういう平川先生だが、気にするなと言われてもそれは出来ない。
部屋の床には衣服やごみ袋が散乱している。
さらに机の上はビールの空き缶や、カップラーメンの空き容器が置いてある。
「よくこれで生きていけますね」
こう言った俺をよそに平川先生は数枚の紙を取り出し、そのうちの一枚を俺に差し出した。
「これがうちのやることだ」
そこには前々から気になっていた仕事内容や、この何でも屋の独自ルールが書いてある。
「レンがやる仕事内容だが、客の接客と私の雑用をやってもらう」
仕事内容には期待していなかったが、それでもガッカリする。
なんたって雑用が入っているからなのだ。
「これをやるために俺を呼んだのですか?」
少し怒りを込めて言う。
「そうだ、お前の素直さに惚れ込んだんだよ」
「褒められたからって嬉しくないですよ」
そうやって言葉のキャッチボールをしている間に、この独自ルールに目を通した。
そこにはこう書かれている。
1.依頼は、電話受付をするか事務所に来て発生する。
2.料金は成功報酬制とする。(成功報酬は依頼時に合議で決まる)
3.失敗時には、報酬は受け取らない。
4.依頼内容は一切、口外しない。
5.これらの規約に違反した場合、違約金として五十万円を支払う。
明らかに異常なルールではある。
「これマジで大丈夫ですか?」
「あのな~よく考えろ。この時代にまともなことやって起業に成功すると思うか?それに実は需要はあるんだよ」
さらに平川先生は続ける。
「この4番目の規約を見ろ。口外しないということは、やましいことがばれないということだよ」
そう言われると、斬新ではある。
ただやっぱり依頼が来るとは思えない。
「ちゃんと手続きしたんですよね?」
俺の疑問はまっとうだ。
「したに決まってるだろ。犯罪をするわけにはいかないからな」
こんなことを考えたお前が言うなとは思う。
「それに、もうネットにサイトを立てたからな。今すぐにでも依頼は来るかもしれんな」
そう冗談交じりに言う平川先生は続ける。
「早速だがレン。君に業務命令を下す」
急だなと思うが、何かと期待する。
「部屋を片付けろ」
それを聞くと思わず口に出てしまう。
「お前がやれ!!」
しかたがないなと顔に出ている平川と一緒に部屋を片付ける。
すると雑音の中から、無機質な電話の音が響く。
「お!さっそく仕事だな!」
嬉しそうな平川の声が後に続いた。
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