第十五話 議論の確立
「なんか相談に来る人が多くないですか?」
そう疑問をぶつける。
「あ~。相談が多いのは、宣伝したんだよ。相談も受け付けるって」
「なんでまたそういうことを……」
「イメージアップの為さ」
平川先生は答える。
「最近、無償で働くことが多くなったには理由があったんですね」
「雑用は黙っててもいいぞ」
かなりむかつくが、雇ってもらってる身からすると何も言えない。
そう思っていると、平川先生のスマホから音が鳴った。
「何ですかね?」
「あー。SNSの通知だ」
「なんでまたそんなものを……、もしかして宣伝の為ですか?」
「いや、ただの趣味」
この人、SNSとかやるんだなとびっくりする。
どちらかというと、傍観者タイプだ。
「なんだこいつ」
平川先生は突然呟く。
「どうしたんですか。そんなに怒って」
すると先生はスマホの画面を見せてきた。
「ほら、この文をみてくれ」
俺はスマホに書いてある文章に目を通す。
そこにはこう書かれていた。
‘‘女性の人生を舐めないでください。あなたには分からないと思うけど、本当に大変なんです‘‘
「何これ」
「この前、男女の生活についての違いを言っただろ。それ呟いたときの返信だ」
また訳の分からないことをする。
「なんでそんなデリケートなところを……」
「ついつい、とね」
俺は平川先生のアカウントをよく見る。
「あれ? なんで男で登録してるんですか?」
「ネカマのフリをするやつとかいるだろ。そいつの気持ちになってみようって思ったんだ」
時々理解できない行動をするのが平川先生なんだろう。
「で、人を怒らせるような内容だったんですか……。見せてもらえます?」
「ほら。これ」
‘‘今の女性問題掲げてる人って自分が差別されたことないのに昔のことを掘り出して『私たちは差別されていた』って言ってるの馬鹿バカしい‘‘
「これまたひどいことを……」
「その場の感情って大事だな」
「あなたが言うんですね」
本当にこの人についていって大丈夫だろうか。
「こいつ論破しようかな」
「やめてください。本当に何が起こるか分からないんですから」
すると何やら指を動かしスマホの画面を眺めている。
「なにしたんです?」
「これを見てみろ」
‘‘この事実を否定できてない時点で反論になってないよ‘‘
「いつから議論が始まったんですか……」
「送信っと」
この人、本当に送信したんだ。
「ていうかその人と議論できるんですか」
「ん? どういう意味だ?」
たまには俺の考えを言ってもいいだろう。
「そもそも議論ってお互いの前提条件がそろってないとできないですよね」
「なんだ? 前提条件って」
「前提条件ってのは要は、共通認識みたいなものですよ」
平川先生は俺を見つめる。
「その共通認識がそろってない状態で議論をすると、お互いがお互いに内容のない会話しかできないんです」
「なるほど」
頷く先生。
「例えばですけど、A君が精神病にかかったとしましょう。そこにB君がその状態を見て『精神病になったら休み放題だから楽』と言い放ったとします」
「その二人が議論しようともお互いの精神病についての認識がずれてるから論点も合わないし、言ってる内容すべてにお互いが疑問を持つようになる」
平川先生は口を開く。
「なるほどな。これが内容のない議論になると」
「そういうことです」
納得する先生。
「そういうことなんで今すぐにでも、その送信した内容は消して下さい」
「あー。そのことなんだがな。ちょっと炎上しちゃってる」
「え?」
「もともと書いた内容が過激だったからかな、拡散してるから消しても無駄だと思う」
落胆する俺。
「まあ、大丈夫だろ。やまない雨はないみたいに、消えない火はない、みたいな」
「もう平川先生の信用ないっす」
「そんなこと言うなよ~。高校からの中だろ?」
「別にあなたのこと友達だと思ったことないです」
悲しそうな顔をしていた平川先生のスマホを奪い、すぐに謝罪文を書いた俺だった。
誤字脱字があったら教えてください。




