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第十四話 助言者


 「勉強が続けられない」


 その一言を発したのは高校三年の依頼者だった。

 日が沈む少し前のアパート。

 平川先生は買い出しに行ってくると言って出かけている。


 「なんでここに?学校の先生や塾の先生に相談はしたほうがいいと思うけど」


 「相談はしたけど納得のいく答えや府に落ちる回答はもらえませんでした」


 「みんなはなんて答えたの?」


 「勉強はやるしかないものとか、努力をしろとか……」


 その後ももらったアドバイスを言い続ける。


 「分かったから、もう答えなくていいから」


 どうすればこの子が納得いく答えを出せるか悩み続ける。


 「あなたは大学に行っていたのですか?」


 「まぁ、行ってたけど……」


 「じゃあ、どうやって勉強を続けていたのですか?」


 もう何でもいいという感じで食い入るように聞く。


 「俺は大学に行ってたけど、入試方法は推薦だったからな~」


 推薦と言っても、平川先生におんぶで抱っこだったということは言えない。


 「そうですか……」


 落胆する依頼者。俺は少しでも元気づけようとあれこれ伝える。


 「やる気って最初は出ないけど、続けてたら出てくるのは知ってる」


 「知ってます」


 「じゃあ、それを……」


 「そういうことじゃないんです。もっと勉強をする理由みたいなものを」


 勉強をする理由というものは難しい。極論を言えば人それぞれなのだから。

 この子が欲しい回答は万人が納得する答えだろう。


 「理由があれば勉強することはできるの?」


 「出来ますとも」


 なかなか手がかかる子だ。

 二人で色々相談していたところに、玄関から扉が開く音がした。

 俺は期待の眼差しでその開いている扉を見る。

 平川先生だ。両手に膨らんだビニール袋を持っている。


 「お!何してるんだ~」


 そう言い、ビニール袋を床に置きこちらに歩いてきた。

 俺はこれまでの経緯を伝える。


 「なるほどな~」


 なにか画期的なアイデアをと期待する俺。

 すると口を開き高校生に疑問を投げかけた。


 「君はアドバイスを貰うとき、どんな相手に聞きに行く?」


 「その道で成功している人とか」


 「そうだな。その考えが当たり前だ」


 俺は平川先生がなにをしたいのか分からない。


 「ただ、その考えでは納得のいくアドバイスってのはなかなか貰えない」


 「じゃあ誰に聞けばいいのですか?」


 「今回、相談したいのは勉強のことだ。勉強のアドバイスを言っているのはほとんどが勉強できるやつなんだよ」


 「確かにそうですけど……」


 「そいつらはな、大抵がいい中学、高校、そしていい大学に行っている」


 高校生を諭すように語りかける。


 「そんな奴らはな、勉強ができるやつに囲まれて思春期を過ごしている。だからこう考えるだろう。『勉強なんて出来て当たり前』と」


 「つまり何が言いたいかっていうとな、勉強ができるやつってのは勉強ができないやつのことを理解できないんだよ。だから勉強についてアドバイスを貰おうとしても、全部が全部、勉強ができるやつ向けなんだ」


 「じゃあ、どうしたらいいのですか?」


 「アドバイスを貰うときはな、自分と同じ境遇にいた人に貰うと良い。成功者でも失敗者でも。そいつらに聞くと従来のアドバイスよりかは納得できるはずだ」


 「これはどんなことでも同じだ。スポーツでもなんでも。人生相談でもこれは有効だ」


 すると高校生は府に落ちたような顔でこちらを見る。


 「ありがとうございます!」


 そう言いアパートを後にした。

 

 俺は平川先生に質問する。


 「そんなことどこで教わるんですか?」


 ビニール袋に詰めてあったものを冷蔵庫に入れながら答える。


 「自分で考え着いたのさ」


 「よく思い着きますよね」


 「まぁ、私の場合は色々と疑問が出ていたからな。世の中の成功者ってのはみんな何か秀でてるものがある。そいつらに、何も特徴がない私ら凡人がアドバイスを貰っても絶対に納得は出来ないもんだ」


 「平川先生は特徴があると思いますけどね」


 何かと期待する平川先生。


 「その失礼な態度とか。誰も真似できませんよ」


 怒っている平川先生を横目に、買ってきたものを漁り晩酌の準備をした。

 今日はいいお酒が飲めそうだ。

誤字脱字があったら教えてください。

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