第一話 就職先
2月中旬。
「俺、○○商事に内定もらったぜ~」
「私の会社、給料いいんだよ」
就活に成功した人たちの声が響いている。
とうの俺は全戦全敗。
嫌味たっぷりの声をよそに、俺は大学内を歩いていた。
「よう、レン」
そう聞こえた俺は後ろを振り向く。
「そんな顔してたら福が逃げてくぞ」
友達のタケルだ。
「お前には関係ねーよ」
「就活に失敗したからって人生が終わる訳ないだろ」
確かに人生が終わる訳ではない。
しかし、ここまで頑張ってきたのがすべて否定されている感じがしてままならない。
「お前はいいよな、俺の気持ちを知らないままでいられるのだから」
「そんなこと言うなよ。高校からの付き合いだろ」
タケルは今年の春から大手企業に入るらしい。
正直に言うと、就活に成功した人たちが羨ましい。
「また休みが取れたら旅行とか行こうな」
すっかり社会人気分のタケルと別れを告げ、帰路に立つ。
「どっかこんな俺を拾ってくれるいい企業はないかなー」
そう呟きながら自分の家へと帰っていった。
ベッドのうえでどうしようもない妄想をしていると、一階から母親の声が聞こえた。
「レン~。電話」
「誰からー?」
「あんたの高校の時の教師から~」
こんな時に誰だよと思いながら一階へと降りていき母親から受話器を取る。
「もしもし?」
「レン。元気か?」
その透き通る声をきいた瞬間、高校の思い出が蘇ってくる。
「平川先生?!」
平川先生とは、俺の恩師だ。高校時代にグレていた俺を正しき道へと導いてくれた人で、今でも感謝しきれない。
「どうしたんですか! 」
「いや~、教師クビになてよ~」
急なことではある。
しかし、こいついつかクビになるじゃないかと思うほど仕事は雑で適当に過ごしていたのを知っている身からすると驚きはしなかった。
「それでどうして俺に電話を?」
「今お前、就職先がなくて困ってるって聞いて」
恩師には知られたくないことで憂鬱になる。
「短答直入に言うと、一緒に働かないか?」
今の現状ではとても嬉しいことだ。だが、さすがに怪しすぎる。
「色々聞きたいことはあるのですが、詐欺じゃないですよね?」
「そんなに疑うなよ~。この話はお前にしか頼めないんだ」
それを聞いてますます嬉しくなる。だって高校時代の恩師が頼ってくるのだ。
「具体的に何して働くんですか?」
そう聞くと、その質問を待ってましたと言わんばかりに喜々として答える。
「ズバリ、何でも屋だ!!」
その回答にキョトンとする俺。
「な、何でも屋? よくあるあの何でも屋?」
「そう、何でも屋」
何でも屋はいわゆるお手伝いさんみたいなものだ。
「ただの何でも屋ではないぞ」
それを聞いても俺の期待は下がったままだ。
「本当に何でもするのだよ。犯罪にグレーな部分も」
頼ってくれるのは嬉しい。
でもさすがに犯罪には巻き込まれたくない。
丁重に断ることにした。
「とても素晴らしい企画だと俺は思います。でもちょうど今別の会社から連絡が来て都合が合わないので、また今度で」
そう答える俺の言葉を遮り平川は言った。
「もし、無事成功したら君の願いをなんでも叶えてやる」
俺の心が揺らぐ。
彼女もできたことない俺に、美人で年上のお姉さんが願いを叶えてくれるのだ。
「しかも利益の半分は君にやろう」
さらに心が揺らぐ。
なんせ責任もろくに取らないのにお金は入ってくる。
それに無職にならなくて済む。
「やります」
完全に堕ちてしまった。
「よし。素直な君ならそう答えてくれると思っていたよ」
やるとは言ったものの何をすればいいのか分からない。
「俺は何をすればいいのですか?」
平川様は答える。
「そうだな~。後で追々説明するよ」
濁された感はあるが、これで俺も就職だと考えるとホッとする。
「いつから仕事をするのですか?」
「また連絡するよ」
そういって平川先生は電話を切った。
色々怪しい部分はあったが何かあったら辞めればいいと考え、階段をスキップしながら登っていきそそくさとタケルに電話をかける。
「仕事決まった」
めんどくさそうにしていたタケルが驚きの声を上げた。
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