第一章 【ラン】壱
死神は、基本的には此岸で単独行動をしている。
私が担当している区域は、今居るこの蒼城学園とその周辺。この辺りは事件や事故が多く、数多くの霊が彷徨っているから私が専門で就いている。
その際、死神の姿だけだと何かと不便だ。
だから我々死神は人間に化ける。
人間の姿で霊を探し、見つけ次第彼岸へと案内する。
稀に、今生への未練から悪霊化するものも居るが、
生きた人間に害を成す訳にはいかないため、
そのような事態に直面した場合はその場で
悪霊を祓わなければならない。
私は普段この蒼城学園の生徒として過ごしている。
蒼城学園高等部2年の紫桃深月としてね。
正直、学校生活って言うものは懐かしくて…苦しい。
でも問題ない。
私は死神としての任務を遂行するためにここに居る。
大丈夫……
今日も学校が終われば一応学校にも気を配りつつ、
周辺の調査をしなくてはならない。
死神は休まなくても平気な分、年中無休だ。
あ、そういえば…
今日は死神補佐役との初顔合わせがあるんだっけ…
私のように彼岸花の毒を持つ死神は、
他の死神よりも仕事が多くて非常に多忙だ。
それを気になさった神様が、死神補佐役を就ける
というシステムを作った。
今まで居なかったのは、「一人がいい」と
ずっと駄々を捏ねていたから。
死んでからも他人に振り回され続けるのは御免だったからね。
でも最近は仕事量と時間が比例せず、
請け負いきれなくなってきたから仕方がない。
集合場所は学園のすぐそばにある霞神社の境内。
あそこの管理人様とは長い付き合いだし、
まだ信用出来ない相手との顔合わせなら
あそこが適地だろう。
「おい紫桃!ちゃんと聞いてるのか!」
数学教師の伊山先生が私の名を叫んだ。
「……聞いてます」
「じゃあこの問題の解答は何だ?」
「2です」
「正解だ。なんだ、わかってるじゃないか。」
「聞いてますから」
「そうか、すまなかったな」
「いえ、…」
考え事してた私も悪いけど、
授業中大声で名前叫ぶとかヤバすぎでしょ。
まぁ聞いてなかったのは事実だけど、
私はもう既に高校の単元はクリア済みだから
潜入時の学業は全く問題ない。
周囲の生徒は伊山先生の突然の怒鳴り声で
止めていた手を再び動かし始めている。
そんな中でも、悩むこと無くスムーズに問題を解き進める人も居ればずっと手が止まっている人も居た。
問題の難しさに頭を抱える人を横目に、
私は今晩の行動予定を考えながら
懐かしい数学の問題を解き進めた。