隣にも後ろにも前にも居れる
夕方。長城砦にて。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
御前試合の事後処理と夕食を終えた赫鴉は自室に戻って、白星に出迎えられた。
カカッ、と笑う夫は二対の獣耳と一対の角の妻に不審がられる。
「何かイタズラでもしてきましたか?」
「いつでもなんかしてた方が楽しいだろ?」
「穏やかな方が落ち着くのですけれど」
呆れる白星に、赫鴉はそれすらも楽しいというように笑う。
自室にて部屋着に着替えた彼は、キングサイズのベッドで妻を膝に乗せて、その手に余る両の乳房を背後から揉んでいた。
「相変わらずイヤラしい手つきだことで」
「預けてくれるオメエが楽そうだからな」
「毎日飽きずに支える物好きにくれてやってるだけです」
光栄だな、と次男は声に喜の色を乗せる。
「八門商連の商人共はどうだって?」
「こちらが提案した新規事業の段取りとの折り合いがつきました。あちらとしては喉から手が出る利権ですので、あとはどこを頭にするかの殴り合いです」
獣人は投影端末を複数表示しながら、彼女が担っている各案件を随時目の前に回す。
彼女の長城砦での役割は『赫鴉の公私秘書』である。
炎成邑の次男という立場の赫鴉が計画立案と名義を立てる。
そして、その計画を影日向で折衝と交渉を進めるのが白星である。
甘さを抑えたグリーンの香りの金髪に鼻をくすぐられながら、彼は手を休めることなく、情報を目で追う。
「三虚会とかのマフィア連中とも話しがついたか」
「先程の話とで商連と食い合わさせました。表立てない輩には金ヅルをチラつかせるのが効きますから」
「おー、こわ。獣の狩りはエゲつねえなあ」
「その狩場を用意した人間は、さぞ雅な方なんでしょうね」
胸のアンダーを支えていた手が徐々にトップへ移る。
その間にも蠢く五指は穏やかに、しかし、しっかりと肉に沈んでいる。
「他邑の取り締まりを強化させて、逃げ道として炎成を残す。残っている炎成でも密告制度で潰し合わせる。密告すら、不確かであればその組織に身銭を切らせて、証拠を持って来させる。生かさず凌遅の如く薬にする。これで犯罪撲滅を掲げるとは。なかなかのゴシュミをお持ちで」
「カカッ! その薬を持って来させたヤツには、表のシノギを教えてやってんだ。キチンと飴鞭は用意してんぜ?」
十指が先端を彩る輪のギリギリで止まる。
それぞれの指が沈んだり、触れるか触れないかの瀬戸際で柔肌をかすめたりをくりだす。
んっ……、と硬いがどこか艶のある吐息が女から漏れた。しかし、それで整えたのか、
「の癖して、表で生きていこうとすると手厚いバックアップがされるのは、なんの冗談でしょうね?」
「そりゃ、納税者になんだ。話くらいは聞いてやるのが人情だろう?」
返された赫鴉は笑みをもって、忙しなく個々の指を独立してるように動かす。
はぁ……、呆れと色気の混じった溜め息を整えとした白星は、別の投影端末を表示する。
「こちら、八門商連から軍へのクレームです」
「ん? 中央の連中が来るのは伝えてあるだろ? 狼藉でもしたか?」
「逆です。大人し過ぎて予想より利益が上がらないとのことです」
「うっわ、ワガママな連中」
男は天井を仰いでしまう。
女はここ一週間の市場の動向を記録したグラフを表示する。
飲食店系列を除いた各業種の売り上げが、確かに事前に共有していた予想値より伸びが悪いのが示される。
「一応、継承一位は士官以下にも自由行動を許してはいるようです」
「自粛を厳命している……、はねえか。わざわざ外征前に士気下げるヘマはやらねえだろ」
「出入りをチェックすると、どうやらローテーションを組んでるようですね」
白星は出入りの帳簿や監視カメラ等で確認出来る範囲で、中央軍の面々がある一定の規則性を持って炎成の街に繰り出しているのを示す。
一番出入りの多いのが下級の兵士。逆に指揮を執る層の出入りが少なくなっている。
「はあん、長城砦で仕事ある連中が繰り出すのを抑えつつ、現場で体張るヤツらをその分多目に回してんのな」
「とは言っても、小分けですので市場動向にそこまで影響が出てない状態になっています」
感心する赫鴉は、上気している白星の胸の輪を指の間に収めて、その円周を綺麗になぞる。
ふぅう……、と艶のある吐息が漏れる。
「出来うる限りウチに金を落としたくねえ、と」
「少しでもこちらの活発化を抑えようとしてますね」
「でも、メシを食わせるはやってんな。基本を徹底させて、他を締めておく。飲食系が伸びてんのが証拠だ」
「はい。商連からも、系列店は上々だと」
「かーっ! もうチョイすりゃ、カマすヤツとか出てくるだろうが、大々的な解禁はもっと先だな」
「やはり、こちらに金を落とすのを警戒してますね」
中央が炎成をどれだけ警戒しているのかを予測する。
皇族の血筋とはいえ、皇帝の在位にすら口出し出来る影響力を持つ勢力に対して、無計画に一助になる行為をするだろうか、という話ではあるが。
「現場担当のガス抜きをしつつ、ウチの警戒を理解してる層には待機を、か」
「おおよそそれかと。加えて、下も大分お行儀のいい方々のようで」
彼女はまた別の表示端末を出して、ある帳簿の記録を示す。
「三虚会管理の薬関連ですが、中央が来てからの売り上げがほぼ横ばいです」
「はーっ! 驚いた。そんな徹底してんのな」
彼女が示したのは炎成上層部とコンタクトが取れる組織が提出した麻薬に関する帳簿であった。
人の流出入が激しい炎成であっても、麻薬の管理は徹底している。
多少の甘い汁を吸わせても、目の届く範囲になるよう情報・扱いを調整しているのだ。
「裏通りの娼館利用であっても、薬を誘われるけれど断るというのが殆どだそうで」
「万一握らされたとしても、使わず上に提出。あわよくば行政管理不届きとしてコッチへの攻撃材料にする、と。やれやれ、イヤなこと考えるねえ」
「把握なされてる通り、ポピュラーなのがごく少量中央側から報告されています」
「しゃーねえ。商連とマフィア連中には品を変えるよう誘導しとくわ」
赫鴉は片手を伸ばして、端末を操作。
指紋で捺印し、各所に自身名義の連絡を入れる。
「なんと?」
「分かってんだろ?」
「言質をとってこそなので」
「じゃ、言っとこう」
操作を終えた彼の片手は、白星の胸ではなく、下腹部を覆った。
「『飲む』が満足で、『買う』が締められる。じゃ、残った『打つ』をさせるのが王道だろうよ」
「賭けを優遇ですか」
「だな。裏表問わずまずは少額からでも噛めるように調整。所属を明かすことのメリット提示の指示。あとは現場との調整だ。頼んだぜ?」
「任されました。明日追々対応させて頂きます」
白星はリマインド表に各所への簡単な対応を書き込んで、端末を全て閉じた。
「にしても、良かったです」
「何がだよ?」
彼が下腹部に当てていた片手が、彼女の密かに、しかし、豊かに萌ゆる股へ伸びる。
「昨日のヘコんでたのが嘘みたいです」
「うぉぅ……!」
彼の手が秘所に届く前に、白星は座っている膝の間の膨らみを揉みしだく。
「ぁう……、ってなんだよ? 今日はちゃんと仕事したじゃねえか?」
「昨晩継承一位と話して帰ってくるなり、不貞寝カマしたのは誰でしょうね?」
「おぅあ……」と赫鴉は心身共に弱い部分を弄られてうめく。
「毎日朝までスる癖に、なんですか? そんなに継承一位と話して疲れましたか?」
「いいじゃねえかよ、俺だってセンチになる日だってあらあ」
「私がヘコんだ時は話を聞くのに、自分のことになると話さないのはどういう了見で?」
「……」
夫は黙って妻の股に手を伸ばすが、
「はい、誤魔化さない」
と、もう片方の彼女の手で止められた。
加えて、揉みしだいていた方の手は縦の動きに変わっていた。
「ぁひゅう……! 容赦ねえよ、この女……っ!」
「オイタをする子供を甘やかせるほど、大人ではないので」
縦の動きの手は五指が巧みに動き、リズミカルに刺激を与える。
男は胸を揉む手は緩めなかったが、その呼吸には甘い吐息が混じる。
「……私は聞きたいですよ。赫鴉様」
「……参った。じゃあ、聞いてくれ」
彼は一拍置いて、溜め息。
彼女の肩に乗せている顔をより深く沈める。
「怒られた」
「の割には御前試合は元気でしたね」
「その上で褒められたり、励まされたりもした」
「逆ギレする逃げ場も潰された、と」
「そ。んで、昨日帰ってそういう気分が全部吹っ飛んで、スネた」
わりい……、と赫鴉は白星の耳元で小さく謝った。
「なんて怒られました?」
「色々『足りてねえ』だってよ。マー、皮肉だよな。目の前の事だけ頑張ってたら、結果色々不足すんだから」
「褒められたというのは?」
「オメエと居られてること。『幸せそうでなにより』、だってよ」
彼は胸と下腹部を穏やかに撫でる。
彼女は甘いというより、一区切りというような吐息をつく。
「継承一位は大分忙しい方ですね」
「俺もそう言った。んで、幸せを通り名出されて保証もされた。もう、ケチョンケチョンに言い負かされたわ」
「ま、ヘコんだ言い分としては中々なので、幾らか許してあげましょう」
そう白星は赫鴉の下腹部で止めていた手の拘束を解く。
そして、その手は頭髪と同じ黄金の草むらをかき分けていく。
ふぅん……! と白星が分け目の頂点を指で軽く押され、口を固めた吐息をする。
「ぁぁんあ! 昨日、シ足りない分、ん……! は、誠意で、示すから、よっ……!」
彼の股首周りに縦に加えて、左右回転の刺激が走る。
「スる側ですのに、サれて悦んでいるのはどういったご了見でして?」
ふぅう……、んぁ……! と嬌の女の声は、縦に割れている唇を、人差し指と中指が愛おしそうに上下にゆっくり走る刺激から出た。
「ん……! 今日、は……、あぁ! 激、しいぃ! 日、か……ぁあ⁉︎」
「赫鴉様が思っている以上に、不満があるのかもしれませんね」
ふっ、あぁぁ! 男の手入れのされた指が、入り口の浅い部分で小刻みに躍る。
女は空いているもう片方の手を、握っている肉の根本で上下した。
「ひゃあぁ! 中々、積極的、あぁあ! じゃ、ねえの……!」
「昨日話してくれなくて、寂しかったんですよ?」
優しく上下する手は柔らかに二つを包み、鼓動を伝えるように転がす。
赫鴉は切ない声をあげて、熱くなる下腹部に力を入れる。
「っでも、なんで、放っておいたん、だよ?」
「そういう日もあるでしょうし、貴方一人で悶々とする時間も大切だと思ったので」
ひゅうぅぅん! 一気に飲む息は、人差し指が芽に、薬指が入り口に、そして中指が奥の天井に達した拍子に起きた。
「有り難うな……、今日、も……、相手してくれて、ぇえん!」
女に握られている肉の入り口を、指が手の運動に沿ってなぞっていく。
男は刺激に堪らずビクリ、と身をよじる。
「舌、出して下さい……」
男は女に乞われ、限界まで、──それこそ僅かに滴る粒を受け止めようとするように──伸ばした。
切なく、蕩けた目の男の舌は彼女の唇で啄まれ、拘束されたソレは中にある同じ器官で動けるソレで、存分に味わられる。
ふぅん! 一際強い鼻息は中の天井を、指の腹で余すところなく愛撫されたからだ。
「「ああぁぁ……!」」
同時の声で、女の唇が強く閉じ、男の下腹部の力が解放された。
「……はふぅ。初っ端からトばしてくんね」
「昨日の分も含みなので、一回一回を濃くしてイキたいので」
「了ー解。じゃ、コッチ向いてくれ」
白星が体勢を変えて、赫鴉の胸板と彼女の巨きく実った乳房とを合わせた。
「……有り難うな」
「このくらいお安い御用です」
彼は腕を回して、彼女を抱き締めた。
片方で女の口へ指先を持っていく。
白星は嫌がることなく、口を開ける。
指は迷いなく彼女の下顎犬歯に当てられ、浅く刺さって血を流す。
「『センチだから昔を思い出した』はナシですよ」
白星は口内で幾らか流れた血を味わう。
満足気に舌先で止血しながら、押し返した。
「互いの関係をこまめに振り返るのは楽しいだろう?」
「では前を見ることはしてくれます?」
「……」
赫鴉は黙って、締めを強くする。
「……それが継承一位に『怒られた』ことですか」
白星は呆れて締め返した。
「怒んね?」
「怒りませんよ。もう反省してる子供を叱りつけるほど感情的ではないので」
「わりい」
「反省したら謝るんじゃなくて、その上でどうしたいかを言って下さい」
「ひゃうん!」
女は男の耳にひそやかに息を吹きかける。
「ま、私としては現状維持でも構いませんが」
「でもなあ……」
「じゃあ、そうですね」
女が男の耳元で、
「何か下さい。大きければ大きいほど良いです」
囁きかけた。
「……」
辺境邑の次男は締めを少し緩めた。
「……」
その妻も締めを緩める。
「白星には色々迷惑かけるな」
「その迷惑に応えたいくらいには、赫鴉様と居たいのです」
困った声色と、どこか楽しそうな声色の持ち主が額を合わせる。
「振って振り回される関係でいてくれて有り難う」
そういうことにしておきましょう、と彼女は狐耳の部分で彼の頭を叩いた。
「そう急かすなよ」
「そう見えます?」
「少なくとも俺の腹はグッチョリだぜ」
「私の尻にもナニか当たってますね」
二人の夜は始まったばかりだ。




