エピローグ・彼の世界征服は続くけど、これにてめでたし
元ビサニティ領空内、地表から三十キロ離れた地点にて。
「お前はなにやってんだ?」
「んー? 暇つぶし?」
本人でも定かじゃないのか、と黒狼は呆れてしまう。
超巨大飛行都市戦艦『東方不敗』の甲板上にて立ってる彼と寝っ転がっている赫鴉が話しをしていた。
「んで、どうよ? 内外からのリアクションは?」
「ビサニティ討ったのは評価されてる。けど、『東方不敗』やお前の件でうるさくなってるな』
「ったく、天気が変わったくらいでうっせーなあ」
「だからってどんだけ夜を昼にするか……⁉︎」
そうであった。
次男が放った『覇炎無式・豪烈氣至』にて住む星はしばしの間夜が来れなくなっていた。
「んー、まあ、一週間くらいしたら戻るんじゃね?」
「それでも普通に天変地異だ、ダアホ!」
寝っ転がっている男の頭にに皇太子は蹴りを入れる。
「イッテエなあ! マジ蹴りかよ⁉︎」
「それだけお前のアホな規模にキレてるからな」
半目で見下ろす黒髪。
赤髪は蹴られた反動で起き上がって、座り込んでいる。
空は、というより現在の艦の高度では鳥はおろか雲もなく、青いだけの景色に喧しい胴間声が響いた。
「そんじゃ、まず外から詳しく」
「改めて陽昇、ひいては炎成が警戒されつつあるな」
「やっぱ、そうなるか」
落ち目であってもそれなりの規模を持っていたビサニティに快勝したのが原因だ。
軍事演習という口実を得ていても、事実上の戦争であり、存分に戦力を見せつけていたのだから致し方ないだろう。
「んで、内ではいつの間に新型量産『鎧』造ってたんだ⁉︎ ってキレてる連中もいる、と』
「まあ、それだけお前ら炎成の利益独占が気に入らないからだろうしな」
炎成は今回の軍事演習にて新型量産『鎧』の『荒狗』を投入していた。
それが『東方不敗』内限定で運用されていたとしても、陽昇国内から非難が出るのは仕方がないことだった。
「あーあ、折角領土手に入れたっつうのに厳しい連中だな」
「どいつもこいつもそばに武器持ってる奴がいれば、警戒するのは当たり前だろうよ」
それより、と黒狼は話題を切り替える。
「お前の方はどうなんだ?」
「ん? 何が?」
思い当たる節がない故に、とぼけてしまっているような返し。
「仇討ちだ。エンルマ殿とあとアイツのことで少しはスッキリしたか?」
「……オメエ、意外と心配性だよな」
誤魔化すな、と額に青筋を立てる皇太子。
辺境邑次男は面白いがってカカッと笑ってしまっている。
「いや、悪い悪い。中々どうして、継承一位サマも人の子じゃねえのと」
「それはお前も一緒だろうが。人が心配してやってんのに、ったく……」
彼は心配して損した、という風にため息をついてしまう。
「いやまあ、そんな心配すんなって。これでも結構スッキリしてんぜ?」
「……完全にって訳じゃないんだな」
「そりゃな。『仇ブチ殺しました。ハッピーです! ガハハハ!』ならもっとマシだったかもしれねえけど」
これでも結構色々考えてんだぜ、と赫鴉は困った眉で笑う。
「……これこそ意外だったな。お前がそういう逡巡をするのは」
「もうちょっと上手く出来なかったのか、っていう後悔はよくしてんぜ」
「自慢しながら言うことか」
継承一位は心配そうな、呆れてるような、色々と水面に墨液を垂らしてない混ぜたような面持ちになる。
「あ、あと言っとくけど、後悔はあるけど罪悪感はねえからな。そこは履き違えんな」
「そこは期待してない。むしろあったら殴ってたな」
仇を折角討ったというのに、そこまでの感情を持つのは二人とも本意ではないようだ。
これだけ滅茶苦茶にしておいて、今更罪の意識を持つというこは、それこそナイーブが過ぎるからだろう。
「兎に角、お前が内心複雑なのは分かった」
「おう? なんか慮って奢ってくれるってか?」
「それこそオゴりだ、馬鹿野郎」
黒狼は半目になって踵を返した。
「あとはお前だけで処理してろ」
んじゃーあとでなあ、と目を送らず、手を振るだけで見送る赫鴉であった。
***
「ここにいましたか、赫鴉様」
そう男に声をかける女は白星だ。
二メートルは越す夫に迫らんばかりの長身に、起伏の富んだ体のライン、特にバストは三桁センチを超えているのが情欲をかき立てる。
「……」
「どうかなさいましたか?」
「いや、俺の女はいつ抱いても抱き心地が良さそうだな、と」
「お褒めに預かり恐悦至極で御座います」
「皮肉じゃねえからな。一応言っとく」
「はいはい、今晩もよろしくお願いしますよ」
「…………」
「…………」
しばし、夫婦間に無言の間が訪れた。
「なんかねぇ?」
「赫鴉様がおっしゃりたいことがあれば」
「いや、別に俺は特にねえんだけど」
であれば、と四耳二角。
「どうです? 世界征服の第一歩は?」
「うーん……」
どこか歯切れの悪い夫。
まるで看板を見て「ここ入る!」と勇み足で入ったはいいものの、実際に出て来た料理に困惑してるのに似ていた。
「思ったより実感湧かねえな」
「それは書類仕事がまだですから」
「うっわ、ヤなこと言うね、この人妻」
事実ですので、と白星。
「それに、いつまでも落ち込んでいらっしゃると、こちらも滅入りますので」
「うわー、シオシオの塩ですよ、この女ぁ!」
シクシクと嘘泣きの素振りをする赫鴉。
そんなおふざけを無視して、白星は話しを進める。
「で、改めまして世界征服第一歩、おめでとう御座います」
「そんなホメるか?」
「事実ですのと、私個人が嬉しいのがありますので」
人妻は夫の隣に座る。
「赫鴉様には貰ったモノが御座いますから」
「それって……」
「はい、何が下さってくれましたから。しかもかなり大きいモノを」
「あー……、なんかもうちょい色気のあるモンだったら良かったんだけどな」
困り顔の夫。
その困り方はサプライズプレゼントが、前もって知られていたかのような、気まずさを含んだようなものだった。
「別にいいですよ? とりあえず国一つと仇の首一つ。私個人としてはとても嬉しいです」
「そー言って貰えるとスゲエ助かる」
けれど次男はどこか座りが悪いのか、居心地悪そうに尻をソワソワさせていた。
「なんですか? 気持ち悪い」
「わあい、いきなりの塩対応」
夫婦漫才で誤魔化そうする夫に、妻は手刀を落として逃すまいとする。
「……まあなんだ、色々至らねえけど一緒に居てくれて有り難うな」
「こちらこそ、憎き仇を討って下さって有り難う御座います」
しばしの沈黙。
「……だぁっ! もう今日は変な間が空くなあ!」
「赫鴉様が煮え切らないのが原因かと」
「うっわ、言ってくるよこの妻!」
「はいはい、私は貴方が元気を出すまでそばでずっと言い続けますよ」
「ははっ、そいつあ有り難え」
「それに体外受精の件もありますし、赫鴉様にも頑張っていただかないと」
「あー……、まー、それが一番妥当よな」
体外受精。
クローニング技術で細胞から卵子を作り出し、それを体外で受精させるのだ。
白星自体、マテリアルという想念に左右されやすい存在ではあるが、何もしないよりは遥かに目のあることであった。
「赫鴉様」
「んだよ」
二人は立ち上がって執務室に戻ろうとする。
その時、白星が赫鴉を呼び止め、彼を振り返らせた
「もっといっぱい征きていきましょう」
少し背伸びのキス。
「……おう」
夫は嬉しそうに妻と並んで歩く方を選んだ。
彼らの世界征服はまだまだ続く。
辺境伯の次男バトルマスター、世界平和の為に世界征服に乗り出す〜バトルシティとピーポーのピースを目指してワールドに覇をキャストします〜
『完』




