これにて戦いのおわりだね
『死ねやぁ!!!!』
『君が死ね!!!!』
赫い巨槌と桜色の鉄傘の衝突。
何万合にも及んでいる打ち合いは、矢張り質量で勝る巨槌が打ち勝つ。
けれど、
『ハァッ!』
小柄なオウカは鉄傘から放たれる拡散しやすい勁力を、兆近い魂という莫大なリソースから無理矢理に遠距離攻撃に転化している。
露先から放たれ、途中一点に収束したかと思えば、そこから何百もの切先となって赫鴉を追尾する。
『甘ぇって言ってんだろ!』
回避運動と得物による迎撃。
しかし、その内一つでも打ち漏らせば、
『……ガァ!』
右脚が爆ぜた。
赫鴉は即座に『鎧』ごと再生する。
***
『そろそろ内息(経絡の勁力循環のこと)も濁って来たんじゃない?』
『うるせー、俺はまだまだヤれるぜ?』
宙に浮く赫鴉とオウカ。
共に『鎧』を纏っているが、双方消耗している。
大柄の赫は槌を肩に担ぎ胸を張ってはいるが、『鎧』の各所から勁力の粒子が流血の如く漏れ出ている。
対する小さな桜色も排熱が水蒸気の如く、魂の粒子を散らしている。
『ンじゃ、もう一発!』
次男は勁力放出で即座に距離を詰めた。
大上段から振り下ろせば、相手は右に回避。
傘の石突が迫れば、振り下ろしきって一回転。
その動きで回避。
回転途中で強引な放出を左にかけ、変則の逆袈裟をしかける。
しかし、当たりはすれど広げられた傘に阻まれ、ただ飛ばすだけだった。
『〜〜〜〜ッッ!!!! キくなあ!』
『キいてンならとっととおっ死ね!』
オウカは利き手を振って痛みを堪える素ぶりをみせてくる。
どこまで本気でどこまで冗談なんだか、と赫鴉はウンザリしながら再び距離を詰めていく。
今度は鎖を射出し、フレイルのようにリーチを伸ばしての攻撃。
遠心力追加のマッハ数千を超す一撃を見舞う。
その速度故に回避し切れないと判断した神仙は、勁力を放射し迎撃。
ぶつかり合う爆発と衝撃波で辺りが数百キロがぐちゃぐちゃになる勢いだ。
『くたばれやぁ!』
その爆風に紛れて、辺境邑次男は仇に振り下ろしを仕掛ける。
爆発の中でも相手を発見出来たのは友である皇太子の知覚強化があったからだ。
直撃──、
『……やっぱりキくね』
否、防がれた。
正確には左を突き出されて防がれた。
その左腕の『鎧』は醜く膨れ上がり、死肉が腐敗のガスで破裂するように所々割れながら、勁力の粒子を散らしていた。
『コレ、消耗が激しくてヤなんだけどね』
オウカは体のあちこちを膨らませていく。
『勁とマテリアルの過剰供給ってトコか』
赫鴉は槌の平を勁力爆破し、無理矢理に剥がした。
『天まで衝く〜、ってしねえのか?』
『イヤイヤ、そこまで行ったら取り回し悪いでしょ』
オウカは二メートルほど(赫鴉とほぼ同じサイズ)まで膨張させて相対する。
鋭角的ながらマッシヴさを持つ鴉貌の赫の『鎧』
筋骨隆々《きんこつりゅうりゅう》といった風情で、『鎧』のあちこちから破裂している桜。
昼において赤い空の下、再び衝突が起こる。
***
巨槌がカチ合う。
莫大な衝撃波。
本体と同様に、血管が浮き出るような生々しい膨れ上がり方をしてる鉄傘が、それの質量に負けない衝突をしていた。
いや、力で均衡していてもその得物は耐え切れてはいなかった。
しかし、
『はぁぁぁぁ……!』
《《鉄傘を再生させているのだ》》。
『脳筋っぽくて本当はイヤだけどねっ!』
勁力噴射で無理矢理弾く。
その余波で地上は層が何枚もめくれ上がり、加圧されている部分は赤熱していた。
『つっても互角じゃねえか!』
赫鴉は上段を取り、パワーダイブ。
勁力・術式混合のエネルギー噴射は何千と音を超える。
『甘いよっ!』
オウカが指を鳴らすと、
グボン!
向けられた槌が爆ぜた。
***
『……っ! 付着細胞の爆破か!』
『御名答!』
次男は得物の予想外の方向転換に無理矢理な制動を『鎧』の各所で制動をかける。
『貰いっ!』
そこに神仙の畳んだ傘の突き。
再びグボン!
突きが『鎧』を突き破って、内臓に到達した瞬間に爆破し、ダメージを上げる。
血飛沫が舞い、内容物もブチ撒けられた。
『……良い加減死んでくれないかなぁ!』
『だから、テメエが、おっ死ね……!』
ごぼり、と赫の鴉貌から血が溢れ落ちる。
けれど、その目には未だ生気が迸っていた。
『生憎なぁ……! 嫁と師父の仇討つまで死ねえんだわ……!』
傘が刺さり爆ぜた部分を再生させる。
急速再生を繰り返す内に全身に軋みが出るが、根性で無視。
『顔ぉ……!』
得物を手放し、左で傘を、右でオウカの貌を鷲掴む。
細胞単位の爆裂を痛みを無視して、無理矢理潰そうとする。
『がぁ、あぁぁぁぁ!!!!』
桜の『鎧』は足先から勁力を噴射し、回転。
肉のようになっている装備の何枚をも剥がしてアイアンクローから脱した。
『った〜〜〜〜……! 全く、しつこいなあ!』
『しつけえのはテメエもだろ!』
赫鴉は残った細胞で吹き飛んだ両手を再生させながら、吠え返した。
『ああ、でも分かったよ。いくら致命傷級の内傷(経絡系の損傷)でも生きてるのが』
オウカはここまでの手合わせで、ようやく得心がいった。
『あの『三禍憑』を何度犯したんだい?』
『犯してねえ。両者同意の上だ』
ぺっ、と獣の夫は顔面に溜まった血を吐き捨てる。
『かぁー、僕でもここまで元気にはならなかったよ』
愛のチカラってヤツ? と神仙は吐き捨てる。
『ただでさえちゃんと愛されてんだ。白星の肉を味わえば当たり前だろ?』
国を滅ぼすような獣との愛の営み。
それは赫鴉に致命傷を負うような内傷を一瞬で直すような内勁をもたらしていた。
『へぇ、そんなに。ま、確かに具合は結構良かったけどね』
『ああ、そうだぜ。数の子天井に俵締めだ』
『うっわ、惚気て来たよ』
うへえ、と装甲の下でも分かる引き顔を、オウカは作る。
『聞いて来たのはそっちだろ』
『いや、ていうか僕ら穴兄弟じゃん』
『残念でしたー、俺は処女も捧げてるからテメエとは次元が違いますぅー!』
次男坊はマウントを取ったついでに、地表に落ちた巨槌を遠隔操作し、勁力噴射させて手に戻した。
『フンっ!!!!』
彼は得物による左逆袈裟を仕掛ける。
オウカはそれを鉄傘で受け止めた。
『対策は思い付いたみたいだね』
『たりめーだろ』
赫の『鎧』は全身に勁力をアクティブで漲らせていた。
ようは反応装甲という訳だ。
『放出する勁力……、いや術式も混合させたモノで燃費もバッチリと』
『師父の業も! 嫁の愛も! なんでもかんでも使って勝ってやるよ!』
打ち抜いた。
食らった神仙は大気を何枚も割り、勁力噴射でブレーキをかけるが、地表近くまで落とされてしまう。
そこに巨槌が叩き込まれる。
地面は大きく凹み、何十キロものクレーターが出来る。
辛うじて広げた鉄傘で受けたオウカは、その巨体を大きく歪ませていた。
『そろそろ燃料切れじゃねえの⁉︎』
『君殺すまでは保たすさ!』
そう言う神仙の『鎧』の各所は剥がれ落ちるように、装甲がボロボロと落ちていっている。
『しつけぇ!』
『君もねえ!』
鉄傘を閉じることでいなした桜は、崩れた体勢の赫を蹴り上げ宙に浮かせる。
追撃の勁力放射でトドメをさそうとするが、次男はそれらを巨槌で全て打ち落とした。
『そう何度も撃てば慣れるっつうの!』
そう言って再びパワーダイブを敢行する赫鴉。
しかし、そこに邪魔が入った。
***
『ワイバーン⁉︎』
積乱雲よりも分厚い層を成して、赫鴉達に割って入って来たのは魔獣であった。
数は兆をくだらないだろうか。
『……やれやれ、テムったら予備兵力まで全部投入しちゃって』
空に上がりながら、オウカは(お節介焼きな恩人だ)とボヤく。
また、同時に魂の補給が出来て有り難いとも思った。
『さあさあ! いかがする⁉︎ 辺境邑の次男坊!』
神仙は敗けられない戦いに勝利の確信を持って空の武侠に問いかける。
『こちらは兆の手下! 殺せば僕が強くなる! これでもまだ続けるか⁉︎』
『……』
上空の赫は黙って聞いている。
『どうした⁉︎ 怯えて声も出ないか⁉︎』
『……』
まだ黙っていた。
『ならばこちらから仕掛けに行くよ!』
『……やっぱオレはまだまだ、だ』
蒼雷が貫いた。
***
魔獣の群れは混乱していた。
四方八方から雷や炎が群れを貫いて来たのだから。
隊列が乱れる魔獣の軍勢にとある通信が流れた。
『『蒼電掌』、『龍炎爆悦』、『金血暴威』、エトセトラエトセトラ……』
その声の主は赫鴉だった。
陽昇は辺境邑の次男坊の男の声だった。
『オレが世界征服するのに軍の力だけかと思ったか⁉︎』
雷が鳴り響き、焔が猛り、斬撃が飛び交う。
『世界を征こうってんだ! 金の動きや人の動きがあるに決まっているよなあ!』
攻撃はみるみる内に魔獣の軍勢を削っていく。
『八門商連の商人共に、三虚会のマフィア共!』
数百人が空に飛べば魔獣はたちまち消えていく。
『そいつらから集めに集めた名うての武侠、三六二三人! オレほどじゃねえが腕は立つぜえ!』
呆気に取られる神仙は『毒病蝕仙』オウカ。
対照的に高笑いするのは赫鴉であった。
それに気付いて彼は気を取り直すが、
『これだから層の厚い国はイヤなんだ!』
と、怒りはしていた。
『ま、いいさ。魔獣共を殺せば殺すだけ僕が強くなるのは変わらない』
『果たしてそうでしょうか?』
***
オープン回線に割り込む艶と、どこか気怠げな雰囲気の声。
白星だ。
『魂を取り込む術式は見事と言っておきましょう』
しかし、
『それは私が割り込む余地ですよ?』
同じ血族が取り込まれている。
それは術式として充分な『代価』であった。
『がっ、があぁぁぁぁ!!!!』
生体金属で出来た神仙の肉体が崩壊していく。
加護が反転した呪いである。
獣と同じ血筋を持つ魂を取り込み、あまつさえ肉と無理矢理交わった者の末路であった。
『さて、赫鴉様』
『おう、どうした?』
『有り難う御座います』
『今、ここで言うか?』
『必要と思いましたので。あと、オープン回線でしたら逃げ道がないので』
うわー、イイ性格、とその夫は半目になる。
『ま、そういうこったら逃げねえのに律儀なオメエってことで』
『そういうことで。さ、そろそろ仕上げに入りましょう』
***
『ま、まだだ……!』
『やれやれ、術式侵入時点で他の魂と分離させるたあ、器用なこった』
『生憎、半端に仙人やってないからね……!』
『お互い半死半生。大業同士で決めようじゃねえか』
『あのねえ、こっちは君を殺してもまだまだた次があるんだよ?』
なんだ、そんなことかよ、と赫鴉。
『安心しな、テメエはここで殺す』
『そうかい、やってみるといい』
両者、構える。
大気が震える。
大地が裂ける。
岩盤が浮き上がり、龍脈が露わになる。
『『蝕毒黄染』、奥義!』
『『打樹棍法』最終奥義が崩し……!』
神仙が放った。
次男が突撃した。
『暴乱病禍!』
『覇炎無式・豪烈氣至!』
毒々しい桜色に舞い上がる華の乱舞。
それを撃ち抜いて迫るのは赫の巨槌。
傘全体から放射される花弁は赫鴉を撃ち落とさんとその奔流を強くする。
しかし、赫の豪槌はそれらを難なく退け、流し、打ち払い、薙ぎ倒していく。
禍を伏する豪の槌。
故に『伏禍豪槌』。
『ブッ飛べぇぇぇぇええええ!!!!』
パワーダイブからの槌の打ち上げ。
『あ、ああああぁぁぁぁっ!!!!』
打ち上がった赫と桜の二色。
それは音を何枚、何千枚と超して空へと上がっていく。
『くたばれっ!!!!』
と、次男が叫んでようやく返事が無くなった。
『ハァ、ハァ……!』
空気のない宙にて一番明るい星が見えた。
獣の夫は(眩しいな……)とどこか場違いな感想を抱きながら、脱力した。
けれど、再度全身に力を入れる。
まだ、戦で必要としていることがあるからだ。
『勝閧を上げろ!』
敵の総大将を討ち取った際に必要な叫びのそれである。




