有名人に会った時の気分
「抜くといい」
現陽昇皇帝、蒼吼の言葉に黒狼は逡巡してしまう。
彼は現在首都に一時帰還しており、目的は炎成で成形した『東方不敗』級二番艦『西天常勝』の献上と外征の詰め直しだ。
「……よく話が見えないのですが」
そうして、諸々の手続きが終わってようやく実父にあたる皇帝に艦献上の為の謁見が叶ったのが今である。
というのに当の皇帝は謁見の間から自身と黒狼以外を人払いをすると、これであった。
「なんだい? 父で皇帝の言うことが聞けないのかい?」
手中の短剣を器用に回しながらの曲芸。
皇太子は状況や立場がなかったらそれを楽しんでいたい程度には感心しているが、嫌な汗が背中を伝うので、それどころではなかった。
「……理由をお聞きしても?」
「いや、私達初対面だろ? 息子がどれだけ出来るのか知りたいんだ」
蒼吼が言う通り、彼ら親子が話すのは身辺警護や継承順位への影響を考慮しての事情により、今まで会うことが無かったのだ。
「何かあったらどうなさるのですか?」
「色々面倒臭い後ろ指をさされながら、君が皇帝になるね」
「面倒は避けたいのですが?」
「なんだい? 話の君は武力や交渉問わずして継承権を一位に上げたと聞くけれど」
「上手い理由付けが出来てますから」
ふうむ、と皇帝。
「じゃあ、こうしよう」
彼は投影端末を出現させる。
術式文書が構築されて行き、最後に皇帝が袖から出した印で捺印した。
「これでどうかな?」
出来上がった文書が黒狼に投げられる。
怪訝を隠さない皇帝の息子は、渋々受け取って目を通した。
「あー……、息子と手合わせするのに、わざわざ国璽まで持ち出します?」
文章自体は平易で強い拘束のある内容ではなかった。
しかし、問題なのは端に捺印された国璽の印だ。
「シャチハタ感覚で概念拘束かけますかね?」
「拘束といっても、君ら武侠が通り名出すのと変わりないさ。それを術式的意味に変えたくらいの違いだよ」
それはそうですけど、と黒狼。
武侠が通り名を出す意味は『己が今まで関わって来た者、己が背負っている責、己が任されている実力』、加えて『人々からどう思われているのか』を示し、それを元にその事物を担保する行為だ。
それだけ重さや要求の強さに繋がっている。
それが術式という別口とはいえ示されたとなると、
「分かりました。ただし、父上を傷つけてそうになったら辞めますからね」
「そうこなくっちゃ! 話の分かる息子を持てて、お父上は嬉しいなあ!」
芝居がかった声色で父親は小踊りして短剣をジャグリング。
黒狼はくるくると回転して両手を行き来する、鮮やかな手捌きに惚れ惚れとするが、自身も手に短剣を展開する。
「ま、お互いに怪我しないようにしましょう」
「分かってるよ。『魔識皇剣』のお手並み、魅せてもらおう!」
両者構えて突撃。
丁度中間点にて刃がかち合った。




