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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

政略結婚前日に駆け落ちしてくださいと護衛騎士から迫られているけれど私はこの結婚に大賛成です!

作者: うり
掲載日:2023/04/12

初投稿です。


 刺すような鋭い眼光。凍てつくような蒼い双眸。見下ろす顔に浮かぶ酷薄した笑み。


 その色味は記憶と違うのに、懐かしくて。


 ああ、また会えたのだわ、と。


 涙が一筋零れた。



 ◇◇◇◇◇


「殿下、お早く!」


 国境手前の森の中の夜営地。王族専用の大きなテントの私室。人払いされ、専属護衛騎士と二人きりの今。


 差し出された手を見つめて、どうしてこうなったの?と背中を冷や汗が流れ落ちました。


 必死の形相の専属護衛騎士兼幼馴染みのヴァンに首を振って抵抗します。


 喉がやけに渇いて声が出せません。


 動こうとしないわたくしの態度に苛立ちを隠さず舌打ちすると、ヴァンは強引に手首を掴み駆け出しました。


 えっ!?


 ドレスが足に絡み付き転びそうです。旅装の簡素なドレスとはいえ、見苦しくない程度には着飾っているのですから。宝飾の類いは最低限でもヒールのある靴は駆けっこには向いていませんわ。


「ちょっ、ちょっと……ま……待って……!」

「待ちません!」


 騎士の力を振りほどく事も出来ず、引っ張られるままにテントを出ますが、直ぐに見張りの騎士から声が掛かりました。


「こんな時間にどちらへ?」


 チャンスですわ!


 ですが、わたくしが助けを求めるより早く「最後の散歩だ」ど答えるヴァンに何故か皆頷いて道を開けます。


 どうして……?何故誰も疑問に思わないのかしら?


 夜営外れの馬坊には何故か鞍が装着され荷物が積まれた馬が待っていました。


 用意周到すぎませんか?!


 呆然と立ち尽くすわたくしに、ヴァンは何処から取り出したのか、騎士団の外套をわたくしに羽織らせ、フードまできっちり被せました。またもや手を差し出します。


「さあ、お乗りください」


 い、いえ。流石にこれは流されてはいけませんわ。冷静に、そうです。今は冷静にならなければなりませんわ!


「ヴァンっ。こんなことをしても何の解決にもなりませんわ。第一直ぐに捕まってしまいますわ」

「……騎士隊のほとんどが賛同してくれています。幸いまだ国境を越えていない。この時間を作るために旅程を急いだんだ。逃げるには今しかない!」

「で、ですが……!」

「貴女が犠牲になる必要はない!不本意であっても俺と来てもらいます」


 触れます、と一言告げ、(いえ、貴方先程は問答無用で掴んでいましたわよ?)ヴァンはわたくしを抱え上げ馬に乗せました。そして後ろにひらりと乗り、わたくしをしっかり抱えて走り出してしまいました!


 ええ!?


 現在、大変に混乱していながら、激しい馬の背で舌を噛みそうなわたくしです。


 申し遅れました。わたくしはレティシア・ヴァイル。17歳。ヴァイル王国の第二王女です。まぁ、王族とはいえ、お姉様のような超絶綺麗系美女ではなく、癒しの小動物系可愛らしい顔立ちです。侍女達がそう断言していたのでおそらくそうでしょう。色味も紅茶色の髪に蜂蜜色の瞳で、美味しそうな組み合わせと言われてます。傾国の美女と言われたお母様似のお姉様、お兄様とは違い、ほんわか陽だまり和み系の父王様似です。それでもいいんです。家族には可愛い癒されると愛されているのですもの。


 そのわたくしが何故護衛騎士に拐われて(これ誘拐よね?わたくし同意してませんもの)いるかと言えば、単に政略結婚が原因です。


 ヴァイル王国は自然豊かで、のんびりとした国民性のいわゆる弱小国家です。わたくしはこの国民性が大好きで一生をこの国で過ごしたいのですが、さすがに王女に生まれたからには国の役に立たなければなりません。昨年、お姉様は大国に望まれ嫁がれていかれました。とても寂しいですが、お義兄様になる方はお優しい方なのでお姉様の幸せの為に我慢ですわ。


 残ったわたくしは、お姉様程美貌に恵まれておりませんので、周辺の小国の王家または公爵家辺りに婚約を打診していたのですが……。


 断られてばかりで。さすがに落ち込みましたわ。


 結婚はやめてお姉様の侍女にでもなろうかしら、と諦めていたのですが…。


 なんと。隆盛を誇る、まさしく他国を侵略し続け領土を拡大し続けている帝国から、皇太子妃として迎えると同盟の話が舞い込んできました。


 いやもう、びっくりですわ。


 書状が届いた時など、父王様なんては泡吹いて倒れ医務官が呼ばれたそうです。大丈夫でしょうか?代わりにお兄様が非常に真っ青な顔で、絶望的な表情で、書状の内容を伝えに来てくれました。


「レティ」

「はい。お兄様」

「…………………………………………………………………………………くっ!」

「………………?」

「………話が………いや、ない!………こともない………」


 沈黙が長いですわ、お兄様。どうなさったのかしら?いつもははっきり、キッパリ毒舌大臣様達を両断するお兄様が言葉を濁すなんて。


 あまりにも書状を持つ手が震えている為、お兄様の側近が体を支えています。


 まぁ!余程の事ですのね?頑張ってくださいませ、お兄様。


「…………その。………あのな。………つまりだ。…………ああ、駄目だ。私の口からは言えない!何と言えばいいのか!レティに伝えるなんて出来るわけがない!私の可愛い可愛いレティがっ。あの!帝国の!残虐で、腹黒くて、目付きが悪く態度も悪いが顔だけ素晴らしいと評判の皇太子の妃に選ばれたなんて!そんな残酷なこと、伝えられるわけがない!こんなこと言われたらレティは泣いてしまうじゃないかっ。私の可愛い可愛いレティが泣いたら誰のせいなんだ!……ああ!レティがお嫁に行くなんて我慢できない!しかも、あの帝国なんて!絶対反対!絶対破棄だ!…………だが、同盟は欲しい。正直帝国は怖い。後ろ楯になってくれたら我が王国は安泰なのだが……いや、駄目だ!レティの犠牲なんて駄目だ、駄目だ、駄目なんだぁぁぁ!」


 とうとう泣き崩れてしまいました。


 お兄様、相当精神的な負担が酷かったのですね。言えないと言いながら、わたくしの事情と国の事情、お兄様の心情まで語っておられましたわ。どさくさ紛れて帝国皇太子の悪口も言っておりましたわ。流石です、お兄様。


 …………そうですの。わかりましたわ。色々理解しましたわ。


 漸くわたくしにも婚約話がきて、それが帝国だから大問題、ということですのね。でもこれは嘆くことかしら?寧ろ喜ぶことなのでは?もちろん、危険度は理解しておりますけれど……。


 嘆くお兄様の傍らにしゃがみこみ、ハンカチを差し出しました。


「お兄様。涙をお拭きください。ご心配くださり、ありがとうございますわ。わたくしはお兄様の妹に生まれてきて本当に幸せですわ。わたくしの為にこんなにもお心を砕いていただいて」

「レティ……!」

「わたくしの事でしたら大丈夫ですわ。このお話お受け致しますわ」

「……レティ!お前が犠牲にならなくても……!」

「いいえ?皇太子妃なのでしょう?それならば大丈夫ですわ。約束を守っていただいただけですもの」

「約束?」

「はい。昔、父王様と帝国に赴いた時の約束ですわ。お兄様にもお話しいたしましたでしょう?」

「あ、ああ、覚えているとも。たがあれから12年も経っているし、情勢が変わってきているだろう」

「ええ。わかっております。わたくしは人質、または開戦の切っ掛け、お姉様の国への足掛かり。可能性は色々ありますけれど、……ええ、わかっておりますわ。それでも、約束を守りたいのですわ」

「…………そうか………」


 ふんわり笑うと、お兄様はわたくしの頭をぽんぽんと軽く撫で、がっくりと肩を下ろして出ていってしまいました。


 こうしてわたくしの輿入れが決まったのです。


 部屋の片隅に控えてこのやり取りを聴いていたヴァンが何を決意したのか、その心情さえもこの時のわたくしにはわかりませんでした。


 あらゆる事が即決で決まってゆき、ヴァンと個人的な話をする時間もないまま、一月と掛からずに出発することが決まりました。異例の速さです。それからのことは目まぐるしい日々でしたわ……。


 父王様とお兄様は連日嘆き、お母様はそれを諌めながらわたくしを優しく抱き締め、『貴女には幸せな結婚を望んでいたのですよ。でも、まだ不幸になるとは限らないわ。どんな些細なことからも幸せを見つけて、貴女なりに幸せを感じる結婚になれば大丈夫よ』と一人異国へ嫁ぐ不安を和らげてくれました。


「殿下」


 呼び止められ振り替えると宰相や大臣達がズラリと並んでいました。


「英断でございましたな、殿下。我ら一同、殿下のお心に敬服いたしますぞ」

「皆様……」

「ご安心くだされ。殿下が一日でも長く生きられるよう、死力を尽くしますぞ」

「……宰相様?」

「こちらは我らからの気持ちでございます」

「まあ、財務大臣様……」

「教会より祝福を賜った月水晶のペンダントですよ」

「外務大臣様……」

「天に召される魂の最後の願いを叶え神の御許へと導くそうでございます」

「ぐ、軍務大臣様?それはどういう………?」

「「「「神の御慈悲がありますように」」」」

「ですから、死ぬ前提でお話ししないでくださいませ!」


 城内を歩く度に「殿下、これを」と白い花を手渡されました。泣きながら渡す侍女もいて、今更ながら愛されているのだと実感しましたわ。しましたけれど、何故葬送の花なのかしら?「葬儀に参列できないから」って、死ぬ前提は止めてくださいませ!


「殿下、眠れなかったのですか」


 侍女が鏡に映るわたくしの顔を見て、化粧の手を止めました。


「わかりますの?」

「はい。いつもよりお肌のハリがありませんし、ややくすみもあります。何よりも目元にうっすらですが隈ができてます」


 確かに確認できますわね。


「最近あまり眠れなくて。化粧で誤魔化せるかしら?」

「お任せください」


 パパッと化粧を終え、鏡にはいつものわたくしが映っていました。流石です。


「皆には内緒にしてくださいね。心配をかけたくありませんの」

「殿下…………。不安を和らげるハーブティをお持ちいたしましょうか?夜は睡眠を誘うポプリとお茶をお持ちいたします」

「まあ、ありがとう」

「いえ、私達はこれぐらいしかお力になれませんので。人質になる不安は想像でしかわかりませんが、私達に出来ることがありましたら、何なりと申し付けくださいませ」

「あ、ありがとう……?」


 でもこの後、わたくしが眠れないほど不安を抱えていると噂が広がり、父王様とお兄様が泣き崩れて政務が滞ったり、お母様が添い寝をしてくださったりと騒動に発展しましたが、家族の愛情の深さにじんわりと幸せが込み上げました。


 それにしても、何故誰も祝辞がないのかしら。わたくしは婚姻するのであって、処刑されるわけではないわっ!


 ヴァンもずっと不機嫌なまま。職務は忠実だけど、顔はいつも怒っています。


 ヴァンは騎士団長の息子です。団長が父王様の護衛を勤めているので、その縁で同じ歳のわたくしの遊び相手として五歳の頃から王城に来ていました。騎士へと成長した彼はそのまま専属護衛騎士になりました。


 12年間ヴァンは毎日わたくしと共におりましたわ。もう、家族のようなものですね。


 ですから、ヴァンにも祝福して欲しかったのですが……駄目ですわ。 誰一人としてこの婚姻を喜ぶ人がいないなんて!これでは本当に葬列になってしまうわ!なんてことでしょう!


 帝国へは数人の侍女に同行が許されたのですが、知っておりますわよ。皆真っ青な顔で籤引きをしていたのを。当てた侍女は遺書を認めてましたわね。何の覚悟かしら?これは婚姻。帝国でするのは処刑ではなく、葬儀でもなく、結婚式ですわ!


 声を大にして言いますわ。


 わたくしは結婚するのです!


 お姉様からは祝いの品が急遽届きました。


 流石はお姉様。わたくしの味方はお姉様だけですわ。


 大至急と届けられた小さな包みを開けると手紙と懐剣がはいっていました。 


『殺られる前に殺りなさい』


 …………………お姉様ぁ。


 何故かしら。結婚って、こんなにも殺伐としたものかしら?もっとウキウキワクワクしたものだと思っていましたわ。少なくとも、お姉様の時は皆がもっと楽しんでおりましたわ。


 もっとも帝国の皇太子から手紙が届き、『全ての準備はこちらでやるから、その身一つでとっとと来い』と告げられた時は、人質確定!牢屋に監禁では?と城中が嘆きました。優しい国民性は大変嬉しく思うのですが、早く会いたいからと思わないのは何故かしら?


 結局、誰にも祝われることのないまま(王都は喪中のように静まり返っていました。何故?)、号泣する家族と城使えの者達に見送られて帝国へと出発したのです。


 ヴァイル王国と帝国との間には一つ国がありましたが、去年帝国の属国になりました。わたくしの引き渡しは我が国とその属国との国境で行われることになっています。


 旅程は順調に進み、予定より二日早く国境の森に着きました。

 旅の疲れもあるからと、国境まで一時間程手前の森の空き地で夜営することになりました。


 久々の揺れのない時間にまったりとします。何故か急ぎ気味にここまで来ましたが、旅の疲れを癒す為ならば納得ですわ。


 明日は国境で帝国側の使者に会い、わたくしはこの国を出国します。


 ヴァンとは国境でお別れです。


 夕食も済み、就寝までのまったりとした時間。せめて最期にお別れをと考えていると、突然ヴァンが人払いしました。


 首をかしげるわたくしの前に膝ま付きます。


「まあ、どうしましたの?ヴァン?」

「…………」 

「何か話があるのではなくて?皆を外させたのはその為でしょう?」 

「……このままでいいのですか」

「何がですの?」

「このまま本当に帝国に行くつもりですか」

「本当もなにも、その為に今、ここにいますのよ?」

「―――――っ!どうして………!何故ですかっ……!」

「…………ヴァン。わたくしは王女です。その役目は十分理解しておりますわ。今までありがとう、ヴァン。貴方がここまで付いてきてくれて嬉しいわ」

「俺が聞きたいのはそんな言葉じゃないっ!」

「ヴァン?」

「今ならまだ間に合う。共に逃げましょう。まだ国内だ。何とかなる」

「何を言ってるの?ヴァン?」

「逃げるのですよ、俺と。全てを棄ててください」

「え………?」

「さあ、早く」


 差し出された手とヴァンの顔を何度も往復しますが意味がわかりません。


 もし皆の言う通り人質だとしても、逃げたとして何になるのでしょう。帝国の報復が待っているに決まってます。 


 たらりと冷や汗が背中を伝います。


 わたくしにも王女としての矜持があります。弱小国にとって政略結婚は大切な絆を繋ぐ糸です。切られる事も途切れる事もありますが、細く繋がった糸は時に役に立つこともあるのです。その役目を放棄することは出来ません。


 それにヴァンは大切な幼馴染みです。幸せになってもらいたいのです。わたくしと逃げれば、彼は指名手配犯。確実に死刑です。ヴァンの決意の重さに目眩がしますが、駄目ですわ。それだけは駄目です。


 わたくしは首を振って拒否しました。


 ぎゅっと膝の上で手を握りしめ、拒絶の意思を示しました。


 一瞬傷付いた顔をしたヴァンは、もう一度手を差し出しました。


「殿下、お早く!」


 それでも動かないわたくしの手首を掴み、そのまま部屋を出てしまいました。


 そして、今。わたくしは馬上で舌を噛みそうで口を閉じるしかない状況になっております!


 回想している間にもどんどん夜営地から離れていきます。もはやわたくしにはどこへ向かっているのかさえわかりません。


 このままではヴァンは死刑です。確定してしまいます!どうすればいいのかしら?


 やがて、馬が歩みを止めました。


 わずかにわたくしを支える手に力が入ります。


 そこは少し開けた場所でした。真上の月に照らされて、辺りがよく見えます。少し小高い場所に人影がありました。


「こんな時間に散歩か」


 若い男の声です。低く艶のある、人を従わせる力に満ちた声。昔、聞いた声によく似ています。もう少し高い声でしたが。


「………誰だ」


 ヴァンはゆっくり馬を降り、わたくしを降ろして後ろに隠して剣に手を掛けました。


 見れば周りを兵士に囲まれています。昔に見た軍服。帝国兵ですわ。


 気が付きませんでしたわ。


 皆抜刀し、こちらに向けています。


 ……何と言いましたかしら?こういう状況は―――――そうです。詰んだ、でしたわね。


 わたくしがのんきに状況分析している間にもヴァンたちに緊張が漲っておりました。


「花嫁を迎えに来ただけだ」

「――――っ!」


 ヴァンの殺気が増しました。


 男はゆっくりとこちらに向かって歩いてきます。


「約束通り迎えに来てやったぞ、レティ」


 月に照らされて男の姿が見えました。


 短い黒髪に宝石のような紫の瞳。それは記憶にある色彩と同じもの。あの時よりも背が高くなり、より美しくなっているけれど。何よりも青い帝国軍服が似合いすぎて、どくんと鼓動が強く感じましたわ。


 ―――ああ、あの日の約束を覚えていてくれました!


 心の底から嬉しさが込み上げます。ずっと不安でした。これはただの同盟で、わたくしを殺して戦争を始める為のものではないかと。もうあの約束はなかった事になっているのではないかと。皆が嘆く度に不安で不安で夜も眠れませんでした。周辺国には名高い美姫が沢山いて、それこそわたくしとの婚姻理由など開戦以外には考えられなくて。吹けば飛ぶような弱小国の平凡なわたくしなど側室としてでさえも選ばれる理由がなくて。おそらくわたくしはもうじき死ぬのだと国中の誰もが思い、わたくし自身もそう思っていましたのに。だからこそ、最期に一目だけでも、成長した彼を見ることが出来れば、思い残すことなどありませんでしたのに。


 ――――約束を覚えていてくれました。


 ヴァンの殺気は増すばかりで、周辺もギラついています。


 そんな状況の中、わたくしの心は喜びで満ち溢れています。


 あれは十二年前、わたくしが五歳になったばかりのこと。 


 帝国から皇太子お披露目の招待状が届きました。今回お披露目されるのは十歳の皇太子と六歳の第二王子。近隣国の王と年齢の近い王女、公爵令嬢が招待され、弱小国の我が国にも一応父王様とわたくしに招待状が届いたのですが。もちろん帝国の王子様方の花嫁候補等と身の程知らずな望みは誰一人として持っておらず、出来れば穏便に断れないかとさえ協議が重ねられたと聞きましたわ。


 どうあがこうとも、我が国には断ることなど出来る筈もなく。それならばこそっと行って、こそっと帰ろうと、父王様とわたくし二人に少人数の護衛騎士(弱小すぎて襲われるリスクもないのです!)と従者を伴い、目立たないように帝国へと赴きました。


 わたくしは初めての国外旅行にとても浮かれていて、教育係のいない自由を満喫していましたわ。


 初めて見る村、町、都市。初めて食べる料理。初めて見る砦や国境。そして平原や森に山々。

 見るもの全てが新鮮で、城の中と中庭しか知らなかったわたくしの視野が開けたのです。


 もっと新しい景色を。もっと見たこともないものを!


 好奇心の赴くままに馬車から眺め、町や村を散策しましたわ。父王様もわたくしも服装を変えると違和感なく溶け込めましたの。ふふ、初めて屋台の料理を食べたのもこの時でしたわね。


 やがて国を一つ抜け、帝国にと入り、王都の(帝国なのに帝都ではなく王都と言うらしいですわ。昔の名残なのですって)皇城へと向かいました。


 その大きさに圧倒されましたわ。父王様と二人、ポカンと見上げて固まってしまいました。おそらく護衛騎士達も同じだったと思いますわ。


 わたくしのお家よりも十倍は大きかったと思います。見上げても屋根すら見えない程高く、数え切れない程の窓あり、巨人でも通るのかと思うほどの大きな扉が聳え立っていました。見える範囲だけでも十以上の塔が天へと伸び、そのいくつかは見張り塔のようで人らしき姿が見えました。


 内部も贅を凝らしたもので、あまりにものきらびやかに、流石の好奇心も萎縮してしまいましたわ。どれをとっても弁償が出来ないのですもの。幼心にも、これはダメだとわかりましたわ。


 父王様と二人、じっと目立たぬようにお披露目まで時間を潰しましたわ。あれはわたくし史上最大の忍耐力でしたわ!


 昼が過ぎ、大広間でお披露目が始まりました。


 王子殿下方が紹介されました。お二方とも黒髪に紫の瞳の美少年でした。兄王子殿下は優しげな風貌で弟王子殿下は目つきの鋭い方で不機嫌そうでした。


 順番が来て父王様と共に皇帝陛下にご挨拶を申し上げに行きました。これでわたくしの役目は終わりました。他の王女や令嬢はみな皇太子殿下や王子殿下を囲み、猛アピールしていますが、わたくしには関係ありません。軽食コーナーでケーキを食べ、クッキーを食べ、ケーキを食べて見渡すと、父王様とはぐれていました。


 でもわたくしは慌てませんわ。子供のわたくしが探したところで見付からないことは知っていたからです。もちろん対処法も知っています。お兄様やお姉様が教えてくれましたもの。こういう時は。


「高いところから見渡すのですわ」


 でも、高いところはどう行けば良いのかしら?


 大丈夫。これも知っていますわ。こういう時は誰かに訪ねるのです!


 わたくしは早速近くの警備の騎士に尋ねました。


「高いところはどう行けば良いのかしら」

「高い所、ですか?」

「ええ、見渡せるくらい高いところです」

「ははぁ、なるほど。王都が見渡せるくらい高い所ですね」

「そう!そうです。見渡して見付けるのです」

「なるほど、なるほど。それでしたら、東の鐘楼が良いかと。手すりもありますし、王都にも近いですよ」

「東の鐘楼。そこへはどう行けばよいのかしら?」


 親切な騎士に行き方を教わり、大広間を出たのですが…………迷子になってしまいましたわ。


 尋ねようにも誰ともすれ違いませんの……。


「どうしましょう………」


 つぶやきはふかふかの絨毯に吸い込まれるように響きません。途方に暮れ涙が出かけた時。


「何してるの?」


 男の子の声がしました。

 振り返ると、先程お披露目で見た弟王子殿下が睨んでいました。


「君、招待客だよね?こんな奥にまで何の用かな?」


 人ですっ……!人がいましたわ!


「あぁ、良かったですわ!誰もいないから困っていたのです」

「何?迷子だと誤魔化す気?」

「誤魔化すも何も迷ってしまいましたの」

「白々しい。ここは披露目会場じゃないだろ。わざわざ来ない限り、ここにはいない」

「?わざわざ来たのですよ。お父様とはぐれましたので」

「やっぱり。何を企んでるのかな?」

「企む…………?そうですわね。はぐれたときは高いところから見渡せば見付かりますので、東の鐘楼に行き、見渡すのは企み、になりますかしら?」

「は?」

「ですから、お父様とはぐれましたので、お父様を見つけるために、高いところから見渡したいと騎士に聞きましたら、東の鐘楼から王が見渡せると聞き、向かっていましたのに………塔に上る階段が見付からないのです。」


 説明していながら、悲しくなって涙が滲んできました。でも泣いてはいけないので我慢です。淑女は男性に涙を見せてはいけないとお姉様が言っていました。


「…………王が見渡せるのではなく、王都が見渡せるの間違いじゃないか?」

「?でも見渡せるのでしょ?」

「…………そうだな。確かに見渡せるな。……ふふふっ。よし。僕が案内してやろう」

「良いのですか?殿下はお披露目の最中では?」

「あれは兄上のお披露目だ。僕はオマケだよ。それよりもこっちの方が面白そうだ」

「面白い………?よくはわかりませんが、お願い致しますわ」


 差し出された手をとり、来た廊下を引き返しました。あっちにこっちに連れられるまま歩き、ようやく東の鐘楼にたどり着きました。


 そこは鐘楼の回りをぐるりと一周できる見張り塔の様な場所でした。大人一人分の幅しかない狭い回廊です。


「ここが東の鐘楼?」

「そう、鐘楼。一番高い西の鐘楼」

「東ではなく?」

「西」

「……………」

「……………」

「ここはわたくしが入っても良いのですか?」

「構わないよ。僕が一緒だし。で?どう?見渡して見付けたいものは見つかった?」

「どうでしょうか…………まぁ!」


 そこに広がっていたのは夕陽に照らされた王都の光景でした。


 全てがオレンジ色に染められて、沈み行く夕陽が大きくて。見ればわたくしの手もオレンジ色。こんな光景は初めてです!


「凄いです!凄いですわ!なんて綺麗なんでしょう。初めて見ましたわ!」

「そう?良かったね。手すりから乗り出すと危ないよ、ほら、下がって」

「こんなに高いところも初めてですわ!街が全部見えますのね!」

「そうだね」


 城へ続く大きな通りが見えますわ。あそこを馬車で通りましたのね。あんなに大きい通りだったなんて!四角い建物はお店かしら?大きなガラスがキラキラしてますわ。三角屋根は民家かしら?どの家も窓に花が飾ってあってとても綺麗。まあ!民家の屋根はすべてオレンジ色なのですね!


 あら?


 町の中心から少し外れた所に丸い屋根の背の高大きな建物が見えました。


「あれは何かしら?」

「あれは聖堂だよ」

「せい、どう……?」

「うーん、教会のようなものだね」


 街の反対側には見たこともない円形の建物の用なものが見えました。


「では、あれは何かしら?」

「あれは闘技場だよ。騎士達が闘う場所」

「まあ!見て!真っ直ぐな道の真ん中に水の吹き出す池がありますわ」

「…………君の国に噴水はないのかな?」

「ふんすい…………あれが噴水ですの?お話しで読みましたわ!コインを投げ入れると願い事が叶いますのよ!」

「それは貴重な噴水だね」


 見るもの全てが珍しくて。自国とは違う景色に、あれやこれやと質問しましたが、殿下は全てに丁寧に答えて下さいましたわ。


「ずっと見ていられますわね………」

「僕は君の反応の方が興味深いね。ずっと眺めていられそうだ。それで?捜し物は見つかったのかな?」

「あ、そうでしたわ。えっと…………あら?父王様がいませんわ。高いところから見ていますのに。どこに行ってしまったのかしら?父王様も迷子なのかしら?」


 御披露目の広間は何処かしら?


「プッっ…………ふっはっあっはははは!」

「な、何を笑っていますの?」

「君、それ、本気だったの?てっきり言い訳を誤魔化していたのかと思ったのに」

「言い訳も何もわたくしは嘘は言いませんわ」

「ふふふあはははは………本気だったのか!いや、面白いな、君は!あはっふはっはははは……ああ、おかしいな。久々に笑った」

「人を笑うのは失礼ですわ」

「だって、君。ここは屋外。外、だよ。君が父上とはぐれたのはお披露目が行われた大広間、室内だ。室内の高いところから探さなければ見付からないと思うよ」

「あっ!」


 王子殿下が笑った理由がやっとわかりました。


 恥ずかしい!そうですわ。そうです。何故気づかなかったのかしら。無駄なことして迷子になって殿下に案内までさせて。恥ずかしい……。


「ふふ、夕陽よりも真っ赤だよ」

「は、恥ずかしいのです!見ないでくださいませ」

「ここは狭いから見ないようには無理だな」

「うう………意地悪ですわ」

「僕は面白いよ。ところで君の名は?君は何処の誰かな」


 そういえば自己紹介もまだでした。


 慌てて自己紹介してカテーシーすると、「じゃあレティって呼ぶね」と微笑みが返ってきました。


 お兄様以外に綺麗な男の子はいないと思っていましたが、ここにいましたわ。


「僕はね、レティ。未来に何の希望もないんだ。生きることは苦痛で面白くない。世界は灰色に閉ざされていて、僕は何かに興味を持つことがなかった。誰もかも、何もかも面白くなくて、ちょっと人生絶望しかけていたんだけど、ようやく面白いものに出会ったよ」


 楽しそうな笑みはつまらないと嘆くようには見えませんでしたわ。つられてわたくしも笑顔になりました。


「それは素晴らしいですわ。一体何に出会いましたの?」

「君だよ」

「ええっ?わたくし?」


 わたくしに面白要素などありましたかしら?初めての感想ですわ。


 殿下は良いことを思い付いたと、更に目を輝かせました。夕陽に照らされてちょっと眩しすぎますわね。


「そう、君だ。ねぇ、賭けをしないか」

「し、しませんわ。賭けはしてはいけないと教わりました」

「ふむ、そうか。なら、約束しよう」

「約束?」

「それならいいだろう?」

「約束、ええ、約束なら大丈夫ですわ」

「君が成人する十六歳を超えて十七歳になっても婚約者がいなかったら、僕が君をもらってあげる」

「もらう………?」

「結婚してあげると言ってるんだよ」

「ええっ?」

「だから、それまでに頑張って婚約者を探してみて。もちろん君が僕のお気に入りは内緒にしてあげるよ。君は僕に捕まらないように婚約者を探す。僕は君を得る為に秘かに頑張るんだ。君も約束して?」

「約束……?」

「そう、約束」

「わたくしは婚約者を見つけるという約束なのですね?」

「違うよ。見つからなかったら、大人しく僕と結婚するという約束」


 どういう意味かしら。わたくしは面白いから結婚出来ないということ?でもわたくしはまだ五歳ですもの。成人まで十二年もありますわ。婚約者くらいできますわ。


 …………………………………………………。


 …………できますわよね?


 でも。……もし出来なかったとしたら?父王様が困りますわね。これは約束した方が良いかもですわ。


「はい。わかりましたわ。約束いたします」

「良かった。じゃあ戻ろうか。きっと心配しているよ」

「あ、そうですわ。父王様!」

「くっくくくく……あぁ、面白い!最高だな」


 殿下の手取り、大広間まで戻りました。


 心配のあまりおろおろ、うろうろと会場内を彷徨っていた父王様の元に無事送り届けてくれました。殿下は最後にわたくしの甲に口づけを落とし、去って行きました。


「ふふ、牽制はこのくらいかな。期限は十二年か。根回しと土台がいるな………」


 目を向く父王様を宥め、殺人光線を放つ令嬢達から逃れ、無事帰国しました。そして、すぐにヴァンが城に上がりました。


 それから十二年。


 帝国が再び侵攻を開始したとか、周辺諸国を併合していったとか、皇太子が病気で亡くなり殿下が皇太子に指命されたとか、色々な事が起こりましたが、殿下とはあれっきり。互いに連絡を取ることもなく、もちろん会うこともなく。幼い頃の口約束として忘れられていると思っていました。


 ガキィーン!


 剣戟の音に驚いて見れば、帝国の兵士と殿下が剣を交えていました。


 どうやらわたくし目掛けて振り下ろされた剣を防いでいただいたようです!


 え?わたくし、殺されかけたの?


 ヴァンも数人切り伏せ、わたくしを背に帝国兵に剣を向けています!


「お前達、よせっ!」


 殿下が兵士を押し返し、指揮官と思われる男性に剣を向けました。


「兵を退かせろ!」

「聞けませんなぁ。我らは他の方の命により動いておりますゆえ。姫君が逃げ出した時は粛清せよとのこと」

「くそっ、宰相か!早まった命を。ここはまだ王国内だ。たかだか散歩に粛清するのか。言い訳が立たないぞ」

「やれやれ殿下。察しが悪いなんて貴方らしくもない。言い訳とは望まぬ結果につくもの。望んだ結果には必要ありませんな。それにここは国境の森の中。国境線はあやふやなもの。今ここが帝国でないとは言い切れませぬぞ。もとより、貴方もろともここで始末されるのですよ。ふはははは、これでは痴情の縺れと言えますな。騎士と駆け落ちの王女を嫉妬に狂ってもろとも殺害。乱心の殿下を諌めるためやむを得ず殺害。ふむ、いい口実が出来ましたな」

「愚かな真似を……」

「時流は変わるのですよ、殿下。もはや貴方は必要ないのです。殺れ!」


 殿下と指揮官のやり取りに気を取られていた時。僅かに風を感じて振り返ろうとしたその瞬間―――!


「えっ―――――!?」


 ザシュッ!


 背中に強い衝撃があり、立っていられずに崩れるように倒れました。


「殿下ぁ!」

「レティ!」


 咄嗟にヴァンが抱え上げてくれました。


「…………あ……………は…………ぁ………」


 何だか力が入らなくて、言葉になりません。自分では身体を支えられずに、くたりとヴァンに寄りかかります。


 背中がとても熱くて、でも何だか身体が寒くて、何かがこぽこぽと零れ堕ちて行くようで。


 わたくし斬られたのですね。


 ずきずきと痛いのか熱いのかわかりませんが、背中がドキンドキンと脈打っているような気がします。それにとても眠いです。目蓋が閉じてしまいそうです。頑張って目を開いていても、何故かどんどんが周りが暗くなっていきます。


 狭まる視界に胸に落ちるペンダントが映りました。


 月水晶のペンダント。視界に映る夜空には満月が光っています。


 わたくし、死ぬのかしら?


「――――――!!」


 ヴァンが必死に何かを言っていますが聞こえません。辺りはやけに静まり返っています。視界の端に殿下が兵士を斬り倒しているのが見えました。


 最後に見るのが殿下の勇姿なんて素敵ですわ。


 あら?これから死ぬというのに、わたくし冷静ですわね。何故か今までの様々な事が甦りますわ。


 はぁ、大臣達の、城内の皆の言う通りになりましたね。


 父王様やお兄様は泣くかしら。泣きますわね、きっと。政務どころではなくなるかもしれませんわ。


 お母様、ごめんなさい。幸せな結婚は出来ませんでしたわ。


 ああ、お姉様。折角懐剣送っていただいたのに、殺られてしまいました……。


 城の皆。お別れが済んでいたのは正解でしたわ。


「―――――!!」


 ヴァンが何かを叫んでいますが、聞き取れませんわ。目もおかしいのです。周りがぼやけてよく見えません。


 でも、殿下には、会えました。もう一度、と願った通りに。でも、約束は守れませんでした。ふふ、これは殿下も同罪ですもの。仕方ありませんわね。だから、思い残すことは、何も………いえ、一つ、ありましたわ。


 はぁぁ、息苦しい、です、わ。


 月水晶が、神の御許に、運んで下さる、の、なら、………どうか願いを聞き届けて………くださいませ………。


 わたくしの願いは。


 わたくしの、願い、は…………ぁ


 あ、あぁ、………寒い…………


 …………………………………


 …………………


 ………









 ◇◇◇◇◇






 こんにちは!


 わたし、ルーシエラナリィ、三歳。


 レティシアの記憶があるの。んと、生まれ変わったのかな?ふふん!しかも。なんと!ヴァンも一緒なの。私たち双子なのよ。神様が願いを叶えてくれたのかな?


 今度はヴァンと本当の家族になりたい、って。


 ヴァンは最悪だ、と言ってたけど、酷くない?私は嬉しいよ!これで、何があっても切れない絆が出来たもの。


 あ、ヴァンの名前はクリストファーよ。弟なの。私がお姉様よ。


 ここは前とは違った世界みたいなの。魔法があるのよ。手からね、炎とか水とか出るの。


 属性魔法?とか言うんだって!あと固有魔法とか!でね、持っている属性が髪とか瞳の色になるの。


 お父様は空間の固有魔法保持者で風と火の属性なの。だから、空間の銀色と風の白色で白銀色の髪なの。瞳は火の赤色。


 お母様は光の固有魔法保持者で水の属性で、金髪と蒼い瞳よ。持っている属性にも割合の強さがあって、割合の大きい属性が髪色になるんだって。


 クリス(クリストファーのことよ)は水色の髪と赤い瞳よ。風の白と水の蒼が混ざって水色で、瞳は赤だけどキラリと銀が混ざるから火と空間も持っている。四属性は珍しいんだって。クリスは固有魔法持ってないの。


 私は空間の固有魔法と光の固有魔法保持者で髪は金にも銀にも光ってて、瞳は蒼いの。お兄様とおなじなのよ。あ、私達には二人のお兄様と一人のお姉様がいて、上のお兄様は十歳で私と同じ色彩、お姉様は八歳でお母様と同じ色彩、下のお兄様は五歳でお父様と同じ色彩なの。


 私達をすごく可愛がってくれるけど、クリスったらお父様やお兄様が抱っこしようとすれば逃げるし、私を抱えて渡さないのよ?お兄様は大爆笑して私達二人を抱き締めてくれるけど、お父様はちょっと落ち込んでいたよ?可哀想だから空間魔法で転移してお父様に抱っこしてもらうの。初めはびっくりしてたけど、いまでは両手広げて待ってるわ。


 転移魔法は何故か教わらなくても出来たのよ。それが固有魔法の特性らしい。生まれたときから使えるのが固有魔法なんだって。鬱陶しい時のクリスから逃げるのに最適な魔法ね!


 あ、そうそう、私はお母様とお父様に似て綺麗な顔に生まれたのよ。お兄様たちももちろんクリスも皆美形!ヴィスクドールっいう陶器でてきた最高級人形みたいっていわれてるらしいわ。でもそれって誉め言葉なのかな?そのお人形見たことないもの。壊れやすいからお母様の部屋にしかないんだって。まだ見せてもらえないの。お姉様は見たことあるって。今度買ってもらうって言ってた。私はまだ小さいから割って怪我をしたら危ないからだめなんだって。あーあ、残念。


 レティシアの家族も優しくて温かかったけれど、今の家族はそれ以上に愛情に満ちている気がするわ。だって私を抱っこするお父様の顔はこれ以上ないくらい弛みきっていて、『氷の侯爵』の異名が嘘のようよ。


 だから私はレティシアの分も幸せになるって誓うわ。レティシアは短い人生だったし、恋愛も結婚も出来なかったけど、私は一生懸命生きて、恋愛も結婚も、様々な事をちゃんと経験するわ!


 ふんすぅ、と鼻息を荒くして仁王立ちしてみたらクリスに呆れられた。何よぉ。


「心配しなくても、ルーシェは僕が守るし、幸せにするから大丈夫だよ?」

「クリスの幸せは私が見つけるわね!」

「それはいらない」

「何よぉ!」


 ふんすぅ、ともう一度鼻息を荒くしてたら侍女に捕まった!


「はいはい、お嬢様。そのままじっとしていてくださいね」


 今はお着替えの真っ最中だった。クリスと双子コーデなんだって。でも双子でも私はお母様似のふんわり系だし、クリスはお父様似のキリッと系。色味も違うし双子っぽくないと思うけど、侍女達はこれがいいんだって。


 今日はお隣のお家のお父様のご友人の公爵様にご挨拶に行くの。


 一度だけ遠くから見たことがある。とっても柔和で優しげな方だった。しかめっ面のお父様とは対照的な方よ。


 お母様とお父様の準備が整い、お隣だけど馬車に乗った。貴族の家って無駄に広いものね。


 ぱっかぱっかのんびりと10分くらい乗ってお隣の公爵邸に着いたよ。


 玄関には執事が待っていて、そのまま庭園に案内された。お母様はお父様に、私はクリスにエスコートされてバラが綺麗な小道を進んだ。


 庭園の大きなガゼボに公爵夫妻が笑顔で迎えてくれたよ。


 公爵様は少し長めの赤い髪を緩やかに背中で纏めていて、灰色の瞳は優しそう。公爵夫人は黄緑色の緩やかな巻毛をハーフアップにしていて、青い瞳は嬉しそうに微笑んでいた。


 わぁ!素敵な方達!


 ちょっと緊張しながら初めましてのカーテシーをして、勧められるままに着席した。もちろん、メイドさんたちに手伝ってもらったよ。公爵邸のメイドさん達は皆にこやかで優しい。


 円形のテーブルにお父様、お母様、私、クリスと座り、向かいに公爵夫妻が座ったけれど、席が一つ余ってる。予備かな?


「ごめんなさいね。まだ息子が来てなくて。また図書室に籠っているのだわ。そこのあなた。あの子を呼んできて?」


 公爵夫人がメイドに指示を出した。


 そっかぁ。息子の席だったのね!


 大人しく待っていると公爵邸の大きな窓が開き、執事やらメイドに連れられて私くらいの薄い紫色の髪の男の子が出てきた。庭園までの短い階段の上からこちらを見た瞬間。心臓がどくん、と強く鳴った。


 刺すような鋭い眼光。凍てつくような蒼い双眸。見下ろす顔に浮かぶ酷薄した笑み。その色味は記憶と違うのに、懐かしくて。ああ、また会えたのだわ、と涙が一筋零れた。


 あ、れ?なんで涙?


 気付かれないように慌てて拭うと隣のクリスを見た。目を大きく見開いて驚いてる。


 クリスも何か感じたのかな?


 切ないような懐かしいような。不思議な感じ。


 執事に連れられて来た男の子はお父様に胸に手を当て軽く会釈をして公爵様に頭を下げた。


「父上、母上。遅くなって申し訳ありません」

「また図書室か?」

「はい。先日習った魔法理論が面白くて」

「ほどほどにしなさい。今日は約束があると話していただろう?」

「申し訳ありません。熱中し過ぎました。以後気を付けます」

「うむ。エバンズ、待たせてすまない。息子のレイモンドだ。三歳になる」

「お初にお目にかかります。レイモンドです。侯爵様」


 渋面のお父様は渋々私達を紹介した。


「……エバンズだ。妻のユリアーシアと三男のクリストファーと次女のルーシエラナリィ。双子で三歳だ」


 私達はそれぞれちょこんと会釈で答えた。


「利発そうな息子さんね。もう魔法を?」


 笑顔のお母様の問いかけに公爵夫人がコロコロと笑いながら答える。


「そうなの。何が楽しいのか1日中図書室で魔道書を眺めてるのよ。まだ読めないのに、よ?」

「まぁ!それはすごいわ。将来有望ね。クリスは剣ばかりで、魔法に興味がないのよ。折角四属性に生まれたのに」

「クリス君は騎士志望かしら?レイと良いコンビになりそうね」


 何故かクリスとレイモンド様は嫌そうな顔をした。


「では父上、母上。あちらのガゼボで彼らとお話しをしてきてもよろしいですか」

「うむ。子供だけの話もあるだろう。茶席を用意させよう」

「侯爵様、お子様達をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「……クリスだけなら――」

「エバンズ?意地悪はダメよ。レイモンド様、クリスとルーシェをよろしくお願いしますわ」


 レイモンド様は立ち上がり、胸に手を当て深く会釈した。


「感謝いたします」


 この子、レイモンド様は本当に私達と同じ三歳なの?年誤魔化してない?


 メイドさんたちに手伝ってもらって椅子から降り、クリスのエスコートで少し離れたガゼボに来た。


 ここも薔薇をはじめとした美しい花で飾られていた。中央のテーブルには白いクロスの上に美味しそうなお菓子とジュースが乗っていて、私を待っていたの!


 またもやメイドさんたちに手伝ってもらって椅子に座り、レイモンド様が人払いするのを横目で見ながら、お菓子の香りを堪能する。


 バターの香りがおいでと誘っている!


 もちろん、がっついてはいけない。お腹が空いていても、良い香りがしていても、食べてーと誘われたとしても我慢よ。そこは侯爵令嬢として、優雅に。優雅、に。優雅に?


 まだ三歳だし、良いのでは?


 誘惑に負けてフラぁっと手がお菓子に向かって伸びそうになった時。


「やぁ、また会ったね」


 レイモンド様が爽やかに言いはなった。


 また、とは?


 はて?と首を傾げた私のとなりでクリスがレイモンド様を睨み付けた。


「それにしても双子とはね。レティは護衛君と仲良すぎないか?」

「なっ……?!」


 な、な、な、なんて言った―――?!?!


「やっぱりお前か!」


 ク、クリス?そんな苦々しそうに言い放たなくても。って、そうじゃない。


 え?え?まさか…?!


「で、で、殿下ぁ!!!!!」

「あ、そんな大声出さないで。一応風の結界を張ったから防音になってるけれど聴こえてしまうよ」


 慌てて両手で口を押さえた。


 目だけでキョロキョロ見渡すと誰もこちらには向いていない。メイドさん達は離れた所で静かに佇んでいる。


 よ、良かったあぁ。


「ルーシェ、うるさい」

「ご、ごめんってば」

「全く元気良すぎ。一応ご令嬢なんだからさぁ、もう少し大人しくしてられないの?」

「一応って何よ、一応って。私は立派なご令嬢よ!」

「立派なご令嬢は自分でそう言わない」

「ぐぐぐっ………」

「ぐぐぐとも言わない。ほらうるさい令嬢モドキじゃないか」

「うぐぐ…………言いたい放題言ってぇ―――」

「ククっ…ははは!」


 クリスとの言い合いに夢中になっていたらレイモンド様に笑われてしまった。


 あー、レイモンド様の存在忘れてた。


 えっと、何話してたっけ?


「君たち面白いな」

「うるさい。面白いで片付けるな!」

「クリス、ウザい。黙ってて」

「う、ウザっ?!」


 ショックのあまり固まったクリスなんか放っておいて。


「えーと、殿下?でいいのかな?お久しぶりです?」

「ハハハ何で疑問系?」

「殿下も生まれ変わったんですね」

「うん。君が着けてた月水晶がたぶん僕たちを繋いだんだ」

「あの水晶が?でもあれは最後の願いを叶えると聞きました。私は願う前に意識がなくなったはずです」

「あの日は満月で君の水晶は月の光を浴びていた。願わなくても強い想いに反応したんじゃないかな?」

「強い、想い……」


 あの時思ったのは、家族としてヴァンの幸せを奪ってしまったことへの後悔と、殿下との約束を果たせなかったことへの悔恨かな?


 え?まさか、それが?いやいやいやいや!そんなことで生まれ変わる?違う世界に?皆一緒で?


 もっと、違う。何かを願った?確かにヴァンとは家族になりたいと思ったけど。どうして殿下まで?


「疑問符いっぱいだよ?」


 レイモンド様の目が面白そうに輝いた。


「レイモンド様は楽しそうですね」

「うん。楽しいよ。この世界は面白いことで満ちているからね」

「魔法とか?」

「そう!興味が尽きないよ」

「この結界もレイモンド様が?」

「うん。僕の固有魔法。だって僕たち年相応ではないだろう」


 まあ、確かに。


「そっかぁ。ふふ、良かったぁ」

「ルーシエラナリィ嬢?」

「じゃあ、人生に絶望はしてないのね。前は、殿下は面白いことがないって言ってたから、その後心から笑えることがあったかわからないし」

「……うん。ありがとう。そうだ。君たちに会えたら言おうと思ってたんだ」


 ???なんだろう。


「すまなかった。謝って済むことではないけれど、謝罪と説明をさせてくれ」


 頭を下げるレイモンド様にクリスが刺々しい視線を向けた。


「今さらだ。全てあの夜に終わった」

「うん。今さらだ。でもレティには知る権利がある」


 二人はじっと睨み合ったけどクリスが先に目を逸らした。


「レティ、本当にごめん。でも僕は君と結婚したかった。妻に迎える為に準備していたんだ」


 レイモンド様はジュースを一口飲み、あの夜に纏わる全てを語ってくれた。


「僕も初めから人生に絶望していたわけじゃない。まだ小さい頃母の宮で過ごしていた時は沢山笑っていた。訪ねてくる父と兄とも良好で、穏やかに楽しい日々だった。だが、三歳になり、王子宮に移ると状況は一変した。現実を突き付けられたよ」

「現実?」

「うん。帝室の力は弱まっていて実権は宰相や大臣達が握っていたことだよ。だから王子教育の教師を始め、王子宮の家令も補佐官もメイドに護衛にいたるまで僕と兄を競わせどちらがより御しやすいか探っていたんだ。父は宰相に従順ではなかったから、早く代替わりをさせたかったようだ。…………兄はとても優秀な方だった。十歳になれば皇太子として立つに相応しい方だ。僕はその補佐をする心づもりだったけど、周りの目は違った。優秀過ぎる兄では不適格だったんだ。彼等の都合ではね」

「酷い……」

「全くね。ある時兄は流行り病に掛かかり病気がちになって床に伏す日が多くなった。彼らは健康面でも不適格として、ますます僕を擁立しようと企み始めたんだ。人の悪意ある視線がねっとりと気持ち悪くて、僕の世界からだんだん色が消えていった。彼等の望んでいたのは優秀な次代の王ではなく、意思のない空っぽの器だったから。それでも兄は心が強く、優秀だったから彼等の悪意ある行動から僕を守ってくれた」

「悪意ある行動って何か怪我でも?」


 意地悪されたのかな?突き飛ばされたり、とか?


 いや、とレイモンド様は首を降った。


「一応法律上不敬罪があるから直接的な事はされなかったよ。ただ中身のない王子教育をされたり、栄養の片寄った食事をさせて太らせようとしたりかな?」

「中身のない教育って何さ」

「そうだなぁ。歴史は歴代皇帝の名前を暗記することで、地理は帝国内の観光名所を覚えるだけ。国語は詩の暗唱と詩作。ダンスの練習や楽器演奏は沢山の時間を使ったな」

「それ騎士学校でももう少しまともな授業するぞ」

「そう、だね。騎士の方が良い教育を受けていたと思う。僕は政治に関わる一切の教育を受けなかった。だから兄が内密に様々な事を教えてくれた。歴史も法律も外国語も兄に教わった。また兄は度を過ぎた行いの者は王子宮から追放してくれたんだ。だから僕も兄を守ろうと、時折迷子を装って入り込む高位貴族の令嬢達を排除していった。あのお披露目の頃には、世界はすっかり色を失くしたし、未来に対する希望も目標もなくしていた。毎日が苦痛で面白くないそんな日々だった。あのお披露目も本来は兄の皇太子就任のお披露目だった。だけど大臣達は僕もお披露目させた。周辺国に僕を認知させ、兄を排除しようとしたんだ。反吐が出そうだった。兄は全てを飲み込んで優しく微笑んでいたけど、あの時僕は許せなかったよ。大臣も官僚も、何よりそれを押しきられる帝室の弱さも!」

「レイモンド様……」


 苦々しげに語るレイモンドは視線を私に向けると優しく微笑んだ。


「そんなときだ。君に会ったのは。くだらない令嬢たちの妄言に嫌気がさして、部屋に戻ろうとしたら、あっちにこっちにとうろうろしている令嬢を見つけた。またか、と思ったよ。髪の毛入りのクッキーや唾液の入った香水なんかをこっそり部屋に置く者もいたからね」

「なんだよそれ。気持ち悪いな」

「あ、お姉様から聞いたことがあるわ。それおまじないよ。自分の体の一部を食べさせたり身に付けさせるとだんだん自分を好きになってくれるんだって。ただしそれがバレたら効果なしだって」

「女子って怖っ」

「全くだね。実害しかないよ。騎士団で焼却処分して正解だったな」

「し、焼却処分…………」

「確かに正解だな。基本危ない物は燃やすに限る」


 うんうんと頷くクリスにたらりと冷や汗が垂れた。


 ははは、クリスにバレたら困るものはタンスの奥に締まっておこうっと。あとおまじないの本も。しょ、焼却処分怖い……。


「え、えーと、それから?」

「警戒した僕は排除しなきゃと君に声をかけた。振り返った君は目に涙を浮かべて迷子になったと言った。ああ、この子も権力に群がる蛾だなと思った。迷子の言い訳は令嬢の常套手段だ。信じる訳がない。だけど君は鐘楼へ登る階段を探していると言った。はぐれた父親を探すために高いところへ登るのだと。正直何を言っているかわからなかった。でも面白いと思った。言い訳にしてもこのパターンは始めてだ。面白いと思った自分にも驚いた。少しからかってやろう、それで正体を暴いてやろうと、案内役をかったんだ」

「―――――――――――ルーシェ?」

「う、うん…………」


 クリスの視線がとても冷たい。


 わぁぁぁ!改めて聴くと恥ずかしいぃよぉ!


「馬鹿すぎじゃない?なんではぐれた陛下を探すのに鐘楼なの?まずは騎士に相談でしょ?」

「そ、相談したもん。高いところへ行く方法」

「相談の種類が違うでしょ!」

「だってお兄様もお姉様もはぐれたら高いところから探しなさいって。私も父王様も目立たず埋没するからって」

「あんなシスコンの話を信じちゃ駄目!」

「いや、でも……」

「動く前に先ずは相談!いいね?!」

「う、うぇ……?だって、私はレティシアじゃないし……」

「返事は?」

「………う、…………はぁい」


 渋々返事をすると、クリスはよろしいと澄ました顔でジュースを飲んだ。なんとなく釈然としなくてクッキーを口に放り込んだ。


 サク、クリスの馬鹿、サク、クリスの馬鹿、サク、クリスの馬鹿、サク、サク、サクサク。


 口の中でホロホロと崩れ無くなっていく。ゴックンと飲み込むと優しい甘さが残った。


 はぁぁぁ、美味しい。癒されるわぁ。


 ほぅと頬を押さえて前を向けば、レイモンド様がにっこり笑っていた。


「やっぱり君たちは面白いな」

「だから面白いで纏めるな」


 クリスの睨みにもレイモンド様はにこにこしている。本当に嬉しそう。


「ルーシエラナリィ嬢、このケーキも美味しいよ。どうぞ」


 勧められたケーキは薔薇の花びらの散ったピンク色のケーキだった。断面は三層でスポンジの間のクリームにはイチゴやモモ、キウイフルーツが入っている。


「!!!!!」


 一口食べたら口のなかにバラ園が広がった。優しい薔薇の香りとクリームの甘さ、フルーツの酸味。今まで食べたことのない素晴らしい味!


「美味しい!」


 ちょっと『優雅さ』に散歩に出てもらい、『侯爵令嬢』の看板を裏返しにして、ペロリと数口で食べきった。


 はわぁ………美味しかったぁ。


 余韻に浸っていたら隣から、はぁ………、と深いため息が聞こえた。クリス、なんでそんな呆れ顔なの?


「今度は何処に落としてきたの?『侯爵令嬢』」

「落としてないよ。裏返しただけ」

「それ、豪食令嬢なんじゃない?」

「あ、それうまいね」

「開き直るんじゃない!」

「あはははは」


 クリスといつもの言い合いをしてたら、レイモンド様がクスクス笑い出した。


「そうやって君が笑わせてくれたから、僕の世界に色がついていったんだ。警戒して目的地とは逆の西の鐘楼へ連れて行ったときも、君は全く気にせず夕日に目を輝かせて、あれは何?これは何?と指差して僕の事など眼中になかった。君の質問に答えているうちに気が付けば世界は鮮やかに色を取り戻していた。君のお陰だよ。ありがとう」

「え?何もしてないけど?」

「いいんだ。僕が勝手に感謝しているだけだから。君とずっと一緒にいたくて、あの約束をした。君も約束してくれて嬉しかった。絶対手に入れようと心に誓った。父や兄に報告したらとても喜んでくれて、協力してくれたよ。だけど帝室の力は弱い。今のままでは叶わない。だからまず権力を奮っていた宰相を変えようとしたんだ。徹底的に調べたら兄に毒を盛っていたことがわかった。兄の病弱は作られたものだった。優秀過ぎる兄を廃し、そこそこの僕を擁立して傀儡政権にする計画のようだった。父の暗殺計画もでてきた。そこで証拠を揃えて糾弾し、更迭した。その調査に協力してくれた実直で派閥も中立の男を新宰相にしたんだ。そのあとは発言権を高めるために経済的に困窮していた国を併合する経済戦略をたて、実行、併合を繰り返すことで帝室の力を強めていった」

「待った。帝国は武力で侵略していったと聞いたぞ」

「それは違う。三代前ならともかく、あの頃の帝国に侵略するほどの強さはない」

「それにしたって経済だけで併合できるか?」

「数年前から徐々に干ばつが起こり飢饉が始まっていたんだ。これは異常気候によるものだ。南の国々は砂漠化が進み多くの餓死者をだし始めていた。北もそうだ。冷害によって植物が枯れ此方も餓死者をだしていた。君達の国がある西はそうでもないが東の国も困窮が始まっていたんだ。何せ南の農業大国の畑が全滅したから。帝国は西よりに土地が広がっていたために干ばつの影響が少ない。そこで食料支援と経済政策を餌に併合していったんだ。軍の話はあれかな?結構各国で犯罪が横行してたから、治安維持のために各新領土に一個中隊を置いていったからかな」

「一個中隊って300人くらいだろ?それを各元国々にって………」


 クリスは呆れ顔。そうよね。レティシアの国も騎士団は200人いたかなぁ、って規模だったもの。主な仕事は逃げ出した家畜の保護と土木工事だったし。


 いつだったか騎士団長の腰に剣と金槌が装備されていて、不思議に思ったから聞いてみたら、『いつでも住民の家屋の修繕が出来るように金槌と釘は標準装備です』と胸を張って言っていたよ。


「はは、強くはないけど軍の人数はやたらと多かったから」

「それで誤解が広まり、弱小国の恐怖を煽ったのね」


 つい遠い目をしてしまう。


「だけどまた兄の命が狙われはじめたんだ」

「ええ?!また?でも、今度は誰が………」

「やっぱり宰相なんじゃないか?だって帝室が力を付けたら宰相の権力がなくなるだろう?」

「帝国の宰相って役職は悪事を働きたくなるの?王国の宰相はいつも腰が痛い肩が痛い、持病の老眼がぁっ、て辞めたがってたけど」

「あれは特殊。うちの宰相職不人気だったからね。一度就いたら辞められないのさ」

「ははは、楽しそうな王宮だね。羨ましいよ。理由は違うけど護衛君があってる。犯人は宰相だった」

「…………その護衛君てやめてくれない?僕はクリストファーだ」

「わかった。クリスだね」

「愛称呼びは許可してないけど?」

「クリスはケチね。私のことはルーシェって呼んでね」

「ありがとう、ルーシェ。僕はレイでいいよ」

「うん。レイ様ね」

「様もいらないよ」

「駄目。絶対様をつけなよ。少しは淑女らしくしないと叱られるよ」

「そうね、うーんと、三人だけの時だけレイって呼んでいい?」

「わかった。それでいいよ」

「じゃあ、レイ。宰相の目的はなんなの?」

「僕にね、弟が生まれたんだ。その二年後に宰相の孫娘が生まれた。彼は宰相としての権力よりももっと大きいものを望んだ。帝室を乗っ取ろうと考えていたようだよ」


 クリスはじろりとレイを睨んだ。


「そんな危ないところに、殿下を迎え入れるつもりだったの?」

「……もちろん今更だが、僕は皇太子を退き、継承権を放棄するつもりだった。公式では兄は死んだことになっているが、生きてる。とうに放棄して辺境の領主になった。弟は僕よりも優秀だ。宰相が外戚になったとしても大丈夫だ。父もまだ元気だったし」

「だったら、先に放棄してから」

「それだとレティは娶れない」

「は?」

「レティは一国の王女だ。継承権を放棄したただの貴族、もしくは平民では話にならない。だからレティと結婚した半年後に継承権を放棄して王領の風光明媚な土地を拝領しようと思っていたんだ。レティはそういう場所好きだろう?」


 把握されてた!


 にっこり笑うレイに少し照れてしまう。


「レティには早く来て欲しかった。僕の宮は安全だったから。宰相の手が伸びる前に保護したかった。だけど結果はこの通り。レティが死んで護衛君が死に、そして僕も殺された」

「ええ?!あの時二人とも?私だけじゃないの?」


 そう言えばあの夜のことはクリスと話したことなかった。なんとなくだけど話題にしてはいけない気がしてた。


「うん。残念ながら僕の剣の腕は兵士に劣る。とてもじゃないが、あの人数は相手にできない」

「クリスも?」

「今の僕はともかくヴァンとしてはそこそこだったと思うよ。だけど目の前で主の殿下が死んで隙が出来た所を狙われた」


 肩を竦めるクリスにそっかぁと思う。


 確かにずっと呼び続けてくれてた気がする。うん。でも、まぁ。


「またこうして会えて良かったね」


 クリスとレイに手を伸ばしてそれぞれの手をしっかり握る。


「今度はちゃんと生きようよ。仲良くね」

「あ!こらルーシェ!レイと手を離せ!」

「どうしてよ」

「淑女は身内以外の男と触れ合わない!」

「あ、そうだったわね」


 パッと手を離したら―――――


「!!」


 すかさずレイに握られた。俯いているから表情はわからない。でも微かに震えている気もした。


 えーと?クリスが凄い顔になってるから離して欲しいかも。


「レイ?」

「レティは……怒ってないの?」

「怒る?何に?」

「僕に。その………君を死なせた」


 俯くレイがなんだか痛々しくて、責める気持ちは不思議と湧かなかった。まぁ、もともとそんな気持ちは持ってないしね!


 ただずっとその事を抱えていたのかと思うと申し訳ない気持ちになる。私にとってあの夜はもう一度殿下に会えた喜びと満月だったくらいしか強く残っていないもん。


「…………まぁ確かに痛かったし寒かったし悲しかったけど、成長した殿下を見れたし、月が綺麗だったから怒ってないわね」


 くわっとクリスの凄い顔が私を見た。


「月関係ある?何だよそれ。成長した姿見れたら殺されても良いわけ?」

「だって城中の皆に死ぬかもって言われたのよ。多少は覚悟するってば。最後のお別れだと白い花も手向けられたし」


 はっきり言ってあれは生前葬よ!


「ごめん。僕を恨んでもいいよ」

「だからレイは悪くないでしょ?殿下だって色々と考えてくれたみたいだし、結果としてこうなったけど、殿下が望んだことじゃない。今はこうして生まれ変わって私達は生きてる。恨みなんてないわ」

「………僕を………許してくれるの?」

「許すも何もないけど。だってレイは殿下じゃないし、クリスもヴァンじゃないし、私もレティシアじゃない。私達は今日初めて会ったお隣さんよ?罰することは………とりあえず、これは該当する?」


 握られた手を持ち上げて見た。


 クリスはうんうんと頷き、私刑だな、と呟いてる。物騒なことは止めてよぉ。


 レイは慌てて手を離して、前髪をくしゃりと掴んだ。


「……………ありがとう…………やっぱり君は僕を救ってくれるね………」


 レイが泣いてるような気がして、私とクリスは顔を見合わせた。


「レイ、大丈夫?」

「いや、僕は許してないよ」


 クリスと同時に言ってまた顔を見合わせた。


「クリス酷い!そんな言い方ないでしょ?」

「僕だって被害者だ」

「もともとは私の言葉を信じずに連れ出したのが悪いじゃない」

「あんなの信じられるわけないだろ?」

「クリスのわからず屋!」

「ルーシェの考えなし!」


 いつもの言い合いが始まった。

 まったくクリスは頑固だわ! 


 ふふ、と笑いを溢して、レイは少し赤くなった目で私達を見た。


「うん。いいよ。許さなくて。君の許しはいらないし。君は護衛だったのにレティを守れなかったんだから」

「!」


 それは正論でクリスは悔しそうに顔をしかめた。

 ちょっと可哀想に思って、よしよしと頭を撫でてあげたら、すかさずクリスにギュっと抱き締められた。


 椅子から落ちるよっ!離して!


「君達の仲の良さが妬けるな」

「仲良くないわ」

「お前は仲間に入れない」


 クスッと笑うとレイは席を立ち、テーブルを回って私の前に跪いた。


「僕は約束を果たしたい」


 レイは風の力で真っ赤な薔薇を一本手折り、風で丁寧に刺を取った。しゅるりと襟から赤いリボンタイを外して薔薇の茎に巻き結ぶと、スッと差し出された。


「ルーシエラナリィ嬢。僕と結婚してくれませんか」

「なっ!!」

「…………………」


 クリスが驚いて私を離した。なんか興奮して喚いてる。罵詈雑言。意外と語彙が豊富ね、とか。メイド(かな?)がキャーキャー叫んでいる。風の防音なのに外の声が聞こえるなんて凄い声量、とかどうでもいいことが浮かんだ。


 何故かな?求婚されたのに凪いだように静かだ。


 見つめ合うレイも私もそこに熱はなかった。


 心の奥の奥でとくんと鳴った。


 奥の奥で嬉しさが込み上げる。やっと叶った喜びか、待ちわびた歓喜か。


 でも。


 それは。


 ―――――――私の感情じゃない。


「…………殿下。約束を覚えてくれて、約束を果たそうとしてくれてありがとうございます。でも、それは受け取れません。お断りいたします」


 私は静かにレイを見つめ続けた。


「殿下と約束をしたのはレティシアです。私ではない。レティシアが約束をしたのは殿下です。貴方じゃない」


 少しはっとするレイに私はにっこり笑った。


「私は決めてるの。レティシアの分まで色々と経験するって。恋愛や結婚やその他の様々な事を精一杯やろうって。だから、約束とか政略結婚とかにはしばられない。過去に囚われずに未来を目指して良いのよ。いつだって未来は目の前に広がってる。未来は自由に選べるの。レイももう自由でいいのよ」


 レイは差し出していた手を下げ、俯いた。


「ああ……………そう、だね。僕が間違ってた。やっぱり君は凄いな。いつだって僕の視野を広げてくれる。未来という可能性を示してくれるんだ…………」


 レイはスッキリした顔で静かに立ち上がり、指をくるくる回して色取り取りの花を集めると薔薇からリボンタイを外してまとめ直した。そして私に近づきそっと差し出した。


「では、これはお近づきの印にどうぞ」


 この国では花を渡す事に意味がある。求愛の薔薇から友情の花束。主に異性間や、女性同士でやり取りをする。特に貴族はこの意味を勘違いしないように幼いときから勉強する。色取り取りの花束は『友愛』。


「うん。そうね、お友達になりましょう」


 花束を受け取ろうとしたら後ろからクリスに抱き締められて阻まれた。


 ちょっとぉ!


「僕はならない」


 顔は見れないけどクリスが睨んでいる気がする。


「クリスには求めてないよ」


 レイの視線が私に移り、微笑んだ。


「ルーシェ。恋愛なら、気持ちがあれば受けてくれるだろう?」

「え?」

「お、おまっ、何言って」

「覚悟して。全力で君を口説こう」

「「はぁ?!」」


 クリスと声が重なった。


「ルーシェ。僕と結婚すればこの菓子が毎日食べ放題だよ」


 毎日………。


 ついふらふらぁっと前に出そうになる。


「食べ物で釣るなよ!」


 おっと危ない。危うく釣られそうになった。


「ルーシェ、本当に豪食令嬢って呼ぶよっ」

「ごめんなさい」


 ここは素直に謝っておく。


「仕方ない」


 近づいたレイに花束をしっかり持たされ、ぱぱっとクリスの手から救い出された。


 って顔が近いぃ!


 耳元で囁かれる。


「僕はレティを好きだったよ。初恋だった。そしてルーシェ、君にも僕は恋してる。やっぱり初恋なんだ。好きだよ」


 顔を離すレイは少し照れていて、おそらく私は真っ赤だ。


 くぅ~!!!


 言葉にならない。


 とりあえず。


 クリスの背後に転移した。


 クリスの服をしっかり掴みチラリとレイを盗み見る。


 きょとんとした顔のレイにクリスがふふふん、と鼻で嗤った。


「ルーシェはすぐ転移で逃げるよ。残念だったな」

「ルーシェの固有魔法か!」

「もう諦めろよ」

「いや、逆だよ」

「何?!」

「燃えるね。どう捕まえようか楽しみだ」

「お前性格悪いだろう?!」

「口まで悪い君に言われたくないな」

「なんだとぉ!」


 口喧嘩が始まった。うん、放っておこう。


 ちらりと手元の花束を見た。


 初めて貰った友愛の花束。ちょっと嬉しい。家族から貰う『親愛』の花束とは違う。可愛く纏められて――――――え?


「―――――!!!」


 言葉にならない叫びが衝動的に出る。


 クリスの背中に隠れて花束に顔を埋めた。


 何これ、何これ、何よこれー!


 色取り取りの花の中に隠れるように赤薔薇を見つけた。その数、十本。友愛の花束に薔薇が含まれると色と本数で意味が変わる。赤は恋愛の色。


 三本の薔薇は『お友達からはじめましょう』。五本の薔薇は『これから口説きます』では。十本の薔薇は?


『あなた以外に恋いはしない』


 または。


『あなただけを想い続ける』


 ―――――熱烈な告白だった。


 どうしよう。顔が見れない。初めてだもの。嬉しいけど恥ずかしい。


 そっと胸を押さえてみる。


 ドキドキしてる。顔、赤いかな。


 でも少し違う気もする。ドキドキしてるのは…………私?それともレティシア?


 私の中の奥の奥で強い感情が沸き上がる。すごく嬉しくて、ちょっぴり恥ずかしくて、そして少しだけ寂しくて悲しい想い。


 ――――――あぁ、そっかぁ。そうだったのね。


 レティシアは殿下が好きだったのね。


 最後の願いは、ヴァンのことと、初恋の殿下にまた会いたいってことなのね。だから、また会えたって涙が出たのね。


 ちゃんと恋をしてたのね。成就してて、良かったね、レティシア。殿下もレティシアを好きだったって。


 ―――――――ありがとうございますわ。


 ああ、うん。


 私の奥の奥でレティシアが小さくなっていく。レティシアも私を構成している一部。決して消えることはない。でもその感情が表に出ることはたぶんないと思う。レティシアの最後の願い、心残りは全て叶ったのだから。きっとこのまま深い眠りにつく。


 おやすみ、レティシア。


 強い感情は収まり、私は平常心を取り戻していた。


 うん。やっぱりさっきの動揺は私じゃなかった。


 手元の花束をみれば照れくさいようなムズムズした恥ずかしさが込み上げる。


 うん。これが私。嬉しいし、恥ずかしいけど、まだ恋じゃない。…………と思う。


 よし。もう大丈夫。


 くるっと向けば、まだ二人は言い合いをしていた。


「ルーシェもレティシア殿下も美形家族に囲まれて育ったから顔では靡かないからね」

「なるほどね。貴重な情報ありがとう」

「そういうことじゃない!」

「そんなに喚いたら喉が渇くだろう?ジュースをどうぞ?」

「ふざけるなっ」


 あ、喧嘩どころか相手にされてなかった!


「クリス、落ち着いて」

「僕はルーシェの為に―――」

「うん。ありがとう。クリス、大好きよ」

「!ルーシェ!!!」


 ギュッと抱きつくクリスをしっかり抱き止めて、レイに笑いかけた。


「レイ。お花をありがとう。お友達になれて嬉しいわ」

「うん。僕もだ」


 離れたガゼボでこちらに来ようとするお父様を光の結界で止めてるお母様が見えた。


「そろそ戻らないとダメかも」

「もう?」

「限界だと思う」


 私の視線を辿って、レイは小さく笑った。


「確かに。…………僕は殴られたりする?」

「どうかなぁ?お母様が止めるとは思うけど」

「こういうとき空間魔法があれば便利だよね」

「ふふ、お父様も空間属性だから追い掛けて来ると思うわ」

「それは、参ったな」

「…………ねぇ、殿(・)下(・)。一つだけ伝言があるよ」

「…………何かな?」


 じっとレイを見つめた後、クリスを離してレイに近づいた。耳元で囁く。


「レティシアも殿下を好きだったって。初恋だったって」


 そのままクリスの手を掴んで駆け出す。


 お父様の元へ着いたのとお母様の結界が割れたのが同時で、そのままお父様に抱き締められたから。その時レイがどんな顔をしてたか知らない。だけど公爵様のもとに、執事やメイドたちによってベットへ連れていかれたと報告があった。熱が出たらしい。


 お大事にと、私達は公爵邸を後にした。


 それから三日経った。


 レイの熱は翌日には下がったらしく、毎日友愛の花束が届く。薔薇の数は十本。


 お母様とお姉様はきゃあきゃあ騒ぎ、お兄様達は指をぽきぽき鳴らしながらレイに会える日を楽しみにしているみたい。


 クリスはお父様から水と風の魔法を教えてもらい、複合魔法で花束を凍らせてる。はっきり言って執念が怖い。


 私は今日もこっそりおまじないをする。


 クリスが幸せになれる出逢いを求めて。


 バレたら焼却処分されるから内緒にね。


 レイのことはまだわからない。好きだけど友達なのかそれ以上なのか。でも私はまだ三歳。人生はこれからなのだ。


 沢山の人と出逢い、沢山の気持ちを経験して、沢山の事を知ろう。未来への道は一つじゃない。目の前に広がる全てが未来へと続いているのだから。


「お嬢様。レイモンド様がいらっしゃいました」

「はぁい」


 ずゅっど~ん!!!


 庭から爆音が響いた。


「クリス様やお兄様方に追いかけられております」

「はは、はぁ」


 もう!何やってるのよぉ。


「庭が駄目になるじゃない」

「庭師の翁が泣きますね」

「止めた方が良いかな?」

「奥様とお姉様が向かわれましたので大丈夫かと」

「それならお茶の準備して待ってようかな」

「本日はフルーツタルトだそうですよ」

「やったー!」

「…………………ぼそり(やはりお嬢様は恋愛よりもお菓子ですね)」

「ん?何か言った?」

「いえ、何も」

「そう?あ、レイモンド様!いらっしゃい!」


 私は、ルーシエラナリィ、三歳。


 これは私の未来へと繋がる私だけの物語り。




                    END



 


















《後日談》

ルーシェ「あれ?猫かな?おいでー」

クリス「ね、猫!?やめろ!ルーシェ!呼ぶな!」

レイモンド「おや?クリスは猫が嫌いなのかい?」

クリス「そんなことはない!」

ルーシェ「前にね、追いかけられて噛まれたの」

レイモンド「ふぅん」



ルーシェ「あ、可愛い。子猫だ」

レイモンド「虫除けに飼いだしたんだ」

ルーシェ「猫って虫除けになるの?」

レイモンド「そ、特定の虫にね」


クリス「くそ、近づけない!」


レイモンド「いつでも猫に会いに来てよ」

ルーシェ「うん!ありがとう!猫大好きなの」


クリス「くぅ〰️!!!」


レイモンドの作戦勝ちでした。

弱みを見せたらダメですね。


この三人のその後は、別のお話に登場する予定です。


読んでくださり、ありがとうございました!



新しく連載を初めました。


『大賢者の退屈な日々』

https://ncode.syosetu.com/n2310ie/


もしよろしければ読んで下さい。



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