ショタコン拗らせ女子高生は、転校してきた幼馴染から目が離せません
朝、私が教室の扉を開くと、玉のように飛んでくる1人の女の子がいた。
「おっはよー! みっちゃん! ねぇ!? 知ってる!? 今日転校生が来るみたいよ! し・か・も・男子という事がわかっているのだーー!! んふふ、ワクワクするねぇ!!」
親友の中村ユリが度がすぎるほど元気いっぱいに肩に腕を絡め絡んでくる。いつもの光景だが今日は一段とウザい。
「んー私は興味ないなぁ……」
ユリの腕を軽くあしらい、自分の席に向かう。
「むー、みっちゃんは学生生活を楽しもうとする気概はあるの!? 勉強や部活動ばっかじゃ、せっかくの青春が灰色だよ!? ねぇ、もっとラブコメみたいな事しようよぉ〜」
「あーもー! 暑苦しいから離れなさい!! 私はそういうのはいいの!」
「いだだだだだだ!! ごふぇん! みっひゃんギフ! ギフゥ!!」
暑苦しく私に絡んで来る親友の頬を抓って撃退したのち、私は朝のホームルームが始まる前に一番前の窓際の席に着き、外を眺めた。
初夏の水分を含んだ空気を透す日光が、立木の間から色ガラスの破片を散りばめたような光となって教室に降り注ぎ、視線の遠く先には隣の小学校で子供達が校庭で元気に遊ぶ姿がよく見える。
少し開けた窓からは、朝の爽やかで滑らかな風が、木々と軽い土埃の香りを鼻先まで届けてきてくれる。
耳を清ますと、葉が擦れる騒めきと、小学生達の明るいな声が、耳を楽しませてくれる。
あぁ、なんて清々しい朝だろう、心が洗われていくようだ。
この時間に席で外を眺めるのは、私の1日の活力を補給する大事な時間なのだ。
見て、香って、聞いて、肌で感じる……。
心に潤いと活力が、じんわりとみなぎってくる。
私は、村尾ミナミ、どこにでもいる普通の高校二年生。なんの変哲もない日常の光景が幸せに感じるくらい、私は常に幸せを求めている。
この時間は正に至福の時間……そんな時間に身を置ける事が幸せなんて、自然に笑みが溢れてしまうのは極自然なことだと思うの……。
なぜなら私は……。
大のショタ好きなのだ!!
窓の外では朝から元気が有り余ってるショタ様達が、組んず解れつの遊びを繰り広げている!
ブランコの取り合いで絡み合うショタ様!
シーソーで背中から下級生へ腕を回し、落ちないように支えるショタ様!
鬼ごっこをして朝日に照らされ、きらめく汗をかくショタ様!
いっそのこと私も混ざりたい!
混ざって汗ばんだ頭皮の匂いを嗅いだり、執拗なボディタッチを繰り広げたい!!
社会や人間のエゴなどの汚れを知らずに、遊び回る無垢な笑顔がたまらない!
朝すれ違うと、無邪気な笑顔で積極的におはようと挨拶してくる姿がたまらない!
うふぇふぇふぇふぇふぇふぇふぇ
!!
脳内の私は感極まり悪魔的な笑い声を漏らしながら表情筋の乗っ取りを図ってくる。
しかし私は耐えるの!!
脳内では許されるあんな事やこんな事も、ひとたび社会にさらけ出すと世間はそれを許してくれない。
ああ……なぜこんなにも尊い存在を愛でるのがいけないのか……なぜ、犯罪となってしまうのか……。
戦国時代では小姓は合法、もとい正義ですらあったのに……。
っく……この世が憎い、この社会が憎い。
でも私は理性あるショタ好き……内心では社会を罵倒しようが、それも全て受け入れてショタ様を視姦する事で内包する思いを抑え込んできた強者!
もし、手を出して鉄格子の中に入れられようものならばもうショタ様を視姦する事もできない。
そんな拷問……絶対考えられない!!
だから私は耐えるの!! 毎日ショタ様を視姦する為に!!
そんなお下劣な脳内妄想を繰り返して楽しんでいる中、教室にいる皆んなは相変わらず転校生が来るという一大イベントの話題で盛り上がっていた。
「コラー! 席につけー!!」
担任の先生が教室に入ってくるなり、騒ぐ生徒に檄を飛ばして教卓の前に立つ。
「えーもう知ってるやつもいると思うが……転校生がウチのクラスに来ることになった」
クラス中が一気に湧き立つ、そりゃそうだ朝一番の話題だったのだ。
だけど私はその転校生などには全く興味がない……。
なぜなら、高校二年生の男などショタでもなんでもないからだ。
すでにあそこに毛の生えた、図体のでかい頭の中が性欲しかない獣のような生き物にどう萌えろと言うのか……。
私は、クラスの歓声を半分くらい聞きながら、窓の外で繰り広げられる、小学校の一時間目の体育の授業風景に口元の緩みを必死に押さえながら視姦する事に戻った。
「……みんな、よろしく頼むぞ……。おーい入ってきて!」
ガラッ。
「うぉ!?」
「やだ!! 嘘!?」
「は!? マジで!?」
クラス中がその転校生を見た瞬間、各々驚きの声をあげる。
あれ? クラスの反応が思ってたんと違う。
予想外の反応にちょっとだけ興味をそそられた私は転校生を見るために振り返る。
その瞬間! 私の脊髄に雷が直撃したかのような電撃が走り、その転校生から目が離せなくなってしまった!!
いや離せないなど、生温い!! 追尾機構が目標をセットし、自動的に追跡する状態かの如くロックオンしてしまったのだ!!
瞬きするのも勿体ない程に眼球が飛び出さんばかりの衝撃を受けた私の目に飛び込んできた転校生は!!
ワイシャツは何度も折りたたんで捲り上げられ、ズボンもどれくらい裾上げしているかわからない程、無理矢理小さくした学生服!!
まるで、小学生が高校生の男子学生の制服を無茶して着たような見た目の少年が、テクテク教室内に入ってきていた!!
顔立ちは整ってるし、さらさらの黒髪で女性かと思うくらい白い肌をしているイケメンで、背丈は120㎝を越えたくらい……正に正統派!! 私のど真ん中、ドストライクのショタ様がそこにいた!!
何!? あの子!? ここは高校よ!? 隣の小学校と間違えちゃったの!? それなら私が責任を持って手取り足取り〇〇取りお姫様抱っこしながら送り届け……いけない!! 脳内トリップはそこまでよ!!
クラス中がその異常な姿に目を丸くしている中、その子がみんなに一礼した後黒板に自分の名前を書こうとした……。
「あ……」
少年は隣に立つ先生のズボンの裾を引っ張り、何かを伝えると。
「「「「「んぐふぅ!!」」」」」
クラスの所々から漏れ出る、押し殺す声。
それもそのはず……目の前には先生に脇を抱えられて名前を書く少年。
いやぁーーーーぁぁああああ!!!! 何あの可愛いの権化は!! こんなベタな展開、リアルで見るとかたまらない!!
クラスの皆も同じ様で何人も机に顔を伏せて肩を震わせていた。
私は既に顔面崩壊しているであろう顔を必死に両手で隠して、その少年の愛くるしい後ろ姿をむしゃぶりつくように観察した。
名前を書き終わり、先生が少年を降ろすとこっちに振り返って、ニカッと笑い挨拶を始めた。
ピシッと姿勢良く起立して教室を見渡して、また軽く一礼する。
「黒瀬マコトです!! 背は低かけど、同い年の高校生やけん、よろしくお願いします!!」
再度深々と腰を折り、元気な自己紹介をしたマコト君。
声変りしていない高い声でいながら、ハキハキとした発声。私にとって超絶ベストなソプラノパートの耳心地が良い可愛い声だ。
更に、イントネーションが九州弁っぽい方言ショタという萌え属性付き!!
ハァハァハァ!!ガタガタガタガタガタガタガタ!!!!
自然に息が荒くなり体が震えだす……これは怯え!? いや違う!! 歓喜の武者震いだ!!
抑えるんだ!! 抑えるんだ私ぃいいい!! 咄嗟に両腕で体を抱きしめて今にも暴走しそうな自分を抑え込む!
いけない!! もし、ここで私がこの両腕を離したら今すぐに彼の元へ飛びかかり、欲望の赴くまま少年誌には書けない、あんな事やそんな事してしまうかもしれない!!
くぅ!! なんて、恐ろしい子!! ここまで私の心を鷲掴みにした子は初めて……。
ん? でも、ちょっと待て……さっきマコト君なんつった?
“同い年の高校生やけん”
そうだ、同い年だ……この見た目と愛くるしさで、性欲の塊の奴らと同類だと言うの!?
いや! 違う!! あんなのと一緒にしたらいけない!! マコト君は汚れを知らない激ピュアな生物なの!! 汚れまくった汚物と一緒にしちゃダメなの!!
私の脳内が同い年という情報で拒絶反応を起こすが、この見た目とのギャップに超絶興奮している私もいる!
未だかつてない程の錯乱と混沌の中に飛び込み、なぜかそれを喜んでいた。
「じゃあ席は……」
私がマコト君の事で葛藤と悶絶を繰り返している間に、先生が空いている席を探し始めた。
誰がわたすものか!!
私はマコト君が高校生だと言うことは理性と一緒に放り投げ、今は欲望に忠実に生きる事を即断した!
「先生! マコト君は小さいから前の席がいいと思います!」
私はピシッと手を上げながらその場に立ち上がり、隣の席を指差してマコト君を座らせるよう志願した。
「え? いや、ここ俺の席」
しかし、すでにそこには、なんの特徴も無く、驚き方も下衆なモブっぽい田中が座っていた。
「あなたが、どけばいいじゃない」
「え? 俺が? なん……」
「ど・け・♪」
「は……い……」
田中は私の笑顔に押されたのか素直に机の中の物を取り出して後ろの席に移動した。
よし……。
私は心の中で渾身のガッツポーズをかまし、満面の笑顔で向き直る。
「先生♪ マコト君♪ 席空きましたよ!!」
「お、おう……じゃあ、黒瀬君……あそこで」
「はい!」
オオオォォォォォオオッッッシャァアアアアアアアアア!! マコト君の隣ゲットォオオオオオオオオオオ!!
フハハハハハハハ!! 素晴らしい!! これから私の高校生活は一年中桜が満開のような、きらびやかな物になると確定した!
さて、自分で言うのもなんだが実は私、非常にモテる。
ある時期を境に私は必死で女を磨きあげることに執着するようになった。
何が自分をそうさせたのか覚えてないけど、自分を変えて強くなる事に必死になって取り組み、ありとあらゆる事で自分を磨き上げた。
勿論、外見だけではなく中身もだ。
勉強も家で予習復習をしっかり行い、テストは常にトップクラス。部活は茶道部だけど週3回水泳スクールに通っている。
おかげで、容姿端麗、頭脳明晰、文武両道をリアルに体現したスペシャル女子高生を作り上げていた。
こんな完璧な私に靡かない男……いや、マコト君はいないはず!!
さぁ!! 私を見て!! そして、2人の熱く蕩ける青春を謳歌し会いましょう!!
「フフフ、よろしくねマコト君♪」
私は内心の溢れんばかりの欲望を抑え込み、普段と変わらないように笑顔で挨拶した。
「うん! よろしく……ん? ……んんん!?」
眉間にシワを寄せたマコト君が不意に、グイッと顔を近づけてくる。
ふわぁああ!? かっ……可愛い!
口と眉をへの字に曲げてくすみもないそんな綺麗な瞳で見つめられたら……私、制御効かなくなっちゃう! 今すぐむしゃぶりつきたくなっちゃうううううう!!
た……耐えるのよ! 私! いくらドストライクのショタに見つめられているって状況だとしても、中身は同い年の男子学生で、しかも初対面なのよ!
んっはーー!! でもかわいいーー!!
脳内トリップから抜け出せずに悶えていると、ぷりぷりとした小さな口が開いた。
「……あんた……名前聞いてよか……?」
「えっ!? わ、私? 村尾……村尾ミナミよ」
その瞬間クリクリとした目がさらに大きく見開かれた!
「まさか……みなっぴ!?」
「!!!?」
ピキッ!! っと脳内に走る亀裂音とともに突然耳にする言葉に体が固まった。
そ、そのあだ名は……。
私が両親に連れられて引っ越しをする前の小さな時の記憶……。
記憶の片隅にある悲惨な過去と、おぼろげに覚えているある男の子の存在……。
あだ名を皮切に、記憶がどんどんフラッシュバックし、その思い出が一気に蘇ってきた!
「マ……マーく……ん?」
私は忘れかけていた記憶のずっと底にあった、1人の男の子のあだ名をつぶやいた。
「うぉお!! やっぱしみなっぴだ!! バリ久しぶり!? 元気しとったぁ!?」
マコト君が私の両手を握り、キラキラした両目を私に向けてくる!!
「えぇええ!? 本当にマー君なのぉ!?」
ドストライクショタの転校生は、私が小さい頃の幼馴染、マー君だった。
* *
マー君が転校してきてから、1週間。
私の生活は一変した。
毎日、家を出る時から、マー君に会えると思うだけで浮足だってしまう!
道を行けば、まるでバラが咲いているかのような輝きに満ち溢れ、小鳥達の賛美するさえずりが心地よい。
あぁ、人生は素晴らしい。
嬉しさのあまり、ついつい小気味良いスキップを刻んでしまう。
ただ、そんな浮かれ気分での登校にも一つ問題があった。
それは、マー君が幼馴染だとわかった時の事。
『うわぁー! みなっぴだ! ばり変わったね! いっちょんわからんかったよ』
『……あははっ、だ、だめだよマー君。乙女に対して変わったって言葉は、必ずしも良い意味にはならないのよ?』
『え? そうと? ご、ごめんなさい』
『良い子ね。今度からは気を付けなさい?』
『うわ、ちょ!? 子供じゃなかとやけん頭撫でんでよ!』
『マー君は全然変わってないのね』
『ッ!? せ、せからしかー!! おいのことはよかとー!!』
『あらあら、わからない事はお姉さんになんでも聞いてね』
『むぐぐぐ』
私はあの時、慌てて妙な『お姉さんキャラ』を演じてしまっていた。
マー君は幼い頃の私を知っている……。
私は昔、全く冴えない女の子の見本のような子だった。
メガネにオカッパ頭、ちょっとばかりふくよかだった。あくまで、ちょっとだけ……。
だから、そんな過去は是非とも秘匿しなければならない。
それを悟られない様に変わった自分を前面に押し出して、カモフラージュしてしまったのだ。
できればもっと触れあいたい……だけどお姉さんキャラとショタの黄金設定という矜持がそれを許さないのだ。
コレは私秘蔵の薄い本の中だけの設定で、決して現実に顕現してはならない物なのだ。
私の首の皮一枚残った常識という概念が、何とかその一歩を踏みとどまらせていた。
ただ、許されるのならば気の赴くままにあの小さい身体を……おっとっと。
気を緩めるとすぐにいけない私が顔を出してくる。でも、私は負けない!!
YESマー君、ノータッチ!!
私はマー君の前では完璧なお姉さんキャラになり切って過去の私の記憶を葬ってもらうの!!
そして、思う存分マー君を視姦して最高の学生ライフを満喫するのよ!
「おはよー!」
そうして浮かれた気分のまま、元気な挨拶をしながら教室のドアを開けた。
「あっ!みなっぴおはよー!!」
懐かしいあだ名と元気な声で挨拶を返してくれるのは……。
猫耳カチューシャ姿のマー君だった。
「ングフゥ!!」
私は咄嗟に右手で口の緩みを隠し、その場に片膝をつく。
何という破壊力!! 一瞬にして私の表情筋が持っていかれてしまった!!
教室入っていきなりとは、不意打ちだったわ……ありがとうございます。
「みなっぴ大丈夫? 具合でも悪かと?」
猫耳カチューシャをつけたままのマー君が近づいてくる。
今きちゃダメ! 萌え死する!! かわいすぎて昇天しちゃう!!
口元を押さえたまま必死にこないでと目で合図するも、テトテトと歩み寄ってくるマー君。
あ……。私、今日死んでもいいかも……。
そう思った直後。
「はーい、大丈夫だよマコト君すぐ治るから」
「おう?」
近づいてくるマー君を後ろからヒョイと持ち上げたのは、親友のユリだった。
ユリは私にパチリとウインクをして、そのままマー君を席に座らせてくれた。
ユリはこっちに引越して来てからの親友で凄く馬が合い、なんでも話せる私のショタ好きを唯一知る人物だ。
そんな私の全てを知り尽くしているので、多分あの猫耳はユリの仕業で間違いないだろう。
私はなんとか立ち上がり、ユリの耳元で忠告した。
「あんたマー君になんて事してんのよ! 危うく私……」
「え? 可愛かったでしょ?」
「はい、ご馳走様でした」
「よろしい」
くそ! ユリ手のひらの上で遊ばれている感が否めない!
でも、的確かつピンポイントで私のツボを押さえてくるセンスと行動力は高く評価せざるを得ない!!
私は脳内でユリに罵倒と賞賛をあびせ、何食わぬ顔で席に着く。
「むー、まさか猫耳カチューシャつけられとるとは思っとらんかった……」
マー君が机に顎を乗せてさっきの事を嘆きながら口を尖らせている。
はい!! かわいい! 不貞腐れショタかわいい!
椅子が高い為、足は床から微妙に離れているので、プラプラしているのも高得点だよ!!
あぁ……隣にこんなかわいい幼馴染のショタがいるなんて、私は幸せ者だぁ。
この1週間、マー君のショタカワ行動は治りを見せない。
バスケ部の同級生に肩車してもらい遊ぶマー君。
お弁当のウインナーを床に落としてしまい悲しそうな顔をするマー君。
体操服のハーフパンツが膝下まであるマー君。
居眠りしてヨダレを垂らすマー君。
んはぁーー!! もうね! もうね!! 見てるだけで愛が止まらない!!
かわい過ぎて手が震える!!
そして、この思いをぶちまけられないもどかしさが、歯がゆいの!!
大人びたお姉ちさんキャラ演じるのがきっついの!!
この前も以前の学校ではまだ習っていない所が出てきて教えてほしいと懇願してきた時なんかヤバかった。
ハートをズッキュンとかではないの、ハートを超新星爆発させて新たな宇宙を誕生させたのよ。
教科書を両手で胸の前で持ちながらの上目遣いでお願い、なんてどこで覚えてきたの!?
私の中の狂いまくった狼が牙を剥き出しにして襲い掛かるのを必死で停めなければ、マー君は今の原型を留めていないかもしれなかったのよ!?
もうお姉さんキャラ保つ事に全神経を集中しておかないと自我を保っていられないの!! 授業なんて聞いていられないの!!
私はこのまま一生マー君を視姦し続けて生きていけるのだろうか?
マー君はまさに、かわいさ暴力装置。
そんな存在を目の前に置きながらの生活は天国と地獄を両立させたまさに奇跡。
クラスメイトや先生がいる中で自分を曝け出すなとできるはずもなく……。
いや待て、他人の目があるからマー君を愛でてはならないのならば、いっそのこと全人類を滅亡させて私とマー君がアダムとイブになり新世界を……。
「みっちゃん……みっちゃん!!」
「!?」
不意に肩にポンと手を置かれた事で、正気を取り戻した。
「ユリ!? なによ!?」
「いや、もう下校時刻だよ……」
「え!?」
気づけば教室には私達以外誰もおらず、時刻は17時を回っていた。
妄想にふけっていて時間が鬼のように飛んでしまったようだ……。
「んはぁぁ……ユリどうしよう、マー君が素敵すぎて、尊死するかもぉ……」
私は全身の力が抜けたスライムのように机に突っ伏した。
「みっちゃん、マー君にぞっこんなのはわかるけど、一日中舐め回すように見るのやめないと引かれるよ?」
「っな!? バカな!? 私そんなマー君ばっかり見て……」
「見て?」
「……ます」
迂闊だった……内なる欲望が漏れ出てマー君を視姦し過ぎ、丸一日トリップしてしまっていたようだ……。
「はぁー、あんたここ最近ずーっと上の空だよ。マコト君も気づいてない振りしてくれてるけど、あんたの視線は完全に気づいてるよ?」
「えぇえ!? 嘘!? やだ、マー君……私の愛に気づいて……」
「違う、そうじゃない」
そんな浮かれた会話をした後、私とユリは武道館裏の隠れスポットへ移動した。
マー君が入った部活を見学、もとい視姦しに来たのだ。
なぜかユリの目に光が無いように見えるが、どうしたんだろう?
でも、細かい事は気にしない。なぜならユリに構っていられるほど、こっちも暇では無いのだ。
実は、マー君が入った部活はなんと柔道部!!
なんでも、小さいながらに強くなる事が目標なんだとか。
背伸びして強く、カッコよくなろうとするマー君……これもまた良き!!
小さな小窓から中の様子を伺うと、小さい体をめいいっぱい使いながら必死に練習に食らいついているマー君。
同じ柔道なのに普通の高校生がやっても全く萌えないが、マー君がやるとその意味が尊さの高みへと昇華する!!
なんて健気で素晴らしいのだろうか……あの汗臭くて汚いと思っていた柔道が、こんな煌めくスポーツに見えるなんて!
でも危険なスポーツには変わりない!マー君が怪我したらいけないので、私は人知れず息を潜めて見守るのよ!!
そして、怪我してしまったマー君をいち早く保健室に運び……。
「……ッグ、グフフフフ……」
「気持ち悪い声漏れてるよ、みっちゃん……」
「ッング!?」
「はぁー、みっちゃんはなんでマコト君みたいな、ショタが好きなんだろうね」
ユリがため息をつきながら、疑問を投げかけてきた。
「ショタ好きに理由などないのよ……気づいたらショタ好きになっていた。気がついた時には、なるべくしてなっているものなのよ」
「そんな哲学的に言われても……」
ユリから呆れたような返事が返ってくるが、正直私もよくわからないのだ。
気がつけばショタ好きだった。
何がきっかけだったのか、私にも全くわからない。
ともかく私は、小さくてかわいいショタが大好きなのだ。愛に隔たりは無いのと同じ扱いなのだ……。
「ん?」
あれ? でもなんか言葉にしてもなんかしっくりこない。前まではなんの疑問も持たずに過ごしてきたのに……。
私の信念と思える矜持の揺らぎに疑問を覚えたその時。
「あれぇ!?こんなところで女子がなにやってんのぉ!?」
「「!?」」
振り返ると背後に制服をだらしなく着崩した、不良らしき三人に囲まれていた。
「う……あ……」
「なによあんた達!」
ユリが私を庇い不良達の前に立ちはだかる。
私は不良という人種が苦手だ……なぜかこういう人達を前にすると、体が震えて動かなくなってしまう。
だから、なるべく関わらないように避けてきていたのに、マー君に夢中になりすぎて気づかなかった……。
「俺たち、ちょーっと息抜きに来ただけなのよ」
「そしたら可愛い女の子がいるから声かけたの」
「ちょっと俺たちのヌキ手伝ってくんない? ギャハハ!」
三人共ニヤついた笑顔でこちらににじり寄ってくる。
「あ……あぁ……」
「みっちゃん!? どうしたの!? 立って逃げよう!?」
ユリの声が虚しく耳を通り過ぎていく。
聞こえているのに、聴いていない……いや、聞けないのだ……。
いや……やだ……怖い。
逃げたいのに体が硬直し、足が動かない……。
昔の記憶が甦る……イジメられていた過去のトラウマが私を縛り上げる。
弱くてはいけない、自分の殻を破いて強く変わらなきゃいけない!!
ずっとそう思いながら自分なりに変わろうと努力してきた。
変えてきたつもりだった……。
でも、目の前のセリフ臭い喋り方をする不良達でさえ足がすくんで動けなくなってしまうのだ……。
くやしい、情けない、無駄だった努力……。
そして……怖い……。
私は何一つ変わっていない、チビでメガネでぽっちゃりでオカッパ頭のあの頃の私から……。
「みっちゃん! しっかりして!?」
「いや、やだ……」
私は、震える体を抱きしめて心の中で、一言叫んだ。
助けてマー君!!!!
「お前らなんばしよっとか!!」
「「「「「!?」」」」」
甲高いソプラノボイスが武道館裏に反響しながら響いた!
一瞬女性かとも思うその声は、九州訛りだけど男らしくカッコいい、私が今一番求めていた大好きな声だった。
見ると武道館の角にさっきまで視姦……柔道の練習姿を見守っていた、可愛らしい柔道服姿のマー君が立っていた!
「マー君!?」
「マコト君!!」
「んだぁ!?このチビ!!あっち行ってろ!!」
「お子様が来るとこじゃねーから」
「ママ探してんだったらこっちにゃいねーぞ!ギャハハ!」
不良達がマー君を見てゲラゲラと笑いだす。完全に高校生と思ってないようだ。
「わ、私!! 先生呼んでくる!!」
「ユリッ!?」
不良がマー君に気を取られている一瞬の隙を突き、ユリが不良の脇を抜けて走り出した!
「あっ!? くそ!! 捕まえろ!」
「オラァ!! 待ちやがれ!!」
少し遅れてユリを追い、不良の二人も走って武道館の表に行ってしまった。
そして、この場に残ったのは、私とマー君と一番背の高い不良だった。
「ッチ……このクソガキが」
「女ば怖がらせるような男がイキんな……」
睨み合う両者……だけどその身長差は軽く50cmはある。見た目は完全に大人と子供だ。
敵うわけない……体格が違いすぎる……。
「嫌……マー君、逃げてぇ」
怯える私はなんとか、かすれるような声を絞り出した。
「大丈夫よ、みなっぴ」
マー君はチラッとこちらを見て、ニカッと笑顔を見せる。
トクン。
マー君の笑顔を見た瞬間、胸が自然に跳ねた。
なんだろう、前にもこんな事があったような……デジャヴ?
「おうおう、ガキが舐めてんじゃねぇ……ぞ!!」
「グフッ!?」
「!?」
不良の前蹴りがマー君のお腹を直撃し、後ろに吹き飛ばされる!
「マー君!!」
なんで体動かないのよ!! マー君が
……マー君が殺されちゃう……。
必死に体を動かそうとしても、プルプルと体が震えて動かない。
「ッチ! ここじゃ邪魔が入るな……おい、ちょっと別の場所行こうぜ?」
不良が振り返り、私に手を伸ばしてくる。
「嫌、やだぁ……やめて……」
情けない、こんな状況にもなってマー君を助ける事も、逃げる事も出来ないなんて……。
不良がニヤつきながら、怯えるわたしの腕を掴もうとしたその時。
「大丈夫、オイはこがん日の為に……強くなろうって決めたったい!!」
不良が私を見ている隙を突き、マー君が不良の背後から腰のあたりを捕まえるようにしがみついた!
「グッ!! チビが!!」
「小さかけんってなんや!! 女ば守れんで……なんが漢じゃ!!」
不良は振り解こうと体を振るも、マー君もガッチリと腰をクラッチして離さない!!
「黙れ!! このボケが!!」
「くっ!!」
不良がしがみついているマー君を、乱暴に上から殴り始めた!
「イヤァ!! やめて!!」
あんなの大人が子供に思いっきり拳骨くらわせてるのと変わらない!
ゴスッ!! ゴスッ!! っと鈍い音がマー君が殴られる度に響いてくる!
マー君が! マー君が!! 死んじゃう!!
大好きなマー君が!! かわいいマー君が!! ショタ属性ガチ萌えラブの象徴のマー君がボコボコにされてしまう!!
私はなんで何もできないの!? 動け!! 動きなさいよ!! ショタ好きならばここで動かずしてどうするのよ!!
私は震える顔にビンタをかまし、意を決してマー君を助ける為に飛び込もうとした時!
「大丈夫さ、みなっぴ……キンタマの小さか、こがん男には……絶対負けん!!」
マー君が私の目を見ながら叫んだ。
その目は不良に対して、全くひるむ事なく、男らしく、鋭く、たくましい。
ショタの見た目だけど、間違いなく『漢』の目だった。
「チビがイキってんじゃねぇ!! 死ね!!」
マー君の頭に肘撃ちをくらわせる為に不良が大きく腕を振り上げた!!
次の瞬間!!
「うぁぁぁぁああああああ!!!!」
不良が腕を振り上げた反動と共に、マー君がその小さい体をフルに使い爪先立ちで不良の体を持ち上げる!!
その勢いのまま不良を後方へと反り投げる……これは!
ジャーマンスープレックス!!!!
「ぐっはっぁあ!!」
マー君のジャーマンが決まり、叩きつけられた衝撃で不良の肺の中の空気が悲鳴と同時に投げ出される!!
不良は少しのたうち回ったあと、白目を剥きそのまま動かなくなってしまった。
「やべーよ! 逃げんぞ!!」
「おい!! 何寝てんだよ!? ウゲ! こいつ白目むいてやがる!?」
マー君のジャーマンスープレックスが決まってすぐに、不良達が戻ってきた!
あの慌てようだと、ユリが無事に助けを呼べたようだ……よかった。
「ぐっ……うぅ……」
2人に揺さぶられ、白目をむいていた不良が意識を取り戻しだけど、まだ朦朧としている。
そりゃそうだろう、整備されたリングではなく硬い地面に叩きつけられたのだから。
「とにかく立たせろ!」
「てめー! 覚えとけよ!!」
「ふん、誰が覚えとくもんか!! 早よ行け!!」
失神していた不良の腕を肩を2人で担ぎ、ヨタヨタと運んで行った。
マー君は仁王立ちで、不良達が武道館裏から見えなくなるまで見張っていてくれた。
その後ろ姿はとても小さくて可愛らしい背中だけど、私にとってはとても大きく最高にカッコいいヒーローの後ろ姿に見えた。
「みなっぴ、大丈夫? へへ、やっと約束守れたばい」
ちょっと顔にアザができていたマー君は、振り返って照れ臭そうに、ニコっと笑った。
「あ……」
ドキン!!
マー君の『約束』と言う言葉と笑顔を見た瞬間、私の胸は大きく跳ね上がり、ある日の事が鮮明にフラッシュバックした!!
* *
あの日、私は近所のいじめっ子に眼鏡豚星人と揶揄され、いじめられていた。
おかっぱ眼鏡でふくよかで引っ込み思案だった私は、反論もできずに、ただただ泣くだけだった……。
そんな時、マー君が助けに来てくれた。
『みなっぴば、いじめるなぁ!!』
『うわ! マコトの来たぞ!!』
『へへ〜ん! いじめてませ〜ん!』
『あいつ、絶対この眼鏡豚星人好きとばい!!』
『せからしかぁ!』
…………。
『クソ! めんどくさか!!』
『もうよかさ! 行こうよ』
『ムキになって恥ずかしかー!!』
『マー君!! 大丈夫!?』
『いてて……おいは、まだまだ弱かなぁ……』
『そがん事なか!! かっこよかっ……たで、す……』
『!? ……お、おい!! ちゃんと強ーなって、みなっぴば守るけん!! 好きな女の人ば守れん男は大人になれん、ってお父さん言っとったもん!』
『え?』
『……あ』
『……』
『……』
『じ、じゃあ、私はマー君の為に可愛くなる……見た目でいじめられないように頑張る!』
『なら、おいはもっと大きくなって、強くなるごと頑張る!!』
『わ……私も、頑張る!!』
『僕がぁ……』
『私が……』
* *
そうだ……今、完全に思い出した。
幼い日の約束と互いの思い……。
あの日、私は心に誓ったんだ……。
小さくて
優しくて
カッコよくて
責任感が強くて
頑張り屋で
無鉄砲で
がむしゃらで
そんな私のヒーローだったマー君に負けないよう、自分を変えると誓ったんだ!
それから、私は自分を変える為に努力するようになった。
髪型を変え、視力を矯正し、ダイエットも始めた。
初めて心から自分を変えようと思った。
でも、不思議と辛くはなかった。
むしろ変わる自分を想像して嬉しくもあった。
でもそんな時、父の転勤が決まった。
引っ越しで離れる時、お互いに泣いた。
凄く悲しかった……マー君が忘れられなかった……。
だから小さい子を見てはマー君の姿を重ねて、寂しい思いを押さえてきたんだ。
私が成長するにつれ、小さい頃の記憶がぼやけてきて、ショタを愛でる事だけが残った。
忘れていた……私の原点の想いを。
ショタ好きと言うのは、私が自分を押さえ込み、想いを守ろうとした結果の副産物だったのだ。
ポロポロと溢れる想いが、目から涙と共に溢れ出してくる。
「みなっぴ大丈夫?」
マー君が慌てて駆け寄ってきてくれる。
何も変わっていない。目の前には純粋でカッコいい、あの頃のままのマー君がいた。
「ふぐぅ……う、うゎあああああん!!」
「え!? みなっぴ!?」
思い出した……自分の想いを隠し、ショタ好きと言う嘘を自分につき、偽りのの自分を演じていた私はマー君の前では必要無い。
私は流れ出る涙を止められず、泣きじゃくりながらマー君に思いを伝える。
「マー君……私、思い出した……あの日の……やぐぞぐ……思いだじだよぉおおお」
「昔の約束やけんね、忘れとってもよかよ。あーあーかわいい顔がぐしゃぐしゃばい……タオルでよかかな?」
腰にに下げたハンドタオルを差し出して、ちょっと照れながら私の心配をしてくれるマー君。
見ると殴られたせいで髪はボサボサ、柔道着は土だらけ、顔も所々腫れている。
でも、その仕草も表情も優しさも、全てあの頃のまま……。
中身はあの頃より、ずっとカッコよくて優しくて素敵な男の人だった。
もうだめ、抑えきれない。
長年の想いを隠し、堰き止めていた枷が外れ、全ての想いが爆発し、溢れ出てくる。
私はその場に崩れるようにへたり込み、マー君の肩を掴んで思いっきり引き寄せた。
「え?」
だって、目の前の小さな男の子は、私がずっと思いを寄せた大切なショタなのだから!
「マー君!! 大好き!!」
「んむぅ!?」
もう、自分に嘘つかなくていい。
私が本当に大好きで、小さくてカッコいいショタは目の前にいるんだから。
終わり
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