第2話 ケンジ再会する~後編
国王一族を救出し、王宮内の魔王軍を押し出す事に成功した俺とマリア達。
体制を建て直し、生き残った兵士やギルドの冒険者、教会の関係者達と王都に侵入していた魔族を駆逐出来たのは、俺が甦ってから1ヶ月後の事だった。
「...すまなかった」
「申し訳ありませんでした...」
王宮内にある玉座の間。
呼び出された俺達の前に国王を始め、貴族等王都の指導者達が頭を下げた。
「済んだ事だ、次は無い」
次は無い、これは最後のチャンスなんだ。
サイリオンが自らと引き換えに与えてくれた...
「ケンジ...すまない」
貴族達の中に居たナシスが前に進み出て、もう一度頭を下げる。
ルーシーから受けた制裁の傷痕が痛々しい。
綺麗だった風貌は魔族からの火傷痕も加わり、見る影もない。
だが、ナシスは治癒を拒んだ。
戦う為に必要な最低限の治癒しかされていないのだ。
「やっぱり殺す?」
マリアはまだナシスと国王達が許せない様だ。
その気持ちはよく分かった。
「止めろ、そんな事を俺は望んでいない」
「コイツらはケンジを裏切ったんだ。
それだけじゃない、王都の魔族を追い出す時に見ただろ?
この連中は充分戦えるくせに、ケンジを...」
ルーシーが目に涙を浮かべながら王達を睨みつける。
全くその通りなのだ。
俺達だけの力では1ヶ月で王都の魔族を駆逐は出来なかっただろう。
国王は近隣の街から兵士を召集の檄を飛ばし、ギルドと教会は一体となって魔族と戦った。
それは充分な戦力だった。
事前に国王達から聞いていた話と違っていた。
『我々が魔族と戦う戦力はもう残されていない』と...
「ナシスは俺を強く鍛えてくれたんだ、その恩を...」
「鍛えれば鍛える程強くなるからでしょ?
ケンジの事を思ってじゃない。
だから私の治癒が必要だった、あんなの訓練じゃないわ、単なるリンチよ。
普通の人間なら発狂してる」
マリアが吐き捨てる。
ナシスは何も言わず、身体を震わせていた。
つまり真実なのか...
「いや、だけど、討伐に出るまで4年も待ってくれたんだし...」
「ケンジ、その間我々は何をしていたか忘れたのか?」
「忘れて...」
討伐の予行に何度か行き、魔王軍の先遣隊と戦ったんだ。
近隣の街から魔族を救う為に。
「あんなのは王国兵士やギルドの仕事だった」
「え?」
「コイツらは我々を利用したんだ、自らの兵やギルドの冒険者を使いたく無いとな」
「そうだったのか」
つまり捨て石代わりか、死んだらどうするつもりだったんだ?
「マリア達はずっと知っていたのか?」
「知らなかった!
あの時ケンジが殺されたと聞いて、教皇からやっと...」
「信じて!
私も、あの時にギルドマスターから...」
マリアとルーシーが俺の両腕を掴み縋りつく。
二人も俺と同じ扱いだったのか。
「...申し訳無い」
国王と教皇、ギルドマスターは再度頭を下げた。
腐ってる、コイツらは本当にクズだ。
召喚された俺だけじゃなく、この世界を救う為に神託されたマリアやルーシーまで...
「魔王は倒すよ」
「本当か?」
俺の言葉に希望を感じたのか、国王達に歓喜の色が滲む。
呆れて物も言えない。
「良いの?」
「殺されたのよ?」
「まあな」
それは事実だ。
だからといって人間同士で争っていたら魔王の思う壺、意味が無いんだ。
「俺の目的は一つ、魔王軍の撃退。
こちらの戦力を減らす訳にいかない」
「...分かった」
「ケンジがそう言うなら」
マリアとルーシーはまだ納得出来て無い。
だが、諦める訳には...
「本当にごめんなさい...」
「...お妃様」
それまで黙っていた妃が呟いた。
余り接点が有った人では無い、遠巻きに不審の目で俺を見ていた位しか、
「私達が愚かだった、貴方にとって、この世界を救う事は善意に基づく気持ちだったのに...」
「...お前は知らなかっただろ」
「いいえ、私が知っていたとしても、止めていたか分かりません。
だから罪は同じなのです」
国王との会話を聞いても、響く物を感じない。
ひょっとしたら、俺の心は壊れてしまったのか?
「...ごめんなさい勇者様」
「貴方は確か...」
一人の男の子が進み出て、俺に頭を下げた。
この子は王を助けた時に妃と一緒に居た子、つまり王子様か。
「謝って許される事じゃないのは分かってます。
でもお願い、この国を、世界を救って下さい。
僕はどうなっても構わないから」
「...何を言ってる」
「ああ...」
国王夫妻が涙を流し息子を見つめる。
その光景は、討伐の途中見た、名もなき少年達の姿と重なる。
「大丈夫だ、安心しろ」
「本当?」
王子の頭を撫でながら微笑みを浮かべる。
こうすれば、みんな安心してくれたっけ。
「言ったろ?必ず魔王を倒すって。
何の罪も無い人間を皆殺しにする様な奴等に負けないよ」
「...すまない勇者よ」
情けない声の国王を睨む。
コイツの言葉には真実を感じられない。
「お前達の為では無い。
俺を信じ、支えてくれた人の為だ、マリアそしてルーシー...」
「「...ケンジ」」
マリアとルーシーをそっと抱き寄せる。
必ず二人を幸せにしなくては...未来に、俺が居なくとも...
「サイリオンに祈ってくれ」
玉座の間に居る人達全員にお願いをする。
手遅れだと分かっているが。
「女神様に?」
「俺にチャンスを、この世界を救う為に自らの力を投げ出したんだ。
魔王の策に溺れた人間を最後まで見捨てずにな」
「...神よ」
「私達は何という愚かな事を...」
白々しい、信仰が浅いから魔王に騙されたのは明白じゃないか。
だが、消えゆく俺に笑みを浮かべたサイリオンの姿を思い出すと我慢が出来なかった。
「全力だ、三年以内に魔王を倒す」
「む...無茶だ!」
「黙れ」
国王を再度睨む、無茶は分かってる。
だが巻き戻った時間は三年、それ以上俺に未来は残されていない。
それは間違いないと確信していた。
「わ...私も加えてくれ」
「ナシス?」
確かにナシスは大切な戦力、だが...今は...
「「ふざけるな!!」」
ナシスの言葉に激昂したマリアとルーシーが掴み掛かる。
凄まじい殺気だ。
「頼む!命に代えてもケンジを!!」
「ここで死ぬ?いいえ、殺してあげるわ」
ルーシーが魔法を発動させる、猶予は無い。
「止めろルーシー!大切なお前にそんな事をして欲しくない!!」
「ハエ?」
「マリアもだ!」
「アオ!」
二人を力一杯抱き締める。
些か恥ずかしかったが、効果は覿面だった。
こうして俺達四人は再び魔王討伐に立ち上がった。
今度は世界中の応援を背に受けて...