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覇王記  作者: 沙菩天介
覇王編
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第二十二話 決戦の攻城戦

 最上階のベランダに着地し、トーアは内部を観察した。


 さすが城と言ったところか、部屋の量は数え切れない。だがそれらの戸は全て開け放たれ、人の気配が全くしない。グレモル王の命令で非難したか、或いは全員が敵として隠れているか。どちらにせよ油断はできない。


 窓から簡単に侵入し、トーアは油断なく足を進めた。


 一つ下の階層ではベルフスたちが侵入している。トーアの役目は最上階の敵を一人残らず無力化することだ。


「おい」


 背後から声がかかり、トーアは足を止めた。


 振り向くとそこには、自信に満ち溢れた表情の青年が立っていた。新聞か何かで見た顔だ。


「………あれ、お前トーアだろ?俺の気配に気づかないもんなんだな」


「…気配を消されては、俺も探知はできない」


「へー…意外と凡人。俺でも倒せそうだな」


 そういうと、青年は鞘から両刃剣を引き抜いた。


 白い剣、モーストの関係者だ。


「俺はバウマー、魔導兵団遊撃隊の隊長だ」


「……魔導兵団か」


 この様子だと、魔導兵団の全員が敵になっていそうだ。下層では大乱闘が繰り広げられていることだろう。


「…さっさとやろう。アンタに手間取っている暇はない」


「は?舐めやがって…剣聖の弟子だかなんだか知らねえが、いい気になるなよ」


 バウマーは歯軋りすると、踏み込み突進した。


 単純な突進攻撃に見せかけた、複雑な連撃だ。トーアは一つ一つの攻撃を堅実に弾き、反撃を見舞った。


 だが…


「“躱す”」


 簡単に回避されてしまった。


「遅えじゃねえか」


 バウマーは翻した身をそのまま壁に叩きつけ、空中から再びトーアに向けて剣を振りかぶった。


(振り下ろしに見せかけた2連撃…)


 左右に剣を振り、再びトーアは反撃を見舞った。


「“躱して反撃”」


 するとバウマーは攻撃を回避してすぐに、一撃をトーアに見舞った。


「…ッ」


 弾けなかった攻撃が腕を掠め、血が漏れ出した。


 反撃がうまく行かない。攻撃が当たらない。目で動きを追えているはずが、次の瞬間に行われた攻撃に対処できない。


 わずかに焦りを見せ、トーアは飛び下がった。


「おいおいどうした」


 バウマーは戯けたように言った。


「今まで散々無双してきたのに、たった一人の男に苦戦するとはな」


 悔しいが、バウマーの言うとおりだ。


 トーアは今までピンチに陥ったことがほとんどない。たとえ相手の能力の正体が掴めず、倒す算段を立てられなくとも、負けることはあり得なかった。


 唯一トーアに敗北を味わわせたのは、モースト幹部のザンのみだ。


「……お前の使う技、ザンに似ているな」


「気づいたか。俺はザンさんの弟子——でも、俺の方が多分強いぜ」


 バウマーは言った。


「俺は何回も繰り返された実験の果てに生まれた、最強の戦士だからな」


「…実験?」


「この城の地下では色んな種類の実験をしている。異能を強制的に移す実験、超パワーを手に入れる実験、英雄ゼウスの不死魔法の再現実験、その中で俺は手に入れたのさ。永久に続くエネルギーをな」


「なるほど、無我の境地の無限化か…」


 無我の境地は、自分の体力を犠牲に体の限界を引き出す技術だ。一度体に命令をし、その命令を達成すれば疲労が襲いかかる。二回連続で行えば呼吸困難、最悪の場合死に至るらしい。


 この男は、その効果を対価なしで受けることができる。


「“連撃“」


「く…」


 刹那の内に行われた連撃は、トーアが対応できるスピードではない。刀とは違う両刃剣の重みに押されながら、トーアの体に少しずつ傷が刻まれていく。


「が…ッ」


 胸部に猛烈な蹴りの一撃をくらい、トーアは吹き飛んだ。


 長い廊下の床と平行に飛び、トーアは奥の壁に叩きつけられた。


背中が圧迫されるように痛い。


「おいおい、俺が一方的に攻撃してるじゃねえか。ちゃんと攻撃してくれよ」


 バウマーはニンマリと笑った。



 ※



 衝撃音が響き渡り、ベルフスは苦笑した。


 おそらく上階でトーアが戦闘を開始した。思っていたよりも戦力が分散されているらしい。


「さて…」


 ベルフスは正面に立つ男——クレスを睨んだ。


「相方は居ないのか?英雄の子よ」


「ふん、『王雷・獄』を警戒していれば、貴様らなど敵ではない」


 前回とは違い、キャナがいない。ラフトがいないのは不幸中の幸いだが、勝てる見込みは少ない。


「魔王よ、一つ聞きたいことがある」


「…答えてやる」


「貴様の国ではなぜ、国民は監視されているのだ?」


 クレスは悔しげに言った。


「無能な平民どもだけでなく、優秀な魔法使いも監視されていると聞く。優秀な人間がなぜ虐げられなければならないのだ」


「至極当然。優秀な人間は自惚れ、叛逆を起こす。愚民も不満を抱き、叛逆を起こす」


「同じ魔法使いだろう。であれば、自分と対等に接するべきだ」


「王と民は対等だと?」


「扱いの話だ。この国では、魔法使いはグレモル王と同様に優雅な暮らしができる」


「くくく…魔法使いでないものも、我輩と同じ人間だがな」


「戯言を。獣を見て、同じ哺乳類だと言うようなものだ」


 クレスはため息をついた。


「まあいい。貴様のくだらん思想は分かった。我が『正義』で完膚なきまでに叩き潰してくれる」


「もしや…」


 『正義』の異能の能力は、相手の魔力と身体能力をコピーするというものだ。単純な強化だが、相手を超えることはできない。


だが、ベルフスが相手の場合、厄介なことになる。


「とくと見よ、これが我が『正義』の異能の力だ!」


 直後、クレスの体が分裂し、分体が無数に生み出された。


「『ケラウノス』———ッッッ!!!」



 ※



「うおらあああああああああああッッッ!!!」


 長いロープから放たれた超広範囲の風属性剣技は、正門の雑兵を軽々と吹き飛ばした。


「っしゃ!余裕!」


「油断するな!」


 頭上から放たれた五つの魔法を弾き返し、シカナはそのまま滞空している魔法使いたちを叩き落とした。


だが、魔法使いたちはそのまま起き上がり、攻撃を再開した。


「敵が減らない…」


「クソ!殺さねえって面倒臭え!」


 雷属性の魔力攻撃があれば気絶という手があるが、現状は風の剣技で壁に叩きつけるしかない。その上バリバルは加減に慣れていないため、殺さないよう気をつければ威力は大幅に落ちる。


 直後、上階で爆発音が鳴り響いた。


「上階でも戦闘が開始されたか…。この様子だと、救援は期待できないな」


「だが、雑魚どもはここに集中してるはずだ。魔導兵団はそれほど数が多くねえって聞いたことがある」


「楽観的だな。俺たちが戦っているのは魔導兵団ではなくモーストだ。下層にはさらに多くの軍勢が…」


「モーストなら尚更だ。剛王機の無力化は人間よりやりやすいだろ。俺たちはここを食い止めるぞ」


 シカナは肩をすくめた。


「食い止めるのは賛成だが…俺たちが囮だってことにすぐ気づくぞ」


「あー、あー…あー?」


 魔導兵団は城内で魔法を放ち、バリバルたちは外から侵入を試みている。今この状況で、地下に加勢できるのは魔導兵団の方だ。バリバルたちがここの戦況を整えていても意味はない。


 つまり、魔導兵団よりも城の内側で戦う必要がある。


「まあ、考えがあるならついていくぜ」


「…」


 シカナは小さくため息をつくと、助走をつけて壁を走り始めた。


「はぁぁぁぁ!?出来るか、ンな芸当!」


「どんな方法でもいい。魔導兵団の背後に回り込むぞ」


 そのまま放置されてしまったバリバルは、居た堪れない気持ちで立ちすくんでいた。


「ここを抜けて背後に…?無茶言うなよ」


 どうせやるなら、蹴散らしていきたい。バリバルは大きなため息をつくと、ロープナイフを上に掲げた。


「っしゃああああああああああああああああ!!!俺が相手だああああああああああ!!!」


 あろうことか、バリバルはそのまま突っ込んでいった。



 ※



 南倉庫を出ると、道は左右に分かれていた。


「ふむ…男女で分けるか」


 メンバーはセン、グラン、キオ、エフティ、ペトラの五人だ。男女で分ければ明らかに実力に差が出る。


「なんでそんなこと言うの?」


「む…理由はないが」


「圧倒的に力不足なんだけど」


「私も不安だわぁ、ごめんなさい」


「そうか」


 センが腕組みをして困っていると、グランが舌打ちした。


「…救出任務の最中だってのに…班決めで時間食うもんじゃねえ。危なくなったらそっちが連絡してくればいい」


「あ、そっか」


「早くいくぞ。アラスタがあんなことやこんなこと、されてるかもしれねえ」


 そう言うと、グランは早足で歩き出した。


「健闘を祈る」


 キオもそう言うと、センと共に駆け出した。


「あーあ…二人になっちゃった」


「そうねぇ」


「この際だからおしゃべりでも…」


 エフティがそう言いかけると、正面に大きな人影が現れた。


 剛王機が一体と、メイドが一人だ。


「え、メイドって戦えんの?」


「分からないわぁ」


 メイドの服こそ装ってはいるが、表情は暗く陰気だ。クアランド城の華やかな暮らしを話だけで聞いていたエフティとしては、もっとおしゃれに気を使って欲しいものである。


「あ、あの…侵入者の方ですか…」


「え、違うよ。観光」


「さ…作用でございますか…」


 メイドはそう言うと、そのままのそのそと歩いて帰ろうとした。


「いやいや、メイドちゃん!あいつらどう見ても侵入者でしょうよ!」


 不意に剛王機が喋った。


「ほら武器持ってるよ?侵入者でしょうよ〜」


「え…で、でも」


「こんなシケた城の地下に観光客なんている訳ないじゃん。しっかりしてよー…」


 剛王機はそう言うと、ズカズカと歩み寄ってきた。


「初めましてお嬢さん方。僕、剛王機の発案者兼開発者のエリルディと申します。以後お見知り置きを」


「はあ。ご丁寧にどうも」


「いえいえ。ところでー…まあ、引き返していただけるなら有り難いんですがねえ…どうすか?」


 毛頭そのつもりはない。エフティは据わった目で剣を引き抜いた。


「ぶっ潰す」


「あっはー…左様でございますか。メイドちゃん!やるよ!」


「は…はい…!」



 ※



 各所で爆発音が響き渡り、グランは細い目をいっそう細めた。


「連絡はまだ来てねえな。不意打ちで即死してねえ限りは無事か」


「うむ…わしらは早く王子の元へ向かうぞ」


 王子がグレモル王と同じ部屋にいるのはほとんど間違いない。きっと今頃は術の準備でもしている頃だろう。早く助けなければ手遅れになる。


「ッハァ!」


 そして、想定していた不意打ちが三人に襲いかかった。


 『地壊儀』、土属性の上級魔法だ。


「よォ、盗賊の皆さン」


 コキコキと肩を鳴らしながら、ギアは口端を釣り上げた。


「人様のアジトにズカズカ踏み入るのが好きみてえだナ」


「あ?取られたもん奪い返しに来ただけだっつの」


「元から王子はボスのもんダ。なーに勘違いしてんだヨ?」


 ギアがケタケタ笑っていると、その後ろから二人の男が歩いてきた。


「…エンドさん…!」


「と…テメエはラフトだったか?」


 ラフトは両手をポケットに突っ込んだ。


「魔導兵団の副団長のラフトだ。悪いが貴様らにはここで死んでもらう」

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