第十三話 同窓会
第三勢力の正体が分からない以上、協力することは難しいだろう。
エグメルの話によると、第三勢力は南から攻めているようだ。北から攻めれば接触せずに済む。
「俺に続け!」
咆哮を上げ、イグリダは大剣を振り回しながら剛王機を燃やしていった。
それに続くように、トーアとセンが関節を切り刻み、無力化した。
剛王機の中には、脳を改造された罪のない人々が生かされている。こうして関節を切り、動けなくすることで、殺さずに済む。それに部位が破壊されれば集めるエネルギーが不足し、自爆もできない。
空ではアラスタとベルフスが雷で魔法使いを気絶させ、エンドが炎で剛王機を燃やしている。
「無傷でここまでやれるとはな…」
苦笑し、イグリダは正面を見据えた。
目に映るのは大量の敵だ。だが、躱すのは容易で、対処できない数ではない。イグリダはただ装甲を燃やすだけで良い。
これほどこちらの陣営が強いとは思わなかった。
剛王機を燃やし、燃やし、イグリダは駆ける。剛王城はもう目の前だ。
だが、門までたどり着いたところで、巨大な拳がイグリダの目の前に現れた。
「『ファイア』」
拳がイグリダに命中する瞬間、その拳に向けて火球が放たれた。
「ち———」
拳を引くと、男は横に回避した。
ギアだ。
「まさか君が一人で守りに入るとは思わなかったが…」
「一人ダ?たくさんの剛王機がいるじゃねえカ」
ギアの言うように、イグリダたちの背後からは大量の剛王機が迫っている。イグリダたちは通り道の敵のみを倒していたため、両サイドから残った大量の軍勢が流れ込んできたのだ。
「俺のチームがアンタをやる」
トーアが前に出ると、キオとエンドが続いた。
このチームは最もギア戦に向いている。すぐにでも片付くだろう。
「了解だ。任せた」
これほどの相手の侵入を防ぐことなどギアにできるはずもなく、トーアたち以外はあっさり通した。後は地下に入ればモーストの基地にたどり着けるだろう。
久々の剛王城は、相変わらず石の煉瓦のみで作られた質素な物だった。だが、以前と違うのは、そこに大量の豪王機が配置されているということだ。
城内の剛王機を引き続き狩りながら階段を駆け下り、一行は巨大な扉を強引に開けて内部に突入した。
行き止まりだ。
「…何だこの小さな部屋は…」
「いや、この部屋は動くぞ。全員この中に入れ」
ベルフスが呟くと、一行は部屋の中に入った。
「そのレバーを下げてみるがいい」
言われた通りにレバーを下げると、部屋が急激に降下を始めた。
ただ、落下ほど速くはない。
「何だこの気持ち悪い部屋」
グランは顔を顰めた。
「てかなんで魔王は知ってるんだ?」
「これはアルディーヴァのゴンドラによく似ているが…仕組みは大きく異なるようだ。未知の技術といえよう」
「未知の技術か…」
しばらく話していると、やがて窓から巨大な空間が見えるようになった。
アルディーヴァ王都ほど空間を埋め尽くしてはいないが、白い金属で作られた施設が街のように広がっている。そして中央には、天井まで伸びるほどの巨大な塔が聳えている。
見慣れない奇妙な場所だ。
「…あれが…」
中央の塔の最上階の窓から、白い仮面をつけた黒髪の青年がイグリダたちに顔を向けている。あれがモーストのリーダーなのだろう。
ゴンドラはゆっくりと着地し、扉が開かれた。
待っていたのは、大柄な白い仮面の男だ。
「歓迎しよう諸君。我が名はモースト」
「あくまで実名は明かさないのだね」
「当然だ」
モーストは言った。
「すでにこの場には大量の剛王機が配置されている。我々モーストの幹部を相手取りながらその相手が出来るのだろうか」
「だから来た。魔王」
「ふん」
ベルフスが前に出ると、キャナが雷の結界を張った。
今結界の中には、ベルフス、キャナ、タラサ、そしてモーストの幹部が一人だ。
「皆さんはあの塔を目指してください。早々に決着をつけます」
イグリダ組とセン組は頷くと、中央の塔に向かって走り出した。
待ち構えていたように、剛王機が飛び出した。
「イグリダ、わしらが有象無象を食い止める!一刻も早く塔へ向かえ!」
「承知した!」
イグリダは頷くと、炎で道を切り拓いた。
「『インフェルノ』!」
「『紫電一閃』———ッッッ!!!」
それぞれが剛王機を無力化し、塔へたどり着かんと駆けた。
だが、その足は一つのナイフによって堰き止められた。
「よう」
イグリダに弾かれたナイフをロープで戻し、バリバルはニヤリと笑った。
「あれ、意外と驚かねえんだな」
「もとより君は信頼していないのでね」
そう言いつつも、イグリダは眉を顰めた。
バリバルは傭兵だ。かつてモーストから受けた仕事を達成できなかったことに不満を感じ、今一度依頼を受けたのかもしれない。
しかし、三人での旅を終えてバリバルはそれなりの良心を育んだはずだ。モーストに手を貸すとは思えなかった。
「生憎ここは通せねえ。帰んな」
「帰ると思うのか?俺は少なくとも君に敗北するほどの実力ではないと自負している。その上こちらは人数も有利だ」
「でも、人数じゃゴリ押せねえ敵もいる」
バリバルはロープを広げると、戦意を高めた。
「オラァ———ッッッ!!!」
剣技名のない風属性魔力攻撃が、三人を切り刻もうと空中でのたうち回った。
だが、所詮凶器は一つ。一度攻撃を弾いてしまえば、あの近付き難いナイフのガードを崩せる。
「『シールドオーラ』!」
「「『紫電一閃』———ッッッ!!!」」
アラスタが攻撃を弾いた後、イグリダとペトラの挟撃がバリバルに襲いかかった。
だが…
「『陽炎』」
二人に向けて炎が放たれた。
「何——」
炎属性の魔法だろうか。しかしバリバルは魔法使いではない。それでも、この炎はベルフスの『インフェルノ』を凌駕する威力だ。
「何をした?」
「当ててみろよ」
今度はバリバルがイグリダに切りかかった。
空中で幾度も捻るロープナイフは、軌道がわからない。タイミングを見て懐に潜り込まなければならない。
「『三刃虎』———ッッッ!!!」
体を捻り、回転しながらイグリダはバリバルに接近した。
ナイフは数メートル後方だ。今なら攻撃が届く。
「凪————」
「『陽炎』———ッッッ!!!」
剣技を放とうとした瞬間、水をも貫く膨大な熱量がイグリダに襲いかかった。
(やはりどうにも出来ないか…!)
イグリダは飛び下がった。
遠距離にいればナイフの餌食、近づけば燃やされる。そして、魔力はできるだけボスに使うべきだ。『覇色の剣光』は二度使えるほど魔力消費が少なくない。
「……は」
対策を考えていると、不意にイグリダは違和感を感じた。
アラスタとペトラが、何かを凝視しているのだ。
「二人とも…何を———」
「『インフェルノ』———ッッッ!!!」
「『紫電一閃』———ッッッ!!!」
二人は同時に技を放つと、そのままこの場を離れて駆けて行ってしまった。
「おいおい、イグリダ、無許可で他のとこ行っちゃったぞ?」
「…彼らなりの考えがあってのことだ。君は俺一人でやる」
そう言いつつも、イグリダは頭を悩ませていた。
新手の敵を見つけたと考えるのが妥当だが、どうにも腑に落ちない。何か敵の罠にかかっている可能性も考慮すべきだろう。
依然として状況は不利だ。むしろ先ほどよりも悪い。そしてもし万が一にも『覇色の剣光』で仕留め損なった場合、こちらの敗北は確定と言ってもいい。そもそも、強力な剣技でバリバルを消し去ってしまいたくはない。
そしてそこへ、更なる火種が舞い込んだ。
「…バリバル?」
赤いヘアピンが暗闇の中で光った。
「…あんた、こんなとこで何してんの?」
「ちっ…」
「どうやら思わぬ形で俺たちが再会してしまったな」
エフティとバリバルを睥睨し、イグリダはつぶやいた。




