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覇王記  作者: 沙菩天介
覇王編
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第十二話 勇者の猛進

 カタカタと何かを叩く音が、暗い部屋に響き渡っている。


 光り輝く板を眺めているのはイバナだ。


「……あいつ、俺が知らない間にこんなことを…」


 イバナはつぶやいた。


 これでギアがおかしな話し方をしている理由と、多くのモーストがボスに忠実な理由が出来た。幹部たちはまだ計画に携わっていないようだが、やはり気味が悪い。


 ギアのことは良い研究対象として見ていた。時折感情論でも説明できない行動があった。ある程度データをまとめていたが、徒労に終わったようだ。


「俺の魔道器いじって何してるんだ、イバナ?」


「ちっ…」


 イバナは両手をあげ、入口を睨んだ。


「最近…ボス、お前の動きが読めなくてな。作戦に支障が出てる」


「そんなことはどうでもいいけど。人のもの勝手に触っちゃダメですって習わなかったのかよ?」


「触られたくないなら、自分から情報を開示するか、セキュリティを強化するか、何らかの対策はしろ。お前の落ち度だ」


「なんでぇ?やっぱおかしいよコイツ…」


 ボスはそう言うと、ソファに腰掛けた。


「それで、何見てたんだ?」


「ギアとその他大勢の戦闘員の脳みそをいじったやつだ」


「ああ、あれな。すまんな、お前が嫌いなタイプの実験だと思ったんだ」


「想像通り吐き気がした。二度とこんな真似はするなよ」


「分かってねえな…」


 小言をつぶやいたボスに対し、イバナは僅かに苛立ったように睨みつけた。


「俺が、何を分かっていないって?」


「脳みそいじれば簡単に言うこと聞かせられるだろ?メリットしかない」


「冗談は休み休み言え。どう足掻いても人間は機械にはなれない。機械ですら制御は完璧じゃないのに、まだ全て解明できたわけじゃない脳みそいじって、不確定要素を増やして…」


「不確定要素だなんだって…お前ビビり過ぎじゃねえのか」


「そう言う問題じゃない。俺は作戦の成功率を下げてほしくないだけだ」


 確かに、簡単に言うことを聞かせられるのは大きなメリットだ。どれだけ強い敵だろうと、少し気絶させれば後は味方に引き込める。


 だが、生命の神秘は人間如きがコントロールできるほど単純ではない。この男にはそれが全く分かっていないようだ。


「とにかく、俺がモーストの参謀なんだ。お前は適当に玉座で踏ん反り返っていればいい」


「参謀ねえ」


 ボスは含むように笑った。


「何だ?」


「いや、見事な作戦だったよ。ザンはモースト内のタイマン性能はトップクラスだったし、センを先に排除すべきだってのも頷ける」


「何が言いたい?」


「皮肉だよ若造。ザンは死んだ」


 ザンが死んだ。それを聞いてイバナは目を大きく見開いた。


「死んだ…?」


「ああ、あいつは重要な戦力の一人だった。オリジンかクレスでも一緒に行っておけばこんな結果にはならなかっただろうなあ」


 ボスはにやにやと笑みを浮かべ、イバナの顔を覗き込んだ。


「誰が誰に勝つかなんて、何も決まっていない。お前がセンにザンをけしかけたことは、お前の大嫌いな不確定要素なんだよ。矛盾した奴め」


 そう言われて、イバナは顔を顰めた。


 ザンが出払っている隙に基地に攻めてきた場合を憂いて、できるだけ基地に戦力を残してしまった。その結果最悪の事態を招いてしまった。ザンが負けた場合の策を練っていればよかったのだ。


 完全にイバナの失態だ。


「…ラフトはまだ使えないのか?」


「用事って聞いてるだろ。そっちには行けないぜ」


「…クソ」


 イグリダ、セン、トーア、ベルフス、向こうには強大な戦力が大勢いる。一方こちらはギア、イメル、クレス、イバナ、バリバル、オリジンの六人と有象無象。イメルも他の幹部に肩を並べられるほどの実力はない。


「あーあ、あそこを落とされたらだいぶきついよな、イバナ?まともな防衛拠点がクアランドしかなくなっちまう」


「何とかする。例の実験データ借りるぞ」


 イバナは捨て台詞のようにそう言うと、早足で部屋を後にした。



 ※



「さて…」


 参謀室に集まったメンバーを眺め、イグリダは姿勢を正した。


 魔王軍の王と幹部、盗賊団の王と幹部、アラスタとトーアに加え、今回はセンとペトラも来てくれている。どうやら片付いたようだ。


 ようやく主戦力が揃ったと言える。


「まずは…アラスタ」


「うん」


 アラスタはうなずいた。


「僕はこの一週間の間に、英雄ゼウス様に協力を頼みに行った」


「ほう…」


 ベルフスは兜の中で声を漏らした。


「再び奴の『王雷』を見る時が来るとはな」


「いや…残念ながら、師匠は大怪我をしていた。参戦は見込めない。それに…」


「む…?」


「英雄ゼウスの塔が、破壊されていたんだ」


 間違いなくモーストの仕業だ。英雄ゼウスがイグリダ側についているということはすでに割れていたと考えるべきだろう。


「では、英雄ゼウスは戦力外と…」


 タラサは眼鏡を押し上げた。


「例の協力者、レオ・ベルセルクはクアランド王都で療養中とのことですから、作戦はこの場の人数で行うことを推奨します」


「そうするつもりだ。異論、もしくは誰か協力者を見つけられそうな者は?」


 イグリダの問いには、誰も答えなかった。


「分かった、作戦はここの戦力をもとにして考える。だが…向こうの戦力が分かっていない今、作戦を立てようにも立てられないな…」


 現状分かっている戦力はギア、イメル、そしてあの黒い笠の剣士のみだ。以前森の中でイグリダの前に姿を現した黒いコートのモーストも、戦ったことはないため実力がわからない。


「一ついいか」


 センが手を挙げた。


「どうしました、剣聖セン」


「黒い剣士、ザンという名だが、わしとペトラが始末した」


「……………いつの間に…」


 彼がいないとなれば、向こうの戦力も大きく減ったことだろう。イグリダの目で捉えられない動きの秘密は少し気になるが、イメルとギアの実力からして、全員があれほどの手練れだとは考えにくい。


「依然として作戦は立てられないが、戦力を平等にした部隊を四つほど組む」


「その部隊で状況にタイオーするってことですね」


「ああ。主戦力は、俺、魔王ベルフス、トーア、剣聖センの四人だ。これをリーダーにして部隊を組む」


 この四人に次ぐ実力者は、アラスタ、タラサ、キオ、グランあたりだろう。シカナはタラサ戦で活躍したとのことだが、やはり戦闘のセンスはグランの方が上だ。


 後はシカナ、エンド、ペトラ、キャナの四人だ。これらを分けていけば…


「俺、アラスタ、ペトラで一組。魔王、タラサ、キャナで一組。トーア、キオ、エンドで一組。剣聖セン、グラン、シカナで一組………」


「私たち結局魔王組じゃないですかー!」


「娘よ、パパと同じグループは嫌か?」


「嫌です!」


 喚き散らすキャナを抱え、ベルフスは沈むように再び着席した。


「イグリダ、一応理由を聞いてもいいか。何故その分け方なのか気になる」


「ああ、キオ。今皆に話そうと思っていたところだ」


 イグリダは言った。


「まず俺、アラスタ、ペトラは、一応最初の旅で仲間だった。それなりの連携が見込めるはずだ」


「そうねえ」


「次にトーア組。トーアはキオと剣を交えたことがあり、エンドもキオと共にギア戦に臨んだ。こちらもそれなりに連携が期待できる。それに、トーアなら誰のカバーでも出来るだろう」


「で、俺らは余ったからってか?」


「違う。グランもシカナも、一時期剣聖センの元で修行をしていたと聞いている」


「ええ…今更ジジイと仲良しこよしなんか出来るわけねえだろ…」


 グランがセンを恨んでいるのは分かっている。しかしここにセンがいるということは、センの復讐は何らかの形で終わりを迎えたと考えてもいいだろう。今のセンならグランを冷たくあしらうようなことはしないはずだ。


「わしは最善を尽くすのみだ」


「まあ、連携は期待すんなよ覇王サマ」


 二人は互いにそっぽを向いた。


 二人の調子を見ると、どうやらただ単にセンに騙されていたのが悔しい、という話ではなさそうだ。これをきっかけに仲を戻してもらえれば…と甘い期待をしておこう。


「さて…決行はいつにしようか」


 剛王城は剛王機も魔法使いも配備され、戦争の準備は万端のようだ。急く必要もなければ待つ必要もない。日程が意味をなすことはないだろう。


 寧ろ、このまま行っても良い。


「そういえば、剛王機と魔法使いの群れはどうやって突破するつもりなんだ?」


 シカナは言った。


「いくらこちらに強者が多いとはいえ、何千とある群れに突撃するのは無理がある」


 悔しいことにシカナの言う通りではある。アルディーヴァの港戦ではトーアは十人ほどを相手にしていたが、やはり剣士は一対一性能の方が高い。現状あの群れを一人で数百相手取れるのはベルフスとアラスタくらいだろう。『覇色の剣光アトリビュート』は消費魔力が多いため、温存しておきたい。


「なるべく隠密で行くっていうのはどうですか?」


「いや、それはだめだよ。隠密で行ってもし見つかったら、取り囲まれた状態で戦いが始まる」


 アラスタは言った。


「とりあえず、魔法使いは空から一斉に炎魔法を放つ。これで結構剛王機を無力化できると思うんだ」


「なるほど…」


 炎魔法を扱えるのはアラスタ、ベルフス、エンド、トーアの四人だ。しかしトーアは中級の炎魔法が使えないため、彼には魔法使いの殲滅を任せた方がいいだろう。


「あとは実践次第だな」


 この戦いに勝利すれば、この大陸に平和の敵はいなくなる。ようやく天下統一に向けて大きく動き出せるのだ。


 決意を固め、イグリダが指示を出そうとすると…


「みなさん、います?ああよかった」


 懐かしい顔が参謀室に入ってきた。


「君は…エグメル?」


「ああはいイグリダさん、お久しぶりです。今緊急の知らせがありましてね」


 『教皇』の村担当の魔王軍兵士エグメルは、ニコニコと笑いながらイグリダに耳打ちした。


「誰だか知らないですけど、剛王機と魔法使いの群れを半壊させた人がいるらしいですよ」


「……なるほど」


 考えられるのは数人しかいない。それが誰であれ、今が絶好のチャンスだ。


「いますぐに向かおう。ベルフス、飛行魔法使いを用意してくれ」



 ※



 色とりどりに輝く魔力攻撃は、ある一つの対象に向けて大量に放たれた。


 数百に渡るその砲撃は、もはや逃げる隙すら与えない。圧倒的な数による圧倒的な暴力だ。


 だが、それらの魔力攻撃は対象の10メートル以内に入ったところで、地に引き寄せられるように次々と落ちていった。


 襲いかかる剛王機の関節部分を勇者の剣で切り裂き、エフティは剛王城へ近づいていく。


 あの日、全てを知ったあの日、エフティは剛王城の地下で見た。ギアの背後には巨大な扉があった。きっとあそこは奴らの重要な拠点に違いない。


 イグリダを殺す前に、まずはこの惨劇をやめさせなければ。


 その一心で、エフティは駆けた。

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