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覇王記  作者: 沙菩天介
覇王編
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第九話 作戦会議

 菓子を口に運びながら、センは庭で転げ回るロザとレオの姿を眺めていた。色のない世界で楽しそうに笑う二人を見ても、微笑ましくない。


「相変わらず草餅が好きだな、師匠」


 レオの声が聞こえ、センはため息をついた。


「ペトラの指南は終わったのか」


「まあな。ペトラちゃん飲み込み早くてさ、きっと『無我の境地』を習得できるよ」


「原理もわからない技を習得できるはずがなかろう。気休めはよせ」


 センは歯のない歯茎で無理矢理に餅を噛み砕き、飲み込んだ。


 今はトーアだ。彼がザンに勝てれば全てが終わる。センはなんの気兼ねもなく人生を終えることができる。復讐が終わるのだ。


「心に余裕持とうぜ」


「…ふん」


「そうだ!」


 レオは手をポンと叩いた。


「久しぶりに町降りてこいよ。どうせペトラちゃんしばらく外出してないだろ」


 そう言われて、センは眉を顰めた。


「何のつもりだ」


「言ったろ。心に余裕持てって」


「今更ペトラと仲良く話せると思うのか」


「ペトラちゃんはそうしてくれると思うよ」


「……」


 トーアを待っていても仕方がない。ここは息子の助言に従ってみるとしよう。


「ペトラは?」


「風呂入って…お、ペトラちゃーん?ちょっといい?」


「何かしらぁ」


 風呂から上がった直後なのだろう。湯気を立てながら、ペトラは髪を結んでいた。


「師匠がペトラちゃんと一緒に買い出しに行きたいんだってさ」


「…レオが言ったんだ」


「外に出るのは久しぶりねぇ。準備してくるわぁ」


「必要ない。行って帰るだけだ」


 センはそう言うと、急ぐように屋敷を出た。


 ロザとレオも一緒に歩き出した。買い出しの時間は、この二人と何でもない話や、パッと思いついた遊びをしながら到着まで暇を潰した記憶がある。レオはしばしば森に突入し、ロザはそこから追いかけっこを開始する。そんな光景をセンは今のように眺めていた。


 山道を抜け、橋を渡ると、ある程度整備された道が現れた。剣聖を訪ねるべく旅人たちが歩いた痕跡だ。しかしセンの目には、昔通りの草原が映っていた。


「綺麗な景色ねぇ」


「お前は森しか見たことが無かったな」


「ええ。でも、何もなさそうで退屈ねぇ」


「寝転んでみろ。心地良いぞ」


 よく、三人で平原のど真ん中で弁当を食べたものだ。森とは違って日光が直接当たるこの場所は、春と秋に来るのに最適だった。何せロザもレオも紅葉や花見には全く興味がなかったのだ。


 ペトラは試しに寝転がり、そのまま凄まじい勢いで眠りについてしまった。


「…やれやれ」


 ペトラが寝ないはずがないと後で気づき、センはため息をついた。


 しかし、どこか心が安らいでいるような気がする。この程度の距離を歩いた程度で疲れるほど老ぼれてはいないが、少しばかり眠くなってきたようだ。


 少し寝てもバチが当たることはないだろう。



 ※



『太陽』のバリバルを名乗る男を、一同は怪訝そうな顔で見ていた。


「『太陽』だと?その名を冠するのは別の人間だったと記憶しているが…」


 今までずっと口を閉じていたクレスが、バリバルを睨んだ。


「何者だ?」


「ボスとオリジンから俺のこと何も聞かされてないのかよ」


「どういうことだ、オリジン」


 クレスは言った。


「我々の組織に、身分も目的も分からない不審者を入れるとは…」


「いいえクレス殿、この男に目的などない。ただの流れ者だ」


 オリジンは言った。


「そして、ザンに会いたがっていた」


「……僕?」


「かつてこの青年を教えていたようだが…」


「……うーん…、………………ああ、思い出した」


 ザンは仮面の下で微笑んだ。


「僕に会いに来たってこと?」


「会いに来たっていうか…師匠には借りがあるし、計画に協力しようかなって感じ」


 それを聞いて、イバナは訝しむような顔をした。


 イバナがバリバルを信用していないのは自覚している。だが、彼は『太陽』の異能を先代よりも上手く使いこなした。モーストの利となることは間違いない。


 それに、使い方を誤ったのなら処分すればいい。


「まあ、新しい仲間だ。快く受け入れてやろう、みんな」


「そうですね。最初から疑っててもどうしようもないですし」


 イバナの言葉にイメルが頷き、バリバルは空席に案内された。


「で、俺がお前らの組織に貢献できることといえば、戦闘とイグリダの情報くらいだが…」


「それは全て私が引き受けている。お前がイグリダと共に旅をしている光景も全て記憶している」


「あー、俺役に立たないと思っておいた方がいいよ」


 バリバルは投げやりでそう言うと踏ん反り返った。


 だが、イバナは知っている。『太陽』のバリバルは理論上無敵だと言うことを。


 二週間前、『太陽』の村を襲撃したのはイバナ、オリジンの二人だ。『太陽』の村では独自の文明を築いていたが、モーストに比べれば赤子の玩具だ。差し詰め未完成で滅んだ古代文明と言ったところである。


 そしてモーストに志願したバリバルに無理やり『太陽』を植え付けることに成功した。先代の異能者は拒んでいたが、拷問すれば割とあっさり引き受けてくれるものだ。実際ボスは今まで幾つかの異能を拷問で操ってきたらしい。


 そして、『太陽』のバリバルが誕生した。この計画はイバナとボスが考案したものだ。我ながらいい出来だと感じている。


「お前には然るべき場所で役に立ってもらう」


「然るべき場所って?」


「イグリダとの決戦だ。この場所が割れた以上、攻めてくる日は遠くない」


 オリジンの言葉に、一同は無言になった。


 彼らは強い。モーストの全兵力を以ってしても勝率は70%を下回るというのがイバナの計算だ。失敗率30%は確実に当たる、というのは間違いなく過言だが、経験上低い数字ではない。


 皆、イバナを見ている。策を待っているというような表情だ。


「…とりあえず、特に注意すべき人間は三人」


「イグリダとトーア、あとは…ベルフスか?」


「いや、ベルフスは…クレスかラフトあたりで処理出来るというのが俺の考えだ」


「理由を聞こうか。確かに俺とラフトはクアランド随一の魔法使いだが、かの魔王相手に単体で善戦できるほど過信してはいない」


「じゃあ、もっと自分を信じろよ。奴の強さは圧倒的な技の物量にある。たかが魔法の弾幕程度で怯むほどお前たちは弱くない。もう一人はセンの方だ」


 剣聖の力は凄まじい。タイマン性能ではザンに劣るものの、一千の魔法使いの大群相手に一人で特攻できるほどの強さを持つ。この施設で待機している戦闘要員たちは、センがいるとなんの役にも立たないだろう。


「正直、イグリダは割となんとか出来るんじゃないかと思っている。つまり第一に手を打っておくべきなのがセンだ。俺は奴の屋敷にザンを向かわせるのが良いと思う」


「僕?」


「ああ、現状奴に確実に勝てるのはお前くらいだ。オリジンも勝てる可能性は十分にあるが、実際センと戦って勝ったのはお前しかいない」


「ふむ。今すぐに向かうさ」


 ザンは納得したように頷き、『ワープ』で消えた。


「さて、残りの我々だが…どうするイバナ」


 オリジンは言った。


 イグリダたちがどこから攻めてくるか分からない以上、陣形や配置などの要素はほとんど役に立たない。しかし、敵戦力は十分に把握している。


「まずは情報を整理していこう」


 イバナはそう言うと、ホワイトボードに文字を書き殴っていった。


 敵の主戦力一人目、イグリダ。彼の能力は主に三つ。


 一つ目は全属性の剣技。魔法とは違い即興で作れる技。全属性扱えるため、いかなる戦闘にも対応できる。特に『覇色の剣光アトリビュート』の威力は絶大。


 二つ目は異常な回避力。棒を両手剣と合体させれば相手の攻撃を防ぐことができなくなる代わりに、驚異的な動体視力で攻撃を回避できる。


 三つ目は『覇気魔纏』。トーアが開発した魔纏という技の全属性バージョン。斬撃・打撃・刺激の強化、スピードの強化、物理防御性能の強化、ありとあらゆる能力を強化する。その代わりに、体への負担が最も大きいため数分もすれば力尽きる。


 上記を書いてから、イバナは手を止めた。


 もう一つ『教皇』の異能があるが、彼はおそらく無神論者だろう。イバナの勝手な憶測だが、神を信仰しているような男が世界を手中に収めようとすることはないはずだ。


 敵の主戦力二人目、トーア。彼の能力は五つ。


 一つ目はイグリダ同様に剣技の使用。彼の場合は雷属性しか使えない。


 二つ目は魔法。彼は何故か魔法をほとんど使わないため、データはあまり揃っていない。しかしいざという時に上級魔法を放ってくるという前例がある。


 三つ目は『雷魔纏』。驚異的なスピードを手に入れる代わりに身体中が少し痙攣する。これを使っているときはあまり正確な斬撃を見舞えない。


 四つ目は剣域。今のところ披露しているものは『雷域・蛍光の型』のみ。この剣域は雷魔力のオーブを空気中に生成し、そこから剣技を放つというものだ。


 五つ目は、驚くほど正確な斬撃術。


「…五つ目に説明は要らないな」


 五つ目が一番厄介だ。ギア戦では、上級魔法『地壊儀』を真っ二つに切ってしまった。モーストは全員例の白い金属を着用しているが、炎を食らったらあとはトーアの斬撃の餌食だろう。


 敵の主戦力三人目、ベルフス。彼の能力は三つ。


 一つ目は洗練された魔力運搬技術。いかなる魔法も常に最高クラスの精度で放ってくる。


 二つ目は災王化。細胞の数だけ分体を生成し、分体から魔法の弾幕を放つ。そしてそれらの分体を全て始末しなければ本体に攻撃を加える事が出来ない。


 三つ目は奥義『王雷・獄』。超強力な範囲攻撃魔法。無数の雷が降り注ぎ、対象は焼き尽くされる。連続攻撃であるため『シールドオーラ』は効かない。


「…とりあえず、メインの戦力はこれくらいだ」


「ベルフスは注意する必要がないのでは?」


「さっき確かにそう言ったが、それはクレスとラフトの戦力を想定した場合の話だ。ベルフスが強敵であることに間違いはない」


「そうなんですね…ちなみに盗賊王はどうなんです?」


「あいつはマークしなくていい。扱えるのは水と氷の剣技だけで、魔纏も剣域も使えない。別に洗練されているわけでもない。盗賊団の戦力はキオだけだ」


 キオの名前が出た途端、一同は苦い顔をした。


「まあとにかく、この情報を元にして作戦を立てよう」

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