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覇王記  作者: 沙菩天介
覇王編
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第七話 モーストの参謀

「ああ、だめだ。なんでそんなすぐに感情的になる。よく考えてみろ」


 心底うんざりしたような顔でイバナは文句を言った。


「筋が通ってない。理に適ってないだろ。何で分からない…。ここで俺に反抗した場合のメリットとデメリット、しっかり考えているのか?」


「お前を殺せばデメリットなんかなくなる!感情的になってるわけじゃない!全ては今この時のために計画したことだ!」


 白い仮面を床に投げつけ、発狂するように話すその男は、今にもイバナに殴りかかりそうである。その様子を見てイバナは何度目になるか分からないため息を吐いた。


「憎悪って感情なんだよ。知らなかったのか?モーストに入った時からずっと感情的だったってことか?それに、俺を殺したらおそらくボスがお前のこと殺すが、どうなんだ?俺殺せれば死んでもいいのか?それとも、結局頭が回っていないのか?」


「黙れ!何もかも見透かしたように抜かしやがって!そうやって俺の家族も———」


「黙れ。ちっ…会話通じないのが一番面倒だ。いや…とはいえ俺もかなり話を逸らしているか。悪かった」


「——ッ!」


 男はイバナに手のひらを向け、叫んだ。


「『イヴィルストーム』———ッッッ!!!」


「『ワードキャンセル』」


 イバナは魔法を消滅させ、背後から闇を出現させた。


「いつから暴力に変わった?」


「あ…う…」


「話を逸らしたのは悪かった。いっぺんに話の内容変わったら何が何だか分からなくなるのは当然だ。とりあえず状況を整理しよう」


 イバナは腕組みをして、背もたれに寄りかかった。


「お前は俺に家族を殺された恨みをはらすべく、モーストに潜入し、十数年間モーストとして働いた。そしてとうとう俺と二人きりになり、復讐を遂げる時がやってきたと…今のところはこんな感じか?」


「……」


「そこで質問なんだが、お前が俺を殺した後どうするつもりなのか教えてくれないか?復讐だけってのはどうにも頷けなくてな」


「死ぬに決まってんだろおおおお!お前を殺して!俺も家族に会いに————」


 グシャ、と音を立てて部屋に血飛沫が舞った。


 土属性中級魔法『ガイア』による圧死だ。死体を眺めながら、イバナは目を細めた。


 イバナを殺した後で死ぬつもりなら、何の意味もない。何か有意義な目的があったのなら放置してみても良かったが、やはりただ感情的になっていただけのようだ。


「家族に会いに行きたいなら、俺と一緒に行っちゃだめだろ…」


 イバナは呆れたように呟いた。


 この研究施設では、魔法に関する様々な研究をしている。人体強化魔法、儀式魔法、英雄奥義に匹敵する魔法、あらゆる魔法の研究に尽力し、回復魔法以外であれば、様々な研究結果を出している。クアランド一の研究施設と言ってもいいだろう。


 グレモル王もこの施設を高く評価してくれている。


 最も、人攫いに関しては公に出していないが。


「少しいいか」


「ああいいよ、入ってくれ」


 イバナが許可をすると、黒いフードのモーストが入室してきた。


 何度もイグリダの前に姿を現している、白い仮面の男だ。


「あまり部屋を汚すな。お前の悪い癖だ」


「大体の人間が口を揃えて部屋を片付けろと言うが、そんなこと言っている暇があったら研究を手伝ってくれないか?」


「ふむ…適切な処理を施していない人間の死体を使って一体何をするのか、興味深いな。教えてもらいたい」


「…それのことを言っていたのか、悪かった」


 イバナは岩に押し潰された死体を見て顔を顰めた。


「それにしてもオリジン、お前がここに来るのは珍しいな」


「……そうだな」


「で、何か分かったことは?」


「良くない知らせがある」


 オリジンはため息を吐いた。


「ギアが唐突に向こうを裏切ったようだ。おかげで例の施設が割れた」


「…あいつは嫌いだ。すぐに叫ぶ」


「そういえば、感情的な人間は嫌いだったな。お前はイグリダ戦には参加しなくてもいい。おそらくギアと協力する羽目になる」


 オリジンなりの気遣いだろう。確かにイバナはギアが嫌いだ。暴力を信仰していそうというのもあるが、何か不満があるとすぐに赤子のように騒ぎ出す。


 だが、同時に興味深い研究対象としても見ている。魔物の力を応用すれば、モーストをさらに強化できるだろう。


「そういえば…『太陽』の研究がまだだったな」


「彼も連れて行くつもりだ。良い戦力になる」


「じゃあ、俺も見たい」


「承知した。イグリダはいつ攻めてくるか分からない。出来るだけ早く向こうに移動しておいたほうがいい」


 そう言うと、オリジンはワープで消えた。



 ※



 イグリダたちが魔王城に帰還してから約一週間、覇王一行は深刻な状況に悩まされていた。


 ギアが失踪したのだ。前々からモーストと関係があることは分かっていたが、モーストが集団だと分かった瞬間にこれだ。モーストに所属していると判断しても良いかもしれない。


 現在イグリダは、覇王一行の中心人物たちと、参謀室で会議をしていた。


 ギアと行動を共にしていたタラサは、納得していなかった。


「…彼は変わり者でしたが…私とキャナとの友情は大事にしてくれていたはずです」


「そんなことはありませんよ。それに、説得力がありません。あの男はもう裏切ったとダンテーしていいです」


 先ほどから言い合いをしている幹部二人を、ベルフスはため息をつきながら眺めていた。


「覇王よ、我輩にとってもギアは優秀な部下であった」


「そのようだ」


「だからこそ、ギアの本性を徹底的に暴き、安心を得なければならない。手を貸せ」


「俺たちの監視思想はそこから来ているのかもしれない…」


 茶化してはいるが、イグリダは頼まれなくとも協力するつもりだ。ギアが再び敵になったのであれば、十分な対策をしなければ負けかねない。そう言った意味では、ベルフスは非常に頼りになる。


「現状、手がかりはギアの城のみだ。我輩から離れて城を持ちたいと言った以上、何らかの施設にしているのは確実と言えよう」


「突撃すべきか否か…」


「万が一モーストの拠点だった場合、万全を期す必要がある。それに天災の類が出た場合、敗北の可能性は十分にある」


「では部隊を編成しよう」


 今のところ最強の戦力となり得るのは、イグリダ、ベルフス、トーア、センの四人だ。グランやキオ、タラサ、アラスタも十分な強さを持っているが、イグリダたちには一歩届かない。


 そして、センとトーアは絶対に関わらない。どうやら向こうもいざこざがあったらしい。参戦は見込めないだろう。


「話は聞いた。モーストの居場所を突き止めたみたいだな」


 しかし、トーアはすでに部屋の入り口からのそのそと入ってきていた。


「君か。剣聖センの監視を続けると思っていたが…」


「センの復讐相手がモーストだと聞いたんだ。俺もあんたらと一緒に行く」


「そうか若造。それなりの戦果を期待している」


「ああ」


 そっけなく返事をすると、トーアは遠慮なく椅子に座った。


「さて、ギアの城の間取り図はあるかな。一度訪れたことはあるが、階段以外見ていなくてね」


「一応ありますけど…」


 そう言って、キャナは部屋を後にした。


「なあ、俺だったら施設は地下に作るけど」


 グランは言った。


「地下なら攻めづらいし、俺のアジトの倉庫だってそうだろ」


「間取り図は意味ないと?」


「まあ、あって損はねえかもしんねえけど…」


 確かにモーストの施設にするなら、ベルフスにわざわざ頼む必要はない。自分で勝手に地下を広げればいいだけの話だ。地下室が巨大な研究所になっている可能性は大いにあり得る。


「作戦の立てようがないな…」


 イグリダが呟くと、参謀室内はうめき声で溢れた。


「調査隊を編成してみてはどうでしょうか」


「ならぬ」


 タラサの案を、ベルフスは真っ向から否定した。


「『ワープ』で逃げられれば良いと考えているのかもしれんが、おそらく奴らにそれは通用しない」


「理由をお聞きしても?」


「『ワードキャンセル』という難易度の高い魔法が存在する。相手の魔法の発動に合わせて放てば無効化できるというものだ。奴らがそれを会得していた場合、『ワープ』が無効化されると共に殺される」


「……」


 現状、モーストとの戦闘データはイメルのものしか存在しない。しかし彼ほどの闇の繰り手が他に大勢いるのなら、即死もあり得ない話ではない。


 そしてさらに、頭を悩ませる情報が入ってきた。


「悪い知らせです」


「どうした、キャナ」


 キャナは剛王城の間取り図を机に置くと、眉を顰めた。


「剛王城の周辺に、数千機の剛王機と魔法使いの姿をカクニンしたと報告がありました」


 要するに、こちらの動きが読まれていると言うことだ。大群を潜り抜けて潜入することはできない。仮に突破するとして、総力を上げなければ敗北は確実だ。


 覇王と魔王の最高火力を放てばある程度は一掃できるが、その後のモースト戦でやられかねない。


(しかし…あのモースト…)


 戦意を抱いていたにも関わらず、動きが全く見えなかった。あれと本気で戦うことになるのなら、情報収集は絶対にしておくべきだ。勝ち筋が全く見えない。


「…今ここで話し合っても仕方がない。一週間後、また集まろう」


「……ああ」


 皆が次々と退室していく様子を眺めながら、残ったイグリダとアラスタは二人でため息を吐いた。


「…一週間…、何も起こらなければ良いんだけど…」


「嫌な予感がする」


 そもそも、あの危険な組織を一週間も放置したくない。こちらの戦争の意思に気づいたのであれば、向こうから潰しにかかってきてもおかしくはないのだ。


 危機感を感じて、勝手に行動する仲間もいることだろう。


「…魔王城の守りを固めておいて」


「君はどうする?」


「英雄様のところへ行く」


 アラスタは言った。


「あの人なら、助けてくれるかもしれない」



 ※



 火山の村は、溢れ出すエネルギーによって高度な文明が発達していた。だが、今はもうその姿はない。


 散りばめられた黒、その一つ一つが人間だ。かつてこの村で、今後の世界に多大な功績を残すであろう発明をしていた人々は、きっと一夜にしてその姿を闇へと変えた。


 沸いたのは怒りと疑問だ。


「あたしがイグリダを倒したら…どうなる?」


 終わり用のない人間の悪意、管理できない強大な力、それを抑えることが出来るのは誰なのか。エフティに答えを出す事はできなかった。

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