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覇王記  作者: 沙菩天介
魔王編
31/59

第二十話 宣戦布告

 トーア、センの二人の剣士。グラン、アグラ、エンド、シカナ、キオの五人の盗賊。そしてアラスタ。集まった戦士はこれだけだ。


 それに、アグラはそもそも戦士ではない。


「…こいつは盗みの天才だ。…イグリダを助けるっつう超重要任務を任せることにする」


 グランはアグラの背をバシッと叩くと、センを睨んだ。


「…で、ジジイが来たってことは…魔王軍全員任せても良いわけだ」


「無論だ」


「はっ、癪だねえ…」


 とはいえ、これで突撃の準備は整った。あとは宣戦布告をし、避難を誘発すれば王都に進撃を開始できる。


「ターナスとヘイルには、エフティとかいう女を探しに行ってもらった。イグリダを貶めた以上、相応のけじめはつけてもらうことになる」


「グランもすっかりイグリダの手下だなぁー」


「それといった恩があるわけじゃねえんだがな」


 アグラの言葉に、グランは苦笑した。


「それじゃあ皆、作戦を考えよう」


 アラスタは言った。


「まず、アルディーヴァ王都は地上と地下の二段構成だ。僕が正面から入り、拡声魔法で避難を誘発する。攻め方を考えたい」


「正面は最も敵が多い場所だ。わしが護衛として王子に着いていく」


「「異議なーし」」


 アラスタだけではとても無数の兵士を相手にすることはできない。センの実力は分からないが、剣聖と呼ばれている以上期待しても良いだろう。


「『愚者』の村の捕虜二人が消えていたことを考えると、おそらく幹部三人が集結している。俺とイグリダの共闘時に判明したことだが、ギアの攻略には炎属性が必須だ」


「ならエンドを連れて行けよ。こいつは炎属性魔法しか使えねえ代わりに、練度はプロ並みだからな」


 エンドが使える攻撃魔法は、『ファイア』と『インフェルノ』のみだ。しかし、魔法は練度を上げれば火力も上がる。ギアの金属を溶かすには、エンドの力が必要だ。


「キャナって人は問題ないとして、誰か『海王』について知ってる人は?」


 アラスタの問いに、誰も答えなかった。当然のことながら、ここ数十年クラーケンは出現していないため、魔物の勉強をわざわざしない限り、知り得ないことだ。


「じゃあ、できるだけ人数は多い方がいいね。キャナは突入後僕が相手をするから、グラン、シカナ、キオに任せてもいいかな」


「ああ、了解だ。アグラは見つからないように、なおかつ全力でイグリダの元へ向かえ」


「合点承知だぁー」


 アグラは親指を立てると、ダッシュで王都に入って行ってしまった。


「何やってんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「行こう、センさん!」


「うむ」


 グランの怒声と共に、アラスタとセンは走り出した。



 ※



 街に宣戦布告の合図が聴こえ、住民の避難を終えたベルフスは、再びイグリダの牢屋の前に戻ってきた。


「軍と軍の力比べだと思っていたが…貴様の用意した兵は十にも満たぬようだな」


「……」


「何か言うが良い、覇王」


 言いながら、ベルフスはため息を吐いた。


 らしくもない。イグリダが何も話さないことに対して僅かな不安を覚えるなど、魔王の面目はズタズタである。


 キャナには数万の動物の死体を与え、存分に分体を生成してもらった。魔王軍の魔法使いたちと合わせればとても少数人に相手できるものではなくなる。


 ベルフスが気にかけることなど何もない。ただここでイグリダと共に戦いを待っていればいいのだ。


 だが、思いもよらない報告が入ってきた。


「…たった一人の兵が、全雑兵を相手にしているだと?」


「は!」


「馬鹿げたことを。そんな事は幹部でも出来ん」


「事実であります!」


「………」


 ベルフスはまじまじとイグリダを見つめた。


「貴様の兵に、一人で数千の雑兵と数万の分体を相手取ることが出来る兵がいるのか?」


「最強の剣士の存在は知っている。彼の実力は知らないが」



 ※



「え、本当に全兵任せるの?」


「ああ、俺たちは早く幹部の元へ向かうぞ」


 後ろを心配そうに振り向くアラスタを流し見て、トーアは顔を引き締めた。


 アルディーヴァ王都の地形は非常に入り組んでいて、地下への入り口はいくつもあった。雑兵をかき分けながら各員地下に飛び込んだため、今はトーアとアラスタという組み合わせになってしまっている。


 地下も同じような光景がいくつも並んでいるので、早く大通りに出なければならない。


「トーア!止まって!」


 アラスタの声が聞こえ、トーアは踏みとどまった。


「何だ」


「結界が張られてる!そこから一歩進んだら感電するよ!」


「…ッ」


 言われてみれば、雷の魔力を感じる。なるほど考えたものだ。


「アンタか、キャナ」


「ごメートー、私です」


 物陰に隠れていたキャナは、口をニンマリと釣り上げながら拍手をした。


「ギアがやられたのは紛れもなくあなたのせいなので、ここで私と遊んでいてもらいます」


「結界は『シールドオーラ』とは違うのか」


「はい。別に外からのコーゲキも防げないので、ただのセッチマホーです。その代わり、『シールドオーラ』みたいにすぐ壊れたりしません」


 なるほど、ただ人を閉じ込めておくための魔法らしい。非常にまずい。


 トーアがいなくなれば、ギアと戦うのはエンドだけになってしまう。グランたちの中から誰かをギアの方に回すとしても、海王の対策が不十分になる。


「頑張れば、あなたほどのジツリョクシャならこのバリアを壊せるかもしれませんけど、私がジャマしますからね」


「…厄介だ」


「トーア、僕ならこの結界を解除できるかもしれない」


「何分かかる」


「…15分は欲しい」


「分かった」


 15分だ。たったの15分アラスタを守ればいい。


 だが、その15分で一体どれだけの仲間が傷つくだろうか。


「頼むぞ、キオ」



 ※



「はぁッ!」


「っせえイ!」


 無骨な大剣とギアの拳が、まるで威力は互角とでもいうようにぶつかり合った。


 ギアの拳は大剣に匹敵するほど強く、キオの剣は拳に匹敵するほど速い。そして幾度も衝突を重ねながらも、互いの武器は少しも削れることがなかった。


「『インフェルノ』!」


「しゃらくせエ——ッ!」


 ギアは身を翻して中級炎魔法を回避すると、エンドに向かって突進した。


 だが、それを防ぐためにキオは空気砲を噴射して立ちはだかり、剣を振り上げてギアを吹き飛ばした。


 ギアの体は無敵だが、衝撃は受ける。住宅街の壁を突き抜け、下方の階層は半壊してしまった。


「丈夫な建物だ」


 キオはそう呟き、僅かに上階を流しみた。


 おそらく魔法で固定してあるのだろう。下部が半壊したにもかかわらず、上は微塵も動かない。


「ヒャハァー!効かないねエ!」


 ギアは首を鳴らしながら余裕の表情で歩いている。


「『インフェルノ』にさえ当たらなけりゃ俺は不死身。お前らが勝てる未来が想像できねえナ」


「いいや、俺は君を殺すためにここに来た!エンドさんには指一本触れさせない!」


「俺を殺すのカ?悲しいなァー、昔は仲良くしてく———」


「———『インフェルノ』!」


 再び灼熱の炎が大通りを赤く染め上げ、ギアは歯軋りした。少しだけ籠手に傷がついてしまったようだ。


「邪魔なんだヨ!弱えくせにしゃしゃりやがっテ!」


「よそ見している暇があるのか!」


「よそ見してるように見えんのカ!?」


 再び武器がぶつかり合い、二人は互いに距離をとった。


 やがて、キオは左右に空気砲を交互に放ちながら距離を詰めた。


「魔法使いじゃねえお前ガ!その単調な攻撃で俺を倒せるわけがねえだロ!」


「だからどうした!」


「無意義ダ!諦めロ!」


「俺が君に勝てないのなら、或いは無意味かもな!」


 キオは剣を振り上げ、見飽きた突進を繰り返した。


 だが、その攻撃は速度を増していく。届かぬ刃も、見る間にギアの胸部の近付いている。


 やがて、その剣は届いた。


(無駄ダ…!俺は結界で守られている!)


 ギアがほくそ笑んだ次の瞬間に、ギアの体は灼熱に覆われた。


「なァ———ッッッ!?」


 見れば、大剣から空気砲ではなく火炎放射が行われている。


 先ほどまでギアは、僅かに疑問を持っていた。なぜ無敵の結界があるにも関わらず、この男は連撃を試みるのだろう、と。攻撃が当たっても意味がないのは一目瞭然だった。


 だがキオの狙いは、完全なゼロ距離放射による確実な勝利だったのだ。結界を持っているからと余裕のギアに対して、最も大きな一打である。


 まさかこの剣にこのような仕掛けが施されているとは。


 キオが突発的に放った炎の攻撃は、ギアが纏う金属を完全に焼き尽くした。


「加熱部分と放出部分だけ別の金属でできてやがるのカ!」


「竜が住むと言われる山の鉱石で作られている。君のバリアは消えたも同然だ」


「ハッ!勝ち誇るのはまだ早エ!お前にトーアほどのスピードは出せねえヨ!」


 籠手はあくまで爪を守るためのもの。装備が燃やされたからといって、ギアの弱点にキオの攻撃は届かない。


 キオは歯噛みしながら剣を構えた。

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