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覇王記  作者: 沙菩天介
魔王編
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第十二話 宝探し

 パチパチと、静けさの中の僅かな心地よい音が、イグリダの意識を覚醒させた。


 聞き慣れた音だ。ここ数日で何度も聞いている音、これは薪が燃えている音だ。意識は回復しつつも、イグリダは目を閉じていたかった。


 このままずっと、温かい音の中で目を閉じていたい。そうすれば、三人での旅がまだ続いていると錯覚できる。


 だが、微かに目にはいった男の姿に、イグリダは飛び起きた。


「トーアか…?」


「…目を覚ましたみたいだな」


 髪のちじれた青年は、木の枝で焚き火をつついていた。


 洞窟だ。歩けばすぐに外に出られるが、公道が見える訳でもないので、どのあたりなのか見当もつかない。


「…アンタはギアに殴られ、壁を貫通して三階から落下した。アンタが寝込んでいたのは一週間だ」


「ふむ、自分の頑丈さに驚いた」


「いや、戦意結界だ」


「何かな、それは」


「戦意を抱くと、魔力の巡回速度が上昇し、自分の肉体に簡易的な結界を出現させる。アンタは落ちる瞬間まで、戦意がみなぎっていたんだろうな」


「………」


 そう言われて、イグリダは黙り込んでしまった。


 あの時イグリダが抱いていたのは戦意ではなく、殺意だ。それがもたらす効果が同じだとしても、殺意を抱くということは大きな間違いである。


 イグリダが目指す世界は、どんな罪人も受け入れ、そして誰かが罪を犯す前に防ぐ世界なのだから。


「…そうだ、アンタの戦利品を奪い返しておいた」


「俺は戦利品など手に入れていない」


「見ろ」


 トーアが指さした方向には、パクナが毛布にくるまって寝ていた。


「…中で何があったのかは知らないが、助けに行った子供は彼女のことだろう」


「…彼女はもう助からない」


「まだ生きてる。あらゆる可能性を考慮すべきだ」


 確かに、子供たちを全員助けることができれば、エフティはまた幸せな生活に戻れる。パクナを治す方法を探してみたほうが良さそうだ。


「そういえば、エフティはどうなったのだろうか」


「バリバルという男が村に還した。馬車は『愚者』の村に置いてあるそうだ」


「そうか…君はなぜそこまで状況を把握できている?」


「…実はアンタに用があってな。…追いかけてみたところに厄介ごとがあったから、片付けたまでだ」


「……恩に着る」


 トーアが来ていなければ、色々まずいことになっていただろう。イグリダは死亡し、パクナは再び剛王機になっていたはずだ。


「ところで、用というのは?」


「……センの指示を受けて、ペトラが一人で旅立った。…止めるのを手伝って欲しい」


「ふむ…」


 イグリダはまだ剛王を倒していない。だが、剛王に敗北した今、状況はあまり変わっていない。アルディーヴァ攻略は延期しても問題はないだろう。


 それに、パクナを安全な場所に避難させなければならない。


「了解した。ちなみにここはどこかな」


「俺の隠れ家だ。センの屋敷はすぐ近くにある」


 なるほど、ここなら雨風凌げる上に見つかりづらいため、住み心地が良さそうだ。強いていうなら、奥に続いている様子が少し不安に感じる。


「奥の方に歩いていけば『宝石蟻』がいる。いい修行相手だ」


「聞かなかったことにしておこう」


 宝石蟻は上級魔物だ。魔導兵団が出撃するレベルの強さである。


 さて、明日はまずセンにの家にパクナを預け、ペトラの旅路を確認しなければならない。ここからどこかに旅をするとなれば、必ずどこかの異能の村に立ち寄っているはずだ。


 ペトラのことだから、旅の目的をうっかり話しているかもしれない。



 ※



「まさか一週間以上経って、まだ『力』の村にすら辿り着いていないとは…」


 道端で立ちながら寝ているペトラを眺めながら、トーアはつぶやいた。


「…こいつに旅は無理だ。心配する必要は無かった」


「結局、旅の目的はなんだったのだろう…」


 ペトラに修行をさせるとよからぬことが起きるのは、トーアに聞いたことがある。センがペトラに『無我の境地』を習得させた後、ペトラに何をさせるのかは想像もつかないが、力を得たものがそれを何に使うのかは限られてくる。


「彼女は止められないと思う」


「確かに、ペトラ本人に言っても納得できる理由は出せないな」


 トーアいわく、ペトラには平和な日常を過ごしてもらいたいとのことだ。だがペトラにとっての平和な日常というのは、センと共に静かに暮らすこと。それを乱すようなことはしてはならない。


 だから、ペトラに旅をやめるように言うとしても、センを悪者にするような言い方はできないのだ。


「……ん」


 ゆっくりと目を開けたペトラは、周囲を見回した。


「…あらぁ、二人とも…どうしてここに?」


「旅をしていると聞いてな。俺たちも手を貸してやる」


「あらぁ…あらぁ…、トーア、5年ぶりくらいねぇ」


「もっと長いだろう」


「そうねぇ」


 いつもは眠そうな表情しか見せないペトラが、今は珍しく嬉しそうな顔をしている。


 5年以上も顔を会わせずに、第一声が「手を貸してやる」とは少し奇妙なものだが、トーアもきっと嬉しいのだろう。


 それから、ペトラは旅について話し始めた。


 旅の目的はどうやら宝探しのようだ。南の海にある宝島に、宝が眠っているのだという。


「どうした、イグリダ。アンタらしくもない」


「…?」


「今、すごく目を輝かせていたわぁ」


「な、何っ!?」


 おそらく目を輝かせていたのは本当だろう。宝があれば旅の金に困らない。


 だが、どうにもこの二人には、イグリダの少年心が呼び覚まされていると勘違いされているようにに思えてならない。


「実は、金に困っているのだ」


「そうねぇ、前回はセンが出してくれたものねぇ」


「なら、宝を分けて貰えばいい」


 ペトラの旅についていくことで、積極的にイグリダとトーアが強敵を排除し、ペトラの成長を防ぐという作戦だろう。ペトラが目を覚ましてしまった以上、イグリダとトーアは互いの意図を的確に読み取って事を進める必要がある。


「嬉しいわぁ、トーアとまた旅が出来て」


「…そうか」


 顔を背けるトーアを尻目に、イグリダは村の方向を見た。


 おそらくもう着くだろう。


「行こう。俺に考えがある」

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