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覇王記  作者: 沙菩天介
魔王編
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第十一話 覇王vs剛王

「いち!に!さん!し!」


 エフティは御者席から身を乗り出しながら、魔物を次々にはたき落としていく。


「おい!何匹か落とし損ねてるぞ!」


 噛み付いてきた魔物をはたき落としながら、バリバルは文句を言っていた。


「俺たちが落とせばいいだろう!」


「お前は剣がデカくていいな!俺は馬車動かしながらナイフで———」


「もうすぐ超えるから黙ってて!いち!に!わーっ!!!」


 騒ぎながらやがて森を抜けると、剛王城の壁にぶつかる寸前で止まった。


 大きな石造の壁が、イグリダたちを見下ろしていた。


「ふむ…どうやらうまくいったようだ」


「俺は馬の面倒見とくからお前ら行ってこい」


「え、バリバル来ないの?」


「俺の役目はあくまで同行。それに馬が万が一魔物に襲われたら帰りがきつい」


「その通りだ。行こうエフティ」


「わかった」


 イグリダとエフティは親指を立てると、塀をせっせと登った。


「そうだ、バリバル」


「あ?」


「エフティがきたら、俺を置いていってもいい。俺は別の幹部の城まで行かなければならないのでね」


「あー、馬車は『愚者』の村にでも置いておけばいいか?」


「そうしてもらえると助かる」


「了解だ」


 バリバルは親指を立てると、早く行くよう促した。


 見たところ、形だけの城のようだ。クアランド城に比べても小さい。おそらくギアのわがままで仕方なく作ったのだろう。雑兵の類の気配も感じられない。


 二人は窓から侵入すると、牢屋を探すべく駆け回った。


「階段を探そう」


「なんで?」


「牢屋は高い場所か、地下にある」


 そう言いながら走っていると、やがて階段にたどり着いた。想像通り、この城には地下があったようだ。


「じゃあ、あたしは地下に行って子供たちを助けるから、あんたは上に行って」


「何故かな」


「王様は大体高いところにいるでしょ」


「…しかし、君を一人にするのは気が引ける」


「あたしは異能者なんだから。ほら、早く行こう!」


 言うなり、エフティは階段を駆け降りていってしまった。


 確かに、イグリダが戦っている間に逃げ出すことに成功すれば、誘拐に失敗してもエフティの身元が割れる心配はない。賢明な判断としておこう。


 目指すは上だ。イグリダはギアに会うべく、階段を駆け上っていった。


 外から見た限りだと、この城はそこまで高くない。内部も狭いので、おそらくすぐにでも見つかる。


 そんな能天気なことを考えていると、上から何やら魔法のようなものが飛んできた。


「——っ!」


 間一髪だ。先ほどまでイグリダが立っていた階段は、下層にガラガラと転がっていってしまった。


 魔法を撃ってきたのはギアではなく鉄塊だった。確かに、普通に考えれば城内にも見張りはいる。少し焦り過ぎてしまったようだ。


 イグリダは階段を上り切ると、周囲の状況を確認した。


 ここは三階だ。そしてこれより上に登る階段はない。この階層にギアがいると考えていいだろう。


「しかし…邪魔だな」


 まるでギアに会わせないようにしているかのように、鉄塊が立ちはだかっている。この強さの相手に背を向けることはできないので、戦闘は避けられない。


「いいだろう」


 この鉄塊の攻略方法はすでに分かっている。


 防御魔法『シールドオーラ』は強化魔法ではない。接近され切った後に使ってもおそらくなんの役にも立たないだろう。直接頭に張り付いて剣技を見舞えば一撃で倒せるはずだ。


 戦闘開始を合図するように、鉄塊は拳を振り上げた。


「『岩薙』———ッッッ!!!」


 すかさずイグリダは腕めがけて剣技を放ったが、鉄塊は少しよろけた程度で全く壊れなかった。そしてある事実に気づき、イグリダは目を剥いた。


 鉄塊は攻撃を受けた際、魔法を使って傷を癒しているのだ。


 まるで、鉄塊が生物であるかのように、回復魔法が機能している。


「攻撃力が足りないな…」


 『岩薙』が効かないのは想定外だったが、上級魔法ほどの威力があれば倒せるのだろう。とはいえ、剣技でそこまでの力を出せはしない。


 ただし、剣技で攻略する方法が一つだけある。


 アルディーヴァの北、天にそびえる火山、そこにはある魔物が住んでいると聞く。


 少年たちの憧れであり、人々の脅威となる怪物——ドラゴンだ。奴の力を参考にして開発した炎剣技ならば、金属を溶かせるかもしれない。


 イメージは、ドラゴン。灼熱の炎を闇の魔力と共に放出し、致命的な一撃を与える。


「剣技!」


 イグリダはそう叫ぶと、剣を構えた。


 鉄塊はイグリダを阻むように『シールドオーラ』を展開した。もちろん、防御魔法は無意味だ。


「『竜剣ドラゴンブレード』———ッッッ!!!」


 灼熱の炎を放出し、イグリダはその炎を追って駆け出した。


 『シールドオーラ』に、竜の剣技は打ち消されそうになった。だが、竜の炎は連続攻撃だ。一度止められても残りの魔力でゴリ押すことができる。


 やがて、鉄塊の頭部を炎が包み込み、再生を抑えるようにじわじわと溶かしていった。


 初級魔法『ヒール』は、放置しておけば治るものを、素早く治療する魔法だ。そして『リカバリー』は、致命傷以外の全ての傷を治す力を持つ。つまり、致命傷を治す魔法はこの世界に存在しない。


 極めて練度の高い『リカバリー』なら、傷によって治せることも稀にはあるが、この鉄塊に回復魔法の練度を上げることなど出来ないだろう。


 やがて、鉄塊は静かになった。


「少し手間取ってしまったな…」


 一撃で片付けるつもりが、剣技を二回も使ってしまった。『竜剣ドラゴンブレード』は魔力を少し多めに使うので、これからのギア戦で魔力が保つか不安だ。


 急いで向かおうというところで、ふとイグリダは足を止めた。


 ———こいつ、溺れてる——。


 あの時エフティが言った言葉を、イグリダは信じていなかった。


 鉄の塊が苦しむはずがないと。


 だが、今は確かに聞こえる。ぼこぼこと、まるで人が溺れているかのように苦しんでいる。


「はぁッ!」


 イグリダは剣技を使って鉄塊の頭部を切り落とした。


 この鉄塊の自爆は、身体中の魔力を頭部に集めることで起動する。頭を取り外せば問題ないだろう。


 そしてイグリダは頭部を切開し、中身を確認しようと試みた。


 溺れているように聞こえる音、生物であるかのような回復、そして、魔法の使用。この塊には、違和感のあるものが多過ぎたのだ。


 やがて、それは現れた。


「———ッ!?」


 人の体、それもまだ子供の体だ。目は虚ろで、口からは絶えず液体が流れ出ている。


 嫌な予感がする。早く報告に行かなければ。


「なんダ、二人いやがったのカ…」


 背後から声がかかり、イグリダは慌てて飛び下がった。


(下にいたのか…!)


 目には奇妙なゴーグル、髪はボサボサで、筋肉を見せびらかすような半裸が特徴の男だった。そして手には、白い籠手のようなものをつけている。


 間違いない、剛王だ。


「侵入者は俺一人だ」


「誤魔化しても無駄だゼ、あいつにはもう会ってル」


 やけに語尾を強調した話し方だ。聞いていて少し違和感を感じる。


「彼女に何かしていないだろうな」


「あァー、大人しく一人で帰ってったヨ」


「一人でだと…?」


「ヒャハハ、お前もう気づいてんだロ?」


 ギアは口を大きく開けて、イグリダを馬鹿にするように口端を釣り上げた。


「そこに転がってるガキ、確かパクナって言ったかナ?そいつが、あいつの探してたガキの一人ダ」


「…やはりそうか…」


「他の三人も同様、俺の『剛王機』に大変身サ。脳みそいじってテ、体を鋼鉄で覆うことデ、人間に本来から備わる魔法の力を使える忠実な兵士の完成ダ」


 聞きながら、イグリダはハッとした。


「まさかエフティに話したと言うのか!?」


「まァ、それが道理だわナ」


「なんと言うことを…!」


 脳をいじったと言うことは、もうこの子供は魔法を撃つ以外に何も機能がない、つまりほぼ死亡したような状態にある。その事実をエフティに話せば、精神が耐えられるはずがない。


「安心しナ、『教皇』んとこに送った剛王機ハ、ガキどものやつじゃなイ。無様に自爆で死んだわけじゃねえんだかラ、四人全員無事だゼ」


「殺していないとでも言いたげだな…!」


「死んでねえんだかラ、生きてんだロ」


「ほざけ———ッッッ!!!」


 こいつは、殺していい。否、殺すべきだ。絶対に殺して、敵討ちをしなければならない。間違いなく世界に必要のない異物だ。


 存在を抹消すべきだと、イグリダの中に確かな殺意が芽生えた。


「『凪刀』———ッッッ!!!」


「弱ェ!」


 ギアは剣技を拳で打ち消すと、イグリダに突進した。


「オラァぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


「ぐっ!?」


 左右から来る激しい連撃、それに対応できるほどイグリダの剣の腕は磨かれていない。そのまま後ろにジリジリと追い込まれていく。


 カウンター剣技『暁光』で反撃しようにも、カウンターを発動する前に次の攻撃が来る。これほど素早い攻撃は初めてだ。


 そして忌々しいことに、ギアの籠手は全く傷がつかない。


(急所を狙うしかない…!)


 どうせ殺すのだ。手加減する必要はない。


 イグリダは『両手剣カバー』を外すと、ギアの拳を片方受け流しながら懐に潜り込んだ。


「馬鹿ガ!この距離は拳の方が有利だゼ!」


 言いながら放たれた拳撃に、イグリダはカウンター剣技を合わせた。


 拳が放たれるよりも、剣を振る速度の方が早いなどありえない。だがその問題は、ギアの拳が一方は封じられていることと、光属性のスピードが噛み合って超えることができる。


「『暁光』———ッッッ!!!」


「おォ——ッ!?」


 ギアの胸部に、逆袈裟斬りによる斜めの斬撃を入れることに成功した。


 だが、手応えがない。


「ヒャハハハ!」


「が——ッ」


 強烈な、腹部への一撃だ。


 イグリダはそのまま反対側の壁に叩きつけられた。


(馬鹿な…人間の拳だぞ…!魔力も何も込められていない、ただの力だ…!)


 異能の類ではない。異能者は異能者を見分けることができるが、ギアには異能の力を感じられない。


 あの籠手にでも工夫があると言うのか。


 そして…


「ふぅー、お前の斬り、なかなかいいゼ」


「な…」


 ギアの胸部には、切り傷が全く見当たらない。先ほど直撃した剣技は、まるで無効化されてしまったかのように、無かったことにされている。


「お前、俺には勝てないゼ」


 ギアは再びにんまり笑うと、壁に背を預けるイグリダにもう一度打撃を見舞った。

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