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覇王記  作者: 沙菩天介
魔王編
12/59

第一話 覇王再出発

 決着から約一ヶ月が経ち、事後処理は一通り落ち着いてきた。


 盗賊団の処置は周囲の村々の意見もあってか、イグリダが判断を任されることになってしまった。とりあえず、アラスタやセンの助言をもらいながらなんとか収拾をつけることができた。


 まず、アグラたちは引き続き『死神』の村で生活をすることになった。彼らの腕力が思っていたよりも村人から評判が良く、喜んで仲間に引き入れるとのことだ。


 シカナたちは素早さとチームワークの良さを買われ、『力』の村で芸をやることになった。村長がとにかく欲しがっていた様子だったので、イグリダは苦笑しつつも感謝した。


 グラン、キオ、エンドとその部下の五人は、『吊』の村に引き取ってもらうことになった。『吊』の村は戦闘力に乏しく、グランたちのような先鋭部隊がいると心強いだろうと考えての判断だ。


 その他大勢の盗賊団員たちは、『愚者』の村で面倒を見てもらうことになった。良質な武器は高く売れるため、資金が余っているからというセンの助言による判断だ。おそらく全員がエスパーダのしもべとして、鉱山で働かされることだろう。


 そしてペトラはトーアの言いつけ通りに、センの屋敷から出ることはなくなり、アラスタは一度王都に帰ることになった。覇王イグリダの名が世界に広まるまで、少し待つ時間だ。


 イグリダはセンの元で修行をすることになり、今日も今日とてセンと模擬戦を繰り広げている。


 グランを倒す前とは違って、戦闘においての大体の流れのようなものを掴んできた。これを意識しなければ、無駄に魔力を消費することになる。


 まず、戦闘開始直後は魔力を使わないよう心がけることが重要だ。形がシンプルな『岩薙』や『紫電一閃』、『凪刀』などの剣技は消費魔力が他の剣技より少なく、序盤の動きをすることに長けた性能を持っている。


 そしてだんだん、相手の動きを制限する剣技を解放していくのが良い。例は、グランの『大渦』や『杯の氷海』などだ。


 最後の決め手としては、正直一定の威力を持っていればなんでもいいが、必殺技のような剣技が必要になってくる。相手に妨害されることがほとんどなく、発動を見極めれば確実にトドメをさせる技だ。


 現在イグリダは、その必殺剣技を開発中である。


「やはり岩属性が、威力としては最強ですね」


「うむ…だがどうにも発生速度が遅い。わしがこの性能にどれだけ苦心したか…」


 岩属性の攻撃力は凄まじいが、相手に攻撃を当てる前に回避されてしまう。光属性と混ぜることも考えたが、光属性は最弱クラスに威力が弱く、岩属性の利点を打ち消すことになってしまう。


「とはいえ、発生速度に目を瞑れば、岩属性の威力は強力だ。撃ちどころを見極めれば弱点を克服できる」


「では、一度その方向で剣技を開発してみましょう」


 そう言ってイグリダは、森に向けて槍を構えた。


 必殺技ともなれば、やはり相手を確実に倒せる性能でなければならない。ガード不能、回避不能、相殺不能の剣技を開発する必要がある。


(限りなく不可能に近い…)


 それをセンも感じているらしく、武器を構えたにも関わらず二人して首をかしげたままだ。


 すると森の中から、何やら足音が聞こえてきた。


「あ、あった〜!」


 そんな叫び声とともに現れたのは、赤いヘアピンが目立つ少女だった。見たところ発育は終えていそうだ。少女と呼ぶには語弊があるかもしれない。そして、イグリダと同じコートを身につけている。おそらく旅人だろう。


「わしの屋敷の住所は公にされていないはずだが…何故何度も客が訪れるのだ…」


 不満げに顔を顰めるセンをよそに、その少女は息を切らしながらイグリダに近づいていった。


「あんたがイグリダでしょ!?」


「あ、ああ…」


「やっぱり!あ〜、疲れた。なんでこんなとこに住んでんのよ〜!」


 そう言って地面に寝転がると、少女は大の字になって大きなため息をついた。センの表情がさらに歪み、イグリダは苦笑した。


 どうやらこの少女はイグリダを探してここまできたらしい。旅人の耳にイグリダの名前が入っているということは、もうクアランドに名前が広がったと言っても過言ではない。何故なら、旅人が人の名を広めてくれるからだ。


「名前を聞いてもいいだろうか…」


「え?あ、そっか。あたしエフティ。アルディーヴァから来たの」


「アルディーヴァ…か。何やら事情がありそうだね」


 隣国アルディーヴァについては、よくない噂が幾度も広がっている。生活に規制が多い、村に兵士が配備されている、ルールを破れば殺される等、クアランドからの入国が禁止されているからか、まともな噂がない。


 だがもし噂が本当なら、エフティは今殺されかねない状況にある。それほどの危険を冒してまで来たような様子ではないが、世間知らずの可能性も否めないので、不安が募る。


「私を探していたようだが…」


「そうなの!ねぇ、聞いてよ〜。あたし一回クアランド王都まで行ったの。だって普通有名人って王都にいるでしょ。そしたら場所もわからない屋敷にいるなんて言われてさ〜。ここに来るまで二週間くらいかかったよ〜」


「そ…それはすまなかった」


 話が微妙に噛み合っていないが、イグリダは納得したように頷いた。


 まさか自分を訪ねてくる人がいるとは思わなかった。確かに、イグリダに何か頼み事があるのなら、センの屋敷に留まるわけにはいかない。


 イグリダはため息をついた。


「それで、なぜ私の元に?」


「人を探して欲しいの」


「なるほど腕の良い探偵を知っている。よければ紹介しよう」


「え!ちょ…違うって!」


 早口で依頼を断ったイグリダにしがみつき、エフティは喚いた。


「どこにいるかは大体分かってるのよ!あたしのボディーガードをしてって頼み!」


「ボディーガードか…アルディーヴァに向かう口実としては十分…だろうか」


 イグリダはそのうち、横暴を繰り返すアルディーヴァの魔王ベルフスを倒す予定だ。機会としては今がちょうど良いのかもしれない。


「あんたならどうせ魔王を倒そうって言うんでしょ?そしたらきっと目的地にも用があるから」


「というと…?」


「あたしが行きたいのは、剛王・・の城だから」


 剛王、その名を聞いて、イグリダは顔を顰めた。


「剛王…?そのような王は聞いたことがないな…」


「え、嘘、魔王軍幹部の一人だよ?」


 なるほど、どうやら魔王軍の幹部の一人は、自らを王と名乗って城を持っているらしい。もしかすると、幹部全員が王を名乗っているのかもしれない。


 確かに魔王を倒すのであれば、幹部との戦闘は避けられない。であれば、魔王と戦う前の予習としてあらかじめ倒しておくのも悪くない。


「承知した。頼みを引き受けよう」


「やった〜、ありがと!」


「待ちたまえ。城の場所は分かるのかな」


「わかんない」


「…」


 イグリダもアルディーヴァ城の場所が分かっていない以上、エフティの方針に文句は言えない。だがあまりにも計画性のない旅に、イグリダは少しだけ違和感を感じていた。


(それだけ焦っている…ということか?)


 彼女の態度から焦燥は感じられないが、やはり人探しともなれば焦りは誰でも出るものだろう。イグリダはエフティに同情した。


「…無意味かもしれないが…少し計画を立てておこう」


 そういうと、エフティは口をへの字に曲げて頷いた。



 ※



 荘厳な雰囲気を漂わせ、太陽の日差しを窓から差し込ませるクアランド城の回廊を、アラスタはやけに不機嫌な足取りで歩いていた。


 あの憎きグレモルに指示されて、謁見室に向かっているのだ。


(父上は今外出中のはず…一体何の用事なんだ…)


 差し詰め、通信石か何かで頼み事でもするつもりだろう。


 今アラスタはイグリダの布教で忙しいので、正直あまり時間を無駄にしたくはない。今クアランドでイグリダの名前が有名になっているのも、半分はアラスタの影響である。


「あ、あの、アラスタ様…」


 謁見室の扉の前に人影があった。


「あれ、メイド?」


 メイドは、アラスタの世話係の女性だ。今一パッとしない見た目で、常に身をすくめて生活している。しかし世話は全て完璧にこなすため、一部の臣下から評価されているらしい。


「父上の話?」


「はい…実はもう帰っておられると…」


「え、本当?」


「え…わ、分かりません…そう聞いたもの、で…」


 やれやれと首をふり、アラスタは扉に手をかけた。


 アラスタのために帰ってきたのであれば、何かしら重要な頼みか、或いは命令だろう。ある程度の面倒は覚悟しておいた方が良さそうだ。


 アラスタが渋々謁見室の扉を開けると、乾燥した空気が室内から溢れ出てきた。


 謁見室は何もなく、ただ玉座があるだけだ。それ以外は特に、タペストリも、おしゃれな装飾もなく、ただ大きな窓から白い光が差し込むのみである。


「お、来たな」


 玉座に座るグレモルは、相変わらずやる気のなさそうな表情で踏ん反り返っていた。


「…何の用ですか」


「そう警戒するなよ。俺はお前の活躍を聞いて少し協力してやろうという気になってな」


「あなたの協力なんていらない」


「どうどう、落ち着け、落ち着けって」


 グレモルは手を水面のように滑らかな動きで揺らし、アラスタを鎮めようとした。仕方ないので、話だけは聞いてやることにした。


「全属性の魔法を、初級魔法とはいえ習得したお前だが、今伸び悩んでるんじゃないか?」


 アラスタは顔を顰めた。


「いえ、つい先日、『インフェルノ』の習得に成功しました」


「ほぉー、流石だな」


 炎属性の中級魔法はエンドが使っていたため、肌で魔力を感じ取って、ある程度のコツを掴むことができた。一ヶ月ですでにある程度の練度に達している。


 グレモルは満足げに笑うと、顎髭を撫でた。


「そろそろ頃合いだと思ってな、世界最強の魔法使いに訓練を取り付けてやる」


「…世界最強?僕の知る限りでは魔王ですが」


「いや、違う。十二人のうちのただ一人の生き残り、英雄ゼウス・・・・・だ」


 英雄ゼウス、その名を聞いてアラスタはかすかに目を見開いた。


 数百年前、クアランドを治めた十二人の英雄は、とある一人の英雄の裏切りによって殆どが死に追いやられた。だが英雄ゼウスは奥義によって裏切りの英雄を弱らせ、虚無の牢獄である『寂寞の虚界』へ封印することに成功した。


 その英雄ゼウスが、アラスタに魔法を教えてくれるのなら、更にイグリダの役に立てる。


 アラスタは睨むように父を見上げ、頷いた。


「やります」

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