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婚約者が大好きな王子様の話です。
『悪役令嬢に転生しましたが、物語通りではないようです』を、読んだ方には同じセリフに飽きてしまうかもしれませんが、楽しんでもらえたら幸いです。
王国の第1王子に生まれてから5年。
僕の名前はアンソニー・ハリスって言うんだ。
今日は僕の将来のお嫁さんになる候補予定の女の子達と、顔合わせのお茶会がある日なんだ。
公爵令嬢1人と侯爵令嬢が2人なんだって。
公爵令嬢は同じ5歳、侯爵令嬢は4才と8才なんだって。
僕は王妃の母上と一緒にお茶会場所まで行くんだ。
お茶会の場所に近づくと、空色のドレスと桃色のドレスと黄色のドレスを着た女の子達が座ってるのが見えたよ。
はじめましての挨拶をして女の子達と顔合わせをした時、僕は空色のドレスを着た女の子がすごく可愛く見えた。
彼女は大きくなったら、きっとすごく綺麗な美人さんになると思ったよ。
お茶会の時はドキドキして何を話したか覚えてないんだ。
もったいないことしたな。
お茶会が終わり、談話室へ母上と入ってお話したよ。
「母上、僕、空色のドレスを着てたローズマリー嬢がいいな」
僕の言葉に母上はホッとした様な顔をした。
「アンソニー、どうしてローズマリー嬢がよかったの?」
「すごくかわいかった!1番かわいかったよ!」
僕の言葉に母上は少し驚いてた。勢いよすぎたかな?
「アンソニー、見た目の好みも大事ですが、それだけではダメですよ」
「どうして?」
「次期王妃になるには中身も大切なの。本格的に婚約者を決めるのは8才になってからだから、それまでに3人とたくさん話ましょうね」
「うん!なかみもかわいかったらいいな!」
こうして婚約者候補の3人と定期的にお茶会をして交流をしていったんだ。
皆候補になるご令嬢だから、礼儀作法もきちんと勉強してるのが分かったよ。
半年くらい経って、母上がホッとした様な顔をしたのが分かったよ。
1番年上の侯爵令嬢はワガママみたいなんだ。
たくさんドレスや宝石を買ってるみたいで、すごくキラキラしたのを毎回つけてきてるんだ。
その事を母上に言ったら『将来は浪費家かしら』って言ってたよ。
ろうひかって何か先生に聞いたら、渋い顔をして教えてくれたよ。
年下の侯爵令嬢は、所作をキレイに出来るようにお茶会で頑張ってたよ。でも所作を気にしすぎてお話が出来ないのが残念なんだ。
僕も王族らしく所作をキレイにしたいから、彼女の気持ちはとても分かるけど、お話も楽しんで欲しいなって思ったよ。
その事を母上に言ったら『アンソニーがさりげなくフォロー出来るようになれるといいわね』って言われたから、紳士として頑張ろうと思ったよ。
公爵令嬢のローズマリー嬢は、所作もキレイだけど、ちょこっとツンとした所があるんだけど、時折ふわりと頬笑むのがとってもかわいいんだ!
お話もテンポよく出来て楽しいんだよ!
その事を母上に言ったら『彼女が本命のつもりで見てみてもいいかしら』って言ってたから嬉しくてハシャイだら、窘められちゃった。
最初の1年は王城で3人のご令嬢達と一緒にお茶会でお話してたけど、次の1年はそれぞれの邸宅でお茶会をして、お忍びで出かけたりしたよ。
お忍び場所は、それぞれの感性や性格を知るために同じ時期に同じ場所へ行ったんだ。
僕だけ3回も同じ場所だからつまらないと思ってたけど、相手が変わると見方や、楽しさ、不快になる事とか色々変わるから不思議に思ったよ。
ローズマリー嬢はやっぱりかわいくて、同じ年なのに聡明で、博識で、視野がとっても広いんだよ。
僕が知ってる事をお話すると一緒に楽しそうにしてくれるし、知らない事を言っても笑われないんだ。
他の2人は僕が知らないと意外そうな顔をしたり、知ってる事が当たり前だと言われるんだ。
2年の間に僕はローズマリー嬢が大好きになっていったよ。
「母上、僕ね、知らない事を知らないって言っても大丈夫なローズマリー嬢がいい」
「他のご令嬢には言えなかったの?」
「ううん、言ったら意外そうな顔されたり、知ってるのが当たり前だと言われたんだ」
「そう…ローズマリー嬢は、知らない事がある事をアンソニーに言ったかしら?」
「うん!僕が知ってる事を知らないって言ってたから、教えてもらった事を言ったらありがとうございますって言ってた!僕も教えてもらったらありがとうしてるよ!」
「そう…時期が早いけど、陛下にローズマリー家に婚約の打診が出来ないか話してみましょうか」
「やった――!!」
その日の夜、談話室で僕は父上と母上とお話したよ。
僕はローズマリー嬢の良い所とどれだけ好きかいっぱいお話したよ。
母上はクスクス笑って聞いてくれてたけど、父上はちょっと引いてたのは何でかな?
でもローズマリー家に婚約の打診をしてくれるって言ってくれたから、嬉しくてハシャイだら、窘められちゃった。
僕、ハシャぎすぎたみたい。
婚約の打診はいいお返事がきて、婚約者になれたよ。
母上にどれだけ嬉しいかいっぱいお話したら『あなたの大好きは大きすぎるから、ローズマリー嬢には少しずつ好きを伝えましょうね。嫌われたくないでしょう?』
って言われたよ。
僕の大好きは大きすぎなのかな?
ローズマリー嬢には僕の事を大好きになってほしいから、嫌われない様に気を付けなくちゃね。
1年早まった婚約パーティーは盛大に行われたよ。
僕ね、その時ローズマリー嬢の呼び方を愛称で呼んでいいか聞いたんだ。
聞くだけでドキドキしたよ。
そしたら彼女はかわいい笑顔で頷いてくれたんだ!
リリアン・ローズマリー嬢だから、これからはリリーって呼ぶんだ!
父上と母上にお願いして、月1はリリーの邸宅へ行き、週2日はリリーにお城に来てもらえるようにしたんだ。
1日は王子と王子妃の勉強を一緒にして、お互いの役割や執務の仕方、復習と予習をするんだ。
もう1日は2人でゆっくりお茶をしたり、月1でお忍びデートするんだ。
市井を知る事も大切だからね。楽しんで学べるなんて一石二鳥だよ!
「リリー、お忍びでは手を繋ごう?」
「手を繋ぐのですか?」
「うん!離れてしまって迷子になったら大変だし、僕ね、リリーと手を繋ぎたいんだ!」
「迷子になったら大変ですものね。分かりましたわ」
リリーの了解を得て、僕が手を差し出すとリリーはきゅっと手を握ってくれてデートを楽しんだ。
それ以来、お忍びデートの時はずっと手を繋いでるんだ!
きゅっと握り返してくれるリリーがとってもかわいいんだ!
僕ね、嬉しくてハシャぎそうになるのをぐっと我慢するんだ。リリーに嫌われたくないからね。
僕がリリーにしたい事やリリーにされて嬉しい事をちゃんと伝えてるんだけど、リリーはニコニコ笑顔で聞いてくれるだけだよ?
あれ――?
10歳になると令息を6人紹介された。
1人は護衛騎士。
学園に入学した時に同じ年がいいと言う事で、僕と同じ年の騎士希望の令息が剣技と面接をして決められた。
ウイリアム・アンダーソンは剣技は2位だったけど、面接で自分の意見と周りへの考え方がしっかりしていたから決まったそうだ。
剣技が1位の令息は、性格が単純すぎて将来が心配されてなれなかったらしいよ。
アンダーソンは学園が始まるまでは、僕についている護衛騎士から学びながら、毎日僕の側で実地訓練するんだって。
3人は同じ年の側近候補。
候補なのは、学園中に失態をしなければ正式に側近として決まるとか。
学園中で失態する人が出やすいんだって。学園て不思議な所だね。
だから友人として忠人として信頼関係を築いていく事が大切なんだって。
学園に入学するまでは僕の遊び相手として、週2回お城に来てもらって遊んでるよ。
2人は正式な側近。
学園を卒業したばかりの人と1年城で働いている人。
執務を少しずつやっていくのに、この2人と共にやっていくそうだ。
僕がまだ子供だから、2人はしばらく城の仕事と兼業しながらなんだって。
2人は今の所、僕に好意的だから忠人になって貰える様に頑張れって言われた。
護衛騎士のアンダーソンをウイリアムと呼べるようになった頃、無意識の内にリリーの大好きな所とやりたい事をポロリと言ってしまった事があるんだ。
それをウイリアムに聞かれてた事を言われて、僕の大好きが溢れてる事に気付いた。
「ウイリアム、これはダメだろうか?」
「私の前でなら大丈夫です。ただ、ローズマリー嬢には刺激が強いかと」
「そ、そう?ウイリアムたまに聞いてくれる?」
「私で良ければ。ローズマリー嬢も殿下には好意的に想われていると思いますので、小出しで伝えたら問題ないかと」
「ありがとう。リリーに好きになってもらいたいから助かるよ」
そう。リリーには何故か僕の気持ちが伝わってないんだ。好きって言葉にしてるのに、いつもニコニコ笑顔で『ありがとうございます』って言われるだけなんだ。
好意的なんだけど、何かが違うんだよ。
婚約者になってから数年。
リリーから感じるのは、僕もリリーも親愛で想いあってると思われている事。
どうして恋愛だと思われていないんだろう?
大好きを小出しにしすぎたのかな?
13歳になると、先生から公私共に一人称を『私』にするように言われた。
リリーの前だけは変わらず『僕』と言うけど、父上や母上の前でも『私』と言うようにしてる。
心の中では僕のままだけど。
そして王子としての執務もするようになり、年上の側近達との交流も増えていった。
ウイリアムと側近2人しかいない時はたまに『僕』を使ってしまうんだ。
そういった時はリリーの事で心の声が駄々漏れしてる時だけどね。
3人共に冷静に僕を止めてくれて、言葉を返してくれるからありがたいよ。
側近2人は既婚者だからか、僕の駄々漏れの大好きの声を聞くと生暖かい目で見てくるし。
2人共政略結婚だけど、奥さんとは仲がいいとの事。
羨ましすぎる。
ウイリアムなんて、護衛騎士兼側近でいいんじゃないかと思うくらい的確なアドバイスをくれるよ。
初めは僕の護衛騎士にウイリアムは窘められてたけど、僕のリリーへの大好きが溢れて独り言を言うのを止めれるのが当時はウイリアムしかいなくて、いつの間にか友人の様に話しても大丈夫になったんだ。
普通は護衛騎士と話す事は必要最低限なんだって言ってたよ。
「僕がこんなに愛でてるのに、どうしてリリーは僕の愛に気付かないんだろう?」
「殿下の態度が変わらないからでは?」
「そうですよ。いつもローズマリー嬢を見てニコニコ微笑んでるではないですか」
僕の独り言にもきちんと返事をくれる側近2人。
執務中だから、手はきちんと動かしている優秀な人達だ。
「心の中ではすごく可愛い大好きって言ってるよ?」
「殿下、それは伝わりませんよ」
ウイリアムにも返された。
「それなんだよ。リリーを婚約者にしてほしくて両親にどれだけ大好きか言ってたら、その時すでに父上に引かれてたからね?溺愛してるってくらい想ってるから、好きの小出し加減が分からないんだよ」
「「「あ―――………」」」
3人は溺愛の言葉に納得しながら、遠い目をしだした。
ええ?それはどう捉えたらいいんだい?
「学園に入学されてから小出しの仕方を変えられたらいいと思います」
「そうですね。学園に入学すれば、環境も心境も変わりますから」
「学園に入学すると変わるかな?」
「「人によりますが」」
え―――?
「側近候補の令息達と同じです」
「失態するかもしれないってやつかい?」
「そうです。同世代同士ばかりですし、学園の中では鳥の籠みたいなものですから」
「殿下もウイリアムも気を付けて下さい。年頃の令息と令嬢ばかりなので、羽目を外す者も出てくるのです」
あれ?
恋愛の話から、不穏な話になってるよ?
ウイリアムも『肝に銘じます』じゃないから。
いや、僕も肝に命じるけどさ。
「恋愛は?どうしたらいいの?」
「「学園に入学すれば何か変わりますから」」
ええ――――?
15歳になって学園の入学が近づいてきたある日。
談話室で僕は父上と母上と話してたら学園の話になった。
「春からアンソニーも学園に入学だな」
「はい」
「ハークスレイ伯爵から学園生活にあたり、学園と私の所に嘆願書がきてな」
「嘆願書ですか?」
「ふふっ親の愛が溢れた内容でしたわね」
「ああ。アンソニーと同じ年にご令嬢が入学するんだが、一緒に護衛兼執事見習いが付くからよろしくな」
「は…?護衛兼執事見習い??」
「アンソニーがよくウイリアムを護衛騎士兼側近でいいと言っているのと同じで、執事見習いもしてるの
よ」
「はぁ…?…護衛騎士は王族が入学する時しか学園に入れないのではないですか?」
「そうだがこれは特例だな。伯爵家が支援して学園の全校舎に手すりを付けるそうだ」
「手すり?」
「ご令嬢がね、何も無い所でよく躓くそうなのよ。邸宅内での事も詳しく書かれていてね?回数が多くて学園では1人では危ないと書いてあるのよ」
「(察した)分かりました」
床とこんにちはしないための護衛兼執事見習いと言う事ね。
「ハークスレイ伯爵のご令嬢は元は領民の娘でな。光魔法を発動した時に出会えた様で、養子に迎えたんだよ」
「光魔法を持つ者には護衛を付けるのが風習でしょう?」
「そうですね」
「護衛の話はすでにされていたそうなのよ。でもご令嬢がドレスに慣れなくて躓くのが癖になってしまって、予定より早く護衛に付く事になったそうよ?」
「学園入学前までに癖が治らなかったと言うことですね」
「邸宅の中と実家では良くなってきてるんだが、領地や外だと危ないようだ」
「大変ですね」
執事見習いもすると言うことは、護衛がした方が早いんだろうな。
「それからアンソニー。心して聞け」
「?はい」
「学園に入学すると同時にアンソニーを王太子候補とする」
「はい」
「側近候補と同じく、無事学園を卒業出来たら王太子として立太子し、ローズマリー嬢と婚姻する事となる」
「はいっ!」
「学園中に失態があれば、ローズマリー嬢と婚姻出来なくなるからな?」
「っ!?肝に命じます!」
「よろしい」
立太子よりもリリーと結婚出来ないのはダメだ!
ムリ!リリーと結婚するんだ!
「ふふっアンソニーは王太子よりリリアンの事が大事よね」
「当たり前です!リリーを愛してるんですから!!」
「アンソニーよ…王太子の勉強も頑張れよ?」
「リリーと結婚出来るなら頑張れます!」
リリー中心の僕に父上も母上も苦笑いだ。
「勉強と言えば、リリアンも王太子妃の勉強がアンソニーと同じく学園入学してから始まるわよ」
「ああ。アンソニーはこっちが重要かもしれんな」
「?重要な事ですか?」
「アンソニーの理性が試される3年間よ?頑張りなさいね?」
「?」
首を傾ける僕の姿にクスクス笑うだけで内容を教えてくれない母上を横に、父上から爆弾発言が落とされた。
「王太子妃教育の為に学園入学の前日からリリアンが王城で暮らすぞ。アンソニーの部屋の隣にある応接室の隣だ。応接室に続く扉は夜は使えないからな?」
ニヤリと笑う父上。
は…?え……?え―――!?
「リリーと一緒に暮らせるんですか!?」
「毎日会えるから理性を保てよ?」
クククッと笑う父上。
「大好きは少しずつ多くしていくのよ?『あなたの大好きは大きすぎるから、ローズマリー嬢には少しずつ好きを伝えましょうね。嫌われたくないでしょう?』」
「…っ!はいっ!母上っ!」
ウインクする母上に、幼い頃に言われた言葉だと分かると嬉しくなった。
危うく幼い頃の様にハシャぐ所だった。
学園入学の前日。
僕は執務室でソワソワしていた。何故ならもうすぐリリーが王城に来るからだ。
「どうしよう…リリーが気になって執務が出来ない」
「大丈夫です。急ぎの書類はすべて終わらせてます」
「え?本当に?」
「殿下はきちんと読んでサインしてましたよ」
「我々も確認してるから安心してください」
優秀な側近達よ、ありがとう。
「夜にリリーと添い寝したくなったらどうしよう」
「普段の廊下側の扉とは別に、応接室に続く扉と外にも護衛騎士が立ちますのでご安心ください」
ウイリアムが護衛騎士の配置を教えてくれた。
「外も?バルコニーはないのに?」
「殿下は土魔法が使えますから、何か策を取られても魔法で対策出来る様になってます」
「それは心強いね」
これは信頼されていないのか、もしもの保険なのか…
リリーが安心してすごせるならどちらでもいいか。
夜番が増えた護衛騎士達、ありがとう。君達のお陰でリリーに嫌われる様な事が起きないですむよ。
邪な気持ちで魔法を使わないですむ事も魔法の先生に伝えよう。
安心してもらえたら、本にあった理論上は出来る魔法の訓練をお願いしてみよう。
この本面白かったんだよね。理論上は出来るはずと書いてあり、魔法とはイメージと想像力と発想力で、魔法を掛け合わせて出来るって書いてあるんだ。
著作を調べたら大商人の先々代で、自費出版して王都と周辺の街にある全ての本屋と図書館と王城にまで寄贈しているんだ。
凄いのはこれによって犯罪や戦乱になるような魔法が発動したら、地図に発動した場所が点滅して映像が出てきて人物も分かる様になっていて、すぐに捕らえれる様になってるんだ。
王国中の騎士団や憲兵団に街の地図が魔法師と錬金術師によって作られたのが設置されてるんだ。
そして裁かれる法律もある。
地図を盗もうとしたり破ろうとしたら、反撃される様に地図に魔法が組み込まれてもいるらしい。
壁から動かせない様にもなってるらしい。
魔法と錬金術で作られた地図は地形が変わると地図も変わるらしい。
もしもの話で国を動かしたんだからすごいよね。
国家規模だよ?
どうやって陛下まで話を通したんだろうね?
先々代の陛下はすごく柔軟な人だったんだね。僕も見習わないとね。
リリーが王城に引っ越して来た日は晩餐と談話室での時間を一緒にすごせて、僕は幸せに浸りながら就寝したよ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
次で完結なので、続きも読んでくれたら嬉しいです!