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血まみれた墓標に愛をこめて  作者: 千鶴
わたしのはじまりと、おわり。
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依頼?

「いつから居たんだい?」


夜に見るお父様の顔は変わって見えた。

いつもならお父様、顔が怖いですよ!なんて軽口も言えただろう。

父の顔はこんなだっただろうか?私に問いかける顔はいつも厳格な顔の裏に見せていた優しさなんてものはカケラも無い。


「い、今!今です!眠れなくて…久しぶりにお父様と寝たいなって思って…ここまで来たんです」

お父様の表情は変わらない。本当かどうか見定めているようだ。

時間にしたらほんの数秒。だけど私には1分、2分と長い時間に感じられた。

やがて、父がどう判断したかわからないが…柔らかい表情を見せた。

いつも…私がいい成績を収めた時。領民のトラブルを解決したとき。

褒めてくれる時に見せる優しい微笑みだ。

でも…今日は違って見えた。いつもと同じ表情。だけど、父の眼の奥は真っ黒で。

笑っているようには見えなかった。口元を釣り上げているだけで…。

私の記憶と照らし合わせても、思い出せるのはこの顔だ。私は今までこの顔を笑顔だと思っていたのだろうか?

なんて愚かなんだろう。恐い。私はすぐここから逃げたくなった。お母様のもとへ行きたい。


「お、お父様は忙しいのですね。私、お母様の所に行こうと思います。遅くにごめんなさい」


その瞬間。お父様の顔が変わった。さっきと同じ、無表情だ。どうして?私は何かいけないことを言ってしまっただろうか。


「今日はやめなさい。あいつは体調を崩していてな。移るといけない。寂しいだろうが、今日は我慢しなさい」

「…わかりました」


お母様の姿を昨日から見かけないのは風邪をひいてしまったからだったのか…

だけど、なぜかお父様の言葉に疑問を覚えた。なぜかはわかない…けれど。とても大切なことなような…

少し考えたらわかったことなのかもしれない。だけど、私はすぐにでもその場から離れたくて、思考を断ち切るようにして部屋へと戻った。


「あれが…例のですかな」

「……あまり詮索するな。まだ生きていたいだろう」

「ほっほっほ!怖いですなあ…」


「お母様…」

私はベッドに潜り、会えなかった母の事を考えていた。

私の母は街の人からは『天使』だって呼ばれている。母はあまり喋らない人だ。あまり自己主張の激しい性格ではなくて、男の人の一歩後ろを歩くようなお淑やかな女性。

幼いころから憧れで、いつかは母のようになりたいと思っている。

それと母は…とてもシャイだ。

父との馴れ初めを聞いても困り顔で教えてくれない。照れてるのだ。

母だけど、とてもかわいいと思う。

お風呂にだって一緒に入ろうとしない。娘なのだから、別に一緒に入るくらい恥ずかしがらなくてもいいと思うのだけど。まあそんなところも好きだし、自慢の母だ。

明日はそんな母に会いたいな。と思いながら眠りに落ちた…。


「ねえ、アリス。お母様はまだ治らないのかしら。もう5日経ってるのよ?」


お母様の体調はまだ治らないみたいだ。あの夜以降、お父様とはほとんど会話をしていない。

あの表情が浮かんで、どうしても避けてしまう…


「そうですね…世話をしているメイドに話を聞いたんですけど…一向に回復の兆しが見えないみたいです…」

「…」

おかしい。お母様と最後にあってから1週間…

母は重病なのだろうか…父に聞いても心配するなとしか言ってくれない。

母に会いたいと寝室まで行ってもみたが、旦那様の許可がないと入ってはいけないの一点張り。

一目見ることすらかなわない状態だ。


「お嬢様?どうしたんですか?」

アリスが不思議そうに見つめる。

「えっ、あいや、何でもないの。大丈夫よ」

「…?そうですか?何かあったら相談してくださいね?」

「ふふっ、わかってるわよ」

私は笑顔でそう返す。だけど、笑顔の裏で私は気が気でなかった。お母様の事が気になってしょうがない。

こっそり母のもとへ行くのは不可能だ。24時間執事が交代でドアを見張ってるし、窓から侵入しようにもあそこには足をかけられる場所が全くない。かくなる上は…



「病状の確認~?なんで私たちがそんなことしなくちゃいけないのよ!」

「アンタ…脅されてる身だって忘れてるの?ナメてるのかしら」


私が訪ねたのはそう、フィリアとルナの家だ。なぜ…と問われてもこの街でお父様の手がかかってない人間がこの二人、だったというワケで…


「お願いします!」

「あのねえ…そんなの受けるわけ…!」

「わかった」

「はっ?」


怒鳴るルナを横目にもくれず承諾したのはフィリアだった。

この人…私が家に入ってから一度もこっちを見ないし喋らないから絶対に承諾しないと思ってたけど…


「いいの…?」

「今日の夜に行く。ルナも準備して」

「はっ?!ちょ、ちょっと!待ってよ!なんで…!」

「…気になることがある。それにヤケクソを起こされて面倒が起こっても困る」

「それは…そうかもしれないけど…。そうね…冷静になってみれば…フン!わかったわよ!でもしょうがなくよ!フィリアが言うから調べてあげるだけなんだからね!」


苦虫を嚙み潰したような表情でルナは承諾してくれた。かなり渋っていたけれど…ひとまず問題は解決かな…


「ありがとう!」

私は満面の笑みでお礼を言った。物騒な人たちだけど、なぜかあまり怖いとは思えない。理由はないけれど、信用できるような気がする。

「ちなみに、あの洞窟の出来事を教えてくれたりは…」

「くどい!調べてあげるからって調子に乗らないで!全く、調子が狂う…調べてあげないわよ?!」

「ご、ごめんなさい…よろしくお願いします…」


怒られて落ち込んだ…その姿はさながら道端に捨てられた子犬のように愛くるしいものだろう。自分で言うのもなんだが。

今はお母様の事を知るのが先決。ルナを怒らせるのは得策ではない…

彼女たちの実力がどれほどかは知らないが、路地裏での鮮やかとまで言えるあの出来事を思い出せば自ずとわかるというものだろう。


「…思い通りの結果でなくても取り乱さないで」

「…え?それって…」

思い通りの結果ではない?どういうこと?母がもう亡くなっている?最悪の状況を想定しておけ…って事?少しムっとなる。お母様がもう死んでるなんてありえない。不快だ。

「どういうことよ…」

「結果を受け入れる心構えをしておけってことだよ。もういいだろ、今日は帰ってくれ」

「なによ、そんなに帰ってほしかったら帰るわよ!」


私は冷静ではなかった。そのせいか気づくことができなかった…

家から出ていく私を見つめる二つの瞳があったことに…。

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