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血まみれた墓標に愛をこめて  作者: 千鶴
わたしのはじまりと、おわり。
5/13

心のヒビ

思えば。いくつもきっかけはあった。

だけど私は見て見ぬふりをして…仮初めの平和に甘えてたのだと思う。

知ってしまうと全てが壊れてしまう気がして…



「何…これ…」


眼前に広がる男どもの死体。

どうして?理解が追い付かない。襲われたのは彼女たち。それなのに、目の前の死体は男たちのもの。


本来なら、ここに倒れているのは彼女たちのはず。死体に近づいてみる。ぱっと見では死体だとはわからないだろう。でも、私にはわかる。なぜかはわからない。だけど、一目見た瞬間、わかったのだ。

彼らは死んでいる。外傷はない。得物は刃物や鈍器ではない。毒?この短時間で全員を殺せるようなものが存在するの?

わからないけど、これは――――


「アンタ、何でここにいるの?」


不意にかけられた声にドキッとする。声の主はルナだった。

彼女たちは私を助けてくれた。でも、目の前の惨状を見て、前みたいな態度で接することはできない。

答えを間違えてしまえば彼らのように殺されてしまうかもしれない。慎重に、言葉を紡ぐ。


「あなた達にあの日の事を聞きたくて…家の前にいたの…そうしたら、彼らの不穏な会話を聞いて…」


「尾けてきた、ってワケね」

ルナの顔が強張る。返答を、間違ってしまっただろうか。もしかしたら、彼らと一緒で危険人物だと認識されてしまったかもしれない。どうしよう、考えを張り巡らせていると、フィリアが口を開いた。


「やっぱり、壊れてる…だけど…」


フィリアはそれっきり口を噤んだ。

なぜだかつらそうな顔をしている。

ルナは得心が言った、と言いたげな顔をして口を開いた。

「彼女が『そう』なの?」

フィリアは黙って頷いた。

どういう事だろう、わからないことだらけだ。でも彼女らの顔を見るに殺されることは無い…と思いたい。


「アンタ、見逃してあげる。今日の事誰かに言ったら殺すから」

冗談で言ってるわけじゃない。私が誰かに喋ったら彼女は容赦なくやるだろう。彼女の眼は本気だ。

笑ってはいるけれど、この出来事を経験して冗談だと思えるほど私の頭はおめでたくない。


「ま、わかったら大人しく家に帰りなさいな」


「は、はい…」


私は逃げるようにその場を後にした。

屋敷に帰る途中、安堵と同時に、本人も気づいてないような…僅かな興奮を感じていた―――


「まさか…本当に成功していたとはね…」

「ああ…だけど、不完全だ。見ただろう?さっきの…」

「見たわよ。あれは完全に…   だったわね。」

「放っておいたらマズいかもしれないな…」


サリアがいなくなってから彼女たちは懐かしさ、悲しさを混ぜたような…何とも言えない複雑な表情で言葉を交わしていた…。



あの日から、2日経って。

家に帰ってからというものの、私は部屋でずっと考え事をしていた。

原因はもちろんあの日の事。


フィリアの壊れてる…って発言…いったい何なのかしら…?

それにあの悲しそうな表情…

殺された彼らも何だったのかわからないし…

「わけわかんない…」


ルナからは喋るなって言われたし…

でもそろそろ我慢の限界…

あの事を伏せて…なら。お父様に少し聞いてもいいかしら…

あれだけ怪しい集団がいたのだ。領主の父なら何か知っているかもしれない。

喋るなとは言われたけど調べるなとは言われてないし…よし、お父様の執務室に行ってみよう。


お父様の執務室に足を運ぶ。


中から光が漏れている。お父様はまだ起きているみたいだ。

ドアを開けようと思い、ドアノブに手を伸ばそうとする。

その瞬間、言葉には言い表せないような悪寒がして、ドアノブへと伸ばした手を止めた。


「…中から話し声が聞こえる…?」


もう時刻は深夜を回っている。こんな時間に来客?いったい誰だろう。お父様の知り合い?付き合いでお酒でも酌み交わしているのだろうか…


でも…堅物の父にこんな深夜までお酒を一緒に飲む相手なんていただろうか?

それにこの悪寒は?脳が、全身が。ドアを開けてはいけないと告げる。どうしてだろう。

今、洞窟で、あのバケモノに襲われた時のような悪寒を、感じる。

そっと、音をたてないように。ドアに聞き耳を立てる。


「…………だ。襲……失敗……のか」

「…え。申し………ません」


よく聞こえないが…聞き覚えのあるこの声は―――当然だが部屋の主であるお父様の声だろう。

もう人は…わからない。聞いたことがない。自慢ではないが、これでも令嬢だ。社交場に出れば色んな人と会話をする。相手の事を覚えていないのは失礼にあたる。だから声や顔を憶えるのは得意なのだが――。

まるで知らない。私の記憶が確かなら、今執務室にいるもう一人は知らない人だ。

お父様は警戒心が強い人だ。普段関わりのない人が深夜、そんな父の執務室にいるのは異常だ。

もう少し…情報が欲しい。会話を聞く為、耳をもっと押し付ける。


カタッ


音に驚いて慌ててドアから耳を離す。

まずい、首につけていたネックレスがドアにぶつかって――――

バレた。一瞬のうちに理解する。脳が危険信号を送る。どうすればいい?

ドアの目の前で固まる私をよそに、ドアがキィ…と音を立てて少し開いた。


少しの隙間。そこからお父様が無表情で顔を覗かせる。








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