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血まみれた墓標に愛をこめて  作者: 千鶴
わたしのはじまりと、おわり。
3/13

子犬と龍と猪と

「たのもー!」


「たのもーー!!」


「うーむ…何度叩いても返事がない…」


私は例の彼女たちの家へと訪れていた。来る途中何度領民に顔がバレそうになったか…

まあそれは置いといて…問題は…


「返事がない!!!」

誰もいない、ということはなさそうなのだけど。なんで?って言われるとですね。

「中から音が聞こえるんだよなー…」

ドアに耳を当てて目を閉じる。僅かだが、中からガタ…ガタ…と音が聞こえる。

「うーん。中にいる?こっちの声が聞こえてないのかな…でもなぁ…。絶対聞こえてると思うんだよなぁ…」


もう一度。大きい声を出しながらドアを叩いてみる。

「たのもーーーーーーー!!!」

その途端にドタドタと音が大きくなる。

「お?これは…」

ガターン!!大きな音を立ててドアが開く。やった!と思いつつも、誤算があった。それは…

「いっ………たぁーーーーーーーー!!!」

ドアに顔を近づけすぎていた私は、勢いよくドアを顔をぶつけられてしまったのだ。


「さっきからうるさいのよ!ってアンタ…」

「あ、あいたた…こ、こんにちは…って、ちょっと!さっきからうるさいって事はずっと聞こえてたのに無視してたの!?」

「ふん、別にいいでしょ。それより、何の用?」

むか、人が訪ねてきてるっていうのになんなの?その態度!


「3日前のこと!聞きたいんですけど!」

「嫌」

「は?」

「嫌。って言ってるの。じゃあね」


そう言うとドアを閉めてしまった。噓でしょ?


「ちょちょちょちょ!ちょっとぉ!待ってよ!」

ドアを何度も叩く。だが、何度叩いても返事はない。だんまりを決め込むつもりのようだ。

「ふ、ふふ…。そう?そういう事?そっちがその気なら…」


笑顔を浮かべて剣を構える。笑顔。とは言っても今の私は端から見たら令嬢には見えないだろう。

圧政で民を苦しめる悪女の方がピッタリかもしれない。


「ふふ…ドアなんかお父様の力で修理してあげる…」

「後悔しなさい!!!!」


ドアに向かって剣を振り下ろしたその時。


「何してるの?」

「えっ…?」


振り下ろした腕を掴んだのは、とても美しい金の髪を靡かせ、人形かと見間違うほどに奇麗な―――。「奇麗」という言葉すら、陳腐だと。言葉で表すにはとても足りない。そんな人だった。


「あ、の」

「何か用?強盗なら突き出すけど」

「…?キミ…あの時倒れてた子?」

「あっ…そ、そうです…」

「なんでうちに?」

「あの日の事を聞きたくて…」


私がそう言うと彼女は3秒ほど私を見つめて

「君、壊れてるね」

彼女は見透かすような目で、冷たくそれだけ言うと、家の中へ入っていった。

私は、その場から動けなかった…。


帰ってから私はずっと不機嫌だった。

「なによ!当事者なんだから少しくらい教えてくれていいじゃない!ケチ!」

「それに壊れてるって何よ!意味わかんない!」


ぷんすか。と怒りながら私はある場所へと向かっていた。


「お父様!」


私が向かったのは領主であるお父様の部屋。部屋に戻ってからよくよく考えてみれば私、彼女たちの名前すら知らないじゃない!と、いう事で父のもとへ。ちょっとずるいかもしれないけどお父様に聞けば領民の事なんてなんでもわかるんだから!


「サリア?どうしたんだ」

「私を助けてくれた彼女たちのことを教えて!」

「彼女たちの…?だが昼間に言った通り彼女たちの情報は全く…」

「そうじゃなくて!名前とか!普段どんなことをしているかとかを知りたいの!」

「名前…?」

「はい!私、助けてもらったのに名前も聞いていません…ダメですか…?」


上目遣いでお父様を見つめる。知っているのだ。娘が大好きでしょうがないお父様はこうしたら私に逆らえなくなるのを!


「わ、わかったわかった」

ゴホン、と咳払いをして領民の情報がまとめてあるファイルを取り出す。


そういえば。お父様の執務室ってラベルのないファイルがいくつかあるのよね。

昔触ろうとしたらもの凄く怒られたのよね。

あの時のお父様、目が笑ってなくて機嫌を取るの、大変だったんだから…



「まずは金髪の子から教えてください!」

「わかった」

あの時私を止めた子…未だに顔が忘れられない。彼女は何者なのだろう?

「彼女は…フィリア。という名前だ。お前と同い年だな。普段は時折現れる魔物を討伐して生計を立てているみたいだな」

「フィリア…フルネームは何なんですか?」

「ん?彼女は…フィリア、としか書いてないな。まあ領民の登録にはフルネームは必要ないからな…」

「そうなんですか…」


書いていない…誰にも言いたくない事情があるのか…

少ししこりが残ったが書いてないものはしょうがない。書いてないからといって特に問題はないのだし、とりあえず先に進むことにした。


「もう一人は?」

人の話も聞かずにさっさとドアを閉めやがったアイツ…!話を聞く前だがどうせロクもないやつに違いない。

「あの子は…ルナ…彼女もフルネームは書いてないな。年も一緒、基本はフィリアと書いてあることは一緒だな。」

「ふーん…」

「特に経歴も変な所もないし、満足か?」

「え?ええ!ありがとうございます!お父様!」

「ああ、それじゃあ私は仕事の続きがある。お前はそろそろ部屋に戻りなさい。そうそう、昼間みたいに抜け出すんじゃないぞ」

「は、はい…」


部屋から出る前に釘を刺されてしまった…。どこからバレたんだろう。アリス?街のみんな?まさか彼女たちから…?ありそう、ありそうだわ。特にあのルナだったっけ。あいつならやりかねないわ…!

今度会ったら文句言ってやるんだから!


「厄介な…」

娘が退室した後、独り言ちる。彼の眼は、笑っていなかった。


ぶつくさ言いながら部屋に戻る。ベッドに潜って明日はどうしようかと考える。


「正面から行ってもダメなら…」


尾行!こっそり尾行するしかない!あの二人を追っていたら謎が解けるかもしれないわ!

絶対、謎を暴いてやるんだから!


「あ、そういえばお礼、言ってないや…」


そんなことを考えながら私は眠りに落ちた。

それが事件の始まりになるとも知らずに…




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