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血まみれた墓標に愛をこめて  作者: 千鶴
わたしのはじまりと、おわり。
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ここからはじまる

「……ん…ここは……?」

「お、お嬢様?!目が覚めたのですね!」

「あ、あれ…アリス?どうしたのよ、もう。そんな慌てた顔して…って、ちょっと!急に抱き着いてくるから鼻水がついたじゃないの!」

「お、お嬢様~!」


彼女の名前はアリス。元々はいいとこのお嬢様だったのだけど、ある事情があって今はウチのメイドとして働いてもらっている。


「お嬢様…もう体調は大丈夫ですか?どこか痛いところがあったりしませんか?ずっと寝ていらして…とても心配したんですよ…!」


「ずっと…ってそんなに寝ていたの?今日は何日?」

「今日は8月の6日ですよ!お嬢様ったら3日も寝たきりだったんですから!」

「み、3日!?噓でしょ?!何があったって…」


そこまで言って、私はあの出来事を思い出した。撒き散らされた臓物。誰か確認できないほどにグチャグチャになった兵隊。目の前一帯を覆うほどの鮮血。

あの時は恐怖で感覚が麻痺していたけれど、冷静になって思い起こしてみれば、齢15でしかない年頃の女の子にとってトラウマになってしまう程強烈な出来事だったのだ。その光景を思い出す度に吐き気を催す。


「うっ…!」

私はたまらず吐きそうになってしまった。酒場で仲良くなった彼らの、光のない、あの、顔が。鮮明に、思い出せてしまうのだ。

あれだけ目を輝かせていた彼も。ウエイトレスの女の子にセクハラまがいの軽口を言っていた彼も。すべて、目の前で死んでいたのだ。


「だ、誰か!誰か医者を呼んでください!そ、それとご夫妻にもお嬢様が目を覚ましたと伝えてください!」

「わ、わかりました!」

そばに控えていた執事がそう答えて部屋を出て行った。

「お嬢様…大丈夫ですよ。もう、もう…安全ですから」


アリスはそう言って私の背中を撫でてくれる。それでも、止まらない。あの時の光景が頭にこびりついている。忘れたくても忘れられない。


その時、大きな音を立ててドアが開いた。

「サリア!」

お父様とお母様だ。お父様は私の姿を見るなり抱き着いてきた。

「サリアッ…!無事でよかった…!3日も目を覚まさないから心配したんだぞ…」

「サリア…大丈夫なの?医者は体には問題ないって言ってたけれど…」

「お父様…お母様…」

「なんで…なんであそこに行ったんだ!危ないだろう!運ばれてきたときお前は血だらけで…死んだのかと思ったんだ!」


お父様は目じりに涙を見せていた。お父様はいわゆる『カタブツ』というやつで、滅多に取り乱した様子や涙を見せないのだ。そんな父が見せた姿に私はとんでもない事をしてしまったのだと、今更ながらに思い知った。


「ごめんなさい…」

「責めたい訳ではないんだ…ただ…お前のことが心配で…二度とこんなことはしないでくれ…」

「私たちとても心配したのよ?お父様なんてあなたがあの洞窟に行ったって報告を聞いて今までにないくらい慌ててたんだから」

「シャ、シャリー、それはいわない約束だろう」

「ふふ、あなたは愛情表現が苦手なんだから。たまにはいいじゃないの」


笑顔でお父様をからかうお母様を見て、私は日常に帰ってきたのだと実感した。いつの間にか、私は落ち着いていた。あれ、でもあの時私は絶体絶命だったはず。どうやって助かったのだろう。


「そういえば」


二人がこちらを見る。

「私はどうやって助け出されたのですか?それに、あのバケモノは…」

「それは…」

お父様は少し暗い顔を見せた。言うのを躊躇っているみたいだ。

「お父様。大丈夫です。聞かせてもらえませんか?」

「うむ…」


お父様は少し逡巡した後。わかった。と答え話してくれた。

「1年ほど前に引っ越してきた女性が二人いただろう?彼女たちが助けてくれたんだ。」

「えっ…?」


私は少し思考が止まってしまった。お父様が言っている『彼女たち』というのはわかる。噂を聞いた限りでは私と同い年で、かなり美人だって…。

だけど私と彼女たちは接点が全くと言っていいほどに無いのだ。街でも会ったことはないし、そもそもあのバケモノに勝てるなんて想像できるほど剣術が達者だなんて聞いたこともない。

なにせこの街では私が一番剣術が使えるとまで言われてたんだから。

彼女たちがなぜ危険を冒して助けてくれたのかもかわらないし、助ける理由があったとも思えない。


「その…彼女たちはあのバケモノを倒して私を助けてくれた、と。そういう事であっているのですか?」

「ん…いや。それは…。」

お父様はなんだか言いにくそうだ。

「よく、わからないんだ。」

よくわからない…?どういうことなのだろう。


「彼女たちが何も言わないんだ。聞いても知らないって言うし、まだあの洞窟にも入れてなくてな。」

「彼女たちは逃げてきた兵隊に話を聞いて、救助隊を突入させる直前に現れたんだ。5分だけ待って戻ってこなかったら突入しろとだけ言って中に入っていたんだ。」

「兵隊たちがしびれを切らし始めたところだ…。出てきたと思ったらお前を担いで出てきてな。中にいるのを殺したかったら国軍でも呼んで来いと言って帰っていったよ。」

「あの後彼女たちのもとに伺っても、中に行って拾ってきただけだと言って知りたいことは何も教えてくれないんだ。」

「そうだったんですね…」


話を聞いてますますわからなくなった。彼女たちは何者?私を助けた理由。あの中に入っても無事だった理由。わからないことだらけだ。私は彼女たちにとって助けるだけの何かがあったのだろうか?


「まあ、今わかるのはこんなところだ。暫くは安静にしていなさい。わかったな?」

「わ、わかりました」

「何かあったら相談して頂戴ね?あなたは私たちの可愛い娘なんだから…」

「…ありがとうございます」

「私たちは部屋に戻る。何かあったら…アリス!頼んだぞ」

「は、はい!」

アリスは少し緊張してるみたいだ。無理もない。お父様は普段厳格な人だから。

「それではな」

そう言ってお父様とお母様は出て行った。


「よし!アリス!」

「ひゃ、ひゃいっ?!」

「彼女たちのところへ行くわよ!」

「え、ええっ!安静にしてるよう言われたばっかりじゃないですか!」

「ダメよ!考えててもわかんないんだし!直接彼女たちに会ってみるわ!」

「ダ、ダメですよっ!今日は安静にしてもらうんですからねー!旦那様にも仰せつかってるんですから!」

「わ、わかったわよ…安静にしてたらいいんでしょ!今日はもう寝るから一人にしてちょうだい!」

「……わかりました。安静にしててくださいよ!絶対、ぜーったいですからね!」

「わかってるわよ、もう。それじゃあおやすみなさい」

「お嬢様…おやすみなさい」


バタン。扉が閉まるのを横目で確認してムクリと起き上がる。

この私がおとなしくしてると思ったら大間違いよ!窓からこっそり抜け出して…おっと。庭師には見つからないようにしないとね。

ふふふ。脱出成功!街の人たちに顔を見られたらお父様にもバレちゃうしね。

帽子とメガネで変装して…口元はマスクでいいか!変装もオッケー!よし!

目的地に向かってレッツ・ゴー!ね!



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