学生の始まり
謝るだけで進む話ってあまりないですよね。
謝るときにはこれからどうするのか、そのためにどうしてほしいのか。全てを話さないと他人には伝わらないんですよね。
雑談はここまでしておき本編は学校からです!
カーテンの隙間をすり抜ける光はなく、その代わりと言わんばかりに窓を打ち付ける水滴音。静かな早朝にはそんな些細な音でさえ、やかましく聞こえてしまうものだ。
外に出ても鳴り響く音。傘に打ち付ける音やコンクリートに打ち付ける音。雨の日はそれだけで少しばかり騒がしくなる。
そして、校内には運動部が密集してよりいっそう騒がしくなるのだ。演劇の練習をする時森達にとって今だけは運動部が敵なのかもしれない。
ただ、今この時だけはそんなことを気にする者はいやしないだろう。
放課後、教室の隅で段ボールを切っている時森に見守られながら、教卓の前に自ら身を寄せた南沢は、注目を集めた。
すみませんでした。と一言添えて頭を下げればそれでいいのだ。だが、南沢は結構な頑固者でかなりの恥ずかしがりやだ。
そして、それが上手く出来ないからこの現状なのだろう。
「あ、そ、その…」
もじもじとはっきりしない様子にイライラしているものは少なくはないのだろう。それでも、聞く耳を持つ者がいると南沢は分かっていた。
「ごめんなさい」
深々と頭を下げる南沢の姿勢ときたら文句なしの形だった。
「私、全部思い通りになるって思ってた。でも、時森君はあからさまに私を否定してくれてて。だから、目の敵にしてました。でも、時森君は正しくて私が根本的に間違ってました。ごめんなさい」
南沢の謝罪は周囲に少なからず届いたのだろう。だからこそクラスメイトらは「分かってるならいいんだよ」や「ほら、顔あげろー」なんて軽口をたたいているのだろう。
だが、周囲から寄せられた言葉を聞いて時森は納得できずにいた。そう、気が付けば口を挟んでいるほどに。
「は?これが謝罪?随分と薄っぺらい余興かと思えばこれが本番ね~」
場違いな言葉を堂々と発する時森を深瀬は黙らせようと口を押さえにかかるが、全てはらわれてしまう。
深瀬は、せっかく得た信用をここで失うのだと確信し、時森の言葉を紡ぐ行為をやめた。
時森は、顔をあげた南沢の正面に立ち話しかける。
「南沢さんが悪いとすれば、コミュ力の低さを隠していたことだろ。あとは、嘘を重ねてること。今もそうだよ。笑って、隠して、取り繕って頭下げればそれでよし?俺は嫌だね」
時森の発言な南沢のみならずクラス内の全員が呆然としていた。それでも話は終わらない。
「俺は本心が知りたい」
「本心…で、でもこれが私の本心だよ」
「分からないならいいよ」
そう呟いた時森は自分の仕事であるセット作りの作業を再開し始めた。それにつられるよう、それぞれも作業を始めた。
ただ、一人。動けずにいる南沢は様々なことを考えていた。
自分の本心がどこにあるのか。時森のいい放った言葉は南沢にとってもしっくりとくる正論なのだ。けっして周囲には理解されることはないが、それでも南沢自身は考え直さなくてはならないと、そう判断した。
ただ、呆然と立ち尽くす南沢に深瀬が近寄り話しかける。その表情はどこか嬉しそうだ。
「なんかさ、時森戻ったよな。今朝も一昨日なにがあったのか聞いたらよ、爺ちゃん死んだって平然と言うんだぜ?」
そう言って笑う深瀬に南沢は「時森君は強いからね」と呟く。が、それを否定するのが深瀬だった。
「違うよ。どこにも向けられない怒りとか自分に対しての憎しみとか、悲しみとか色々あいつにもあるんだよ。たぶん、その感情に蓋をするのが人間だ。たださ、時森ってやつは自分にだけは嘘をつかない、だからあんなにでかく見えるんだよ」
つい、話しすぎてしまった深瀬は照れるように笑いながら、「俺も付き合い短いからわからんけど」と呟き時森の元へと戻っていった。
その直後、南沢は呟く。いや、呟くとも言えないほどに声は大きかったと言えるだろう。その声に誰もが注視する。
何事かと戸惑うクラスメイト達。が、時森は口元を歪ませているようだった。
「私は皆思う程賢くないから言われなきゃ分からない。だからもっと言ってほしい。わがままだし、偉そうだし、嫌われるのは仕方ないけど。それなら悪口を私に向けて言ってほしい。必ずなおすから」
静まり返る教室。その隅からは明るい笑い声がした。無論、笑っているのは時森花道ただ一人。
それでも、南沢の真っ直ぐすぎる言葉を聞いてクラスメイトらも南沢はがどれだけ不器用なのか理解したのだろう。
その証拠にクラスは賑やかな笑い声に包まれた。集団が団結するのに大切なのは敵を作ることではなかったのかもしれない。
南沢の元にはいつも一緒にいた女子が近寄っていった。そして、ごめんと何度も謝っていた。
南沢は、謝らなくていいと首を横に振るがお構いなしのようだ。でも、このくらいで丁度いいと言える。
きっと、時森が見たかったのはこの景色だ。南沢だけが謝って終わっていたのなら、南沢とクラスにできた溝は決して埋まらない。
勿論、控えめな人間達はとんだ茶番劇にしか思えていないだろう。けれど、それはそれで通常運行と言えるのではないだろうか。
満足そうに笑みを浮かべる時森に深瀬が問う。
「なんかあった?」
「ん?あー。色々と思い出したんだよ」
深瀬が首をかしげていると時森は、ほら、といい説明を始めた。
「夢の中で会ったっていう女性。あれさ、俺が事故で入院した時に見た幽霊だったわ」
活気だった室内のムードはとどまることなく、ただ作業はいたって順調に進め始めているようだった。その一角では深瀬が目を丸くしているのだが、気にする者はいない。
「オカルトも時森の分野なのかよ」
「違うよ。古代都市もあったんだよ。幽霊もいたし。宙に浮かぶ島みたいなのもあるしよ。ただ、時森神社があった。不思議だな」
「え?なに。事故に遭ってタイムスリップでもしてた?」
「まあ、そんなところかな?」
「違うね。花道君のソレは記憶の問題だよ。細胞をいじって来世に自分を作り出すことはできても過去には戻れない」
突如割り込まれた声に時森と深瀬は視線を向けた。どこから入ってきたのかは謎だが、そこには数ヶ月にやって来た転校生がいた。
印象は物凄く薄く、メガネ以外には特長など感じさせないといった感じだ。
「俺の見たのは記憶…。夢じゃないの?」
時森の質問を頷きながらも転校生は答えた。
「夢、のようなモノだろうね。でも、列記とした記憶だろう。それと、僕の名前は菜園秀俊。よろしくね」
「あー、俺は時森花道。こっちは深瀬…まあ下の名前は俺も知らん」
そして、時森と菜園はあはははと大笑いしていた。
「笑ってんじゃねーよ。拓也だ。深瀬拓也。ちゃんと覚えろよ、特に時森!」
怒りを隠しきれない深瀬はおいてけぼりに、時森と菜園は話を進めているようだった。
「それで花道。身体になにか不思議な感覚とか起きたりしない?」
そう問われ、自らの身体をまじまじと見つめるがなかなか答えはでずにいた。そんな時間が数分続き、時森はあっ、と呟き話し始める。
「最近、頭痛と目眩、立ち眩みっていうのか?まあそんな感じのが多い!」
「いや、それは分からないけど。他には?」
んー、と考える時森は以前抱いた不可思議な事を口にした。
「そういえば車と生身でぶつかったのに俺生きてる。普通死んでると思うし、てか死んだと思ったし。それにさ、身体の治りが異常に早かった」
時森の述べる事実に深瀬は「マジかよ」と驚いていたが、菜園はニヤリと口角をあげ「やはりか」と呟いた。
なにかを知っている、とにおわせぶりな態度をとる菜園を時森は内心警戒しているようだった。
だが、深瀬は頭が楽観的にできすぎているためか気になったことはすぐにきいてしまう。
「なにかしってんのか?教えてくれよ」
そして、どういうわけか菜園も何食わぬ顔でぺらぺらと話し始めた。というより、めちゃくちゃ楽しそうに語り始めたのだ。
「生命力、回復力、ついでに免疫力。これらが飛躍的向上する人間に共通するのは細胞の量なんだ。まあ、難しい事を言っても伝わらないだろうし、簡潔に話すと時森花道君はご先祖様の遺伝子が半分以上入っている。本来的薄まっていく遺伝が花道君の時だけ濃くなった。それが花道君におきた異常と関係している」
「おお!」
よくわかりもしていない深瀬が何故だか驚いているようだった。
そして、時森は表情を強ばらせていた。
活気づいていた室内が徐々に静まり始め、この一角でおきている異変に多くの人が目を向けた。
異変と言えるほどの話しはしていないのだろうが、時森の顔色が強ばった時点でそれは異変なのだ。
「ねえ、菜園。ちょっと二人で話さないか?」
「なんだか、分からないけど別にいーよ?」
突然、雰囲気を変えた時森にはなにがあったのか、近くにいた深瀬は誰もに聞かれたが何一つ答えることができなかった。
菜園秀俊は、時森の数歩後ろを歩き妙な笑みを浮かべていた。
時森が連れ出したのは利用者の少ない、一回の男子トイレだった。その中でようやく向かい合った二人。
そして、時森は震える唇を噛みしめ、一呼吸おいてから口を開く…。
そろそろ三万五千字くらいになると思うんで、物語も動かして行こうかなと思ってます。
話の展開とかも結構早いと思うんですけど、レナ、南沢、二人のヒロインを上手く出すためにラストを深く書くために今は急ぎます。
ただ、不満足なども教えていただけば治します。
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