リスタート~秋の季節~
恋愛の兆しがみえてくるかもしれませんよー。
ようやく文化先ムードになり始めたクラスで南沢と時森がひと悶着?
ぜひ読んでみてください。物語、動き始めましたから…。
二学期が始まり出すといよいよ、文化祭準備が忙しくなり始める。その中でも時森と深瀬の雑用扱いはプロも頷けるものだろう。
もし、雑用のプロが存在するならだが。
時森のクラスは演劇をやるらしいのだが、それはクラスの中心的人物たちが決めていった。
考えることする面倒くさいと思っている時森にとってはそれでいいのだが、深瀬は役をやりたがっているようだった。
時森は周囲から一目おかれる変人だが、深瀬は元々クラスの中心的人物ともよく話していた。今は話せていないようだが、それは深瀬がクラスよりも時森をとったということだろう。
どこから集めたかすらわからない大きな段ボールを教室の隅で切っている時森に深瀬が話しかける。
「白雪姫やるんだってさ」
「知ってるよ」
「キスシーンやるのかな。てか、姫役南沢だったな」
「へー、似合ってるね」
文化祭というものに興味のわかない時森は全てが棒読みの返答だった。深瀬はつまらなそうな表情をして段ボールを折り畳んだ。
すると、南沢が近づいてきた。
「そこのお二人さん、雑務は演劇に大切なの。演技がよくてもセットがガタガタじゃつまんないもの」
自分たちにだけ強い口調で話してくる南沢に深瀬が言い返そうとしたとき、時森が口を開く。
「演技がつまらなくならないように練習してきたら?セットも演技もガタガタじゃ、南沢さんの性格みたいでしょ」
そういって、時森は顔をあげニヤリと笑みを浮かべた。
この状況を深瀬は大笑いしてみていた。
「分かった。じゃあ、私は演技に集中する。ただ、しょぼいセットだった場合時森君が責任をとりなさい」
そういい残し立ち去る南沢の背を見ながら時森は深瀬に問う。
「なんか、地雷踏んだ?」
「まあな。南沢って部活に入らないかわりに演劇のスクールかよってるらしいしね」
なるほど、と頷く時森に今度は深瀬が質問をした。
「それより、なんで思ったことはっきり言ったんだよ。南沢にはっきり言う奴あんまいねーぞ?」
「だからだよ。皆嫌われたくない一心で彼女には何も言わない。けど、そんなの間違ってる。それは気遣いじゃないだろ」
「だからってなんでお前が…」
「俺はどうでもいいけど、こういうのってたぶん嫌いなんだと思うんだよね。夢に出てきた約束の人がさ」
夢は夢で割りきるのが当たり前のことだ。それに数ヵ月も前に見た夢をいつまでも引きずるのはおかしい。そう思っていた深瀬はある疑問を口にする。
「時森さ、退院後に学校来たときから少し変わってた。だから、話しかけて見たんだけど心ここにあらず?みたいな感じでさ」
「そうだっけ?」
時森には自覚が全くないようだ。だが、あの時はレナの事を気にしていたのだからそう思われても仕方がない。
この話はレナの記憶が消えた時森とは噛み合うことがない。
それでも、深瀬は意外なことを口にする。
「事故った時頭も打ったんだろ?本当はなにか、隠してないか?幽霊が見える、的なやつ」
記憶の残っている時森がこの場にいれば動揺を隠しきれないのだろうが、今の時森は笑うだけだった。
「幽霊とか見たことないし。逆に聞くけど幽霊って本当にいんのか?」
「え、?時森ってこういうオカルトが好きなんじゃないの?」
「べつに好きではないな。だって確信めいたことがないだろ?」
質問に質問でかえすやり取りが終わりをむかえるには少し場がりの時間が要するのかもしれない。それでも気のすむまで話すことが、時森にとっての喜びでもあった。
「古代文明が現代より発展してるとか、言い切るくらいだからオカルトマニアかと思ってたわ」
時森は首を傾げ答える。
「俺言い切ってたっけ?そんなの確信も持てないのに…」
「そ、そうだよな」
「当たり前だろ。過去なんて定かじゃねーんだよ」
深瀬は違和感を抱いていたが、追求することはなかった。
深瀬の第六感が芽生えたとでも言うのか。この話には、これ以上踏み込んではいけないのだと気がついたのだ。
ただ、呑気に段ボールを切っている時森を見つめる深瀬はなぜだか、虚しさを感じていた。その虚しさは、物足りないという個人の思いからでてきた感情なのだろう。
どれだけ、周囲から後ろ指差されようとも自分を突き通す時森が格好良かった。深瀬はそう思っていたのだから。
かなり話し込んでいる二人の元へ、再びお姫様が文句を言いに来た。
「時森君。わかってるのよね?仕事。やって」
話が膨らんでいったのも深瀬が根底にあると誰もがわかるはずなのに、南沢が目の敵にするのはなぜか時森だ。
言い返された、なんて屈辱を与えた時森を目の敵にするのは分からなくもないが、南沢ならもっと周囲からの目を気にしてもいいものだ。
「この段ボールとハサミが見えないなら、いい眼医者紹介しようか?」
そういって、南沢を笑いながら煽り始める時森はもっと周囲の目を確認するべきだ。
時森と一緒に視線を浴びる深瀬の目はおどおどしていて可愛そうだ。というより、めちゃくちゃ焦ってる。
さすがに、ここまでやり合うことは想像をしていなかったのだろう。今の深瀬に笑う余裕などない。
南沢は苦笑し、時森の切っている段ボールを指差した。
「この段ボールを段ボールに見えないくらいのクオリティーにしないと認めないから」
その意見にはこの場にいる誰もが無理だ、と思ったことだろう。
「じゃあ、校庭の草でも張り付けて仕上げにタンポポでも添えようか。そうしたら段ボールではなくなるよね」
時森の提案を聞いて鼻で笑う南沢。
「バカね、タンポポは季節外れ」
論点がそこではないとどれだけの人間が思っただろう。
南沢は誰からみても美人で成績優秀の高嶺の花という存在だった。だが、それは偽りだったのだとクラスメイトは薄々感づき始めた。
「そうだったね、」
時森は手を叩いて笑っていた。勿論、周囲は唖然。
南沢が思っていた人物とは違っていたということに、そして、時森が意外と明るい奴だということに。
あと、周囲はもうひとつ気がついたことがあった。というよりも、思っていたが塞いでいたことがあった。
「とにかく、さっさとクオリティーの高いものつくってよね」
南沢は物凄く、わがままだ。さらっときつい言葉を浴びせてくることもある。そういう一面があるのだと周囲は思い始めた。
この変化は良くか悪くか影響を及ぼす。
一通り話終えた南沢が稽古に戻ろうとしたとき、教室に他人の先生が入ってきた。
辺りを見渡し、時森をみつけた先生は廊下方へ手招きした。
時森は小首を傾げながら立ちあがり廊下へ出ていった。
時が止まったかのような空気が教室内に流れていたが、やがて何事もなかったかのように動き出した。その時、勢いよく教室のドアが開かれ誰もが驚き目をやる。
教室に入ってきたのは時森だった。目が潤んでいて険しい表情をしている時森からただ事ではないなにかがあるのだと、クラスメイトは察知した。
急いで帰り支度をする時森に深瀬が何があったのか問いかけた。すると、時森は震える声で呟く。
「二、三日休むかも…」
「なんで」
「わりー、今は急いでるから話ならそのうち」
時森は深瀬と一度も目を合わせようとしなかった。きっと目と目があった瞬間、その温かさが自分で押し殺している感情をだす引き金になってしまうから。
教室を飛び出す時森に声をかけられる者は一人としていなかった。さすがの南沢であってもあれだけ深刻な表情をしている時森にかける文句はないのだろう。
教室内はざわつき始め、作業を進める手が止まり始めた。
そんなとき南沢が周囲に言い放った。
「サボりたい人なんか無視して、さっさと作業に戻りましょ」
その一言に演劇のセットを作っていた男子が呟き始めた。
「酷すぎる。無視とかサボりとか、そういうのやめてくれよ。あの表情を見ただろ。あいつ真面目だからサボるような奴でもないし、悪く言わないでほしい」
「べ、べつに悪気があったわけじゃ…」
弁解しようとした南沢は口を紡ぐ。そして、無言のまま鞄を手に持ち廊下へ出ていってしまった。
その数分後、自然とクラス会議らしきものが始まった。
勿論、頭の良い南沢は自分がいない方がそう言った話をしやすいと分かっていた。だから盗み聞いてやろうと思っていたのだ。
だが、クラスメイトが口にしたのは南沢の予想をはるかに越える批判だった。
「時森君にきつすぎない?」
「てか、自分が演劇サークルに通ってるからって一人だけ突っ走ってさ。俺らそこまで演劇に興味ないし」
「でもまあ、そういうとこも美奈だし。私はべつにいいんじゃないかな、と、思うん、だけど」
弱々しくではあったが自分の友達が守ってくれているようで南沢は嬉しく思っていた。生きていれば何かしら意見が割れることはある。
それは仕方のないこと。自分は一人ではないのだから大丈夫だ、と。
「へー。それ本心?」
だが、南沢をかばった瞬間問い詰められる。周囲の凍てつく視線が南沢の友達を苦しめていた。
その視線がどれだけ凶器なのかは目にしていない南沢に分かることはない。壁越しの南沢に伝わるのは声だけだ。
周囲の雰囲気を察した南沢の友達は改めて発言をした。
「わ、私も美奈のあー言うところ好きじゃない、かも」
すると、南沢に関わっていた女子達が次々と南沢に敵対していった。
集団を団結させる一番の方法とはなにか。それは共通の敵がいるということ。
共通の目的じゃ薄いのだ。倒すべき悪が一人いればそれだけで集団はまとまり始める。
教室内の話し合いで深瀬は一言も発しなかった。それは、この状況は時森が望んでいないと分かっていたから。
そして、今まで認められなかった時森を認めだしてくれた皆を否定したくはなかったから。
深瀬は息をひめ廊下に出る。
そこには壁にもたれ掛かり涙を流す南沢がいた。
深瀬の存在に気がつき、南沢はその場を逃げようとした。
「南沢が泣くことはないと思うぞ。時森がなんとかしてくれる」
深瀬の言葉に足を止める、南沢だったが「下手な私が悪い。助けも要らない」とだけ呟き立ち去ってしまった。
事故に遭ってからの数ヵ月間。時森の行いは誰もが見ていたのかもしれない。
床に落ちているゴミを拾う姿。どれだけ煙たがわれても困っている人に手助けする姿。
確かにその中でも変人要素は詰まっていた。だからなかなか認められることはなかった。
それでも、時森が良い奴だと言うことは十二分に伝わっていたのだろう。だからこそ、時森だけを酷く目の敵にするのは見過ごせなかった。たとえ南沢であったとしても。
翌日の教室に時森と南沢の姿がなかった…。
その頃、時森は自室のベッドに寝転んでいた。目を腫らしたその瞳は、昨日までの生き生きとした輝きを全てが失くしていた。
辛口だった南沢をちらほらと気がついていたクラスメイト。それが確信に繋がり形勢逆転。あるんですよねこういうことって。
時森も記憶が消えてから順調そう、とも言えないかな。
次回は「秋桜に囲まれて」です。
同じ時期に精神的ダメージをおった二人のストーリーです。
できれば本日の夜投稿。できなければ明日か、遅くとも明後日には投稿します。
続き気になるようでしたら、ぜひブックマークお願いします。ひとりでも多くの人に最後まで読んでもらいたいです。