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文字数は前話の半分ほどです。

このストーリーの下積みという話ですので短めです。

交通事故から早くも二ヶ月が過ぎ、時森は桜の消えた並木道をゆっくりと歩いていた。


この二ヶ月、時森には悪いニュースばかりが入ってきた。その中でも一番落ち込んだのは、好きなアニメの録画を忘れた言われたことだ。

時森がこの悲報に一番落ち込んでいたのは間違いないだろう。だが、もっと大きな悲報もあったのだ。


それは時森が目を覚ました日、母が見舞いにこれなかったことと大きく関係していた。どうやら、時森の爺さんが失踪してしまったらしい。その場にいたレナは物凄く動揺していた。

だが、時森は「ふーん」といい至って普通だった。


薄情ものと母やレナに言われた時森だったが、なにを思ってか、もしくはなにも思わずか、「爺ちゃん

は謎多すぎて付き合いきれん。それに死なないよあの人は」


この発言で爺さんを信じきる時森をとやかくいうものはいなくなった。


そしてついに、二ヶ月ぶりの登校日だ。気が進まないのかもしれないがレナに連れられ、いかざるを得ない状況だ。だが、時森が学校へ行きたくない一番の理由はレナが着いてくるからでもある。


時森は入院中の約二ヶ月をレナと過ごしてきた。勿論、南沢美奈と付き合うことを目標とした練習のために。


並木道を跳ねるように歩くレナが突然振り向き、満面の笑みで時森に問う。

「ねえねえ、付き合えたら何したい?」


付き合える訳も、告白するつもりもない、という時森は目を細めて渋々答え出す。

「付き合えたら考えるよ」


嫌な質問に答えた時森の回答が気に入らなかったのか、レナは小さな溜め息を漏らした。そのさまに、イライラを隠しきれない時森もまだ、耐えているようだ。


「まあ、君は大丈夫だよ!」

「なにがだよ」

「辛くなったら私との特訓を思い出して!」


レナの励ましの言葉に過剰に反応する時森。そして、どういう訳か顔色が物凄く悪く怯えていた。


「なによ。君って私のこと嫌ってるの?色々教えてあげたでしょ?」

そんな、時森の異変に気がつかないレナではなかった。


「確かに教わったよ。でも、地獄過ぎたよ。それにレナが教えてくれた恋愛らしいのなんて数える程しか」


そう、レナは人生経験こそ人の倍以上あるが恋愛経験はその辺を歩いてる人の方があるのだ。認識されなければ恋に発展することもない。悲しいがそれが現実だった。


なら、時森はなにを教わったのだろうか。


時森は憂鬱ながらも、高校へ辿り着いてしまった。校門を、過ぎてからは溜め息の連続だ。


ただ、期待も少なからずしているようだった。

子供を助けて自らが大怪我をするなど表彰ものの話だ。だからこそ、少しは自分を理解してくれたのではないか、もしかしたら話しかけられるのではないかなど。


ただ、現実はそう上手くことが進むものじゃない。進むものじゃないのだが、どういう訳か上手い具合に転校生が来ていた。


勿論、二ヶ月いなかった時森より注目されるのは転校生だ。


時森とクラスは違えど学年が同じだ。転校生のいるクラスは人だかりができていた。

あえて、比較してみるが時森のクラスは通常化運行。なんなら、転校生見学で人口減少している。


無表情のまま、自分の席につく。すると、レナがニヤニヤしながら話しかける。


『なにか、思い悩んでるね~。私が当ててあげよう』


「は?」


『君は自分より転校生に注目がいくことに不満を抱いてる。つまり嫉妬だね。あー、かわいいー』


「可愛いと思うなら、その棒読みやめてよ」


呆気にとられながら答える時森は背後にクラスメイトがいることなど気にもとめず口にする。二ヶ月間レナという、周囲に認知されない人間と話していたのだ。時森にとって、レナは認識できるただの人間でしかない。

とはいえ、声にしてしまうのはまずかったのかもしれない。


「誰が可愛いと思うんだよ。時森」


背後からの声に時森は驚いていた。だが、他人からすれば驚いているようには見えないだろう。それほどまでに時森の表情は分からない。

自分を表現する事がとことん苦手な時森はクラスメイトと普通に話すことさえも困難に値する。


 今までは嫌われていなかったからこそ、なんとか生活できた。でも、そんな偽りの関係を友達と言うのはおこがましいと、時森自身が感じていた。


「い、今のは何でもないです」


 クラスメイトである深瀬拓也(ふかせたくや)に対しての敬語は明らかに様子のおかしい。そんな時森を目にしたレナは、深瀬の背後から不機嫌そうに問いかける。

『きーみーは、同い年にも敬語なんですかぁ?』


『仕方ないだろ。少しでも好かれるにはさ』

 時森は目を逸らしながらも、心の中で弱々しく呟いた。


『バカタレ!』

 レナの大きな声に反応して驚く時森に反応して深瀬も驚く。深瀬からすれば、時森が突然驚き始めたのだから仕方のないことだ。というよりも不思議だとおもっているだろう。


 深瀬を驚かせてしまった時森は「ごめん」と呟いた。深瀬は訳も分からずに「おう」とだけ言っていた。


『レナが大きな声出すから怪しまれたじゃないか』

『そんなの知りません。バカは怪しまれるくらいがちょうど良いんです』


 会話が成立しないもどかしさから、時森は機嫌を悪くしているようだった。そんな時森を気にかけている深瀬は、良い奴なのだろうが、そんな事に気がつく気配すらない時森は目が腐っているのかもしれない。


「なぁ、まだ本調子じゃねーなら保健室でもいけよ」

「あ、う、うん。もう少し体調悪くなるまでは頑張る」


 敬語の抜けた時森に深瀬は笑みを零し、話題を交通事故へと転換した。

「そういえば、事故って痛いの?」

「え。車に正面衝突して痛くないとでも?あっ」


 あまりに自然な感じでの話の切り出しに、時森はつい自然体で話してしまっていた。その事に気がつき慌てて口を押さえるも声が戻ってくるわけがない。

 失敗した、と思った時森は気を落としているようだった。無論、深瀬には感じ取れないだろうが。


「そりゃそうだな、痛くないわけねーや。怖かったりしねーの?あとは走馬灯とかみたか?」

「無我夢中で怖がる前に視界真っ暗。走馬灯なんかもみる暇ないし、スローモーションとかもならなかったよ」


「まじかよ。体験者のリアル話ためになるわ」

髪を書き上げ楽しそうに話す深瀬を見て、時森はようやく気がついたようだ。

今の会話が普通だということに。気を使うばかりでは仲良くはなれない、ということに。


校内にはチャイムが鳴り響き、転校生を見に行っていた生徒も次第に教室へ戻ってきた。

時折、時森を見る者はいたのだがあまり興味を持たれてはいないようだった。


「時森さ、昼めし一人だろ?」

深瀬にバカにされたと思い、時森は少し表情を歪ませた。

マイナスな表現が得意な時森だけに、深瀬は表情が歪んでいたことにすぐさま気がつくことができた。


「そういうことじゃなくてさ、俺と食わねーかなって。面倒くさいなら無理にとは言わんが」


どう返答していいのか分からずにいる時森に向かってレナは微笑み、口を開く。

『告白へのステップその一だね。まずは友達を作るべし。一人の男に女はよってこない!』


人差し指を立て、胸を張りながらなら誘いに乗れと言ってくるレナを時森は面倒くさそうな目で見ていた。


自分の交友関係を他人に決められたくないというのは誰もが思うことでもあるだけに、時森の乗りきれないという気持ちは頷ける。


ただ、時森には元々他人に荒らされるような交友関係などないがためにリスクなど予想できる程にしかない。

その事に気がついた時森が誘いを受け入れようとした時。


「時森、わりーな。嫌なのに困らせちまったな」


深瀬は時森がレナに向ける視線を自分に向けられていると思っていた。というよりも、レナという存在を周囲は認知していないのだから、時森が向けた視線が深瀬の背後のレナだとしたら、それは深瀬に向けていることになる。


『ち、違う』

深瀬の背中は寂しそうだと、コミュニケーションが苦手な時森にでさえ、いやコミュニケーションが出来ないからこそ、他人の小さな変化や空気感は分かるのかもしれない。だが、いくら引き留めても声にしなければ伝わらないのだ。


誘いを断られた深瀬は落ち込みつつも自席へ着いた。時森は落ち込みを隠すため机に突っ伏した。


互いの気持ちは向かい合っているというのにどうも噛み合わない。

恋愛でのすれ違いというのはある意味美しいとすら言えるが、こういったケースになるのは時森のような人間だからなのだ。簡単な話、レナは腹を抱えて笑っていた。


『もうやばい。面白すぎるよ。君は女の前に男から作んなきゃね』


レナがどれだけ明るく話しかけても返答はない。

それほどまでに落ち込むことなどないのだが、時森は孤立した日から後悔をしてきた。

自ら決めた道は間違いだったと。


そんな中、教室内はざわつき始めた。転校生のさわぎの連中が教室に戻ってきてすぐ、時森に目をつけたのだ。


「あいつ、自殺未遂だろ?」

「自業自得で独りだからって小さい子助けるふりして英雄として死のう的な?」

「ヲタクっぽいけどそんなとこじゃね?」


クラス中に聞こえる声で行われた、男子生徒二人組の会話は時森に向けられているだけでなく、周囲にもこいつはいい奴じゃないと訴えていた。


頭にきたレナは二人の正面まで行き、怒り始めた。

『あんた死ぬ思いしたことあんの?痛いのよ、怖いのよ。なに不自由なく友達もいて、この世界で楽に暮らせてるあんた達に彼の何がわかんのよっ。人が人を助けた事実に勝手な理由をつけるのはやめなさいよ!』


レナがどれだけ怒ろうとも聞こえるはずがない。それが時森にとっては唯一の救いであり、心の支えでもあった。

時森はレナの方、つまり二人組の方みて心の中から話しかける。


『レナ。君の声は届かないだろ』

『知ってる。でも…』

儚げな表情を見せるレナに時森は笑いかけた。

『でも、俺には届いてる。それだけでいいだろ?ありがとう…レナ』


声にするよりも心の中で思うことは簡単なのだと気がついた時森は素直にお礼を言った。すると、レナは目を丸くし呆然とその場に立ち、動かなくなった。


だが、直に動き出す。そしてレナは静かにゆっくりと一歩一歩踏みしめ、時森の正面に立つ。

そして、何も言わぬまま時森の首に腕を巻き付けた。


『な、なんだよ。レナ』

時森の顔は真っ赤だ。周囲に与える印象なんてもはや、変人としか言い表せないだろう。

そんな状況になっていることを今の時森はしることはなかった。なぜなら、周囲に認知されることのない幽霊に抱かれ、時森は我を見失っているからだ。


レナの方も同様だが、直ぐ様我に返り教室を去っていった。そのあとも時森はただ呆然と過ごすだけだった。


周囲からの悪口が聞こえなくなるほど呆然としている時森は、そのおかげで傷が少しばかり軽減したと言えるだろう。


レナがそこまで見越しての行動をしていたとするのなら大したものだが、そういう訳でもなさそうだった。

どちらかと言えば抱きついたレナの方が、恥ずかしそうな顔をして出ていったのだから。


教室を後にしたレナは時森に顔を見せずらくなり、行く宛もなく歩き続けていた。それも日がくれるまで。


時森は大丈夫だったのだろうか。そんな不安を抱えつつもレナは歩き続けた。常人には歩き続けることでさえ苦に感じるだろうが、そういう面を言うのならレナはこの世界の誰よりも歩いてきた。


もはや、息をするように長時間歩くことも可能なのだろう。だが、レナは大きな橋の頂上で足を止める。


夕日がレナの頬を赤く染め、目に浮かぶ雫をオレンジ色に輝かせていた。

「彼と花君を重ねちゃダメよ。別人の彼に私の想いを背負わせてしまってはいけない」


レナは橋の手すり足をかけた。

大きな橋の手すりに足をかけた人間のすることなど決まっている。


川の奥の方から温かい風が吹き始め、レナの長い髪の毛を踊らせていた。時間帯、景色、強風、雰囲気。自殺するにはベストなコンディションだといっても過言じゃない。


そもそも自殺にコンディションなんてことは存在しない、ましてや幽霊のはずのレナが飛び込もうとも何も変わらない。


そして、日は暮れレナは手すりに座っていた。

つまり、手すりに足をかけたからといって自殺を望んでいるわけではないということなのだろうか。それとも霊体では死ねないから飛び込まないのか。


レナは深い溜め息をついて呟く。

「ここから飛び降りても無意味、きっと濡れるだけ」


「そうだね。レナちゃんは存在していないから死ぬことはないね」


強風のせいもあってか、レナは気が付かなかったのだろう。足をかけたその時から背後に時森と同じ高校の制服を着た、メガネの男がいたことに。

もしかすると、気が付いていて自分のことは見えないと思って無視していたのだろうか。


どちらにしてもレナは驚いていた。時森と同じ制服を着ていることになのか、この温かい季節に手袋をつけていることになのかは分からないが目を丸くして言葉を失っていた。


男はレナの手を引き、手すりからおろした。手すりには寄りかかり楽な姿勢をとっていた。

レナは困惑した脳を落ち着かせ問う。


「私が見える、触れられる。なんで、もう長いことこんなのなかったのに。なんでいまなの、なんで今の時代なの。もっと、、もっと早く…」


男は暗い表情をして、話を切り出す。ただでさえ、暗いのだから男の表情はレナには見えていないのかもしれない。


それでも、行き交う車の照明がメガネ手袋男の浮かない表情を照らし出していた。

それと、車の照明はもう一つ照らし出していた。


行き交う車の運転手達は、不審がっているかもしれない。だが、それも仕方のないことだ。橋の上で空気を抱く男がいたら不審でしかないのだから。


ただ、運がよかったのは夜ということだろうか。昼間ならきっと高校に電話をされていることだろう。

空気を抱くくらいじゃ高校に電話などはしない、なんてのは一目瞭然だが、涙を流しながら空気を抱いていたらどうだろうか。


なにか危ない薬を使っているのではないかと疑う者が現れてもおかしくはない。高校へは連絡がいき、最悪の場合、即警察だ。


だから、夜で良かったのだ。それに、想いは静かな夜ほど届く。


一通り、話を終えたメガネ手袋男はレナにある提案をした。

「花道の記憶からレナちゃんを消し去ろう」


驚くそぶりすらなく頷くレナは泣いていた。この涙がなにを示しているのか。

レナを見ることが出来るのはなぜなのか。


レナの想いが何万年という時を越えた今、進みだした時間を止めなくてはならないのかもしれない。だが、いつか必ず動きだす時がやってくる。


カーテンの隙間から温かい光が差し込み、目を覚ます時森に、レナという女性の記憶は存在しなかった。

恋愛を気合いしてくださっていたのなら申し訳ないです、、。

次回はレナの記憶をなくした時森が南沢にアタックしにいく回になります。でだしからの恋愛にご期待ください。


感想、レビュー、話の続きが気になる方お願い致します!

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