本当に欲しいモノ1
脳から出血したにも関わらず、体は案外動くものだった。
普通ならきっと動きはしない。
きっと生きてはしない。
じゃあ、なぜ俺は生きているのだろうか。その自問にはすぐに答えられそうだった。
俺は異種族で古代人で現代人。それらを広く浅く取り入れただけの変わり者だ。
そんな事を病室で考えていると外の空気を吸いたくなった。だから俺は、いつかの川沿いまで歩く事を決意した。
その道中に命尽きるのならそれも良し。
腑抜けた俺を叱ってくれるのならそれも良し。
どれでも良くて。どうでも良い。
俺の中に残っていた前世の記憶が蘇ったからなのか、俺は自分らしさを取り戻せた様な気がした。それが悪い方向に向かっている事は理解していたが、悉ことごとくどうでも良かった。
レナの父はきっと娘の為に科学の力を使って俺をこの時代まで繋いでいたのだろう。かつての俺もそうなる事を望んでいたし、そうする様にお願いもした。けれど、目覚めた途端疲れ果ててしまったみたいに何もかも面倒臭くなってしまった。
何が心の灯火を消してしまったのか。その正体を知っている分、仕方ない気がしてしまう。
結局、俺はレナの知る時森花道であってそうではない。転生はタイムスリップとは異なる。
新しい身体、新しい環境、関わってきた人物や過ごした時間。転生とはあくまで転生に過ぎない。前世とは違った価値観や考え方も多々あるし、容姿すらも似てはいるけどホクロの数までは同じじゃない。
近しいだけで全くの別人でしかないんだ。
前世の俺は命を捨ててまで愛しい人を守り抜いた、勇敢な男だったかも知れない。けど、そんな勇敢な男が選んだ選択が十万年という時を超え俺に重たくのしかかる。
それなのに自分のことの様にも考えてしまいそうになる。そんな自分の生真面目さが、今は物凄く煩わしいと感じる。
いつぶりかの川辺に着く頃、頭痛はかなり激しくなっていた。
日が昇る前の川には近くの橋から漏れる電光以外何も映っていなかった。そんな中、南沢の事をまた一つ理解してしまった。
南沢がクラスメイトの過半数に陰口を言われていたからと言って、自殺をはかったのはずっと理解し難いと思っていた。でも、たった今、理解出来た気がする。
生きる事が面倒臭くて、明日になるのが怖くて重苦しい。こんな複雑なモノを抱えるくらいなら死んでしまった方がきっと楽なのだろう。そんな感覚で南沢はこの川に飛び込んだのだろうな。
彼女は飛び込み生きたいと思う様になった。それは『死』を経験した事がないからだ。人間誰しもが経験のない事を一番に怖がるものだ。でも、俺は違う。
死ぬという事が時を超えるに等しいと知っている、思っているよりも苦しくないと知っている。経験者はビビらない。
脳内で激しく脈打つ頭を押さえながら、川のすぐ近くまで行く。
俺は、きっとニュースに出る事になる。数ヶ月前、子供を救った青年が自殺…青年に一体なにが。なんて見出しのスクープが飛び交いそうだ。
古代はクズばかりだったが、現代は嘘ばかりでどちらも息が詰まりそうだ。だから、早く終わりにしたい。それが俺の求めるモノだから…。




