何者でもない
時森が目を覚ますと、病室内は騒がしくなった。南沢によってナースコールが押され、担当医がすぐさま駆けつけた。
それから、時森の心拍数の数値を見たり脳のダメージを見るために検査をしたり。本当に忙しそうだった。
それでも、時森は無駄なことだとわかってた。
大きな機械に入れられ、検査をする最中暇をもて余した時森はレナに話しかける。
『レナを思い出した時点で死ぬことなんて分かってんのに医者ってめんどくさいな』
『ふふっ。生きられるかもしれないんじゃない?』
『これは俺の推測だけどさ、前世の記憶を鮮明に思い出した時ってもしかしたら俺が本当に弱ってる時なんじゃないかな』
時森はやがて病室に戻され、母が担当医によびだされた。その間病室では時森と南沢の二人っきりだった。
変な気をまわしたのかレナの姿もなかった。時森は南沢を前に気まずそうに話しかける。
「ごめん、心配かけて」
そう呟く時森をみて南沢は首をふった。
そして、南沢が口を開く。その目には涙が溜まり始め、やがて溢れていた。
「死ぬかと思った…。脳出血ってきいて怖かった…。例え、私のこの先の人生に時森君がいなくとも時森君には自分の人生をもっと長く生きてもらいたい」
時森は他人のために涙を流せる南沢が眩しいと感じていた。でも、全てを思い出してしまった時森にとって南沢はただの女の子に過ぎなかった。
だから、軽率な発言の一つや二つくちにしてしまうこともあるのだろう。
「俺はさ、もう疲れた。役を果たしたらさ、もう死にたい」
ふと、口から出てしまった本音を時森は訂正することはなかった。
南沢は時森の発言を聞いて「バカじゃないの…」といいその場を去っていった。
その場を去ることなどないのだろう。だが、時森の声、表情が真剣だったためかかける言葉を失ってしまい逃げ出したのだ。
やがて、時森の母が病室に戻ってきて南沢の事を聞いていた。時森は平然とした帰った事を伝えていた。
それから時森のは容態が物凄く良いという報告を受けた。時森は目を丸くしていた。
母が嘘をついているのではと疑ってもいた。だが。
『本当だよ花君。お医者さんは順調って言ってたし傷も塞がってるみたいだったよ。どうやら君の読み違いだね』
レナの言葉にたいしての返答を時森はしなかった。
一命をとりとめてから、どこか暗い表情の時森にはある心境の変化があった。
その問題を解決することはきっと困難だろう。もしかすると、その問題を解いた者すらいないかもしれない。
時森が直面した壁。
それは、自分とは何者なのか。生きるとはなんなのか。
一度死んだはずの自分が何故、呑気に息をしていて、周囲には死んでくものが多くいるのか。
自分の生きる理由はレナを別の次元から出してあげること以外に何があるのだろうか、という疑問。
レナを現実に戻したとして戸籍上の問題をどう解決していくべきなのか。考えれば考えるほどに面倒臭い人生だと嫌気が差してしまったのだろう。
その日の夜。時森はレナと話をする。
『レナ。俺さもう疲れたから終わりにしたい』
『いいよ?ならさ、一緒に行こうよ』
『レナも死ぬことなんて今さら怖くないよね』
時森がそう問いかけるとレナは微妙な笑みをこぼした。
『私は今も死んでるようなモノだからね』
その、吐き捨てるような台詞をきいて時森は不納得そうな表情をし、ようやく口を開く。
「レナは生きてるよ、今もこうして俺が見えてるし話してる。死んでなんかないよ」
『ありがとう』
頬を赤らめるレナは十万年という長い月日が流れようとも変わりはしない。
だが、レナも長い時の流れで変わり始めていた。その事にも時森は気が付いていたのかもしれない。
そして、レナも自分の中での疑問について問う。
『花君は、南沢さんの事どうでもよくなったわけ?』
その問いに対する答えはすでに用意されていたようで時森は躊躇うことなく口にする。
「俺はこの時代の人間じゃないから。かといって古代の人間でもない。俺は今、何者でもない」
寂しそうに答える時森にレナは何も言い返す事なくその場を去っていった。
翌日、時森の病室に深瀬がやってきた。だが、そこに時森の姿はなかった…。
次からはそれぞれの話に入るので文字数少なめでいきたいと思いまーす。




