繋がる過去と現代
ここをよめば物語の七から八割をしったことになります。
『へー、花君思い出したんだぁー』
視界が暗く、前後左右なにもわからかい場所に俺はいた。
いたといっていいのかすら危ういこの状況でようやくレナは俺の心に話しかけてきた。
もう二度と現れてはくれないのだと思っていたがそう言うわけではなかったことに少しばかりの安堵をした。
『花君。自分の記憶の中に何を求めているの?何が欲しいの?』
『俺は何も求めないし欲しくもない。ただレナの傍にいる…あの日約束したから。君が欲しがったモノを渡すために』
『違うよ。私はもう欲しいものを持ってる。なにかを欲したのは君だよ。花君…』
レナの消え行く声は俺の脳内に響き消えていかなかった。
俺が欲しかったモノ…。
いつでも控えめで聞き分けのよかった俺はなにも欲したりはしない。
だが、それは現代の話で古代の俺はレナのいう通り確かになにかを欲していた。
俺が欲しかったモノ…。
木にもたれかかり涙を流し終えたレナの父は、これまでの時森家にレナが来ることになった経緯とやらを口にした。
勿論、考え方事態が自分なんかよりも賢く理解しがたい感じがあった。
簡単に話すのなら、この世界を終わらせたいとでもいうのか。というか、終わらせるらしい。
聞いたときは思わず笑ってしまったが、本気の眼差しを向けられては信じるしかなかった。
レナは俺との血筋を結ぶために無理やりここにつれてこられた。勿論レナは拒んだが、俺が手を取ってしまったんだ。
それからレナの父は人類を終わらせ、新たな人類を作る研究をして来たらしい。それと平行して記憶をいじる薬も完成させていた。
その薬は、自分を嫌っているであろう娘から父親という記憶を消してあげたいという、自己満足から作られたものだった。
そして、もう一つ。
レナの父は次元移動装置をつくりあげたという。
その装置がなんなのかは、説明もなく、見れば分かるとだけ言われた。
それから明日には人類絶滅計画を実行すると言われ、流石に頭がおかしすぎるのではないかと口にしたのだが、どうやらレナの父が裏切り行為の研究をしていると思われているらしい。
生命に纏わる研究が裏切り行為ということは科学者の中では暗黙の了解だったみたいだが、当然しらなかった。
だから、出来るだけ多くの大切な人に声をかけるように、とのことだ。
その、次元なんとか装置で生かすべき人間だけ助けるらしいが、そんなことができるのか当時は疑ったものだ。
レナの父は言うべき事を全て言った後、最後の準備とやらに取りかかるため一度帰宅していった。
とりあえず、家族に声をかけようとも思ったが。やはり、気になってしまって仕方なかった。
俺は全てを知りたいとは言わない。でも、人類を終わらせる理由が知りたい。
正直、人類を終わらせるなんて皆殺しをするようなことだとわかっている。レナの父は世界を滅ぼす悪者だ。
そして、科学の発展。好奇心。そういった物にばかり気をとられ命を蔑ろにするような科学者達も悪なのではないか。
悪と悪。俺にはそう思えて仕方なかった。
だから俺は気がついたんだ。病の治った子供に愛を教えることはせずに、食を与え、科学の道に平気でかえしてしまう時森家も悪なのだと。
そんな考え事をしているとレナが「ねえ、」と話しかけてきた。視線だけそちらに向けると満面の笑みで話し出す。
「私はね、お父さんみたいに心なんて持ってなかったんだよね。けど、それが科学者の間では普通のこと。私がここに来るのを嫌がったのって研究室が居心地のいいところだと思ってたから。べつにお父さんと離れたくないとか考えもしなかった」
突然始まったレナの昔話を俺は頷きながら聞いていた。
「お父さんは時森神社にくれば新しい研究材料が増えるってずっといってて。だから、来てしまったのならその研究材料を探そうと思った。でも、見つからなかった」
「だから、ジャングルに?」とつい口を挟んでしまったが、レナは微妙に口角を上げ頷いた。
「もう、大分経っちゃったけどサーウのお墓参り行かない?」
レナの提案に俺は頷いた。
今となっては、そういった命に対しての敬意とかちゃんとあるが、レナだって昔はなかったのだ。それでも、レナが自分の父に言った言葉は本物だ。どれだけ心がないと自分を蔑んでも、レナは昔からこの世界を自分の人生を楽しんでいた。
「じゃ、早く行こーよ。花君」
レナに手を引かれ、いつぶりかもあやふやなままジャングルの中へと入っていった。右も左も同じ景色で通い詰めていたときよりも緑が増えているように思えた。
そんな中、レナはこっちこっち、と俺の手を引く。こんなどこにいるかも分からないジャングルの中でレナだけは自分の居場所と目的地を把握しているようだった。
レナはふるさとに戻ってきたかのように楽しそうな笑みをこぼしながら話しかけてきた。
「みてみて、ここの木にねサーウが寝てたの。そこに私が来て、モフモフで温かそうだったから、こうガシッと行っちゃってさー。それが私とサーウの出会いなんだ~」
「その話聞く限りだとレナはサーウのでっかい牙は見えなかったの?あんなのに刺されたら人溜まりも…」
俺が話終える前にレナに言い返されてしまう。
「モフモフ優先でしょっ。女の子なら絶対にモフモフ優先」
「なに科学者って一応自分の性別理解してんの?」
苦笑しつつ問う俺にレナは怒りながらも先へ進んでいった。だが、特に気に止めることもしなかった。なぜならここにはレナを笑顔にする物が山ほどあるから。
「あー、ここ私の水浴びしてたところ。時々サーウとも入ったんだけど水が苦手らしくて、すぐ目閉じちゃうの~」
「あー、ここは花君も知ってるよね。私とサーウの家」
指を差し笑っているレナには申し訳がないのだが、俺にはただの木と草にしか見えなかった。
だが、俺は少しずつレナを理解していけた。
「レナ。君は研究が好きで。でも、不本意に神社なんかに入れられて。そしてここでサーウに出会った。この広大なジャングルを家にして、強く優しくなれた。そんな感じ?」
レナはきょとんととした表情をこちらに向けると「違うよ」と呟き笑顔で走り出した。その背中を見失わぬようにと俺も走った。
やがて辿り着いたのはサーウを埋めたあとの石積の場所だった。埋めたあとに石を置くなんてことしなくてもいいのだが、レナに埋めた場所の目印として置きたいと言われ置くことになった。
その石積が今こうして役に立っていた。
石積は俺が一つ。レナが一つの二つの重ねだった。
やや、大きくて。やや平たい二つの石をレナが手に取ると、ニヤリと笑みを浮かべた。
「花君。この石に文字掘ろうよ」
一応この時代にも文字程度の文学は発展していたのだが、ここには石を掘るものがないじてんで首をふると、レナは左手を見せてきた。
「いつからそんなの持ってたわけ?」
全然、気がつかなかったがレナはなにやら鋭い刃物を手に持っていた。その刃物に俺は見覚えがあったし、レナにも見覚えがあるだろう。
「サーウって牙が抜けやすくて、でもすぐ生えてくるの。だから花君は知らなかっただろうけど、さっき家の周りはサーウの牙だらけなんだよ」
そういいながらもレナは文字を堀終えていた。俺は牙を渡されなにを書くべきなのか迷っていた。すると、レナが自分の石を見せてきた。
現代とは異なる文字だが、こうかいてあった。
『オワリデハジマリ』
その文字をみて何が言いたいのかすぐに考えたが、理解することができずにレナに問う。
レナは人差し指をたて唇を尖らせた。
「ほら、これから世界は終わって新しく始まるんだよ。私達でゼロからやり直していこうよって事をサーウに決意表明!」
あー、と声をだし納得したような表情をつくって見せたが世界が本当に終わるのか、未だに疑う気持ちがあった。
俺はサーウを思い出しながらなにを書くか考えた。怖い面構えの癖に撫でてやると可愛らしい声を上げるサーウを。俺の胸に額を当ててくるサーウを。
そして、俺はサーウに埋まった土に視線を落とし、そのあとに俺の手元を覗こうとしているレナを見た。
目が合うとレナは頬赤らめ目をそらす。その姿を前にフッと笑みがこぼれてしまったが平たい石に刻み込む。
それから俺はレナの石を上にのせサーウの上に置いた。
レナはこちらの様子を伺いながらもサーウの眠る土の上でしゃがみ、俺の書いた文字がなんだったのか確認をした。
レナは石を重ねサーウの上に戻すと、俺の目をみてえへへと照れ笑いをしだした。そんな笑顔を見ているとなぜだか俺自身も恥ずかしく思えてしまった。
頬を赤く染めたレナは、しゃがんだままニヤついた顔だけこちらに向けからかうように声にする。
「これ、誰に向けてるの?」
恥ずかしさもあって、俺は知らないとだけ答えそっぽを向いた。そんな俺をレナはあははと笑って受け入れてくれた。
帰り道、レナは俺の右腕を独占していた。むさ苦しくて暑苦しい。俺の腕を自分のものかのように抱き寄せるレナ。その表情は機嫌が良さそうで楽しそうだった。
こんな感じのレナをサーウは求めていたのかもしれない。
だから、レナの変わるきっかけにはサーウがいた。
俺のレナの想いの間にはサーウがいた。
ちっぽけな神社で国から除け者にされ、死に行く者を受け入れることで国から認められた程度の小さな俺はレナとサーウの関係を見て心が温まった。
時森神社の人間がいつでも気にかけている愛を二人に教えてもらった。
顔に似合わなず可愛いサーウ。
孤独そうな表情の裏側で優しいレナ。
三人で過ごした僅かな時間は俺の欲しかったモノだと今なら胸を張って言えそうだ。
だから俺は二人にこの言葉を残そう。
『君が欲しい』
明るい世界が見えそうな、そんな気がした。瞼を上げようと思った。だが、普段無意識に出来ていることを意識して待ったとき。ふと、思う。
『今まではどうやっていたのだろう』
瞼のあけかたなんてのは誰もが無意識にやっていること。生まれたときからそのわっている能力といっても過言ではない。
鮮明な記憶と引き換えに俺は当たり前のなにかを失ってしまったみたいだ。
だが、気配がある。誰かが俺の近くにいる感覚。そして、聞こえてくる。
鼻を啜る音。
握られた温かな手の感触。いつだかもこんなことがあった。こういう時、きっといるのだろうと思う。
『レナ、俺はどんな状況なの?』
いなかったら恥ずかしいことなのに。不思議といないなんて、選択肢はなく話しかけていた。もちろん、レナからの返答はあった。
『花君は車との交通事故で脳に出血があるみたい。命は繋げているけど意識はないって感じ。植物人間みたいな感じかな』
『そっか。あの時の事故はやっぱ偶然じゃなかった。俺の身体は知ってたんだよ』
しんみりとした空気の中レナは当時の事を話し始めた。
『サーウのお墓参りが終わってすぐ。お父さんは私達を装置のもとへ連れ出した。そこには大きいドアがあって驚いたよね。ドアが開くと目の前には自分がいてさ、これが次元を越えるってことなんだなって。こんなのを作れる少しお父さんを尊敬したよ』
『確かにあんなバカでかい装置は見たことないよな』
『でも…』
レナをこの後を話さなかった。いや話せなかったのだ。
なぜなら、次元を越えるという装置を前にしたすぐ後に悪夢は始まったのだから。
レナの父は予定をしていた明日を待たずに俺とレナを円盤に乗せた。円盤から見る都市はどこだか落ち着きがなく騒がしがったが、レナの父は構うとなく、俺らを研究室に連れ込んだ。慌てた表情を見るなりおれとレナは戸惑ってしまった。
だが、戸惑った一番の理由は研究室に五メートル程の高さを持ったドアがあったからだ。そのドアはレナの父がリモコンのボタンを押すと横にスライドし、開かれた。
目の前には三人がいた。まるで鏡のようだと今だから表現できるが当時は自分が二人いるのだと考えた。
レナの父は荒い呼吸のまま、俺とレナを抱き寄せた。
「すまん。計画は失敗だ。このバカな世界は終わらない。いいか、私の研究によれば次元の違う場所では時間がない。だから、世界が落ち着いたら出てきてくれ。花道君レナを頼む。それから、ごめん君の家族は救ってやれない、私にとっては君とレナだけしか大切ではないから…」
突然なにを言われているのか理解できずにいる俺は「どういうことだよ」と声をあらげた。
だが、レナは鼻を啜り涙を流していた。
その時、研究室のドアは大きな爆発音とともに壊された。爆発後の煙幕からは続々と黒いコートを着た人が入ってきた。
たったの数秒で俺らは三百六十度囲まれてしまった。ここまでの事態になり俺はようやく理解した。レナの父が何故、俺とレナだけを別の次元におくり自分は行かないのか。
レナの父は行かないんじゃなく。他の人間を行かせないために行けないんだろう。
その事をようやく理解した途端、首元にチクッとなにかを打ち込まれた。
「花道君の首にこの次元と繋ぐための鍵を打ち込んだ。こっちに戻るときはそこに触れて願え!」
レナの父は俺とレナを交互にみて笑みをこぼし声にする。
「私も病で死ぬ命。気にするな…」
そう言い残し、レナの父は俺とレナをドアの奥へと突き飛ばした。
だが、ドアをくぐった先はなにも変わらなかった。何人もの黒いコートの男に囲まれたまま。
「くそ、これも未完成だったのか」
俺がそう呟くとレナは下唇を噛み締めながら言葉にする。
「ぢがう。私達は認識されてない。触れられる事もない…」
「え、」
辺りが光輝き始めた。それが、攻撃だと俺とレナはすぐに気がついた。そして、俺は口にする。
「レナ、待っててくれるか?俺はさ、誰かの命を犠牲に生きたいなんて思えない。かといってレナに死なれたくはない」
レナは震えていた。俺の腕を力なくつかんでいた。それでも俺は行くべきだと思った。
この世界の科学者は心が無いと思っていた。でも違った。
自分も娘も病で死ぬ運命とやらをせおい。それでも生きようとあがいていた。初めであったあの雨の降る日から誰よりも必死で生きていた。
短すぎる付き合いでも俺はレナの父の事を考えてきたから少しは分かる。
レナの父は生きたかったんだ。
俺は周囲を見渡し、外に繋がる窓ガラスをみた。もしかするとその、窓は固くて壊せないかもしれない。でも、あそこにレナの父親を突き飛ばせばなんとか壊して逃げてくれるような気がした。
だって、この世界の科学者は頭が良い。それが取り柄なんだから。
ドアをふたたび潜ろうとする俺の手を何が引っ張った。
振り返るとレナは笑っていた。
「私が時森家に行かされるまえお父さんはいってたよ。異種族と呼ばれる時森家は転生の一族だって」
俺がなにかを言い返すよりも早くレナは微笑みながら言葉を続けた。
「それから。私はいつの日か、花道君のキスが欲しい!」
無理して笑顔を作るレナに俺は口元を歪ませ答える。
「うん、いつかあげると約束するよ…」
ドア再び潜るとレナの父が一番驚いていた。
「花道君。君がここに来たらレナはどうする!早く戻れ!」
「嫌だね。レナを助けたいなら逃げてあんたがなんとかしろよ。俺の家系は転生の一族なんだろ?なきがらくれてやるから逃げろ。ドアの裏に窓がある。そこから飛び降りて何とかしてくれ」
動こうとしないレナの父に「早く!」と怒鳴り付け、俺はドアの裏側にいる人間に襲いかかる。すると、一瞬物凄い光が俺の視界を歪ませた。
その中でも窓から逃げるレナの父を俺は見た。
研究室の天井はガラス張りになっていて、死に行く自分の姿がはっきりと見えた。
腕や胸が抉られていた。サーウの時と同じような傷跡。
お前らがサーウをやったのか。そう思うと怒りすらあるはずなのに、身体は動かない。
視界は突然、失われた。
目覚めると俺は花道という名を持ち、全く別の少年になっていた。
とはいえ、新しい記憶もあったため色々と困惑もした。突然すべてを思い出したような。
俺は貧困な農家の一人息子として生まれ変わっていたのだ。時代でいうのなら平安時代くらいだろうか。
俺はかつてはなりそこねた大人になった。そして、時森神社を作り直した。以前と同じとはできなかったが、それなりにちかいものに仕上げた。
そして、鳥居の反対側にある庭に平たい石を埋めた。その石にはかつて、俺とレナが書いた文字を掘った。
それを残した理由はちゃんとある。
俺は頭から血を流し、死の境に立たされたときに突然レナやレナの父。古代文明の事を思い出せた。
この時の推測に過ぎないが、死に際にしか俺は思い出せないのだと悟っていた。だから、せめてもの思いでこの石積みを埋めた。未来の自分へのメッセージとして。
この時から一つだけ確信していた。
自分が前世の記憶を取り戻せるのはレナの父が何か細工をしてくれたのだと。その証拠に記憶が戻ってから、俺の額に時々チクリと痛みが走る。
昔とは場所が変わったがこの痛みはレナと俺を繋ぐ鍵だとすぐに気がついた。
だから、もしこの時代にレナを救えなくても次のチャンスがあると分かっていた。
その為の自分へのメッセージが石積。
そして、俺は現代に二回目の転生をした。だが、俺の記憶は一度の死に際じゃ記憶を取り戻すことはなかった。
その代わりなのかは分からないが、レナを見つけた。
でも、全てを思い出したから分かることもある。俺は小さい頃から時々レナを見ていた。ただ、その辺の人としか認識していなかった。
そんな事すらも忘れていた。
それから、石積の存在にも気がついた。だが、なにも思い出すことはなく全て不発だった。
だが、レナを救うなら。約束を果たすのなら今回が最後なのだろう。これもまた推測に過ぎないが、この時代にはどういうわけか古代を知る人間がレナを含め三人いる。
俺は今一度レナに問う。
『俺からレナの記憶を一時的に消したのは。俺の爺ちゃんであり、レナのお父さんか?本当はまだ生きてるんだろ?』
爺ちゃんが生きているという一寸の光が俺の気持ちを高揚させていた。
ややこしい話だが、俺の脳裏には校内での男子トイレがよぎる。
どういう手を使ったのかは分からないが現代を生きる俺の爺ちゃんの容姿は、かつてのレナの父に似ていた。それから、あいつは爺ちゃんと同じ匂いだった。
古代文明の科学がどこまで進んでいたのかは計り知れない。あの時代を知っている者ならどんなことも受け入れられるだろう。あー、まあ出来ない話じゃないよね、って。
レナは感情の読めないような平然とした声で答える。
『花君の今のお爺さんは私のお父さんって所までは正解。あと薬もあの時私が飲まされそうになったのと似た物だし、花君から私の記憶を消したのもお父さん。でもね、お爺さんはもう亡くなったじゃない』
レナは嘘をいっている。爺ちゃんはきっと死んだフリをしたんだ。それでなにかの科学で年をごまかして…。
でも、なんのために?
死ぬフリなどする必要がどこにある。その疑問は自分の高揚感をかきけしていった。
そして、改めて現実を受け入れるときがきた。
『あー、爺ちゃんはやっぱりもう、いないんだ』
そう思ったとき、ふと、明かりが差し込んできた。目の前には涙を浮かべる母の姿があった。それから、数秒もたたずに南沢さんの顔も見えてきた。
そして、俺の視界の下の方。相変わらず誰からも認識されることはなく、ベッドに座り微笑むレナがいた…。
前世と現代で愛した二人の女性を前にした俺はどうするべきなのか。記憶のないうちに自ら作ってしまった二択問題に頭を使ってしまいそうだ。
でも、俺の選択は二択のようで一択しかないのかもしれない。なにせ、十万年という歳月の間待たせている女がここにいるのだから…。
どうでしょう、これから書いていくのは時森がどう選択していくのか。
時森の脳内での出血は大丈夫なのか。
古代の時森が研究室で死んだあとなにがあったのか。その全てを語るのは意外なやつです。




