女剣士vsディアナvs魔獣王
『ふむ。マウンテンボアと剣士の女が戦っておるようだな』
「凄い。女の子なのにあんな大きな魔獣と戦えるなんて」
『女の子というほど可愛げはないぞ。あれは戦いなれた者の動きと体だ』
多分冒険者、しかもそれなりの手練れであろうとフォルディスは呟く。
事実、二人がその場にたどり着いた時には既に戦いはほとんど決着していた。
既にマウンテンボアの体には、そこら中に致命傷に近い傷が見えている。
本来なら鋭い爪を持つはずのその前足は既に無く、女戦士の横に切り飛ばされた前足の残骸が無残に転がっていて。
逆に女剣士の方は少し汗ばんではいるものの、その体には一切の傷は見られなかった。
瀕死の状態で動きを止めたマウンテンボアに、女剣士は歩み寄り自らの背丈ほどもある大剣を軽々と構える。
ざくっ。
大剣が動けなくなったマウンテンボアの首に深々と突き刺さる。
グォォォォッ。
魔獣の断末魔が森に響き渡り、やがてぱったりとその声も消えた。
「ふぅっ」
女戦士は一つ息を吐くと、マウンテンボアの首に突き刺した大剣を引き抜く。
一気にその傷口から噴き出す血を軽いステップで躱すと彼女は振り返り。
「いつまで観客気取ってんだ? 出て来な」
と、その大剣の切っ先をディアナたちが隠れ潜んでいる方向に向けて叫んだ。
「フォル、バレちゃってるよ」
『我のせいではないぞ。お主が気配をまともに消せていないせいだ』
「だって、そんな訓練私受けてないんだもの。仕方ないでしょ」
責任をなすりつけあう二人に、もう一度怒声が届く。
「何を騒いでいるんだ! 早く出てこい」
「は、はいっ。今行きますから襲わないでね」
「それはお前たちが出て来てから考える」
女剣士の声にあからさまないらだちが含まれ始める。
『別に我ならあの女剣士如きの攻撃では傷一つも負わぬがな』
「もう、そんなこと言わずに早く行こうよ。もしかしたらあの人、何か食べ物を分けてくれるかもしれないよ」
『たしかにあの女からは良い匂いがするな』
「人を食べちゃ駄目だからね」
『我は人は食わぬと教えただろう。それにそもそもそういう意味ではない』
ガサガサとフォルディスはわざと音を立てるようにして森の木々の間から女剣士に姿を見せる。
同時に女戦士は大剣を構え、表情を引き締めた。
「マウンテンボアに続いてマウンテンウルフか。人間だと思ったが感が鈍っているのか?」
『ガルルル』
「それともお前がもう喰ってしまったのか」
女剣士の顔つきがさらに険しくなる。
二人の間に一触即発の空気が流れた。
といってもフォルディスの方には敵意も何もないのだが。
「先手必勝!」
女剣士が気合いを込めたその叫びと共に大剣を振り下ろす。
「ちょっと、ちょっとまってください!!!」
そんな二人の前に、ディアナがフォルディスの背中からぴょんと勢いよく飛び降りると両手を広げ立ちふさがった。
しかし既に振り下ろしの軌道にのった大剣は止められるはずもなく――。
ガキンッ!!
ぽいっ。
ディアナの頭に当たる寸前、フォルディスは大剣に噛みつくと、その大剣を力任せに大きく振って女剣士を放り投げたのだった。