使い魔登録しないと逮捕されちゃうらしい
アシュリーによるお説教は続く。
「それは偶然ここが森の近くだったからだろ。もし森から離れた場所だったらどうするんだ。あと町の近くだと本業ハンターや冒険者たちもうろうろしているんだぞ。その中をフォルディスのような魔獣がそのまま彷徨いていたら襲われても文句も言えない」
「でも使い魔を使って狩りをしている人も一杯居るって学校で習ったわよ」
「話を聞く限りお前はフォルディスの『使い魔登録』をしていないんじゃ無いのか?」
「使い魔登録……って何?」
「学校で習わなかったのか?」
「うん。そういう物があるから町中で魔物を見かけても驚かないようにって話だけだったわね」
ディアナのように政略結婚で嫁ぐために育てられたような娘に学校が用意するカリキュラムは、そういった知識では無く社交界での振る舞い方や貴族としての礼儀作法、ダンスやお茶会などが主であった。
簡単な一般教養は教えられる物の、一般庶民のような知識は必要とされないのである。
むしろ余計な知識は与えないというのが学園の貴族という世界の方針だった。
「はぁ……お前ら。このまま大きな町に行けば直ぐに捕まって牢屋送りだぞ。フォルディスにいたってはその場で退治されてもおかしくは無い」
『我が脆弱な種族ごときに倒されるわけが無かろう』
「そういう話をしているんじゃない! 本当に常識知らずにもほどがある」
アシュリーは大きくため息をつくとフォルディスの目を真剣な瞳で見据えながら説教を始めた。
「お前が簡単に倒されるタマでないのは簡単にあしらわれた私にはよくわかっている。だが一度でもお前が人に敵対する危険な魔獣と判断されれば、その時はもう二度と人の町にお前は入ることは出来ない。それどころかギルドに討伐指令を出され、延々と追い回されることになるだろう」
『全て蹴散らせば良いだろう』
「そんなことをすればお主と一緒に旅をしているディアナは処刑されるぞ」
「ええっ、せっかく逃げてきたのに捕まって処刑されるんじゃ意味ないじゃない」
『お主、我に喰われて死ぬつもりでは無かったのか?』
「それとこれとは話が別よ。それに今の私はもう貴女に食べられたいとか死にたいなんて思ってないわ」
『そうなのか?』
「だって私たちはこれから世界中を旅して美味しい物を食べまくるって決めたじゃ無い。だから町に入れなくなったりお尋ね者にされるなんてごめんだわ」
ディアナはそう宣言するとアシュリーに「それじゃあ使い魔登録ってどうすればいいのか教えて」と詰め寄る。
今にも顔がくっつきそうなくらい迫られたアシュリーはディアナの肩を掴むと「とりあえず落ち着け」と押し返し、腰に下げた袋から一枚の羊皮紙を取り出すとその場に広げた。
そして、その地図にディアナとフォルディスが興味深げに目を向けたのを確認してからアシュリーは地図を指さす。
「これがこのエンバス王国の地図だ。そしてここが今我々がいる森。そしてお前たちが住んでいたメンバクの町と山はここだな」
右から左へ指を動かすアシュリーに、ディアナたちは頷き答える。
勢いに任せかなり遠くまで来た気がしていたのだが、地図で見るとたいした距離をまだ移動していないように見える。
「地図で見ると近く見えるだろうが、実際はこの地図は私の人差し指の幅、大体一サンチメルで徒歩一日分の距離だ」
「とするとメンバクから途中に寄った村までで実際は徒歩二日以上かかるのね。ここまでだと三日かな。だとすれば追っ手はもうさすがに大丈夫そうよね」
『お主はずっと我の背で眠っておったからな』
あの日、疲れ切ってフォルディスの柔らかな背中に埋もれたディアナはそのまま熟睡してしまったために、フォルディスがどれだけの距離を駆けたのかわからず、この時初めて自分が今居る場所を知ったのだった。




