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ノーサンクチュアリ(聖域はない)  作者: 藤井 ナオト
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昔を語る神石

あれは10年前。まだ僕が大学3年生だった頃のことだ。僕は22歳で大学に入ったから24か25歳だったと思う。


当時の僕は大学の音楽サークルに所属していて、ろくに講義も出ないでよく部室で遊んでいた。まあ楽しかったよ。ギター弾いたり仲間と他愛もない話をして大笑いしたりしてさ。


ああ、部室は確か4階建てで僕が所属していたサークルの部室は4階にあったんだ。エレベーターがなくて毎回昇り降りを億劫に感じていたのをよく覚えているよ。


サークルのイベントが近いと部室はバンド練で使えないんだけど、確かその時は空いていたので部室にいた誰かと適当にセッションをして遊んだんだ。そして30分くらいして煙草が吸いたくなった僕は部室棟1階のそばの喫煙所に向かったんだ。


段々思い出してきた。確か少し寒くなってきた秋頃だったと思う。で煙草を独りで吸っていた。多分あの頃はセブンスターを吸っていたはずで、35歳になった今ではもう吸っていないんだけどね。それは清武くんも知っている通りで。


とにかく煙草を吸っていたらさ、こっちに向かって手を振りながら歩いてくる同じサークルの女の先輩が走って来てさ。いや1年振りくらいだったか本当に久しく会ってなかったからとにかく驚いてね。先輩の見た目とか雰囲気も大分変ってたせいもあるかな。


お互い久しぶりだね、久しぶりですね何やってたんですかみたいな会話をしてたら女の先輩がこう言ったんだ。私、この夏休み独りでオーストラリアに旅行して来たんだって。


もう更に驚いて。だってその先輩あまり積極的じゃないタイプっていうか、少なくとも独りで海外に行く感じじゃなかったからね。しかも1ヶ月近くも行ってたっていうから、もう本当どうしちゃったんですか先輩、あなたに一体何があったんですかって煙草の灰を落とすのを忘れて先輩から危ないよそれって言われたのも今思い出した。


ええと、結論から先に言うと先輩は好きだった人に振られたショックを吹っ切るため、そして弱い自分を変えるために海外に行ったらしくて。僕にもぜひやってみなよ、人生は一度きりなんだからさ神石くん、アハハハと笑いながら部室に向かって歩いて行ったんだ。


ああ、確か先輩はドラムの先輩だった。僕のいたサークルは春と夏に合宿に長野に行くんだけど、3チームに別れて合宿最終日にそれぞれライブをするというイベントがあって。参加者は最低でも1曲は何かしらの曲を担当してみんなの前で披露するんだ。数日間練習してね。


で、さっきの先輩はドラムが上手く叩けなくて泣いている姿を何回か見ていて、次第に合宿に来なくなってしまって。そんなイメージの先輩が見違えるように変わって突然現れた衝撃といったらね。もう言葉ではとてもいい表せないよ。


ああ、人間って変わるんだ。変えようと思えば変えられるんだってその時強く思ったよ。当時同じサークルの同期でしょっちゅう酒を飲んで遊んでいたシノブくんに色々相談して、多分1週間くらいで僕も海外に行くことにしたんだよ、もちろん独りで。


そもそも僕の父親がアメリカに3年、インドに6年ほど働いていた人だったから、僕自身もそれほど海外に行くことに抵抗はなかったんだけど、日本と違って危険な面も当然あるだろう政情不安な国や紛争地域はもちろん選択肢からは外してね。


確かその頃はテロとか銃乱射事件とかがアメリカやヨーロッパ各地で起きていたからやっぱりアジアがいい、とりわけ東南アジアは安いし同じアジア圏だからそこまで差別もないだろうから安心だという理由で僕は東南アジアに1週間ほど独り旅をすることにしたんだけど、これが本当に想像を絶する旅になるだなんてその時の僕はまだ何も知らなかったんだ......。

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