第5話 ブレイクダウン.5
地響きが聞こえる。怪物の足音だ。徐々に近づいてきているみたいだった。まだやつは気づいていない、それだけが幸いだった。ヒナミは後ろを向き小さく震えていた。それに気づき、アオイは彼女の頭を撫でた。少しだけヒナミの震えが小さくなった気がした。よかったーーーそうアオイが思った途端、ヒナミの様子が急変した。歯をガチガチとならし震え始めたのだ。目からは涙がとめどなく溢れる。時折口から漏れるのは嗚咽だろうか、とてつもない恐怖を感じている。アオイは戸惑った。
「お、おい、ヒナミ! どうした!?」
「あ、あれ、、、」
驚いたアオイにヒナミは後ろを指差して答えた。指差した方を向く。眼前に広がっていたのは驚くべき光景だった。夕日に照らされた黒いシルエットが揺らめいていた。それは紛れもなくあの巨人だった。
(そんな、、、回り込まれたのか、、?)
混乱した頭はそんな結論を導き出した。だが、よく見ると、アオイ達が逃げている怪物とは微妙に姿が違う。白い骨のような面はなく、赤く煌めく目などはない。代わりにあるのは一本の大きなツノだった。額のあたりから生えている。裂けた、牙のついた口は変わらなかった。そこまで見て、アオイの頭は一つの、先程とは違う答えを出した。それは最も最悪な答え。
(こいつら、、二体いるのか、、、しかも囲まれた、、、。)
理解したくなかった。だが、もう遅い。アオイの心を渦巻く恐怖は勢いを増した。心が折れそうだ。死という概念が頭をよぎった。ここは逃げ場のない直線道路。しかも怪物は二体。絶望以外の何でもなかった。
恐怖によって精神が崩壊したヒナミは大声で泣き始めた。同時に、
キィィイギャァァアーーー!!
飽きるほど聞いた面付きの怪物の咆哮が聞こえた。どうやらヒナミの泣き声でこちらに気づいたらしい。そいつの方を見ると、奴の赤い目がこちらを見ていた。そして、
グゥウオォォオーーー!!
面付きの不快さとは違い、獣の猛々しく荒々しい咆哮だった。耳を塞ぎ目を瞑る。怪物同士がコミュニケーションを取っているとは思えなかったが、角の生えた怪物もヒナミとアオイに気づいたらしい。もうほんとうにおしまいだーーー絶望と同時に諦めの気持ちまでもが心に現れた。オレンジ色の空はだんだんと暗さを含んできていた。まるで絶望に染まっていく2人の心のように。そんな空の上で、大小様々な青い星が輝いていた。