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Day Break Frontline  作者: 白宮 える
re:1 日常ブレイカー
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第3話 ブレイクダウン.3

 ゆっくりと目を開ける。強く閉じていたせいか少しだけ視界がぼやけて見えた。アオイの腕の中にはあの女の子がいた。砂埃舞う中で黒色とオレンジ色がストライプ状で見えた。頭はまだぼんやりしている。自分がなにをしたのかもまだわからなかった。ゆっくりと思考が戻ってくる。止まっていた時間が動き出したようにも思えた。


  あの時走り出したアオイは、怪物の爪が女の子に振り下ろされる直前で抱えて倒れ込んでいた。ギリギリで避けれたようだ。怪物のツメはアオイの体をかすめていた。転がった衝撃で多少体は傷んだが、それでも二人とも無事だった。


  アオイは状況をゆっくりと理解していった。自分のした行動への後悔や恐怖はあったが、今はそれよりも、女の子が助かった安堵感を強く感じた。彼女の目からは大粒の涙が溢れていた。ゆっくり頭を撫でた。



 グァルルルゥ、、、



 低い唸り声が頭上から聞こえる。獲物を捕らえ損ねた怪物は不機嫌であるようだ。気持ちを整理する時間などない。アオイの体が反応した。女の子を抱きかかえ、起き上がると同時に走り出した。人の流れとは逆向きーーー怪物がきた方向に。アオイの頭は逃げることでいっぱいでどこに向かうかなんて考えられなかった。とりあえずその怪物から離れたいーーーそんな気持ちであった。恐怖もあった。その怪物に狙われているという。だが彼の心に絶望はほとんどなかった。決して逃げるのをあきらめようとは思ってもいなかった。代わりに生きたい、助かりたいという願望があった。

  その咄嗟の行動は良かったのかもしれない。あのまま人の流れに沿っていてはこれ以上の多くの人々が死傷していたかもしれないのだから。




 どれほど走ったかなんてわからない。けれども後方から聞こえる地鳴りとうめき声は止まらない。どうやら怪物は、仕留め損ねた獲物を追って来ているようだ。プライドという概念がこいつにあるとは思えないが、こんな弱小生物を逃したという事実を作りたくなかったのかもしれない。ズシン、ズシンと轟音がする。アオイは女の子を抱えて走り続けた。怪物の足はそこまで早くはなかった。ゆっくり、ゆっくりと一歩一歩踏みしめるように歩いている。徐々に獲物を追い詰めるように。そして、お前たち程度、いつでも殺せると舐めているように。

  少女を抱えているせいか、アオイの疲労は限界までたまりそうであった。正直もう足は痛いし息も上がっていた。女の子を助けたいという思いだけがアオイの支えであった。女の子は不安そうにアオイの方を見ている。涙は目元に溜まってはいるが流れてはいなかった。


「大丈夫、絶対、俺が、なんとかするから、、」


 苦しいのを我慢してアオイは女の子に少しだけ微笑んだ。女の子は小さくうなづいた。同時に溜まっていた涙が一筋きらめいた。相変わらず不安は消えていないようだった。照らす夕日はまだ尚煌々と輝いている。女の子を抱えて走るアオイのシルエットがくっきりと浮かび上がった。まだ、夜が来るには時間がありそうであったが遠くに青くきらめく星が見えた気がした。




 狭い路地に入り込んだ。咄嗟ではあったが、巨大な怪物が追ってこないと思ったゆえの行動だった。薄暗く細い道をかけて行く。今は疲れよりも恐怖がまさっていた。しかし、次第にそのスピードは落ちていった。体が言うことをきかない。流石にこれ以上走ることはできなかった。不安と恐怖はなぜか体力の消耗も加速させていた。女の子を下ろして一緒に歩いた。不安と恐怖の表情は消えていなかった。アオイはこれからどこへ向かうかも、何をすれば良いかもわからなかった。あたりに響く地鳴りは遠ざかっているようだった。ひとまず助かったーーーアオイはそう安堵した。緊張の糸が緩むのを感じた。


「もう大丈夫みたい。これからみんなのとこへ戻ろう。」


「うん、、」


 アオイは精一杯の笑顔でそう語りかけた。なるべく疲労の色を見せないように。女の子は頷いた。不安を取り除いてあげたかった。効果があったかどうかはわからないが。本当はどっちがシェルターかもわからないのに、、、。

 


 アオイは情報端末を開いた。どこがシェルターか知るためだった。緑色のホログラムのような粒子が眼前に広がった。


  現在の情報端末は腕に巻きつける型と手に持つ携帯電話型のものが主流だ。指輪型やサングラス型など様々な種類がある。それぞれに特徴があって、携帯電話型のものは液晶だが、それ以外のものは大体、放出される粒子に情報を映し出す仕組みを取り入れていた。ホログラフィックシステム(HS )と呼ばれていた。

アオイのは腕に巻きつけるタイプである。

 


 ザ、ザザザーーッ



 映し出されたのはノイズだった。ひと昔前の砂嵐、というような感じであった。端末は何も反応しない。原因不明の調子不良であった。


「マジか、、」


 これではシェルターに戻ることはできない。再びアオイの頭を不安と混乱がかすめた。


「お兄ちゃん、、」


 それは女の子も同じだった。彼女はアオイの手をぎゅっとにぎり、一層不安そうにそう呟いた。


(とりあえず大通りに出よう。そこなら案内があるかもしれない、、。)


「よし、一回、大きい道に出よう。案内があるかも。あの怪物に合わないように反対側から行こう。」


「うん、、」


 頷いた。けれど表情は暗い。アオイは女の子の手をキュッと握って歩き出した。不安は尽きないが今は進むしかなかった。

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