プロローグ.2
小さい頃の彼が強く願った思いは生きたいという生存願望であった。
ピピピッピピピッピピピッ!
「んん〜」
鳴り響くアラーム音が青年を現実世界に連れ戻した。小鳥がさえずり、カーテンの隙間から朝日が差し込む。
「あと、五分だけぇ」
そんなだらしないことを彼は言う。ここは青年の暮らすアパートだ。去年から一人暮らしを始めた。部屋は散らかっていてお世辞にも綺麗とは言えない。まあ、男子の一人暮らしなのだからそんなものなのだろうけれど、、。部屋中には戦隊モノやライダー系といった、いわゆるヒーロー系のグッズが溢れている。明るく社交的な彼は、意外にもヒーロー系のオタクなのである。1年間は頑張って隠し通したが、果たして今年は大丈夫だろうか、、。
今、彼は東京都内、東区の大学2年生である。成績は中の上くらいで特別いいわけではないが、とても大学生活は楽しんでいる。それなりに友達がいて、サークルにも入って、バイトもしている。笑いがない日々はない。強いて言うならば、彼女がいないくらいだろうか。
別に顔は悪いわけではない。輪郭や鼻はシュッとしているし、優しそうな目がいい人感を醸し出している。体系も太ってはいない。日頃から運動を気にしてランニングをしているおかげだ。まあ、多少、身長が低いのが気になるが、、、客観評価でも中の上は行けそうな感覚である。(知らんけど。)
ピピピッピピピッピピピッ!!
スヌーズ機能を設定した目覚まし時計は再度鳴り出す。
「んん、もうちょいだけねかせてぇ、」
布団がもぞもぞと動き、中々彼は起きようとしない。今日は一限から講義が入っているのに、、。時間にルーズなのは相変わらずのようだ。
「ふぁあ、ねむてぇ」
やっと目を覚ました彼は大きく伸びをした。髪には盛大な寝癖がついている。くせ毛なのも要因の一つかもしれない。1年間は染めずに黒髪だったが今年はどうしようか。茶髪あたり行ってもいいかもしれない。
「あぁ、また変な夢みたような気がするなぁ、、」
昨日みた夢を朧げながら覚えている。火災、化け物、逃げ惑う人々、そして、黄金のバラの戦士、、、。ぼんやりと、もやのかかったような感じだが、コゲ臭さや暑さまでもがとてもリアルだった。果たしてこれが本当に夢なのか、それとも青年の記憶なのかは分からなかった。けれど、夢に出てきたヒーローがとてもカッコ良かったことだけは覚えている。
彼は幼い頃の記憶が欠落していた。両親のこと、幼馴染のこと、、、。大学に入った今でも、ほとんどのことは思い出せていない。けれどそれを不幸なことだと彼は思ったことはなかった。優しい祖父母に育てられ、何一つ不自由ない生活を送っていたからだ。
彼はもう一度大きな伸びをして、大きなあくびをした。そして時計に目をやって、
「やっべぇ!!遅れる!!!」
慌ただしく朝の準備が始まった。今日もいつもと同じ、何も変わらない1日が始まるんだろうと誰しもが思っていた。もちろん彼も。勉強をそこそこして、友達と絡んで、バイトして、、、。大方そんな1日であろう。彼はそんなことを考える暇もなかったが、、。
そして彼はドアを開け、大急ぎで大学に向かうのであった。