↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/114

62話 試行錯誤

 大手を振って魔物討伐に向かえることになった俺たちは例の祭壇にまでたどり着いた。しかしそこで一つの問題に直面していた。何が問題か、それは単純に敵の位置が分からないのである。倒そうにも深い森の中のどこにいるのか分からないのだ。


 あれほどの巨体が気づかれずにずっといたということは、地中に巣穴でも作っている可能性がある。相手のホームで戦うには危険すぎるし、第一森をくまなく探し回るのも難しい。それほど時間をかけて、どこか別の村が襲われてしまった、などとなれば最悪だからだ。すぐさま対処する必要があった。


「さて問題はおびき出すか、探し出すかだな。セレーネがいれば良かったのだが」

 

 アステールが言った。


「あれか。エルフは森の声を聞けるギフトを持ってるとかっていう」


「ああ。どこに潜んでいるか分かったのだが。簡単に先手も取れた」


「それならば私にお任せください! みんなに聞いてみます!」


 ルシャは少し調子っぱずれの口笛を吹き始めた。鳥を呼んでいるのだ。亜人が持つ動物と意思疎通する、かなり珍しいギフトだ。しかし、いくら待てども小鳥一匹姿を見せなかった。


「あれぇ……もしかしてみんな逃げちゃったんですかね」


「それはまいったな」


「お役に立てない弟子で申し訳ありません!」


「いや、そんなことない。ルシャがいて助かってる」


 しゅんとしたルシャの頭を撫でてやると、えへへと照れ臭そうに笑った。


「……あの、それなら私が」

 

 そこでラナがおずおずと手を上げた。


「た、ただ。できればみなさん離れていて欲しいんですけど」


「何言ってるんだ。危ないだろ」


 いきなり何を言いだすのだと、みなが不思議そうにしていた。


「うぅ。そうですけど」


 もともとラナは押しに弱い性格をしている。もっともな正論でもって簡単に言いくるめられた。


「ぜ、絶対に引いたり、笑ったりしないでくださいね」


「笑うはずないだろ?」


 今こんな状況で、なぜそんな発想が出たのか逆に疑問に思うほどだった。ラナはこほんと軽く咳ばらいをして間を作って、口を開いた。


「にゃー」


 妙に念を押すと思えば、彼女は唐突に猫語で森に呼びかけたのだ。その場に流れた、お互いに何か牽制し合うような奇妙な沈黙に耐えきれなくなってか、ラナは座り込んで真っ赤に染まった顔を両手で覆った。


「だ、だから嫌だったんですよぉ。ううぅ。みんな引かないでくださいって言ったじゃないですかぁ」


 ラナは眼の端に涙をためて、そう抗議した。


「いや、別に引いてないさ」


「じゃあ何なんですか、あの沈黙は」


「違うんだ。ただちょっとな」

 

 内容のない言葉でわずかな思考の時間を稼いだ。


「そう。あまりに可愛くて言葉を失っただけだ」


「そうだ。頑張れ、ラナ。可愛いかったぞ」


「可愛いです! ラナさん頑張って!」


 ちらりとウィルに目線を送ると彼もはっとして言った。


「は、はい。可愛かったと思います」


 みながフォローを入れると、ラナは余計に恥ずかしそうに耳まで赤く染めていた。その他には優雅に口元を覆って微笑ましそうにしているイリナ姫と、ニヤニヤ笑っているザルド、


「なんてあざとい、やはり強敵だわ」

 

 ぶつぶつ呟くレイチェルの姿があった。


「もうできません」


 ラナは心が折れましたとばかりに弱弱しく言った。


「ラナさん。じゃあ私と一緒にやりましょう!」


 とルシャは言うなりラナに抱きついて「にゃーにゃーにゃー」と楽しそうに口にする。


「ほらラナさんも」


 ルシャと、「私もやるわ」と途中からなぜか混ざり始めたレイチェルと、ようやく心を決めたラナの呼びかけに応えて、みゃーと高い鳴き声が返ってくる。近くの物陰から顔つきの鋭い山猫が出てきた。ラナは拷問から解放されたようにほっとしたような顔をした。


「あのー、大きな蛇さんの居場所を教えてくれませんか」


 せっかく出て来てくれたというのに山猫はつんと澄ました顔でそっぽを向いている。そして意味ありげにちらりとラナを見た。


「にゃんですか?」


 ラナの言葉で思わず吹き出しそうになったのをなんとか堪える。


 山猫がもう一度鳴くと、ラナはこくこく頷いてポケットから餌を取り出して差し出した。すると山猫は満足そうに、にゃーにゃーと鳴き声をあげた。ギブアンドテイクということだろう。


 うむ。可愛いものだった。何がとは言わない。


「それでどうだったんだ?」


「そ、そのぉ……全然分からないって言ってます」


「……」


 沈黙する一同。しかし山猫もしたたかなものだ、すぐさま餌だけ持ってさっと消え去ってしまった。


「わ、私の苦労はいったい」

 

 ラナは呆然として呟いた。

 

 


 残念ながら第一プランは失敗した。ということで急遽おびき出すという選択肢が取られることになった。


「第二プランでいこう。出てくるのを待つ。いちおう花嫁衣装は借りてきた、これには蛇の好む香りがついているそうだ」


 レイチェルが自分の影から純白の衣装を取り出した。彼女の影魔法は収納魔術でもあるのだ。やはり非常に便利な魔術だった。


「しかし、待つと言っても我々を警戒して出てこない可能性もあるのでは?」


 イリナ姫がそう提言した。


「囮作戦だ。俺たちは少し離れた場所で隠れ、1人がこれを着て祭壇で待つ。かなり危険な役割だが。俺が絶対に守ると誓うから安心しろ」


 その言葉に最も早く反応したのはレイチェルだった。


「はい! はいはい! やります! 私やります! 私も誓います!」


「いったい何を誓うつもりなんだ?」


「やめたほうがいいだろう、きっとレイチェルのマナでは一目で気づかれる」


 アステールから否定されて、レイチェルはがっくりと肩を落とした。ほぼ不死者の彼女は囮には相応しいがその身に宿る禍々しいマナは確実に魔物の警戒を呼ぶだろう。


「私もルシャも駄目だ。亜人は匂いの面からもやめたほうがいいだろうな。人間がいい」


「となると姫は……ちょっと強すぎるな。この前やつに攻撃もしてる。すぐ気づかれる可能性がある。ザルドは全く体格があわない」


「そりゃ良かった。俺があんなん着たら軽いホラーだからな」


 消去法的に最後にの残ったのはウィルだけだった。全員の視線が一斉に集まって彼は顔をひきつらせた。


「もしかして僕ですか?」


「悪いが他にやれる人間がいない」


 ウィルならば小柄であるし、恩寵量もそう高くない。菫色の瞳はともかく髪の毛もフィルネシアと同じく黒であり、若さもあって中世的な顔立ちをしていることからもなかなかちょうどいい配役だった。


「た、確かに何でもやるとは言いましたけど……これはちょっと想定外というか」

 

 俺は元気づけるため、げんなりしたようなウィルの肩を軽く叩く。


「男なら覚悟を決めろ。ウィル」 


「今僕は男と真逆のことをやろうとしている気がします……」


 もっともな話だったが、俺は肩をすくめるだけでそれを聞き流した。




「ラナとレイチェルと回収したウィル。それとイリナ姫は後方支援だ」


 俺たちはウィルが祭壇で待機してもらっている時間を利用して作戦を立てていた。


「はい。任せてください」


「仰せのままに。主様」


 素直に承諾する二人。しかしイリナ姫だけは不服そうに声をもらした。


「なぜ私が後衛を?」


「貴方は危険にさらせない。貴重な捕虜だ」


「そうですか。すっかり忘れていました。私って捕虜だったのですね」


 とぼけたような、棒読みの台詞だった。それもそうだ。今この時、逃げようと思えば彼女はいつでも逃げ出せる。捕虜とは思えない待遇だった。だが礼を持って接すれば礼を逸しない、それが彼女の良いところであり、融通が効かないところでもある。


「他の三人を守ってやって欲しい。頼めるだろうか」


「……いいでしょう」

 

「前線は俺とザルド、ルシャとアステールだ」


「任せろ」


 とアステールは瞳に闘志を宿した。

 

「前線は全員無茶はするなよ。特にアステール」


「だから私はそんなにやわじゃないって」


 アステールはすねたようにそう言った。だが俺の言葉も事実だと判断したのか少し落胆して視線を落とした。


「私に全盛期の力があればな。あんな蛇なんぞ丸焼きにしてやるのに」


「俺が今生きてるのはお前のおかげだ。忘れたことはない」


「……エル」


 断言したことで、アステールは少しばかり表情を明るくした。


 ウィルが待機してから30分ほどが経過しようとしていた、そろそろ気を引き締めていかなければいけないだろう。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。