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13話 襲撃

「歯ごたえないですね」


 亜人に向けて魔術を使用しながら部下の男が言った。

 悲鳴を発しながら逃げ惑う亜人たちに向けて魔術を放っていく。


「穏健派は弱い奴らが集まってるからな」


 そう部隊を率いる隊長である男は答える。


 任務の内容は亜人の確保だ。労働力とするために一人でも多く連れ帰る。可能ならば白龍を押さえろという命令もあった。署長を殺した亜人だ、やはり都市内に連れて帰って見せしめにしたいのだろう。凄惨たる拷問の末に殺すのだ。


 街に火がついてしまったのは失敗だった。

 即座に襲撃がばれてしまった。白龍を捉えるのはもはや不可能だろう。


「馬鹿なやつらだ。勝手に分裂してくれてな」


「ともに生きる道を探そうって話でしたっけ。無理っすよね。だって獣っすよ」


 攻撃魔術を使用しながら部下はあっけらかんに笑い声をあげる。


「ペットとか奴隷なら欲しいですけどね。亜人にも可愛いの多いし。ああいうの好き放題殴れるのがたまんないんすよね」


 はあと男はため息をつく。またこの部下の悪癖である趣味の悪い話が始まったのだ。


「相変わらず性癖歪んでるな。俺は人外に欲情はしないんでな」


「もったいないっすね。エルフなんて耳切れば人間と変わらないですよ」


 耳はエルフ族の象徴にして誇りだと知識があった。

 よくやるものだと半ば呆れる。

 目の前には小さな亜人がいた。

 あまり労働力にならなそうだと思ったが仕事を進める。


 その時、猛烈な勢いで向かってくる亜人がいることに気が付いた。

 雄叫びをあげ全身でぶつかるように突撃してきた。


「ふん。獣風情が」


 男は一切動じずに思念をパルスにして送る。送り先は二足歩行する機械の巨体だ。男の意思に反応してそれは亜人の突進を容易く受け止めた。鋼でできた巨人の頭部の赤いレーザー光が亜人を照らす。


 それはゴーレムの一種になる。名前を魔導兵、魔術師の意思に従って動く使い魔の最上位に位置するものだ。本国では機械技術と魔法技術を融合させた強力な魔導兵の量産に成功させつつあった。


『ショック・ボルト』


 魔導兵が止めた亜人に雷光が突き刺さった。

 耳をつんざくような絶叫をあげ、全身から蒸気を吹き出しても倒れない。

 血走った眼は子供の亜人に注がれていた。


『ショック・ボルト』


 男は無表情に追撃の魔術を放った。二度目の雷撃に意識を失って亜人は倒れ伏した。男は呪符を取り出して亜人の胸元に置くと『転送』と唱える。


 ふっと亜人の巨体が消え去った。それは呪符の中に封じ込めたのだ。まともな耐魔力を持つ者にはきかないため、一度気を失わせなければならないのが面倒ではあった。しかし便利だ。一度に多くの者を捕えることができる。部下たちも気絶させた亜人たちに同じ作業を施していた。


「さて」


 怯えすくんでいる子供の亜人が残っていた。


『ウインド・カッター』


 部下が魔術を唱える、真空の刃が襲いかかり亜人の子供の全身から血が噴き出した。それは気絶させることを目的とした魔術ではなかった。


「くくく」


「何やってる?」


「チビですよ。労働力にならない。潰しちゃいますよ」


「あまり羽目を外し過ぎるなよ。敵の本隊が動く前に引き上げる」


「了解。隊長」


 こんな男でも有能だ。作戦に支障がないうちは構いはしない。

 亜人の子供の最期になど興味などなく視線を逸らした。しかし。


「ん? まだ獣野郎がいたか」


 部下の訝しげな声に反応してその存在を注視する。


「いや。こいつは人間だ」


 顔は良く見えないが、どこからどう見ても人間の姿形をしていた。

 何より装着しているバイザーの反応がそうだと示している。


「こんなところにいる人間ってことは裏切り者ってことだからぁ」


 慎重な男とは違い部下は即座に行動した。


「問答無用で死ね!」


 魔導兵の巨躯から繰り出される殴打は人間など簡単にひしゃげさせる。

 はずだった。だがしかし、目の前の男はそれを片手で受けとめていた。


「生身の人間が?」


 驚きはそれでは終わらなかった。バギギィッ! 凄まじい轟音が響く。同時に男は目にする。魔導兵の胴体が抉られたよう吹き飛び二つに裂かれてしまったのだ。 


「なんだ! この化け物は!」


 魔導兵をたった一撃で。

 もしそんなことができるとしたら──思考はある地点へと流れる。


「こ、こいつまさか」


「残虐王! 残虐王です!」


 耳をつんざくような部下の叫びが届いた。


 同時に男もはっきりと目視する、その存在を。


「い、生きていたのか」


 見間違えるはずもない。

 邪気をまとうがごときその威容、紛れもない魔の帝王の姿だった。


「行け!」


 隊長の男は半狂乱になって魔導兵に命令を下した。

 彼の持つ魔導兵は特別性、部下のもとは違った。


「極限まで耐魔術仕様を練り上げた特別性だ。流石のお前も」


 しかし、それもまた目に見えない何らかの攻撃の一薙ぎでただのスクラップとなった。


「ば、かな」


 信じられないと、驚愕に打ち震えて男は呟く。

 いくらなんでも道理の限度を超えているのではないか、と。


「あり得ない。貴様の魔術を計算に入れて設計されたのに」


 それもそのはずこれは正確には魔術ではない。純粋なる剣技なのだ。

 耐魔仕様など何の意味もなしてはいなかった。

 そんなことを知らない男は残虐王のその力の恐ろしさに震えるしかできなくなっていた。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺は魔導兵を見た瞬間に驚きに包まれる。

 

 眠っていた間にだいぶ進歩したものだ。それは主に近接戦闘が強い亜人と戦うために生み出されたものだ。そして魔術師に対しては耐魔装甲までついているとは便利なものだ。


 それを差し向けた彼の判断は確かに何も間違ってない選択だ。

 もっともそれは俺が魔術師だったらの話だが。

 おそらく並の者には目にも止まらぬ剣の一薙ぎ、それにて魔導兵を破壊した。


「残虐王。なぜだ。お前はなぜ人間のくせに亜人の味方をする!」


「なぜって。そんなの決まってる」


 人間でありながら人間に敵対する、それはまさしく。


「俺が悪党だからだ」


 今ここで亜人を助けることが正義と呼ばれないのだとしたら俺はそれでも構わなかった。俺は残虐王の身体と罪を受け継いだ、まさしくこの世で最悪な存在なのだから。


「覚悟はできてるんだろうな」


 平和だった村に訪れた襲撃者、まさか負けて生きて帰れるとは思っておるまい。


 鋭く睨みつけると、視線に晒された彼らは身動きができなくなっていた。完全な格下と心折れた者にしか通じない、威圧系の恩寵が発生したのだ。


「くそ亜人どもを役立ててやるってんだ! それの何が悪い」

 

 襲撃者の中の1人がそう怒鳴った。


「悪くはないさ」

 

 敵を殺し、他人を蹴落とし奪うことこそ、この世の真理だ。だから俺もそうするまでだ。


「ただ死ね」

 

 刃が閃くと、血しぶきを巻き上げて男は崩れ落ちた。


 今までもそしてこれからも敵を殺すことに躊躇などなかった。この先はもはや作業だ。他の兵士たちへとゆらりと歩み寄ったところで。


「はあああああああああっ!」


 気合のこもった橙色の光が眼前を切り裂いた。術者は女、飛び蹴りだが全身に魔術をまとっている。着弾した瞬間に暴風をまき散らした。その中心地から現れたのは。


「貴方たちは引いていなさい。そんな玩具がきく相手じゃない」


 蒼い長髪がなびいた。無骨な軽装鎧に身を包んでいるが凛としたその顔立ちには気品がある。肌は透き通るように白く端正な容姿をしていた。まだ若く歳は18歳だ。彼女のことはよく知っている。その名をイリナ・パラディソスという、4英雄のうちの一人だった。


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