灰色の世界で
私の世界はいつも灰色の世界だった。いや、物理的、科学的にいえば、きっと違うのだろう。
目を開けていても、目を閉じて夢を見ても、夢の中でさえ灰色で染まっている。ある程度の明暗はあれど、色彩は一筋もない。
毎日が、毎時間が、毎分が、毎秒が、すべてが重苦しく、じっとりと私の体にのしかかっている。
友人と呼べるものはおらず、家の中にも安寧の場所などない。惨めで、どうしてこんな生活が続けられているのか、自分でもよくわからない。
ある時、家に帰る道すがら、何かが目の前をトトトッと横切った。その何かに近づいて見てみると、一匹の猫だった。
最初は、何だ、野良猫か。その程度に思っていた。
次の日、また猫を見かけた。同じ猫かどうかは判然としなかったが、縄張りの関係もあるだろうから同じ猫だろう。今回は通り過ぎずに、ちらっとこちらを見て、のてのてと歩いていった。
飛び飛びではあったが、何回もそのようなことが重なった。猫は少しずつ私に近寄ってきて、今ではニャーンと鳴いて、擦り寄ってくれるまでになった。
猫は近くで見ると、毛並みもなかなか良さそうで、飼い主がこの辺りにいるか、それか近所の人たちで適当に世話しているのだろう。なんとも幸せそうな猫だ。私とは正反対だ。
私はといえば―――――――――――相変わらずの生活である。外での生活では誰からも遠ざけられ、まるで毛虫か何かを見るような目で蔑まされる。家では常に針の筵で、口を開けば私の悪口ばかり。死ねと言われることも、もう珍しいことではない。
私の手だって、到底綺麗だとはお世辞にも言えない。汚い、私の手。綺麗で誰からも愛されている猫には触れない。
なのに、猫は私に撫でてほしそうにぐるぐると喉を鳴らし、きゅるんとした瞳で私を見る。
出来ないものは出来ないのだけど。
いつの間にか、その猫は私のただ一つの癒しになっていた。
世界に色彩が少しずつ戻ってくる。
世界は本当は美しかったのだと、少し思えるようになった。
この作品では、作者が猫好きだったため猫になりましたが、犬でも、鳥でも、お好きな動物に脳内変換してくださって結構です。