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二話

 リースは途方に暮れていた。

 理由は今更語るまでもないだろう。金を借りようと探していたセオは、王帯鉄火場を隈なく歩き回っても見つからないのだ。

 事情を知らぬリースは、しかしセオと数年来の付き合いである。

「帰ったな、あいつ」

 で、あるならば。そう結論付けるのも無理からぬことだろう。

 彼の協調性には奇妙な偏りがある。

 実戦の最中に和を乱すような真似は決してしないが、不要だと思った配慮や遠慮は端からかなぐり捨てている節があるのだ。賭場以外で金を稼いで賭けに勝とうなどとは考えないだろうが、一方で賭場を出て獣狩りや隣人討伐の依頼で暇潰しをする程度は十分に有り得る。

 そう考えていった結果、リースにとってセオを探し続けるという選択肢はひどく危ういものになっていた。

 彼は、ゆえに諦める。

 セオのほうは諦めた。いるかどうかも分からない相手を探し回って時間を無駄にするくらいなら、失敗を覚悟でもう一人に当たるしかない。

 その相手とは、無論、アルターだ。

 実のところ、そちらの彼の居場所は既に掴んでいた。あの身体付(からだつ)きに、秀才風の顔立ちと服装。それだけでも喧騒の中で目立てるのに、彼は真面目に賭けで勝とうとしていたらしく、トランプゲームが行われるテーブルに座って人集りまで作っていたのだ。

 どうやらポーカーをやっているらしい、と少し眺めれば分かる。と同時に、他のプレイヤーの表情を見れば、彼がどれほど賭けの勝利に近付いているのかも明白だった。

 流石にディーラーは澄まし顔のままだが、アルターから見て左右に座る二人の男は、引くに引けないがために卓に(かじ)りついているといった様相。その状況で続けても勝てる見込みはないだろうに、男たちは自覚できないでいる。

 リースが一度遠目に見やった時ですらそんな調子だったのに、再び戻ってきてもなおテーブルを囲む面子は変わっていなかった。ただ、アルターのポーカーフェイスだけが様変わりしている。

 焦りでも、歓びでもなく、ただただ退屈そうな表情。周囲に集まっている野次馬たちも大半は気付いているようで、誰が勝つかの賭けは行われず、代わりにいつアルターが席を立つかで金が飛び交っている始末だった。

 カードが配られ、アルターがそれらを一瞥する。

フォールド(もうやめだ)

 一瞬だった。

 視線だけで彼を射殺(いころ)さんとしていた両隣の男たちすら、その言葉の意味を受け止められないでいる。

「下らない。時間の無駄だ。こんな暇な勝負、金を貰ってもやるものじゃない」

 アルター、即ちディーラーの真向かいに座っていた男が、他の三人の答えも待たずに席を立った。明文化するまでもない基本を投げ捨てた彼の前には、山積みのチップ。

 それだけで幾らになるだろう。

 勝った金の全てではないにせよ、相当の額であることは白兎としか賭けをしていないリースにも分かった。残された二人のプレイヤーが食い入るように金の山を睨み、我先にと役を見せつけ合う。

 左の男が歓呼に立ち上がった直後、ディーラーがぞんざいに手元の札をテーブルに投げた。そのままアルターと、そして二人の男の前にあったチップを手元に手繰り寄せる。

「どうした?」

 自身が生んだ背景音楽には興味がないらしい。アルターが冷たい声をリースに向けた。

「あー、なんて言えばいいかな」

「欲張って損を出したか? それとも今から欲張るつもりか?」

 お見通しである。

 まぁ、その程度のことはリースも承知していた。

「女に惚れた。めちゃくちゃ強い」

「珍しいな、そこまで惚れるか」

 背後の野次馬たちが突然去ってしまった主役の連れの登場に色めき立ったが、すぐにリースの佇まいを見て静けさを取り戻す。賭けに向いた人物ではない。しかし同時に、あまり反感を買うべきでもない人物。腰の長剣が飾り物でないことくらい、彼の(たくま)しい腕を見れば分かる。

「恥を承知で頼む。借りた分は必ず返す。倍にして返せと言われても、卒業までに稼いで返す。この言葉を違えないことくらい、分かってくれるだろう?」

 リースの言葉に冗談の色はない。あと数秒も悩んでみせれば、彼はその場に膝をついただろう。優男には優男なりの矜持というものがある。数年の付き合いで、アルターもそれは学んでいた。

「幾らだ、とは言わん」

 対するアルターの目の奥は、慈悲と好奇心の輝きに満ちている。

「卒業までに耳を揃えて返せ。落とせなかったら、その倍は酒を奢れ」

 いいな、とまで言わせてはもらえなかった。

「信じていたぞ、我が友よっ! お前を生んでくれたフェラン家の当主とその奥方にはどれほど礼をすればいいものか……。いや、だが。アルター、お前以上に礼を向ける相手などいまい!」

「そう大仰に喜んでくれるな。……ところで、セオはどこに行った? 君なら僕より先にあいつを頼るはずだろう? まさか帰ってはいないだろうね」

「……まぁ、そこは察してくれ」

 ともあれ、リースは頼れる友に巡り会えた。

 白兎に「少し待っていてはくれないか」と言ったのは、果たしてどれほど前だっただろうか。彼は懐中時計の類いを持ち歩いてはいなかったし、急いでいたせいで鉄火場のそこかしこにある置き時計にも目を向けていなかった。

 ゆえに。

「あラ、本当に帰ってきましたネ! あなたの『少し』は二時間にもなるのかしラ?」

 そう言われた瞬間、彼はほとんど蒼白と言っていいほどの顔色を地面に向け、彼女に謝罪の言葉を弾丸のごとく並べたのであった。


   ×××


「ねぇ、あなたってさぁ、どんな女なら抱いてくれるっていうのよぉ」

 彼はうんざりしていた。

 苛立ちも呆れも通り越し、ただただ疲労感のみが蓄積されていく。

 拳闘場においては小柄に分類される背格好の男が倍も体重がありそうな男を拳の一撃で沈める様は、見る者にとっては痛快なものだっただろう。

 事実、セオにとってもそれは爽快な瞬間だった。

 獣狩りの際には周辺への警戒に意識を向けるせいで出すことの叶わない全身全霊の一撃。

 それを、剣も盾も持たない素手の殴り合いとはいえ、合法的かつ合理的に吐き出せるのだ。面倒臭い女に絡まれた苛立ちと呆れを、そして一秒ごとに積み上げられていく疲労感を、その一瞬の全力が晴らしてくれる。

 彼の目は据わっていた。

 黄色い声とともに差し出された酒を口に含み、直後に吐き捨てる。その行動を咎める声はなかった。彼の足元、……どころか周辺には、慣れぬ者であれば目を背けてしまうほどの血が拭き取られずに残っているのだ。拳闘の最中に流れた血であり、賭けに熱狂した者たちが起こした(いさか)いの血でもある。そこに酒と唾液が混じろうとも、気にする者などいるはずがない。

 そもそも、彼のその行動は単に酒を吐き捨てたというより、不満や挑戦の表れとして受け止められていた。ここ数戦は全て最初の一撃で敵を沈めている。もっと強い者はいないのか、と憤る姿に映っても無理はない。

 しかし、現実には、本当にただ吐き捨てただけだった。いや、彼の心を読める者がいれば、もっと情けないものだと知っていただろう。

 女が持ってきた酒が強すぎたのだ。

 ただ一口含んだだけで酔いがくらりと頭を回し、汗が流れている身体から一層水分を奪っていく感覚。彼はそれに耐えられなかっただけだ。

 とはいえ、無論、他者の心を読める人間がいるはずなどない。

 彼は、それまでに比べればかなり長い間待たされた。必然、女の無駄話に付き合わされる時間も伸びる。

 いい加減上に戻って、いっそそのまま宿にでも帰って風呂に入ろうか。

 セオがそう考え始めていた頃、ようやく名を呼ばれた。

 小さき餓狼。

 本名を明かせない者たちも多い拳闘場で与えられた呼び名だ。『小さき』は余計だろう、とセオは思っていたものの、『餓狼』とだけ呼ばれては羞恥に耐えられない。後の異名など知る由もない彼は、呼ばれるがままに拳闘のための正方形のステージに上がった。

「よう、犬っころ」

 向かい側から出てきたのは、大柄の男。アルターよりも背が高いだろう。横幅も厚みも上だ。同期では剣術で並ぶ者なしと誇張なく言われていたリースよりも更に歴戦を思わせる腕。ただし、剣のための筋肉ではない。斧や槍でもないだろう。拳だ。ただただ純粋な拳の闘いのために鍛え上げられた筋肉。

「犬じゃねえよ。ていうか、狼ですらない。腹は減ってるがな」

 まずいな、とセオは心中で呻いた。

 勝てないのは明白。眼前の男は雇われだろう。誰に雇われているのか? それも明白である。賭場だ。勝ちすぎた挑戦者を屠るために王帯鉄火場が飼っている、専門の拳闘家。

 負けるだけならいい。拳闘に参加する者は参加費すらも取られないために金銭的な損は出ないが、まだ金を取られたほうがマシだろう。あの男の拳をもろに受ければ、金では埋められない損失を背負い込むことになる。下手をすれば命もない。

「名前、聞いといていいか?」

 何も喋らなければ、その分だけ早く試合を始められてしまう。しかし、不幸中の幸い、セオと男との闘いの前であれば、余計なほどの名乗り合いすら許容されるだろう。盛り上げ、盛り上げ、勝ち続けてきたセオに人気が集まれば、賭場としてはしめたものだ。

「なんだ、聞いてなかったのかよ」

 声を聞く限りでは、男は四十手前ほどだろうか。そろそろ老いが入ってくる年齢ではあるものの、傭兵の世界では全盛期になってもおかしくない。

 老いが身体を蝕まず、だが並ではない経験を詰むに不足ない年月を生きてきた頃。傭兵であっても拳闘家であっても、騎士でも軍人でも、なんなら政治家に噺家(はなしか)だろうと、そんな絶頂期はある。セオにとっては不運と言う他ないが、嘆いたところで始まらない。

「『不沈の門番』。自分で名乗るには些か気が滅入る名だ。ロン、と呼んでくれても構わない」

 なるほど、そのままだ。

 彼は心中で笑い、恐らくは口元も綻ばせていた。

 ステージを囲む男や女から衝撃に等しい声が投げつけられている。その中には、彼が今最も聞きたくない嬌声まであった。思考が飛び、頭が沸き立つ。

「ロン。その滅入る名、俺が消し去ってやる」

「ほおう、いきなりやる気になったじゃねえか」

 男、ロンは楽しそうに目を細めた。

「女か?」

「あぁ、そうだとも」

「抱きたいってか? まぁ、(わけ)ぇもんなあ」

「勘違いしてくれるなよ」

 セオが腰を落とし、拳を握る。

 本物の拳闘などやったことはなかったが、眼前の男ほどではないにせよ経験者を相手取って何度も闘えば大体の構えも分かるものだ。見てきた形を自分に合うように、合理的に落とし込む。

 それくらいは慣れたものだった。伊達に文武院の総合主席争いに加われるような二人と歩んできたわけではない。

「あの女の媚びたツラが浮かぶ度に、甲高くて頭が痛くなる声聞く度に、やってやろうって気になれんだよッ」

 言いながら、自分がどうしてそこまで苛立っていたのか、セオもようやく自覚した。

 そんなもののために鍛えてきたんじゃねえんだよ、と怒鳴りたくなるのだ。女を怒鳴る趣味はなく、殴る趣味も無論ないとなれば、あとは眼前に用意された敵に八つ当たりするのみだ。

「ふん、そうか」

 ロンも拳を握った。

 セオかロン、どちらかに賭けている観客たちの騒がしすぎた声が、一瞬だけ止む。

 合図なんて、それだけで十分だった。


   ×××


 十五回目のトスが終わり、白兎の左手の甲に右手が乗せられている。

「表かな」

 そう呟いたのは、白兎でもリースでもない。

 アルターだった。

 そもそも表か裏かの宣言はトスの前に行われるため、今この段階で宣言する意味は銅貨の欠片ほどもない。それでも彼は呟いていた。そして、彼以外のほとんど全員も、リースを除く全ての者が、その結論を信じ切っている。

 トスの前、リースは裏を宣言していた。即ち、白兎が宣言したのは表である。無敗の白を未だ掲げるバニーの宣言を疑う者は、野次馬の中にもいなかった。

「正解ですネ」

 右手を離す前から、彼女は笑う。

 果たして、右手の下、左手の甲の上に見えたのは、獅子の意匠。コインの表側だった。

「だあ――ッ! くそ、なんでだっ!?」

 一人予想を裏切られた男が、転げ回りはしないものの頭を抱えて地団駄を踏む。

「アルター、おい、何か分かったか?」

「コインの動きは目で追える。以上だ」

「んなの分かったって仕方ねえんだよぉぉおおぉッ!!」

 彼の言葉はほとんど冗談じみたものだったが、そこにリースは疑いを挟んでいないらしい。白兎は「本当かしラ?」とわざとらしく首を傾げてみせ、野次馬たちは冗談と受け取って膝を叩く。

 この時、野次馬の数は二桁だった。三桁には至らないが、一桁よりは三桁のほうが近いだろう。人集(ひとだか)りと言っていい有様である。無敗のディーラー目当ての者、優男目当ての者、ポーカーで大勝ちした男目当ての者。観衆の目的は様々だ。

「だが、賭けである以上は勝つ可能性はあるはずだろう?」

「賭けであれば、ね」

 リースの言葉にアルターが笑う。白兎もくすくすとした笑顔のままだ。

「あ? 彼女が嘘言ってるってか?」

「五分五分のはずの勝負で全勝しているのなら、疑って当然だろう。何か裏はある。根本的に、全勝なんてディーラーとしては決して賢いとは言えない。それでも勝ち続ける理由……」

 ふむ、と顎に手をやり、アルターは思索に潜ってしまった。自身の問いも中途半端に流されてしまったリースには、不満げに鼻を鳴らしておくことしかできない。

「ただ、本当に賭けなら――」

 しかし、アルターが黙っていたのは数秒のことだった。

「いずれ収束するはずだ。ここまで千回勝ち続けてきたのなら、更に千回、いいや一万でも十万でも賭け続ければいい。確率はいずれ収束し、君が勝つ番も巡ってくるだろう」

 リースは声を返さず、その無言で答える。

 彼の言は至極正しい。

 獅子と大蛇。意匠が違うせいで重心が中心からずれている可能性はあるが、そうであっても種や仕掛けがないのなら、いずれあるべき数字に近付いていくだろう。五分と五分か、六分と四分かは分からない。それでも表と裏が出る回数は数式上の答えに近付いていき、リースの答えと噛み合う時が来る。

 だが、現状ではそうなっていない。確率上ないとは言い切れないが、十五回のコイントスで一度たりとも彼女は予想を外さなかった。

 いや、正確に言えば、彼女は予想をしてすらいないのが大半である。

 十五回のうち十三回で、リースが先に宣言してきた。残りの二回は試しに白兎に宣言させたが、結果は変わらない。表を宣言しても裏を宣言しても、彼女は勝ってきた。コイン自体にイカサマを仕組んでいたところで関係などなさそうな結果だ。

「あまり女を疑いたくはない」

 なおもリースは言う。

 十回目以降、彼はアルターから借金する形で賭けに臨んでいた。今はまだ銀貨五十枚ほどと大損には至らないものの、いつまでも小さな額で賭け続けるわけにもいかない。額を引き上げることに合理性はないが、ディーラーにもそんな不味い客の相手をいつまでも続ける義務はないのだ。

 どこかで引き上げていかなければ、賭けるチャンスすら失われる。そうと分かっていて、彼は言うのだ。

「騙されていると承知で積み上げ続ける。くれてやっているようなものだな」

「女には貢いでなんぼってのが親父の信条だったんでな。その親父は貢いだのとは別の女に惚れられて俺を生んだが」

「なら君も別の女を探せばいいさ。君ならば苦労はしないだろう」

 ほとんどずっと笑っているアルターに、リースは不満も口にしなかった。冗談だと、もっと言えば本題の前の軽口に過ぎないと、彼は経験から知っている。いつもそうだ。軽口なしには真面目な話ができない。

「それで、一つ思っていたんだが」

 彼はちらりと白兎を見やり、また友人のほうに目をやった。リース、とほんの(わず)かにだけ(ひそ)めた声で続ける。

「君の目的は金じゃないんだろう? 金が欲しくて賭けているわけじゃない。君の腕なら、一生とは言わないが十年や二十年はギルドに通いながら無理なく遊んで暮らせるだろう。でも、君の目的は金じゃない。ギルドで手に入るものじゃない」

 潜めたところで、三者はそれぞれコインの裏表を確認できる距離にいる。声は彼女にも届いていた。

「本当に賭けをする必要があるのか? 他の手段で目的に近付くことはできないのか? 同じ貢ぐにしても、だ。賭け金を積んでやる以外にも、美味い酒でも奢ってやるなり、方法はいくらでもだろう」

 リースは、目をまん丸く見開いていた。

「ぅおぉ……」

 巨竜の鱗すらも落とせそうな開き具合である。

「流石だ、嫁持ちは違う」

「嫁じゃない」

「ともかく」

 友人の苛立ちの声は耳に入っていないようで、リースはさっさと白兎のほうに向き直った。

「一晩でいい。……いや、晩なんて言わない。昼でいい。一度だけ……でもないが、まずは一度、俺のために時間を用意してはくれまいか? あなたが暇な時でいい。ディーラーの仕事が忙しいなら、朝方でもいい。夜明け前だって飛んでいく、どうだろう!」

 口説くというより、説得のそれ。いいや懇願に等しい。

 彼の姿が面白かったのか、それとも普段と変わらぬものなのか、白兎はくすくすと笑って返した。

「いいネ、そこまで言われたら悪い気もしないヨ」

 リースのみならず、野次馬たちまでどっと沸いた、その直後。

「十六回目、次の賭けで、あなたがアタシから金貨を勝ち取ったら、一晩付き合ってあげようかしラ。アタシはあなたと同じだけ賭けるワ」

 しん、と静まり返る場で、白兎の他に、たった一人だけだが平然と声を上げる者がいた。

「アルター、金貨一枚」

 金貨が一枚。銀貨にして百枚分のそれが、リースを素通りしてアルターから白兎へと渡る。彼女の瞳は悪戯っぽく輝いていた。

 その表情を見るだけでも、金貨を受け取ってくすくす笑ってみせる仕草を見るだけでも、彼は金貨一枚など惜しくはないと思えただろう。

「君が貢いでるのは自分の金ではないということ、少しは恥じても構わないんだけどな」

 それが野次馬たちの代弁であったことは、疑いの余地もない。

 では白兎はどうであったかと窺ってみても、そこに答えは見つけられないだろう。アルターの懐から持ち出された金貨は、ついぞ白兎の懐を離れることはなかった。

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